HOME マーケ 「〝カルチャー偏差値〟の高い人々が、次のトレンドを生み出すポイント。」ストリートファッションの定点観測を続ける「アクロス」 高野公三子さん
2017.11.8

「〝カルチャー偏差値〟の高い人々が、次のトレンドを生み出すポイント。」ストリートファッションの定点観測を続ける「アクロス」 高野公三子さん

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※本記事は2016年9月に発売したSynapseに掲載されたものです。

 

パルコ「アクロス」
高野公三子

パルコ『WEBアクロス』編集部編集長(写真・右から2番目、アクロススタッフと)マーケティング会社、ファッション業界誌を経て、1992年株式会社パルコに入社。雑誌『アクロス』の編集に携わり、新宿・原宿・渋谷で若者のストリートファッションを観察し取材する「定点観測」を担当。『アクロス』休刊後、2000年に『WEBアクロス』を新創刊、編集長に。定点観測をベースにした、企業との共同研究も行う。日本流行色協会専門委員。文化学園大学大学院非常勤講師。パルコのシンクタンクの機能を持つACROSS(アクロス)では1980年より毎月第1土曜日に渋谷、新宿、原宿の拠点でストリートマーケティングを行っており、貴重なマーケティングデータとなっている。写真は8月6日一時休業に入った渋谷PARCO前で休業前の最後の定点観測を実施したときのもの。休業中も定点観測は継続して行う。

 


40代も、50代も、60代も……。年齢に応じた“女子”たちの出現。

 

― 長年にわたって、生活者のファッションやカルチャーをご覧になってきたアクロスさんに、今回、女性の変遷をお伺いしたいと思いまして。

「少し前、『ナントカ“女子”』って流行りましたよね。最初に使ったのは、宝島社の『InRed』だったと思います。今『GLOW』の編集長のOさんが立ち上げたんですが、『C U T i E』にいらして、『S PR i N G』を立ち上げて『InRed』を創刊。30代女子、40代女子ときて50代女子? はさすがに無理がありますね(笑)。2000年代半ばごろからでしょうか。実際にストリートでも、30〜40代の方々の“女子”への参画みたいなものが目立っていました」

 

― 変化の兆しはどうやって捉えていますか?

「1980年8月から毎月渋谷、原宿、新宿の街頭で実施している定点観測からです。毎月プレサーベイを経て観察するテーマを決め、合計14、15名のスタッフで街に出て、観察したり撮影したりインタビューする。民俗学者の今和次郎が提唱する“考現学”をファッションマーケティングに応用したものです」

 

― 定点観測を続けるなかで、お感じになられている女性の変化はありますか?

「池袋パルコがオープンした1969年はメインターゲットが21歳OLだったのですが、70年代も同様。定点観測の観察対象も完全に20代でした。トレンドを作り出すのは若者だった、ということです。

90年代半ばに、雑誌『アクロス』で“ギャル30s”という特集記事を掲載しましたが、30代もトレンドマーケットに入ってくるようになり、2000年代になってからは、40代もいわゆる“F1層”と変わらないようなトレンド消費をするようになった。実は、某大手メーカーさんの研究所と共同でスペシャルな定点観測を十年以上行っているのですが、2005年からは研究対象として40代、50代、60代の動向にも注力しています」

 

― 確かに、年配の方でオシャレな女性が増えた印象はありますね。

「特にファッションやビューティ関連分野では重要なファクトで、40代向けの商品開発がすごく盛んになった、というのが2000年代の特徴といえるでしょう。雑誌でいうと『HERS』が2008年に、『GLOW』が2010年に創刊され、アラフィフ、アラフォーをフィーチャーするようになっていきました。

震災後は、従来の“ファッション誌”という基本的には洋服がメインのものから、暮らしというか生活全般を取り扱う“ライフスタイル誌”へと大きく変容します。例えば『SWEET』から『otona MUSE』が、『リンネル』から『大人のおしゃれ手帖』が出てきた。

一方、郊外のショッピングモールも充実していく流れのなかで、スタイリストの押田比呂美さんとか大草直子さんらが、“大人の上質カジュアル”という価値観を打ち出し、テレビやカタログ誌の通販などとのリンクも盛んになり、40〜50代もトレンドを取り入れやすくなったのでしょう。女子=若い、ずっと若くあろうみたいな時代はちょっとひと段落しています」

 

