Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.1 「製作委員会方式の成り立ちから、ネット配信まで」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.1 「製作委員会方式の成り立ちから、ネット配信まで」

2013年、政府により海外需要開拓支援機構が設立されました。「クールジャパン」という言葉は耳にしたことがあるかと思います。内閣府によると「外国人がクールととらえる日本の魅力」であり、主に日本のサブカルチャーコンテンツを指します。その中にはアニメも含まれ、『ドラゴンボール』や『ワンピース』などの人気は国内に留まらず海外に進出し、"日本=アニメ"とイメージする外国人も少なくはないでしょう。

しかし、アニメは日本を代表する文化でありながら、どうやらその現状は厳しいものであるようです。

本連載は、Synapse編集部が取材した内容を元に、アニメの現状とこれからについてお伝えしてまいります。



1.アニメ制作のビジネスモデルの歴史と現状

日本のアニメの創世記は、手塚治虫が漫画で成功して得た個人資産を投じて設立された虫プロダクションからはじまります。

当時、漫画映画や3~10分アニメが主流の中、毎週30分のアニメを放送することは国内はおろか世界初の試みで、これが今日のアニメ製作の礎になりました。

虫プロのビジネスモデルは、作品の著作権を自社で所有し、スポンサーから受け取る制作費では賄いきれない赤字分を、ロイヤリティー(制作会社が所有)や海外輸出での収益で補填するというもので、『鉄腕アトム』の人気もあってこのビジネスモデルは一様の成功を収めました。

虫プロの成功の影響から続々とアニメ事業に参入する企業が現れ、虫プロの創始したビジネスモデルが採用され主流となりました。

スポンサー企業(主に菓子・玩具会社)は、社会貢献や文化支援ではなく、あくまで商売上の投資として出資しているため、出資したアニメの人気が上がらないと損失になります。そこでアニメの制作にあたり、自社商品がより売れるように注文を加えます。

これは出資側にとっては当然の権利であると共に、出資金が最大利益を生むように導く手段ですが、制作会社はスポンサーに対して弱い立場にならざるを得ず、制作側からすればこうした注文が自由度の制約となっていました。

また、当初は著作権を要求しなかったテレビ局や出版社などが作品の著作権をも要求するようになり、制作会社の収入減の要因となっていきました。


製作委員会方式の登場によるアニメの隆盛

そのような状況の中で、企業が制作費や広告費を負担し、且つ制作会社が作りたいものを作れる自由度が高い方式が登場してきました。それが製作委員会方式です。

当初は菓子や玩具、漫画などを売るための年少者向けのアニメが全盛でしたが、その頃には『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』といった少し年齢層高めのアニメに、青少年や大人のファンも着実に増えてきていました。

年齢層の高いファンがついたアニメに商業的価値を見出して、製作委員会方式で出資する企業には、ライトノベルに強い出版社や、いわゆるオタク向け商品やビデオを展開する会社が多く存在しました。

製作委員会は、制作会社に支払う制作費だけではなく、広告費やテレビ放送枠の購入費も負担するため、制作会社はテレビ局やスポンサーに隷属的に依存することなく自由な制作が可能になりました。


それまで子供向けが多かったアニメ業界に、この製作委員会方式が登場したことにより、アニメに多様性が生まれました。

放送枠も子供が寝静まった深夜帯が増え、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)も大量に作られるようになり、多くのアニメファンの多様な好みに対応する形で、美少女系、社会派系、日常系からBL系といった幅広いジャンルで大人向けアニメが著しく増えました。

現在のアニメの多様性や隆盛は、この製作委員会による功績が大きくあります。

しかし、当初は出せば売れるような状態だった大人向けアニメも、多様性の拡大や作品数の氾濫の結果、ヒット作品が生まれにくい状況となっていきました。

今では10作品中、1作でもヒットが出れば運が良いという状況で、出資側はリスクを回避するためにも制作に干渉するケースも出てくるようになります。


製作委員会の実状は千差万別ですが、概ね制作会社などのプロデューサーが企画草案を作成し(近年は出版社スタートのケースもある)、出版社やテレビ局、グッズメーカーなどの各社に働きかけ、賛同会社の中から幹事会社が名乗りを上げて出資金の取りまとめを行います。

幹事会社は、作品に対する主導権や発言権を得る代わりに、必要最低限の資金に達しない場合に不足分を負担するなどの責任を負います。

作品がヒットした場合は出資会社に出資比率に応じて利益が分配されるので、幹事会社は負担分だけリターンも大きくなります。したがって、幹事会社になる企業は、資金力や各企業間の調整・交渉能力が必要になるため、KADOKAWAなどの大きな企業が務めることが多くなります。

