Planetway Japan株式会社 代表取締役CEO/ファウンダー 平尾憲映さん
特定の企業が個人データを囲い込み、利用する――そんな情報の扱われ方を変えたい。
やがては、現代の資本主義社会のあり方そのものさえも変革したい。
この大きなテーマに挑むのが、Planetway Corporation(以下Planetway)です。
2020年1月に開催されたダボス会議では、データ個人主権時代の実現方針について語ったインタビュー動画が公開され、世界からも注目を集めています。
代表取締役CEOの平尾憲映さんに、創業に至った経緯や同社の最先端技術革新、そして世界、日本の未来像についてお話を伺いました。
幼少期から秀でた頭脳と思考 「資本主義を壊し、世界を変えたい」
—幼少期の平尾さんはどのようなお子さんでしたか?
中卒で起業し会社経営していた両親から、すさまじい英才教育を施されて育ったのですが、僕自身は小学生の頃すでに、教育に対する違和感を抱いていました。みんなと一緒に5科目を学ぶのではなく高校や大学の勉強をするほうが自分のレベルに合っていましたし、学校に行っても先生の教え方が正しいとは思えませんでした。なぜ詰め込み式で勉強をしなければならないのか。意味のないことに人生を費やさなければならないのか、と自問自答していましたね。
そして漠然と、どうやら世の中でいい仕事につくには大学に行かなければならないということに思い至りました。いい仕事につくのはお金を稼ぐためです。そのお金がどこから来るかを考えると、資本主義経済に行き着きます。
日本の資本主義経済のあり方はアメリカに占領されたことがトリガーになっていて、そのために子どものクリエイティビティを殺すような意味のない教育を受け続けなければならないということにも気づきました。そして、僕は「この世界を変えたい」と本気で思うようになったんです。
—それで日本を出て海外の教育を受けられたのですね。
たまたま中学2年のときに良い先生と出会えて「お前に日本の教育は向いてない」と言ってもらい、14歳でカナダの大学に入学するきっかけができました。そこで学びながら世界を見たときに、いかに日本の教育がダメかということや、資本主義社会のなかでつくられた教育システムの限界に気づいたんです。
もともと、他の人がやらないことをすることに快感を覚えるほうでした。日本でそういうことをしようとすると“出る杭は打たれる”感じになりますが、海外に行くとそうじゃない。年齢なんか関係なく、優秀なら認めてくれます。日本人がまったくいないユタ州の語学学校で英語を学習したあと、コロラドとカリフォルニアの大学で宇宙工学、有機化学、マーケティングという3つの専攻を学び、在学中に3回の起業も経験しました。
—大学卒業後のキャリアは?
日本に帰国してソフトバンクモバイル(現・ソフトバンク)に入社し、3年目の2011年にソフトバンクモバイルとアメリカのクアルコム社からの出資を受ける形で、半導体関連の会社を共同創業しました。
次世代太陽光パネルや、携帯電波を送受信するRF(送受信回路)部を作ることを主な事業としていました。一方で、半導体電子工学の世界的権威である故・大見忠弘教授からお声がけいただき、東北大学と共同開発研究事業も行っていました。その会社は500件の特許戦略を軸に次世代半導体分野で事業拡大を試みるも、清算を経験しています。その後、転職を経てPlanetwayを創業しました。
—Planetway創業の経緯と事業内容をお聞かせください。
2014年か15年にロンドンで開催されたIoTワールドフォーラムで知り合ったエストニア人に、「世界中で利用可能な格安SIMカードを作れるよ」と言われ、それに興味を持ったのがきっかけで、会社を作ろうと思ったんです。社名は、「地球に住んでいる人類に新しい道筋をつくる」というイメージを込め、Planetwayと名付けました。
当初はそのエストニア人と一緒にIoTネットワークやグローバルで使えるSIMカードを販売する、グローバル通信事業を行っていました。そして、創業して3か月ほど経った頃に出会ったキーパーソンが、もとはエストニアの経済通信省に務めており、現在は当社の役員をしているラウル・アリキヴィです。
エストニアの電子政府を18年間以上支えている技術である「X-Road」について説明を受け、まさに当社が求めていた技術だと感銘を受け、サイバーセキュリティ事業を本格化させていきました。
サイバーセキュリティで情報を連携し、データ主権を個人に取り戻す
—Planetwayがサイバーセキュリティ事業を本格化するきっかけとなった、エストニアの「X-Road」について説明いただけますか?
