Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.4 「アニメ制作のリアル」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.4 「アニメ制作のリアル」

アニメ好きなら一度は夢見る「アニメ制作」。そんな若者に、あるアニメーターはこう諭したそうです。『本当にアニメが好きでいたかったらアニメーターにならない方がいい。現場は辛いし、生活も厳しい。アニメをどんどん嫌いになっていく』と。アニメを制作することの大変さがうかがえます。今回はそんなアニメ制作の舞台裏を覗いてみましょう。

Vol.1Vol.2Vol.3に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)

1990年代では年間のアニメ作品数が100本程度だったものが、2006年あたりから急増して年間200本を上回り、現在では年間400本を超えています(※)。※テレビアニメ、劇場版、OVA、WEBアニメを含めた総本数。

アニメ業界は、需要は十二分にあって、年々市場も拡大しているのに、制作側のキャパシティが限界を超えているために、これ以上の供給が困難な状態にあります。まるで人気のある飲食店やメーカーが、売上ではなく、後継者不在や人手不足を理由に廃業するような、とてももったいない状況が発生しているのです。

これを解決するには、まず第一に、アニメーター人口が増える必要があります。

膨張し続けるアニメ本数=作業量、それを賄うリソースの確保のため、また、スポーツ界のように、選手層が厚い程、才能のある者が出る確率が上がるという期待もあるので、全て解決とはいかないまでも、アニメーターが増えれば解決する問題も多いと思われます。

ところが、現在のアニメーター人口は、少なくとも需要に応えられるのに十分な人数の確保にすら事欠く程で、さらにはアニメーター志願者も減っているとのことです。

普通であれば、需要や市場が拡大している産業では、それを担う社員の給料が上がるために、成り手が増えていくという流れが自然発生的に起こるのですが、ことアニメ業界にあっては、需要や市場が拡大しているのに、制作会社は倒産するし、アニメーターは長時間労働な上に薄給でブラック業界だと揶揄される有様です。

その負のイメージの影響や、事実としての労働環境の悪さから、アニメーターの成り手も増えず、また離職率も高くなっています。

2019年4月から9月にかけて放送されたNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)『なつぞら』では、広瀬すず主演でアニメーターを夢見る少女の物語が描かれていましたが、いつからアニメーターは夢の職業ではなくなってしまったのでしょうか。若者が声優や芸人になる夢は持てても、アニメーターになる夢を見られないというのは悲しい状況です。

アニメーターは、かつては十分に食べていける職業でした。決して楽な仕事ではなく作業量は膨大でしたが、少なくとも経済的には現在よりもはるかに恵まれていたようです。

初期のアニメでは、虫プロが創意工夫で編み出した省略技で、人物や背景は動かずに口だけが動くカットや、動きのカットを背景を変えて使い回すなどの技法が多用されていたので、30分アニメの原画を2名で担当するなどということもあり得たわけです。単純計算でも原画費が100~150万円なのでこれを2人で折半、もしくは原画単価が仮に1カット3,000円(現場によって様々ですが、概ねの目安)だったとすれば、100カットも描けば単純計算で30万円、と普通に生活できる金額でしょう。

しかし、現在の高い作画クオリティが求められる、いわゆる‟クオリティバブル"時代では、そんなことは視聴者が許しません。口パクや使い回しをすると「手抜き」、作画のクオリティが低いと「作画崩壊」などとすぐにネットで批難されてしまう昨今、1カットで描く線の総量(=作業量)が数倍から数十倍に膨らみ、原画担当者を増やさねば対応できません。

実際に、1作品に関わる原画スタッフの人数を過去と現在で比べてみると、国産初のカラーテレビアニメシリーズ『ジャングル大帝(第1作)』の第1話「行けパンジャの子」(1965年放送)の原画スタッフは2名、一方2018年に放送された、ある作品では29名が名を連ねていました。それにも関わらず、制作費は何十年も据え置き価格ですから、1人ずつに分配される対価が減るのは当然なわけです。

このような状況では、アニメ・マンガ・ゲームなどが好きで絵を描く才能もあるという、アニメーターになる素養を持つ若者が、アニメ業界へは向かわずにマンガ家やイラストレーター、ゲームのグラフィッカーになるのは、至極当然の流れです。

若者をアニメ業界に呼び込むためには、賃金上昇が要となりますが、制作会社にそれを求めても、今度は制作会社が立ち行かなくなって共倒れになってしまう恐れがあります。制作費総額の底上げによるアニメーターの賃金上昇を目指すべきでしょう。

そのための方策としては、国の経済支援は勿論のこと、アニメ業界独自の最低賃金の制度なども必要になるのかもしれません。

厚生労働省が定めた最低賃金制度では総労働時間数も考慮されますが、アニメの作画の場合、労働時間が特定しにくく、現在の制度だけでは適切な運用が難しいかもしれません。賃金の制度や、就業のルールなどアニメの現場に合ったものを設定することが重要となってくるのではないでしょうか。