製作委員会方式では、作品の権利は制作会社ではなく製作委員会が有することになり、ロイヤリティー収入は出資比率に応じて出資会社に分配されます。

制作会社に入ってくる収入は製作委員会が支払う制作費のみになり、著作権がないため作品の二次利用による利益が見込めません。そもそも日本のアニメ制作会社が踏襲してきた虫プロのビジネスモデルが、制作費の赤字分を補填できるロイヤリティーの収益があることに対し、製作委員会方式では制作会社がロイヤリティーで見込める収益はありません。


アニメ業界の新たな変化の兆し

そして平成が終わり令和が始まる中、新たな潮流の兆しが訪れてきています。

それは、Netflixをはじめとした外資系企業の台頭です。

製作委員会に参画する企業の中には中国企業が近年増えており、中国でニコニコ動画と似たサービスを展開しているbilibili(哔哩哔哩)は、2015年からすでに30作品以上に出資をしています。

さらに中国企業は続々と日本にスタジオを作り、日本でのアニメ制作を始めています。日本のアニメ制作のノウハウを学ぶと共に、日本のアニメーターを雇用し、ここで制作したアニメを日本や中国で展開することが目的で、いずれは中国で制作したアニメを日本に輸出することも視野に入れていると想定されます。

映像作品の視聴形態がテレビからネット配信に移り変わっていく変革期にあって、映画に強いAmazonプライム・ビデオ、テレビ番組(ドラマやバラエティ)に強いHuluと比較して、Netflixは独自コンテンツやコメディ、アニメに強みを持つ特徴があります。

Netflixにおいては、日本のアニメ制作会社と提携し、製作委員会としてではなくNetflix独自アニメ作品の制作が本格化されました。2018年1月にアニメ制作会社のProduction I.G、ボンズと包括的業務提携契約を結んだのを皮切りに、提携を拡大していき、Netflixオリジナルのアニメ制作を展開しはじめました。

Netflixの契約では、基本的にNetflix側は独占配信以外の権利を求めず、また今のところ制作における制約が少なく自由度が高いため、制作会社にとってやりやすい状態となっています。

また著作権は制作会社に残るため、製作委員会方式ではできなかった作品の二次利用によるロイヤリティーが得られるようになります。


[製作委員会方式]

制作会社のメリット

・出資側のリスク分散ができる

→出資側にとっては出資しやすく、出資される側も出資してもらいやすい
→出資側は複数の作品に分散投資が可能

・グッズ販売、海外販売、広告、版権管理などは製作委員会が行うため、基本的には制作以外の業務が不要になる

制作会社のデメリット

・制作全体の意思統一が困難(委員会の干渉や、各社の主張などが絡んでくるため)

・作品の権利は製作委員会が所有

→制作会社の収入は制作費のみで、二次利用での収益が見込めない


[Netflix方式]

制作会社メリット

・制作会社と直接契約で、Netflix側は、独占配信権以外を求めない

→クリエイティブの自由度が高い
→作品の権利は制作会社に残るので、二次利用収益が見込める

・製作委員会方式よりも潤沢な予算

制作会社デメリット

・グッズ販売、海外販売など配信以外の二次利用収益のための各企業への営業、版権管理、ユーザー向けの広告などを制作会社側で行う必要がある


2.アニメを見る環境の移り変わり

アニメの創世記は、漫画映画にはじまり、虫プロの『鉄腕アトム』からテレビアニメ時代となり、昭和後期には「東映まんがまつり」や、ジブリなどのアニメ映画、OVA、24時間アニメを放送する衛星放送チャンネルなど多様化・作品数急増を経て、近年では劇場版アニメのヒットが再び脚光を浴びる時代となってきています。

放送局においても、キー局のゴールデン枠での放送が主体だった時代から、前述の多様化された深夜アニメの増加を経て、近年はキー局だけでなく地方局が独自にアニメを編成するといった変化も表れています。

関東圏にあっては、テレビアニメの放送枠がキー局からTOKYO MX、tvk、テレ玉、チバテレといった独立放送局や地方局に移りつつあります。


さらに大きな潮流が、ネット配信での視聴の広まりです。

定額見放題のネット配信の視聴形態が増え、媒体もテレビだけでなく、PCやスマートフォンに広がってきています。

Amazonプライム・ビデオ、Hulu、Netflix、アニメ限定のdアニメストアといったネット配信の他に、アニメビーンズなどスマートフォン用アプリでの配信というものも登場してきており、この勢いは今後ますます拡大していくものと思われます。

一方、そのようなデジタル時代の副産物として生まれてきたものの一つに、違法コピー問題があります。

放送・配信されるそばから多数のコピー動画がYouTubeをはじめとした共有サイト上で流れるのが当たり前になっており、それを取り締まる制作会社や配信側にとって悩みの種となっています。対策としては、一つひとつ取り締まるだけでなく、正規のプレイヤーがサブスクリプション制の配信を充実させるというアプローチも考えられますが、現時点では各社、慎重に判断を見極めようとしているのかもしれません。


<了>

※次回は、アニメ制作現場の抱える問題と変革をお伝えします。

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