エストニアでは行政サービスがほぼ完全にデジタル化されており、「世界最先端の電子国家」と呼ばれています。この基盤となっているのが「X-Road」です。情報の暗号化と認証技術を組み合わせたデータ連携基盤と考えていただければいいでしょう。
「X-Road」ではデータベースが分散型ネットワークでつながっていて、行政と多くの機関が接続されています。そして、必要なときに必要な情報をリアルタイムに取ってくることが可能です。だからこそペーパーレスで非常に効率的です。
「X-Road」のもうひとつの魅力は、世界で唯一サイバー戦争に打ち勝ったセキュリティ性の高い技術であることです。エストニアは2007年にロシアからサイバー攻撃を受けました。これは、国家レベルの攻撃としては世界初のことだったのですが、そのときに「X-Road」のおかげで情報漏えいをゼロに抑えることができ、しかもサイバー攻撃をした相手の特定までしています。
そんなことができた技術など、今までにありませんでした。余談ですが、GPSなど優れた技術は軍事産業が生み出しているといって過言ではありません。民生向けの技術も、それらをいかにカスタマイズして活用するかが課題なんです。
Planetwayはエストニアの素晴らしい技術を日本でカスタマイズして普及させていく、日本とエストニアのハイブリッド企業です。
「X-Road」をもとにしたデータ連携基盤「PlanetCross」、さらにはエストニアの個人認証基盤「Citizen ID」から「PlanetID」という民間企業向けのID基盤システムを開発し、企業間で個人情報を連携させるサービスを提供しています。これらのシステムに使われている暗号化技術に関しては現在特許出願中です。
—サイバーセキュリティ事業を推進していった背景にある思いもお聞かせいただきたいです。
個人データを取り巻く世界は閉塞的かつ不自然です。インターネットや個人データを扱うという考え方において、まだまだアメリカの手法が本流です。
GAFAMなど一部の民間企業が独占的に個人データを取り扱っていて、政府機関に近い動きをしています。他にも、ロシアや中国、中東などデータの扱い方は国によっていろいろありますが、どれも適切ではないと感じていました。
幼少期から資本主義社会に疑問を抱き、この世界を変えたいと思っていた僕にとって、データ主権を個人に取り戻すことは、Googleのような企業が個人情報を抜き取って使っているこれまでのあり方を、本来のあるべき姿に戻すことです。すなわち、資本主義のあり方を変えることにもつながると考えています。
個人情報をその人自身が第三者に提供するかどうかを決定し、納得したうえで個人情報が活用される世界を創りたい、それが僕の思いです。
―2018年2月には安倍首相のエストニア訪問に同行され、現地のメディアに取り上げられたと伺いました。
「euronews.」というEUで最大規模のニュース専門チャンネルで、日本の特集として6分ほどの時間があったのですが、3分間を僕が話している映像で取り上げてもらいました。
安部首相には、すべてのものがデジタル化されつながるべきだと世界中の人々が気づき始めていること、その状態を実現しているのがエストニアであり、エストニアとのコラボレーションが最善の選択であることを直接伝えました。
その後、記者発表や商用化、フィンランドでのカンファレンスで話をした機会等、さまざまな積み重ねを経て、今年1月の世界経済フォーラム年次総会2020、通称“ダボス会議2020”(※)でのビデオインタビューの機会をいただくまでになりました。ここ数年で一気に当社のプレゼンスが上がり、芋づる式に海外からのオファーが増えました。
ダボスのビデオインタビューはCBS Newでも掲載されているので、ものすごい反響があります。今思えば、ダボスに行く前に日本のメディアを巻き込んでドキュメンタリーを撮ってもらえば良かった(笑)。インタビュー準備のために忙しすぎて気が回りませんでした。
現在では、海外だけではなく国内でもさまざまなオファーがあって、数千万人のユーザーを抱える企業群とも商談を進めており、業界は金融系や医療系など多岐にわたります。そこへ確実に普及させていくためにも、当社のインフラが使われるきっかけを日本で作り、基盤を固めていきたいと考えています。
Planetway社の理念が世界に発信されたダボス会議2020
─ダボス会議2020への参加は、どのような経緯で決まったのでしょうか。