― 美魔女という言葉もあまり聞かなくなりました。

「震災が大きな契機になったように思います。年齢に応じて、大人は大人らしくという考えが定着しています。エイジングは老化ではなく成熟。つまり、責任や社会に対する意識が高くなっていくという捉え方です。そういう女性像に憧れる若い子たちも増えています。女性の美意識や価値観、もっというと生き方など、だんだんそういう傾向になっているように思います」

 

 

2010年代の生活者の新たな属性。“カルチャー偏差値”の高い人々。

 

― 女性を語る時に、理解しやすい軸みたいなものはありますか? 世代とか年齢とか価値観とか……。

「毎月の定点観測では、基本的には同じ質問をしてるんです。すると面白いことに、3〜4年ごとに回答が変わる瞬間があるんです。好きなブランドや雑誌などの。また、将来の夢は何ですか? という質問があるんですが、ある時代はカフェのオーナーとかスタッフだったのが、ソーシャルアントレプレナーが人気だったこともあります。

近年はコーヒーショップの経営とか地域おこしとか(笑)。まあ、実際にはもっと深層心理を表すような回答が得られたりするのですが、その変わり目が世代の交代とみています。そう考えると、“世代”によるライフスタイル考察は成り立ちますね」

 

― 昔は、若い女性はメディアから降ってきた情報を消費行動やファッションで体現していましたよね。おそらくは雑誌からの情報を元に。今、そうした情報を浴びる出元はどこなんでしょう?

「若者は完全にSNSです。インスタとかで“誰かが着てる”とか“何が流行ってる”に画像を呼吸するように触れています。また、あるとき学生が、例えば今秋冬だとすると、『黒トップス』って入力して画像を検索する。

ダーッと黒トップスの画像が並ぶなかから好みに近いものをクリックして、金額的に折り合いのついたものを買うから、ブランド名を覚えていない、と言うんです。今の多くの若い人たちにおいてのファッションは、おしゃれというよりは、ある種の同調圧力ともいえますね。そこそこのトレンドの枠内に属していたいという、大衆心理なのでしょう」

 

― その、大衆的な考え方に対抗するような、新しい動きもあるんですか?

「実は二極化しています。“カルチャー偏差値”の高い子たちがいる。造語なんですが(笑)。1989年代以降に生まれた若者たちを“新人類ジュニア世代”と呼んでいますが、彼・彼女らの価値観はとてもフラット。2000年を“スーパーフラット”と、村上隆さんの展覧会になぞってそう称しているんですが、インターネットの時代になり、トレンド情報に関しては、過去も現在も未来も等価なんです。

2000年代後半のある日の定点観測で、「新しいものは過去にある」と回答した女子に出会った時は“キタッ!”と思いましたね。親がバブル世代ということもあり、ブランド品などひと通り流行ったものが揃っているケースも少なくなく、自分で買ってきたアイテムと組み合わせて着る。

スーパーミックスです。歴史や時代感覚が違ってきていますね。そんな価値観のなかで優位性を発揮するのが、親世代が保有する“カルチャー偏差値”かなと。プライスとかデザインもありますが、それぞれが持つストーリーというか文脈の違いを選ぶ力……」

 

― それがない人は、画像検索に走ると。

「今は“カルチャー偏差値”のある人、ない人の二極化が起こっているように思います。少子化の影響もあると思うんですが、基本的に親子仲良しで、昔に比べると親が子どもにいろいろ関与するケースが多い。例えば、某セレクトショップの執行役員のMさんは、学生時代からDJをやっていたのでものすごく音楽に詳しい。

その膨大な音源が家にあって、父子でそれを共有しているわけです。そんな大学生と、一切音楽の流れないような家に育った大学生では、絶対的に音楽に関する価値観が異なりますよね」

 

― 確かに。ほかに“カルチャー偏差値”の高い子たちの行動に特徴はありますか?

「カテゴリーの横断みたいなことが起きています。音楽をやっている今どきの若者は、音源以外にTシャツやステッカーなどの物販にも力が入ってるんです。COROMOZAなどのシェアアトリエでテキスタイルからデザインしてトートバッグつくったり、そこに洋服をつくってる子が友だちで関わってたり。

また、漫画家が繋がっていて、Tシャツにイラスト描いたり。2011年からパルコが主催している『シブカル祭。』というイベントがあるんですが、これはそういう若いクリエーターたちの祭典なんです。展示販売されている作品/商品は、まあ、大人はびっくりするような服だったり展示だったりしますが、実は、それらをつくってる子は、大手アパレルでパタンナーだったり、某大手IT企業に勤めていたり。

バンドをしている子が昼間はIT企業に勤めていたり、研究者だったり。ひとりのなかの多様性、多様なライフスタイルは、若者たちから広がっていると思います」

 

― どうしたら“カルチャー偏差値”は育つのでしょうか?

