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2017.11.8

~VRゴーグル開発から見えるビジョンとは~「VRが日本に広がる土壌はすでにできている。」ソフトバンク 加藤欽一さん

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VR事業推進室を立ち上げたのは昨年6月。だがビジョンはずっと前からあった。部署ができるとすぐ米のVRベンチャーへ出資、圧倒的な技術力を背景に、法人・個人両面からの攻勢を図る。2017年にはもう、何かが起こるかも……。

※本記事は2017年3月に発売したSynapseに掲載されたものです。

ソフトバンク
加藤 欽一

ソフトバンク株式会社サービスコンテンツ本部VR事業推進室室長。東京デジタルホン時代から一貫してネットワークエンジニアとして活躍。基地局建設に始まり、役員直轄部門で全国統括を行ったのち、地下鉄駅間プロジェクトでモバイルPJアワード2013を受賞。一方でプレゼンなど社内認定講師を8年間担当。技術統括 SP開発本部部長を経て、2016年新設のVR事業推進室のリーダーに。

 


 

― 昨年6月にVR事業推進室を新設されましたが、その設立経緯をお聞かせください。

「ソフトバンクグループには『新30年ビジョン』というものがあります。これは、ソフトバンクグループが実現したい30年後、300年後の世界やライフスタイルを考え、そのビジョンをいかに実現していくのかを打ち出したものです。2010年にその『新30年ビジョン』を発表しました。

このなかでIoT、AI、ロボットの次を担うものとして、VR・ARは非常に重要なテクノロジーと位置付けています。ご存じのようにIoT、AI、ロボットはこの5~6年でどんどん事業化して、集中してビジネス展開してきました」

 

― で、VRの出番がやってきたと。

「VRって技術的には何十年も前からあるんです。でも部屋に巨大な装置を設置し、仰々しいゴーグルを装着して、再生装置も視聴デバイスも何百万円っていう世界だったんですね。そこに技術革新があって、ヘッドマウントディスプレイが手の届く価格帯まで下がってきて、巨大な装置と同様の世界観を体験できるようになりました。そこで昨年の推進室の設立に至ったわけです」

 

― 加藤さんはこれまでどういう部署にいらっしゃったのですか?

「技術部門です。電波を繋ぐ仕事をしてきました。私自身はもともと“どこでも電波が繋がるようになれば世の中がもっとハッピーになるんじゃないか”と考えていて。どこでも携帯電話が繋がり、高速で快適にやり取りできる環境になれば、色々なサービスを乗せてお届けすることができるという理想を持っていました。

もともとソフトバンクは繋がりにくいと言われてきたのですが、私のキャリアは、ある小さな地域での繋がりにくさを解消するところから始まり、次はもう少し大きなエリアを任され、全国で繋がるようにし、最後には地下鉄のトンネル対策のプロジェクトリーダーになりました。ネットワークナンバーワンになって、今度はその土壌の上で、世の中にどんなサービスを提供したらいいかを考えて、私はVRに到達しました」

 

― 加藤さんは今後のVRにどんなビジョンを持ってらっしゃいますか?

「“リアルと仮想の境目がなくなるぐらいまで技術が進化するであろう”と考えています。実際どこかに行くにはお金や時間など、ハードルがいくつも存在します。でも、VRのテクノロジーがあればいつでも行きたい場所に行けて会いたい人に会えるし、旅行もスポーツもコンサートも自由に行ける。時間・空間を超える世界が実現できる。そして、30年後には時空を超えながら、コミュニケーションもできるようになるだろうと」

 

― そのために今、必要なことは?

「まず、デバイスですね。いくら一般的になりつつあるとはいえ、現状でもやはりVRのゴーグルには“わざわざつける”というハードルがありますよね? この5~10年ぐらいのあいだに、ちょっとしたメガネぐらいの気軽さでかけられるようになると思います」

 

― 2020年にはそこまでいきますか。

「まだいかないかもしれません。今も世界的に見ればサムスンさんのヘッドマウントディスプレイが約500万台出ています。我々のイメージですと、まずはハイスペックなスマートフォンにガジェットをつけて体験するタイプが主流になるのではないかと思います。