しかし、現状では、元請けの制作会社が制作費を中抜きして下請けの制作会社に仕事を流すなどということもありうるため、単に頭と尾を調整してもうまく行くかは難しいところです。投じた援助金を含めた制作費が正しく運用されているかを管理する必要もでてきますが、これはアニメ制作の現場を知らない役所の担当者が提出される報告書を眺めただけでは判断できないでしょうし、何より報告書に記載されたものが真実かどうか検証できないという、そもそもの話もあります。

元請けの制作会社の中抜きにしても、それは自社の利益のためではなく、別の作品の赤字の補填だったり、次回作への資金投入であったりという場合もあります。中抜きを正当化するものではありませんが、そもそも元請けの制作会社自体も経営課題を抱えているのです。単純に中抜きを禁止してしまうと、元請けの制作会社自体を廃業に追い込み、結果、下請けの制作会社も連鎖的に廃業という結果になりかねません。

しかも、アニメの制作費を健全な賃金体制でまともに制作したならば、現状の3倍はかかると言われています。現状では、テレビ局や出資社などからは、「アニメはドラマなどよりも安く作れる」と認識されていますが、制作費を健全な額まで引き上げると、テレビドラマの制作費を超えてしまうことも。そうなると「アニメは高コスト」ということになってしまいます。

これでは、せっかく拡大路線に向かっているアニメ業界に水を差すことになってしまう可能性もあり、少し危険な匂いもしてきます。縮小していけば良いじゃないかと考える人もいるかも知れませんが、バランス良く縮小するなどというコントロールは、特に水物であるエンターテインメント業界にとっては不可能なことです。一度縮小に傾いた業界が一気に衰退まで陥ることは往々にあり得ることで、縮小という方向性はリスクが高いのではないでしょうか。

政府による経済支援に関しては、実は各行政機関ですでに実施されています。

[文部科学省(文化庁)]

・文化庁メディア芸術祭アニメーション部門 ※1997年から開催

・映画製作への支援(文化芸術振興費補助金)※アニメーション映画も対象内 ※2006年開始

・若手アニメーター等人材育成事業(「アニメミライ」「あにめたまご」)※2010年開始

[経済産業省]

関東経済産業局を通して東京コンテンツインキュベーションセンターの運営や、市区域レベルでの産業支援に取り組んでいます。

ただ、これらはまさに、前述の頭と尾の支援のように感じます。制作費や賃金の支援ではあるものの、それをどのようなフローで分配させ機能させるかを取り決めているものではなく、これで問題が解決するのかは疑問のあるところです。事実、アニメ業界の問題は今もって改善に向かっていないようです。

・制作会社へのアニメーター養成所設営・運営支援

・完成保険会社設立支援(各業界への調整・枠組みの制定、法整備など)

・クラウドファンディングの利用促進・手続きのサポート(窓口代行)

・技能検定、資格制度、ランク制度の整備

・若手アニメーター技能コンテストの開催(作品ではなく作画のみを対象)

・フリーランスのアニメーター登録派遣業者の設立

・難易度設定による原画制作の価格制度の整備

・出資会社・個人の出資に対する条件付きの税制優遇

など、改善のアイデアだけはたくさん考えることができますが、言うは易く行うは難しです。

出資チャンネルを増やしたりすることで制作費向上を図ると共に、制作現場のシステムにもメスを入れなくてはなりません。

有能なアニメーターの格付けや経歴考慮などで給与形態を可視化し、且つフリーランスのアニメーターとの制作会社の契約形態や就業規則、権利と義務など、社会人としては当たり前の部分を制度化して、昭和時代の体制を引きずり続けるアニメ業界の構造や仕組みなどを内部から改変させていく必要がありますが、ではそれをいったい誰が成し得るのかと言われると、答えが出ないところでもあります。

まだ会社単位ではあるものの、労働環境の改善や若手の育成、収益確保に取り組んでいる例もあります。

Vol.2にてP.A.WORKSの取り組みについて触れましたが、昨年痛ましい事件に見舞われた京都アニメーションにおいても、

・アニメーターの正社員化(社会保障制度、社宅)

・プロ養成塾 ※1992年開始

・製作委員会に出資(作品の版権取得・2次利用での収益化)

・商品開発部を設置し、オンラインショップ「京アニショップ」を運営

・京都アニメーション大賞(アニメの原作となる小説・シナリオ・マンガの発掘) ※2009年開始

といったアニメ業界において先駆的な取り組みが行われおり、同じような仕組みを取り入れる制作会社も少なからず出てきています。

作品数の増加やクオリティバブル、製作委員会方式など、アニメの価値や在り方、経済状況などが変わっていった中で、制作会社やアニメーター自体の在り方も変わることを求められる時代にあり、急成長する中国のアニメ産業などに負けずに今後もアニメ大国としての地位を維持できるのか、日本のアニメ業界は岐路に立たされています。

<了>

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