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2018.7.20

人材のフュージョンが可能にした「アドフュージョンドラマ」、誕生!vol.2

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前回の記事はこちら(vol.1)

 

「アドフュージョンドラマ」を実現するまでの3つの課題

 

―アドフュージョンドラマという前代未聞の試みを実現するまでには、さまざまなハードルがあったのでは?

中尾:このドラマを放送するために越えなければならないハードルは、3つありました。1つはスポンサー探し。もう1つは脚本家や演出家などのスタッフィング。最後に、既存のルールに当てはまらない新しい取り組みを、いかに既存のルールを破らずに行えるかという問題。この3つが大きなハードルとなりました。

伊藤:今回のドラマは、スポンサーが決まらなければ脚本が決まらないし、脚本が決まらなければスポンサーも決まらないという負のスパイラルがあって(笑)。

中尾“ドラマの本編部分と広告部分が渾然一体となって融合する”というアドフュージョンドラマは、やはりスポンサーを決めることがすべての始まり。だから、スポンサーに向き合うことに一番慣れている僕が、「刑事ドラマ」という想定で、広告部分をいろいろなクライアントに合わせた仮の脚本を書きまくったんですよ。例えば、刑事物でよくある、カッコイイ音楽をバックに刑事が犯人を追いかけているシーン。そこでこんな商品が登場します…とか。そんな架空脚本をいっぱい書いて、それをもってクライアント先で小芝居をしていました(笑)。

明松:おかげで、サントリーホールディングスさん、エクスコムグローバルさん、LINEさんという3社がスポンサーに名乗りを上げてくれた。これが成功の大きなカギやったと思う!

中尾:3社とも「新しいことに前向きで、チャレンジに積極的」な企業だからこそ、今回の企画に賛同していただけたんだと思います。この企画を面白がって「業界に新しい一石を投じてやろうじゃないか」と思ってくださったスポンサーの皆さんには感謝しかありません。

伊藤:実際に、スポンサーの皆さんからも、広告を楽しんで作っている感じが伝わってきましたよね。

中尾:そうだね。どの企業もすごく広告に目が肥えていて、新しい時代を切り開いている企業ばかりなので、広告に対してもぜんぜん保守的じゃないんですよね。そんな企業が、この企画に乗ってくれたというのは心強かったし、自信にもなりました。従来の制作者とスポンサーという関係から一歩踏み出して、スポンサーともフュージョンできたかなと思います。

 

電通 中尾氏

 

明松:実際に、こんなチャレンジングな企画に賛同する企業は「前向きでステキな会社」だということは、視聴者にもしっかりと伝わったんじゃないかなと思います。

 

成功のカギは「人材のフュージョン」

 

―2つめの課題、スタッフィングについてはいかがでしたか?

明松:僕がフジテレビの編成部にお願いしていたのは、通常のドラマ制作が得意なスタッフではなく、CMをも遊び道具として一緒に楽しんでもらえる方。その要望に見事に応えてくれて、結果的に共同テレビの関卓也さんがプロデュースを担当、監督とプロデュースの兼任で後藤庸介さん、脚本に森ハヤシさんというスタッフィングが実現しました。

中尾:皆さん、この変わった企画をすごく深く理解してくれていましたよね。普通なら企画の概要をちょっと聞いただけでムカついて降りると思うんですよ(笑)。

伊藤:特に、脚本が森ハヤシさんというのが大きかったと思います。だって、脚本を書いている最中にスポンサーがころころ変わって、その都度書き直さなきゃいけない。だから、そんな状況を逆に楽しんでもらえる人じゃないと無理でしたよね。

中尾:確かに。森さんと最初にお会いしたとき、「前代未聞の取り組みだし、予測できないことも起きます。そんな状況を一緒になって面白がってもらって、誰もやったことがないことをやって、みんなをアッと言わせましょうよ」と言ったんですよ。そしたら、「面白そうですね、やりましょう!」って言ってくれて…。これでイケると思いましたね。