「移動することでしょうか(笑)。具体的な自分自身の移動でもサイバー空間でもいい。ほかのカルチャーを知り、歴史も含め理解し、混ざろうとすることだと思います。自分なりの視点を定め、ほかと比較し、考察することが何よりも大切。それにはまち歩きが最適! セレンディピティが養われると思いますよ」

 

等身大の自分〟から発展した3 0代女子は、
〝 体にいいこと〟〝 社会にいいこと〟を目指す。

 

 

世代を超え、性別を超え、社会がより成熟した価値観に。

 

―30代の女性で、何かそういう新しい動きをしている人たちはいますか?

「現在の30代後半/アラフォーは、うちでは“ヘタウマ世代/ポスト団塊ジュニア世代”と呼んでいますが、その世代に顕著なのが、上の世代と似たようなバブルっぽい価値観のトライブもある一方で、“カラダにいいこと”、“社会にいいこと”という価値観を実生活で実践しようとしているクラスタがあることです。

もともと“等身大の自分を肯定する”という価値観が強いので、ファッションに関しては、コレクショントレンドに引っ張られるというよりは、自分自身のライフスタイルのなかから必要なものを導き出してきた人たちが多い。自分たちにとって良質なものを選んでいる」

 

― その良質の中身ってどういうイメージなんでしょう。体に良いもの? 質の高いもの?

「そうですね、なんて言ったらいいのかな……自分にとって質と価格とのバランスが取れているもの、という感じでしょうか。オーガニックだから、とかマクロビだから、って言っちゃうと、判断の軸が自分じゃなくてトレンドになっちゃいますよね。そうした属性へのこだわりとは違う“自分軸”へのこだわりです」

 

― 軸の中心にはあくまでも自分があって、自分が「いい!」って判断したものという感じでしょうか。

「そうですね。雑誌でいうと『&プレミアム』みたいな感じでしょうか。絶対・ベストではなくベター。そういう価値観から、地方に、しかも全然縁もゆかりもない土地に移住する人も増えています。例えば、徳島県の神山町というまちが、クリエーターやIT関連の仕事の人たちが移住して話題になっていますよね?

それに限らず、ウェブやスカイプで十分対応可能です。また、完全移住でなくても、2拠点を行き来するライフスタイルの人たちも増えています。また、手づくりした手芸品をママ友にお裾分けしていた専業主婦がstoresとかminneを活用して、商品として販売し、小さな経済活動をしていたり。ひとりのなかに多様性をもつ人が増えている事例だと思います」

 

― 若い層のカルチャーの横断も、バンド活動を辞めないで仕事したりするのも似ていますね。

「昔は就職と同時にバンドは辞める、みたいな図式がありましたよね。今の若い人はそうする必要がないことに気づいてるんでしょう。やるもやめるも自分で決めることであって、年齢とか属性で規定されることじゃないと。女性の場合は年齢が上であればあるほど、制約も多くなるわけですが、そういう人たちがもう1回仕事に就こうとか、やりたいことやってみようっていう意識は、確実にできる環境になってきていると思いますね。

おそらく、若い人たちの、就職するけどバンドもやる! みたいな価値観の影響も受けているかもしれませんね。経済は明るくないし会社もどうなるかわからない。そういう社会の変容のなかで、自らをサバイブさせるために、やりたいことと楽しむことと経済活動をバランスよく考えて実践している、そういう新しい人たちはこれから、もっと増えていくんじゃないでしょうか」

 

― パルコのお客さんをみて、何か変化をお感じになったりすることはありますか?

「お客さんの世代も幅広くなってます。例えば渋谷パルコは43年営業してきて、1Fはコムデギャルソンやイッセイミヤケなどを扱っていたのですが、若いころから好きだった40〜50代のお父さんお母さんと、20代のお子さんの2世代が買っていることが顧客データからも顕著です。価値観は世代を超えていますね」

 

― それは性別を超えることもあるのでしょうか。

「オーガニック系のコスメとか、男性も女性も関係なくジェンダーレスで支持されています。若い子がお父さんと使っていても違和感がない。ほかにも渋谷のパルコに、アニメ、ゲーム、サブカルチャーに特化した『シブポップフロア』を導入したのですが、予想以上に女性が集まるフロアになりました。社会がより成熟した価値観にシフトしているのではと感じています」

 

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