2019年10月くらいに、ダボス関係者からダイレクトメールが届いたんです。
「あなたは非常に素晴らしいビジョンを持っている。データの個人主権時代をつくるために、最先端技術のポリシーをどうしたらいいか、あなたの意見をダボスで話してほしい」といった内容でした。事前に録画したものを流すブロードキャストセグメントというセクション、いわゆるビデオインタビューでの参加です。
その前の2019年5月に、「MyData」というフィンランドのNPOが開催しているグローバルカンファレンスで話をさせていただく機会がありました。
MyDataは、「データを個人に取り戻す」ということを推奨している世界的な機関で、これは当社が目指す理念と共通しています。このカンファレンスのオンライン配信を、ダボス関係者がたまたま見ていて、光栄なお声がけをいただくきっかけになったようです。
とはいえ、当初は詐欺メールか何かだと思って無視していました(笑)。しかし何度もメールが来るので、「まさか」と思って電話会議を設けたところ、事実だということが判明。時間もなく、すぐに参加を決断しました。
先方から出された「データの個人主権時代の創造」というテーマは、当社のビジョンそのものなので、事実とあれば喜んで受ける以外に選択肢はありません。また、我々としても2020年はマーケティング・プロモーションに注力したいと思っていたので、非常にいい機会だと思ったんです。
加えて、Sky Newsの社長兼メインキャスターであるアンドリュー・ウィルソン氏がインタビュアーで、事前のテレビ会議や実際のインタビューでも非常にクリエイティブな質問をしてくれて、意義あるものになりました。
※世界経済フォーラム年次総会(通称 ダボス会議)とは、世界有数のCEO、国家元首、大臣および政策立案者、専門家および学者、技術革新者および代表者が連携し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした市民社会唯一のグローバル組織。毎年1月に、スイス東部の保養地ダボスで年次総会を開催。
ダボス会議2020の動画はこちら
―国際的な注目度が一気に高まってきた印象です。
昨年までは、極力メディアに出さないようにしていました。というのも、ダボスで話した内容は10年程前から提言していたので社員は当たり前に知っているものもありましたが、公表していない部分もありました。
ここまでお待たせしてしまいましたが、逆に良いものに練り上げて、インパクトを与えられるタイミングになったと考えています。
実は今、ダボスをきっかけに海外からの引き合いがとんでもないことになっていまして、オーストリアのウィーンやフランスのパリ、ドイツ、フランス、アメリカ等、グローバルなカンファレンスの話が現在10件くらい動いている状況です。
海外からのオファーは以前からあったのですが、日本である程度実績を作ってから海外へ行くという戦略を考えていました。「PlanetCross」は2019年5月から商用化が始まり、ユーザー130万人ほどのインフラに成長しました。
2020年から来年にかけて、対象ユーザ数は8,000万人から1億人に増える見込みです。しかしそれは日本だけの話で、グローバルで見ると日本のマーケットの規模は10%以下。今のタイミングでアメリカやヨーロッパ、アジアを攻めていくべきだという認識に変わりました。
─海外のほうがデータの個人主権についての問題意識が強いのでしょうか?
さまざまな国からオファーを受けており、国ごとに思いや特徴があるのですが、GDPR(EU一般データ保護規則)という法律ができてから、特にヨーロッパではその意識が高まっています。アメリカではカリフォルニア州がGDPRに類似した法律をつくり、GoogleやFacebookのやり方に批判が集まっており、同じことが日本や中国でも出てくると予想しています。
間違いなくGAFAMが今までのビジネスができなくなる日がそこまで来ていて、ではそのときに誰が次のチャンピオンになるか?というのがホットトピックスですね。
ダボスではGAFAMや中国政府等への見解を述べたうえで、「10~15年はかかってしまうかもしれないが、必ず自分たちがやります」と宣言しました。日本語ではなく英語で発信したのは、これが初めてです。言ってしまったからには、後戻りできません。これから独占ができにくいような競争が始まっていくので、資本主義の次の新しい経済のスタート地点となる気がしています。