明松:スポンサーの都合でストーリーが変わる企画なので、脚本を書くにはあまりに縛りが多すぎる。例えば、今回のドラマは特殊なので番組の冒頭でストーリーテラーがドラマの見方を解説する方式にしているけど、これなんかは普通の脚本家は「勝手に決めるな!」と怒りますよ。でも森さんは、そういう縛りがあればあるほど燃えるタイプ(笑)。本当に助かったよね。

 

フジテレビ 明松氏

 

伊藤:いろいろなスタッフがこの企画に賛同して、互いの垣根を超えてフュージョンできたことが成功した理由かなと思いますね。当初は、ドラマ部分は後藤さんと森さん、広告部分は中尾さん、トータルでは明松さんと、それぞれの役割分担を考えていたんですが、実際は、関わるすべての人が一緒になって考えていましたね。

中尾最初のオールスタッフによる打ち合わせで、明松さんが「脚本家の森さんには広告部分にもガンガン関わってもらわないと駄目だし、中尾も広告のことを踏まえてドラマ部分にも口を出さないといけない」と言っていたのを覚えています。表に出ないさまざまな人々も含めて、多くの人材によるフュージョンができたことが成功の要因だったと思います。

 

 

ルールの中で「できること」を探る

 

―3つ目のハードル「既存のルールに当てはめる」に関してはどうでしたか。

中尾:今はコンプライアンスなどが問われる時代なので、作り手側もすごくデリケートになっています。今回のように、現場が従来にない企画を実現しようとすると、ジャッジする上層部が「既存のルールに合わない」と駄目出しするケースも多いと思うんですよ。そこをクリアできたのは、もちろん明松さんや伊藤君が頑張ってくれたおかげですが、ジャッジする部署の方々も一緒になって面白がってくれたからだと思っています。僕が直接お会いしていないそんな方々も含めて、たくさんの人たちとのフュージョンがあったからこそ、この企画が実現できたのかなって思います。

明松:新しいことに前向きになってくれるスポンサーがいて、面白がってくれるスタッフがいて、現場ではやりたいことをできる体制になっているのに、最終的に自主規制したりとか、やりたいことが伝わらない形で放送するっていうのが嫌だった。だから、既存のルールに抵触しないことを確認できるかどうかが大切だったんだよね。

―その既存のルールとは、具体的には何ですか?

明松:いろいろありますけど、「テレビ番組の本編と広告は切り離さないといけない」という放送法のルールですかね。

伊藤:アドフュージョンドラマは、広告部分とドラマ部分を融合させる企画ですから、下手をすればそのルールに抵触しかねない。だから、実際のドラマを見てもらえば分かるように、どこまでが本編で、どこまでが広告なのか、きっちり視聴者にも分かるような構成にしています。

中尾:僕らは別にルール違反がやりたいわけではなくて、正しいルールの中でこんなことができるっていうのを見せたいし、そうでないと意味がないじゃないですか。ルール違反してインパクトを出すのなんて誰にでもできることだし。

明松:ルールを守ることをネガティブに捉えるのではなくて、逆手にとってポジティブに捉えることもできる。例えば、番組中に4回ある90秒の広告部分には必ず「ただいまCM中」というテロップを入れることで、放送法のルールは守れるけど、それだけじゃ面白くない。だったらストーリーテラーを登場させて、このドラマや広告の見方を徹底的にガイドさせようってアイデアが生まれた。

中尾:ストーリーテラーを入れたのは本当に正解でしたね。放送法を遵守するという意味だけでなく、視聴者にとっても番組の楽しみ方がよく分かるし、今までにない画期的なドラマだっていうことがしっかり分かるようになっています。それと、今回のアドフュージョンドラマの話をするとき、必ず「それってステマじゃないの?」って聞かれるんですけど、アドフュージョンドラマは「どこからどこまでが広告なのか分からないステマ」とはまさに真逆なんです。実際、よくこんな方法で広告を入れてきたなって面白がってもらうためは、どの部分が広告なのか明確にする必要があります。だから、ステマとはまったく違うんですよ。

伊藤:その他にも、CMに関する秒数のルールとか、クリアしなくちゃいけない問題がこまごまとありましたが、問題になりそうな部分を先取りして、明松さんと僕とで関係者に丁寧に説明してまわって…。今回の企画が、フジテレビにとっても、電通にとっても、きちんとオーソライズされた企画として認知されるよう努めました。

