Planetway Japan株式会社 代表取締役CEO/ファウンダー 平尾憲映さん
データは組織でなく個人に帰属すべき、とのビジョンに則してサイバーセキュリティ事業を行っているPlanetway社。同社の代表取締役CEOの平尾憲映さんへのインタビュー前半では、事業のきっかけとなったエストニアの「X-Road」との出会い、それをもとに作った「PlanetCross」の導入実績、また世界的なカンファレンス・ダボス会議でのインタビューオファーなど、これまでの歩みを中心にお話しいただきました。
後半は、その先のお話として世界や日本の未来像を中心に語っていただきました。
「X-Road」を最新技術で進化させた「PlanetCross」
─「X-Road」と「PlanetCross」の違いを具体的に教えてください。
エストニアの「X-Road」は20年近く使われているレガシーシステムなのですが、「PlanetCross」には最先端の要素を入れていますね。
「PlanetCross」も最初は「X-Road」と同じ仕組みを使っていましたが、別の組織の情報システムでつなぐというインテグレーションをやったとき、セットアップするのに一ヶ月くらいかかってしまったんです。
そこで、「PlanetCross」に関しては、セットアップインストレーションは一日で終わるようにしました。次の目標は、それをさらに5分に短縮することです。とにかく早くセットアップできないと、100個あった場合には途方もない時間がかかってしまいますからね。
次に、REST対応やRed Hat対応。今はIoT向けにも対応できるものを用意しています。
あとは、量子コンピュータでもハッキングできないセキュリティを用意して、特許を書いている状態です。量子コンピュータは計算能力じゃない。二次元を三次元にしなければいけないくらいにレベルが違いますからね。
それに、ソフトウェアモデルだったものをプラットフォーム化するために、トランザクションを使った分だけ課金するという、携帯電話のパケット使い放題のようなプランを採用しています。ビジネスで利活用できるようにシステムを作り変えた部分も数多くあります。
また、「PlanetID」はエストニアとは違うものを独自に作りました。エストニアの仕組みをベースに、さまざまな部分を進化させています。
─サービスの性質上、セキュリティの担保はマストですが、一方で広く使ってもらうのにコストを抑える工夫も必要ですよね。
セキリュティとスケーラビリティを両方担保するのは難しいと言われています。普通は「このIDは10万人まで10億円で使えます、100万人になったら100億円になります」という世界ですが、我々はソフトウェアの設計図のなかに、100億人に普及してもコストメリットを出せるような仕組みを作っているんです。
セキュリティを担保しようとすると、大規模なサーバーをフィジカルに置き続けることで守るという発想が多いのですが、そうするとコストが上がってしまう。その問題を解消できるようなモデルを開発し、特許で申請しています。
これは技術的に特殊なことをしているというよりは、ソフトウェアを組む際の設計の考え方によって実現されており、このコンセプトに関しては暗号化で世界トップ3に入るエストニアの技術者に考えてもらっています。
─そんなすごい人がいるんですね!日本の技術者とエストニアの技術者に違いはありますか?
エストニアは完全にディベロップメント、技術開発型ですね。それに対して、日本はクオリティアシュアランスとクオリティインプルーブメント。
たとえば、セキュリティテストをして出てきたプロトタイプをプロダクションに引き上げる作業においては、ピュアなディベロップメントよりも、モディフィケーションやプロダクトのクオリティを上げるというやり方をするのが日本です。
技術開発面では、分野によっては世界トップ3に入るようなエストニア人の技術者にリードしてもらっていることもありますが、コアな開発者のなかには日本人もいます。エストニアの技術者を起用するのは、日本に技術力がないからというわけではなく、当社の戦略です。日本人の技術力も十分高く、世界に誇れるものだと思います。
日本とエストニアの知と技術を集結し、新しい「世界最高水準」を生み出す
—そもそも日本とエストニアの技術や人をつなげて事業を実現するというのがユニークですよね。
そうですよね。日本とエストニアがタッグを組んでそれを可能にするというのは、歴史的に見てもおもしろいことなんです。両国はいわゆる今の資本主義社会における敗戦国ですから。
日本は第二次世界大戦でアメリカに負け、教育もメディアもアメリカの力で全部つくり変えられてしまいました。アメリカの大学に行って感じたのは、日本からは天才は生まれないということ。日本はナンバー2以下のソルジャーを育てるような教育環境になってしまっているんです。
エストニアはかつてのソ連の一部で、冷戦時代にはバルト海から当時、最新鋭の原子力潜水艦を出していた頃の暗号化技術やICT技術などが強かった。ソ連のITに関する先進地域だったのですが、政治的な要因でソ連が崩壊して、やはりアメリカに屈してしまっています。
─日本とエストニアの組み合わせには、何か特有の強みがありますか?
エストニアは元々ソ連の一部で、当時から最高のセキュリティ技術を持った国でした。過酷な環境と危機意識のなかで構築されたものが、日本でさらに生まれ変わるというプロセスは、トヨタが最初に自動車をコピーして現在世界最高水準になったことと同じような意味合いを持っています。
日本人の気質と強みは、良いものを取り入れてさらに向上させるというところにあります。エストニアの水準が50だったとしたら、そのクオリティを日本で我々が400まで高め、世界のどこに出しても恥ずかしくない、最高のものを創ることができます。
ですから心がけているのは、日本人との仕事のやり方ですね。アメリカみたいに「どんどんイノベーションをやれ!」というリードは日本人には適していない場合も多く、そういう人は海外に行ってしまいます。
日本では、無理にイノベーションを求めても良いものを生むことはできないし、生き残れない。しかし、日本人は集団で結束して何かを成し遂げるという点では卓越した民族だと思うので、そこを活かしていくべきだと思います。
─データ分野でも日本のブランド力は発揮されそうですか?
データの取り扱いについては、何が正しいのか、世界的に答えがありません。どこのモデルが正しいのか誰もわからない状態で、日本ベースでできていると、それは世界のデファクトになると考えています。
実績が他の国であるのと日本であるのとでは、その後の導入する国の数が全然違う。ダボスに行ったときも日本を「あんなに良い国はない」と相当なリスペクトをされました。
世界に日本のブランド力が通用しなくなってきている分野も多いのですが、まだまだ勝負できるところもあります。先人たちが培ってきた日本の力をさらに最大化していくことが使命だと感じます。
そのために一つやるべきこととして、高齢化社会の問題解決が挙げられますね。日本は今、さまざまなことが他国に追い抜かれてしまっていますが、高齢化社会問題だけは最先端。これを日本はどう解決していくのか、世界が注目しています。
「データの利活用によって、人口が1/3になっても国力が変わらずに運営できるデジタルネイションができました」と言った途端に、先進国が次々と真似をするでしょう。一見するとデメリットですが、イニシアチブを取れる領域という意味では、日本でエイジングプログラムを解決すれば、世界のスタンダードになる。悲観するのではなく、好機としていきたいものです。