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2017.11.5

「笑う犬」コント番組 元プロデゥーサーのTheGreatMessage~

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吉田正樹事務所代表
吉田正樹

吉田正樹事務所代表、ワタナベエンターテインメント会長。1983年にフジテレビ入社、『夢で逢えたら』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』『笑う犬の生活-YARANEVA!!』『トリビアの泉』『爆笑レッドカーペット』『爆笑レッドシアター』などに携わり、2005年にはSBIホールディングスインキュベーション部兼務となり、SBIとのファンドの運用に関わる。09年にフジテレビを退社し、現職。メディアコンサルタントおよび、芸能事務所の長として、各種メディアに関わり続けている。

※本記事は2016年3月発売のSynapseに掲載されたものです。


技術と魂を継承し、メッセージを伝える。

 

僕がフジテレビに入社したのは1983年。当時は横澤彪・王東順、石田弘・疋田拓という伝説たちの群雄割拠。先輩たちは人の言うことなんて聞かずに切磋琢磨し、戦っていました。それで僕の入社前年から93年まで三冠が続いた。翌年、日本テレビに負けることになるのですが、きっかけは『電波少年INTERNATIONAL』。

当時の日本テレビには新しい人材が豊富に出てきていて、きちんと世代交代も行われていたように感じました。僕は「無茶ブリ」と「丸投げ」をポリシーに、まだできないぐらいの若い世代に、無理に仕事を任せて好きなようにやらせてみるんです。徒弟制度みたいにして、できる限り早くから技術と魂は継承したほうがいいですからね。日本テレビは当時からそういう継承がうまくいっていて、今の『イッテQ』もその流れのなかにあるんですよね。

 

日本テレビに逆転されてからのフジテレビは『電波少年』の“ガワ”だけをマネてことごとく失敗しました。「アポなしぐらいできるだろ」って。でも日テレが伝えたかったのは「テレビとは何か」「テレビのなかでの出来事の真偽とは」というメッセージ。それを見ずに「アポなし」だけ追っかけてもダメ。

失敗を繰り返した僕たちは、「何を伝えたいのか」を真剣に考え始めました。それで出た答えが「コント」。当時のフジテレビのバラエティ制作は「音楽」と「演芸」の二大政党制でした。ここに「コント」という第三極を置いて、競い合いたいと思ったんです。僕は三十代後半でしたが、編成から制作に異動して、自分でコントを立ち上げました。

それが『笑う犬』のシリーズ。98年に深夜帯から始めて、99年11月にゴールデンに移った第1回放送のラテ欄にはこんなことを書きました。「今の流行りではありませんが、本当に愛するコント番組を作りました」。番組はそもそもつくり手のメッセージなんだと伝えたかったんです。

数字も大事だけど、番組から発する「考え方」を見る人に共有してほしいという思いが強かったんですね。その後、ラフくんというキャラクターを投入し、テレビを送る・見るだけで完結しない「移動展覧会」を開催。フジは2004年にまた首位を奪還する。この逆転劇が、テレビマンとしては、僕の人生最大のチャレンジでしたね。

 

道はまだ見えない。でも登り始めるべき。

この頃はITバブルがあって、2005年にはホリエモンが攻めてきて、テレビを取り巻く価値の大きな転換点を実感していました。僕の周りの人たちも世の中が変化していると感じつつあった。でも不幸なことに、フジテレビはそのタイミングで首位を奪還してしまった。

もっと変わるべきだったのに、首位に返り咲いたために「今のままでいいじゃん」になってしまった。僕自身は、テレビが“外”からどう見られているかを知りたくて、同じ年にSBIホールディングスと兼務させてもらいました。すると、外からはテレビ局って単に①拡散装置 ②広告価値としか見られてないと分かって、勉強になりましたね。

テレビをつくるうえで、つくり手のメッセージはとても大切です。でも、つくり手が自己実現する場だけではないと気づかされたわけです。メディアとしての影響力とか価値みたいなものも重要なんだと。「どうやって世間が面白がってくれるか」と考えて『笑う犬』を立ち上げたこと。

そしてホリエモンの一件から「我々はどう変わるべきか」と考えたこと。このふたつは僕にとっての大きなターニングポイントになりました。 これは、今テレビ局にいて、悩んだり苦しんだりしてる人も、時々立ち返って考えたほうがいいことだと思いますね。今の時代、テレビ局の一方的な思いで「これが面白いんですよ」って打ち出しても通用しない。でも、「こういうものが見たいんですよね?」って視聴者におもねると、さらに悲惨なことになる。

テレビマンはいい意味でのエリート意識を取り戻したほうがいいんです。今、徹底的に普通のサラリーマン化されているでしょ? そもそもテレビマンの仕事は国民の財産たる電波を預かって、それで何かを伝えていこうというものです。だから「日本の娯楽や報道に責任がある」という意識を持ってしかるべき。なのに、今のテレビ局は「守るのが上手な人」を採用していて、むしろオジサンたちのほうが攻めるのが得意(笑)。だからおかしなことになってる。

ネット上に様々なプラットフォームが出てきて、テレビはコンテンツに特化するのか、いろいろなものを出すための蛇口になるのか。これは各局が、そして制作者自身が、自分がどっちに向いているのかを各々で考えればいいと思います。

今は「挑戦」というよりは「模索」の時。この両者の違いは「ゴールが見えているか否か」です。どの山に登ればゴールにたどり着くか、誰も答えを持っていないので、近場の山に登ってみるんです。で、とりあえず頂上まで行くと、山脈の縦走ルートが見えるようになるんだと思う。

他ジャンルの制作者から見れば、まだまだテレビは圧倒的な影響力を持っているし、羨ましい部分も少なくない。オワコンなんてネガティブな喧伝に乗らず、確信を持ってやるべきです。「30年後」なんて言うな。今、眼の前にそびえる山に一歩踏み出せば、その先に必ず道はある。

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