先々はメガネになって、さらにその先にはコンタクトレンズぐらいまでいくかもしれませんね。新しい技術の成熟度や社会への適用度を示すハイプ・サイクルという考え方があります。技術の出始めはすごく期待される流行期があり、でも実際には“こんなものしかできないのか”という幻滅期が来て、その後に普及期が来る、という考え方のサイクルなのですが、VRを見ていると幻滅期の谷の期間を一気に飛び超えてきている感覚があります」

 

― VR事業推進室の体制をお聞かせください。

「専任メンバーは5名で、他のチームと兼任しているメンバーが5名ほどいます。VR自体は適用できる範囲が広く、色々なことに活用ができます。BtoCでユーザー向けサービスとして何ができるかを企画しつつ、JR東日本さんとの事例のような法人さん向けの取り組みもあります」

 

― 車両センターなどでの作業中の事故を想定して撮影したVR映像で、疑似体験して事故防止に備える、という事業ですよね。

「おっしゃる通りです。こちらはユーザー向けとは文脈が全然違いますが、バジェットも大きくて社会貢献の可視化がしやすいですし、本当に楽しいですよ」

 

ライブコンテンツを配信し、ブレイクスルーをもたらす。

 

― 昨年7月にアメリカのNextVR社に出資されましたよね。数あるVRベンチャーのなかからどうしてこの会社を選んだのですか?

「VRの領域では北米が先進的な取り組みをしています。シリコンバレーにある弊社の新規事業開発チームが、VRのスタートアップやベンチャーの約100社のなかからNextVR社を見つけたんですが、実力が図抜けていました。おおよそ5年間のVRのサービス提供経験のなかで、NBAと連携し大手メディアからも出資を受けてVRのコンテンツを多数市場に出しています。

特に大きな決め手となったもののひとつが生配信です。VRの生配信は技術的なハードルが非常に高く、実現しているのはほんの数社です。なかでもNextVR社は圧倒的なクオリティを持っていた。ソフトバンクはご存知のようにスポーツ事業に力を入れており、当然VRでもスポーツは注力していく分野です。

スポーツ以外では音楽コンサートなどもそうですが、ライブコンテンツの臨場感はVRと非常に相性がいいので、NextVR社の技術は我々の既存事業と最もシナジーがあると判断しました」

 

― それはおもにBtoC前提ですか?

「おもにはそうですが、その技術要件を法人のソリューションに転用できないかということも考えています」

 

― 配信サービスの開始は2017年ですか?

「対外的に時期を明言はしていませんが、どのタイミングで始めるのがよいかを探りながら、現在仕込んでいるところです」

 

― 実際に配信サービスを始める時には、他社のプラットホームから配信するのか、自前でつくられるのか、どんなかたちを想定されていますか?

「未定ですが、ソフトバンクグループのなかでVRコンテンツがつくれるものに関しては自社で場所を用意していく方向かなと思います。“VRを体験したい”と思った方がまず訪れて、クオリティの高い体験をできるようなポータルを準備していこうと。VRとひと口に言っても、今は玉石混交なんですよね。我々としては、“ここに来ればより臨場感のあるいいVRコンテンツが見られる”という場づくりをしたいと考えています」

 

― 今、いちばん苦労されている点はなんでしょうか?

「これは弊社に限らず、国内のVR市場全体の課題だと思うのですが、日本はまだちょっとVRに対して様子見の状況だと思います。コンテンツをつくる側もそれを見るためのデバイスを開発する側も、それからユーザーもそう。さっきサムスンさんのデバイスの話をしましたが、国内に限って言うとデバイスの普及はまだまだ。

ユーザーの熱がそうした状況なのは、これといったコンテンツがまだ出ていないからと言えますし、そうしたマーケットにはお金をかけて新しいデバイスを投入していこうということにもなりにくい︙︙まあこれって鶏と卵なんですけど(笑)。そこをちょっとずつ推し進めていきたいと思います」

 

― まだまだコアなゲーマー向けの技術という印象が強いのかもしれませんね。

「私自身、講演をさせていただくこともよくあるのですが、VRだけはどれだけ説明しても、スライドを見ていただいても伝わらない(笑)。もう体験していただくしかないんです。百聞は一見にしかずの先にある、百見しても一体験にしかず……という感じです。

