HOME メディア ~マンガ大賞発起人が考えるラジオの未来~「成長産業であるラジオをもっと社会が活用できるようにしたい。」 ニッポン放送 吉田尚記さん
2017.11.8

~マンガ大賞発起人が考えるラジオの未来~「成長産業であるラジオをもっと社会が活用できるようにしたい。」 ニッポン放送 吉田尚記さん

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ニッポン放送に所属しながら、サブカルチャーにまつわる豊富でマニアックな知識を生かして、各種イベント司会や「マンガ大賞」の立ち上げ、書籍の出版、テレビ出演など、ラジオアナウンサーの枠を遥かに超えた活動をする吉田尚記さん。前例のない活動になぜ挑戦するのか、その秘密を探る。

※本記事は2016年3月に発売したSynapseに掲載されたものです。

 

ニッポン放送
吉田尚記

1999年ニッポン放送入社。アナウンスルームに配属。2012年『ミュ~コミ+プラス』のパーソナリティとして、「第49回ギャラクシー賞」DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。マンガ、アニメ、アイドル、落語などの豊富な知識を持ち、多方面で活躍している。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』など。

 


ラジオは身体性を規制しない若者のためのメディア。

 

― まず、本日はなぜ和装なのでしょう?

「神田明神で豆まきをしてきたんです(※取材日は2月3日)。もともと、僕がアニメ『昭和元禄落語心中』のイベントをやりたいと相談した方のご縁で、神田明神を会場にさせていただいた経緯があって。今日は、『機動戦士ガンダム』の生みの親である富野由悠季監督やいろんな声優さんがいらっしゃって、すごいなぁと思いながらただただ豆をまいてきました(笑)」

 

― 吉田さんは今どういうお立場なんでしょうか?配属されているデジタルソリューション部「吉田ルーム」とは?

「最初に断っておくと、僕が『ルームをつくってください』と言った覚えはなく、気が付いたら突然そういう部署ができていたんですよ(笑)。僕は外部からの仕事をたくさんやらせていただいているんですが、アナウンサーが外部の仕事をするのは、放送局によってはNGだったりしますよね。

ニッポン放送の場合は、休日にやるのであればいいだろうくらいのスタンスだったので、僕もそういうところからスタートしたのですが、受けていくうちに年間100本くらいになってしまったんです。結果、ありがたいことに、個人業務の範疇を超えてきてしまったので、ほぼすべてのギャラを業務としてニッポン放送に入れることにしたんです。

でも、通常アナウンサーが所属している“アナウンスルーム”は、収入をたてるセクションではなかったんです。そんな時に、経営陣から『やりたいことはあるのか?』と聞かれたので『めちゃめちゃあります!』と答えました。その少しあとで、編成局内のデジタルソリューション部へ異動して、部内に自分の名前が付いた“吉田ルーム”が設立されました(笑)。

『人を雇ってでも、自分の活動をさらに促進してくれ』というメッセージを受け取ったわけです。さらに、今年の1月1日付で、デジタル戦略の促進に向けた組織変更がありまして、現在、僕がいる部署は、ビジネス開発センターデジタルソリューション部吉田ルーム。肩書は、アナウンサーと担当副部長です。それにしても、なんでしょうね? 担当副部長って(笑)」

 

― 「(やりたいことが)めちゃめちゃあります!」の具体例を教えていただけますか?

「様々な司会はもちろん、アニメのイベントもそうですし、数え切れないほどです。クラウドファンディングもやってみたいし、去年に引き続き本も書いていて、今年は3、4冊出るかもしれません。最近はアニソンDJやTwitterなど、ネット上での活動も増えていますし、キリがないですね」

 

― 活動内容について会社から制約はあるのですか?

「それはないです。『あいつはいろいろやってるみたいだけど……』ってよく分からない顔をされつつ、『やりたいならやったらいいんじゃない?』という理解のある親みたいなあたたかい会社です(笑)。ただ、会社にいちいちお伺いを立ててしまったら、却下されることは何となく気づいていたので、Twitterが出てきた時も、会社の規約に禁止とは書いていないから、勝手に始めて既成事実をつくってしまいました」

 

― Twitterなど、ネットでの情報発信に意欲的ですが、もともとネットはお好きだったんですか?

「僕は1999年入社なのですが、大学生の時は携帯電話をまだ持っていなかったし、入社の時もメールアドレスを会社がくれない時代でした。だけどメールアドレスがないと仕事にならないのが分かっていたので、個人的に持っていたアドレスを名刺に書いて、今もそれをずっと使っているんです。

僕らより上の世代は学生の時にそもそもネットを使ったことがなく、下の世代は逆にネットのない時代が分からなくて、それぞれと接していると考え方が全然違うんです。僕はその両方が分かるラッキーな世代なんです」

 

― ネット上の反応もチェックされるのでしょうか?

「ある時、僕の放送があった次の日に2ちゃんねるで批判スレッドが立っていたんです。まだその頃は反響はハガキで来るものだと会社の人たちも思っている頃だったのですが、僕はネット上の反応なるものを批判スレッドで体感したわけです。

『ネット上で何か書かれたらまずい』と気にする人がたくさんいますが、受け取った人側には様々な意見があるから気にしてません。僕が出した結論としては、2ちゃんねるとTwitter、Yahoo!ニュースのコメント欄の批判に、ほぼ意味はないと考えています。

逆に意味があると思う批判は、ブログです。例えば『あいつ死ね』とネットに書く際に、Twitterや2ちゃんねるにひと言書くのは簡単だけど、ブログに『あいつは死ぬべきである。それには次の4つの理由がある』というのをある程度の長文で、かつおバカであることがバレないように書くのはすごく大変。批判する対象のことをきちんと見ていないと書けないんですよね。ブログの長い批判は、真摯に役に立つなあと思って見てますね」

 

― ラジオの未来については、どうお考えですか?