 

「アドフュージョンドラマ」の今後の展開

 

―「アドフュージョンドラマ」の今後についてお聞かせください。

明松:今回はやっぱり最初の取り組みだったので、「できるだけ分かりやすくする」ことに注力したのですが、ドラマを見た人で「何をやっているか分からなかった」っていう人は、僕の周りでは1人もいなかったから、こちらの意図はきちんと伝わったのかなと…。できれば、第2弾、第3弾と続けていきたいけど、飽きられないようにするためにも、次回はもう少し変化球が必要かなと思いますね。

中尾:もし次回があれば、ドラマ部分と広告部分の融合をよりスムーズで、洗練されたものにしたいですね。もちろん、広告部分の存在感が薄れるとスポンサーにとってはよくないし、広告部分の存在感が大きすぎるとドラマとしては違和感が出てくる…。難しいですが、今回の経験から、その辺のバランスが取れた脚本も可能だと感じています。

伊藤:先日のオンエアを見ながら、放送中のツイートとかすごく気にしていたんですけど、一般の視聴者から「新しい」とか、「面白い」といった前向きな反応が多くて嬉しかったです。「アドフュージョン」という考え方を理解してもらえたと思うので、またぜひ第2弾をやりたい。ただ、まったく同じでは駄目だと思うので、「さらにその手があったか」と驚いてもらえるようにしたいですね。今回の実績があるので、スポンサー探しなんかの産みの苦しみも少しは軽くなるでしょうし、中尾さんも架空の脚本を片手に客先で小芝居をしなくてもすみますしね(笑)。

中尾:それはありがたい(笑)。「アドフュージョンドラマ」の制作はすごく手間がかかるけど、クライアントにとって、テレビ広告をする際の1つの選択肢として一般化するくらい普及できたらいいよね。

 

テレビと広告のこれから

 

―最後に、テレビや広告の今後についてご意見をお聞かせください。

中尾:最近、テレビ離れが進んでいるとよく耳にしますが、今でもテレビって圧倒的な存在だと思うんですよ。確かに、メディアの選択肢が少なかったころと比べると少し落ちてるかもしれないけど、問題なのはテレビが持つ力を時代の変化に合わせて使える人間が減っていることだと思います。僕みたいな広告クリエイターが、もっとテレビの力を使いこなさなきゃいけない。今回のアドフュージョンドラマの制作にも、そんな思いを込めています。

明松:あらためて思うのは「新しいことを考えたり、作ったりすることの難しさ」ですかね。作り手あるあるですけど、自分では[10]新しいと思うことでも、ちょっと俯瞰で見てみると[10]ではなく[7]ぐらいの新しさしかなかったりすることって、よくあるじゃないですか。だから、普段から、テレビや広告業界にとって「新しい一歩となるようなことをするんだ」という、より強い気持ちが大切だなと痛感しました。今回のアドフュージョンドラマが新しい第一歩になればいいね。

伊藤:今回のアドフュージョンドラマのオンエアで、最後に各スポンサーの純広告CMが流れるのを見ていて思ったことがあって…。そのCMは、通常の純広告なんですけど、ドラマをしっかりと見終わった後に見ると、やはり思いのこもったCMなんだなと、いつもよりきちんと見ることができたんです。だから、企画性のある広告と純広告のような直球の広告が共存していけることが、一番素敵なテレビの未来かなと思います。

 

電通 伊藤氏

 

中尾:伊藤君、今日は先輩の前で緊張してか、あんまりしゃべらなかったくせに、最後にいいこと言うなあ(笑)。

明松普通は、テレビを見ていてCMが流れると、受け身になるもんだけど、アドフュージョンドラマのような取り組みが、今までとは違った視点からCMを見ることにつながるのかもね。

中尾:確かにそうですね。いつもよりも広告に愛着をもつことができるようになるのかもしれませんね。このドラマを作った人と同じように、このCMを作っている人も「愛着をもって作っているんだ」ということが伝わるんでしょうね。

―本日はありがとうございました。

(了)

 

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