ただ、そこはテレビや動画コンテンツと大きく異なり、体感するのにもうひと手間必要となり、容易には浸透させづらい。なのでライトユーザーのみなさんに、まず手軽に体験してもらう仕組みづくりが重要になります。同時にワクワクするようなコンテンツも打ち出していく。

昨年、期間限定でオープンしていたお台場の『VRゾーン』ですとか、auさんがやられているようなカラオケルームでの体験だとか、実際に体験する場は今後増えていくでしょうし、我々としても増やしていかないといけないですね。そうしていくと、みなさんが欲しくなるステージに入っていくかなと考えています」

 

― 現時点でのソフトバンクさんのVR領域における立ち位置と優位性はどういうところでしょうか?

「はっきり自覚しているのは、弊社の立ち位置はゼロということです。すでにサービスを展開しているところが多数ある一方で、我々はまだスタートラインにも立てていない。ただ弊社らしいところといえば、市場に対して“先を見て仕掛けていく”点でしょうか。

先ほども申し上げましたが、ユーザーに体験してもらうまでのステップに、コンテンツ、サービス、ネットワークがあって、体験してもらうための場所として全国のショップやクラウドがある。

また弊社グループにはヤフーやギャオがあるので、オフラインで体験してもらうところと、オンラインで見つけてもらって認知してもらうところのサイクルをうまく回していけるかなと。VRは、ソフトバンクの持っているアセットを全部生かして盛り上げていけるビジネス領域かなと感じています」

 

 

VRはソフトバンクの持つアセットをすべて生かして盛り上げられる。

 

未来を盛り上げる技術やコンテンツとは?

 

― 2020年にVRはどの程度、日本の社会や生活者に浸透していると想像されますか?

「技術革新の速度と、グローバルなITトップ企業のコミットの仕方を見ると、いちばんアグレッシブな想定は“一家に一台”でしょうか。そのために超えなくてはいけないキャズムはあるかもしれません。ただ、一定の認知を得ると一気に“じゃあうちも!”っていう価値観になると思います。それをあと押ししていくのは、スマホの高性能化でしょうね。ハイスペックなPCやゲーム機にケーブルとゴーグルを繋いで体験するのはコアユーザー向けでしょう。ライトユーザーにはやはりスマホ。LTEは速いですし、光ケーブルの普及率も日本はダントツなので、VRが広がる土壌はすでにできています」

 

― 2020年のオリンピック・パラリンピックの楽しみ方は変わりそうですね。

「弊社がそこにどう関わるかはさておき、臨場感という点では抜群に変わるでしょうね。よく“会場に行かなくていい”という声を聞くのですが、私は相乗効果だと思っています。VRだとスタジアムにいるかのような感覚を得ることができるでしょう。時間的・距離的・経済的理由で会場に行けないことの埋め合わせになる一方で、VRで見て興奮すると“やっぱり会場に行きたいな”となる。

VR体験によってむしろ、現地に行かなければ分からない価値を知ることができると思うんです。それによってリアルなファンも増える。VRと現実のあいだに線を引いて、それぞれで客の取り合いになると考える方が多いようですが、実はお客様は双方重なり合って……」

 

― それぞれ増えていくことになると。

「VRってリアルとの置き換えだけじゃないと思うんです。その考え方だとリアルに勝つことは100%ないです。リアルだと五感をフルに働かせられるし、VRには置き換え難い様々な要素があります。ただVRのほうが勝てる要素もあると思っていて、それは現場に行っても、絶対に入れない場所や視点から現場を見られる点。

例えば、コンサートのステージ上の視点などです。リアルに近づけるのではなく、VRならではの企画力や制作力は間違いなく必要になります。たぶんみなさん考えてらっしゃると思いますけど」

 

― この次、生活者の行動を大きく変え得るキーワードってなんだと思われますか?

「VR事業の責任者として申し上げると、AR・VR・MRですね(笑)。いずれシンギュラリティが必ず来ると思っていて、その時には人に寄り添うロボットがいて、AIでコミュニケーションは取れるでしょう。その時のインターフェイスをAR・VRが担ってくれるんじゃないかと。今、情報に接するためにPCやスマホに指先で入力していますが、今後は脳で考えるとARで情報にアクセスできて、その先の実作業にも進めるようになる。それが自然な姿なのかなと思います」

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