「ラジオはこの瞬間、誰かが聴いているSIU(セッツ・イン・ユース︶をノープロモーションで6%も獲得している驚異的なメディアです。例えば、一度もテレビでCMしたことのない洗剤を、6%の人がずっと使っているなんてことはあり得ないと思うんです。逆にノープロモーションで6%というのは、底値と言えます。

日本だと1週間に1回ラジオを聴く率は約60%ですが、アメリカやイギリスは80%とか90%。つまり、日本は例外的にラジオが聴かれていない国だという考え方ができますし、成長産業だと僕は思っています。イギリスでは『好きな歌手は誰?』って聞くのと同じ感覚で『好きなラジオDJは誰?』という質問が成立するんですって。ラジオの中身を考えることも大事ですが、まずはプロモーションが足りていないのです」

 

― ラジオには可能性がまだまだあると?

「評論家の宇野常寛さんが責任編集を務める『PLANETS』という雑誌のメルマガで、メディアアーティストの落合陽一さんとDOMMUNEの宇川直宏さんの対談を読んで、なるほどと思ったことがあるんです。人間が映画やテレビを一般的に見始めたのは20世紀以降で、ここ100年の話ですよね。

たった100年で、テレビの前に集めて黙らせるという、人間が本来取らないような行動をやらせてしまったわけです。それだけ映像の力が強力だからということなのですが、人間の長い歴史からするとかなり不自然なんですよね。それに対してラジオは、生理としては非常に自然です。

部屋の片付けをするとき、無音と、テレビをつけるのと、音楽をかけるので、いちばんはかどるのは音楽をかけてやることなんですよね。ラジオは人間を最も自然に活動させる方法を持っているのに、活用度が低いのはもったいない。社会のほうがラジオを十分に使いこなせていないのだと思います」

 

― だからこそ先ほどおっしゃったように、プロモーションが必要なわけですね。

「その対談で面白かったのが、映像は身体性を規制するのに対して、ラジオは身体性を規制しないメディアだと言っていたことです。子どもってじっとしていることがないじゃないですか。大人になっても必ずしも静かにしたいわけじゃないよなぁと思うと、テレビを見るという行為は不自然で、身体性を使うことが面倒くさくなってしまっているわけです。

ラジオはお年寄りのメディアと言われていますが、身体性を規制しないのでむしろ若者のメディアではないかと思います。それにラジオって、最古のSNSなんですよ。リスナーからのハガキで成り立ってきたコミュニケーションのメディアなので、このふたつを考えても、今こそラジオの時代なのではないかとますます思います」

会社員はギャンブルをするのが仕事。みんな挑戦すべし!

 

― 番組面では、今後どうしたらもっとラジオが盛り上がると思いますか。

「ラジオは舞台のカリカチュアとして始まっていると思うのです。お客さんのリアクションなんてもともと取っていなかったのだろうけど、いつからか感想が届いて、それを番組で読んでも面白いねということになった。さらに進んで、最初にリクエスト番組をやろうと提案した人は、頭がおかしいんじゃないかと言われたと思うんです。

リスナーのハガキだけで番組をつくるなんて、意味が分からないって。でも今は定番の手法ですよね。その何百分の1の発想でしかないですが、Twitterを使ってラジオをやろうと僕が提案した時も、どうやるのか全然分からないと言われました。だけどやり始めたら、新しいことをやっていると注目されたわけです。

それと同じで、無理じゃないかと人に言われるようなことをやらないと、プロダクトとしては先に進まない。ラジオは懐かしさを喚起するメディアだと言われていますが、僕はラジオで懐かしさを扱い始めたら終わりだと思っています。ラジオは懐かしくないと強く言いたい。

最近テレビの仕事をさせてもらうようになって分かったのですが、ラジオのいいところは、関わっている人数が少ないことですよね。少ないほうが単純に純度が上がりますから。なんだか分からないけど面白いでしょ? というようなことは、関わる人が増えると実現が難しくなるものなんです」

 

― では、これから吉田さんが挑戦したいことは?

「『未来はまだらにやってくる』というSF作家の言葉があるのですが、最近、未来予測について考えています。60年代にイメージした21世紀は、宇宙船が当たり前のように飛んでいたけど、実際はそこまで飛んでいない。だけど携帯電話はまだなくて、『2001年宇宙の旅』でも有線電話が出てきます。

つまり『次どうなるか』は大体予測できても、『いつどうなるか』は誰にも予測がつかない。おそらくそれが人間の未来予測の特徴なんですよね。僕自身も『ここ数年にこうしたい』というよりも、『次こうなったら面白いよね』という素直な想いに準じていろいろやっている感じです」

 

― 純粋にご自身が面白いと思うことに、会社員として挑戦しているのがすごいです。

「そもそも、人類が初めてつくった株式会社は東インド会社ですが、個人ではリスクを背負いきれないから、それを分散できるように会社をつくったわけです。だから、本来会社員は挑戦しなければおかしいんです。僕のやっている事業がうまくいかなくても、僕自身は破産しないんですから。会社員はギャンブルをするのが仕事なのに、どうしてみんな挑戦しないのかな?って思っています(笑)」

 

無理じゃないかと人に言われるようなことをやらないとプロダクトとしては先に進まない。

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