【テレビのミライを創る】大分放送×電通×太陽の家 〜「太陽の家カンファレンス2019」開催レポート 〜

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【テレビのミライを創る】大分放送×電通×太陽の家 〜「太陽の家カンファレンス2019」開催レポート 〜

「テレビの世界でこれから仕掛けられそうな新しいコト」を考える、Synapseの企画【テレビのミライを創る】。第2回目は、大分放送と電通が、大分県別府市にある「太陽の家」とコラボして、社会における障がい者雇用のあり方を考えた「太陽の家カンファレンス2019」に、Synapse編集部が潜入取材したので、その開催模様をお伝えします。

本カンファレンスは、大分放送と電通が、大分県別府市にある「太陽の家」がコラボレーションし、日本社会における障がい者雇用のあり方を考える企画として開催されました。

太陽の家カンファレンス2019 『No Charity, but a Chance!』

太陽の家カンファレンス2019は、11/15(金)-16(土)の2日間にわたって開催され、19社32名が参加しました。

「太陽の家」とは?

1965年(昭和40年)10月に大分県別府市に、医師・故中村 裕博士(医療法人恵愛会大分中村病院創設者)が設立した社会福祉法人。

身体障がい者のスポーツ振興をはかり、今では日本パラリンピックの父とまで呼ばれている中村氏は、大分県別府市に生まれ、1951年九州大学医学専門部を卒業後、同大学の整形外科医局に入局しました。障がい者に対するリハビリに関する研究を続け、当時その分野で進んでいた英国ストーク・マンデビル病院に留学。そこでリハビリにスポーツを取り入れていることに衝撃を受けた中村氏は帰国後、障がい者の社会参加、仕事やスポーツを通して自立できるようにするための活動に力を注いでいくことになりました。

1964年の東京パラリンピックでは、日本選手団団長を務めました。また、作家の水上勉氏らとの出会いなどを経て、障がい者を保護するだけでなく、彼らが仕事を持ち、自立できるようにすることが最も必要であるという信念を持つようになり、「保護より機会を!(No Charity, but a Chance!)」、「世に身心(しんしん)障害者はあっても仕事に障害はあり得ない」という理念を掲げ、障がい者が自立するための施設「太陽の家」を1965年に設立しました。

そして、オムロン創業者の立石一真氏の理解・賛同を得て、1972年に「太陽の家」とオムロンの共同出資会社、オムロン太陽株式会社を設立。そこで障がい者を雇用、健常者とともに品質のよい製品の生産活動を始めました。以後、ソニー創業者の井深大氏、ホンダ創業者の本田宗一郎氏らの理解・賛同を得て、次々に共同出資会社を設立していき、現在本社6社と8社の株式会社を組織しています。

障がい者の社会参画に取り組んだ中村氏によって設立された「太陽の家」は、今もその意志を継ぎ、社会における障がい者雇用の状況をより良いものにすべく、日々活動を続けています。

大分放送と電通と太陽の家の取り組み~太陽の家カンファレンス#0の試験的実施~

大分において長年取り組まれてきた「太陽の家」の取り組みを、放送・番組を通じてこれまで継続的に社会に紹介し続けてきた大分放送。今回、電通と「太陽の家」と共同企画し、電通のネットワークを活用して、様々な企業の参加によって、太陽の家カンファレンス2019『No Charity, but a Chance!』が開催される事になりました。

参加者の多くは、例子会社(※)の社長をはじめとした経営者の方々。大分県別府市にある「太陽の家」やその周辺の各関連会社、障がい者雇用を促進する各施設を訪問し、また互いの課題を共有し、それぞれが取り組むべきことを話し合う2日間となりました。

※特例子会社とは・・・障がい者雇用を促進し、また安定化させるため、障がい者の雇用に特別の配慮をした企業(親会社)の子会社のこと。障がい者の雇用の促進等に関する法律第44条の規定により、一定の要件を満たした上で厚生労働大臣の認可を受けて、障がい者雇用率の算定において親会社の一事業所とされる

<Day1 : 1日目の流れ>

参加者多数のため、A班とB班に分かれて個別に行動しました。(ここではA班の流れをレポートします)。

1.「太陽の家」との共同出資会社への企業訪問(訪問先は下記6社です)

ソニー・太陽株式会社(大分県日出町)

ホンダ太陽株式会社(大分県日出町)

ホンダR&D太陽株式会社(大分県日出町)

オムロン太陽株式会社(大分県別府市 太陽の家敷地内)

富士通エフサス太陽株式会社(大分県別府市 太陽の家敷地内)

三菱商事太陽株式会社(大分県別府市 太陽の家敷地内)

▲ソニー・太陽にて


▲オムロン太陽にて


▲富士通エフサス太陽と三菱商事太陽は同一ビルで1フロア違い


▲富士通エフサス太陽にて


▲三菱商事太陽にて



2.「太陽の家・歴史資料館」および太陽の家が運営するスーパーマーケット「サンストア」の見学


3.「太陽の家」にて、「太陽の家」山下理事長からのご説明と、参加者との間での質疑応答


<山下理事長からの説明>

  • 別府という町の3つの特色についてのご説明
  • 2020年3月に開館予定「太陽ミュージアム」の紹介

参加者からは、いくつもの質問が飛び交いました。そのうち、大分・別府の土地柄がよく分かるやり取りをひとつご紹介します。

Q:ある参加者の質問
街中の郵便ポストが低めに設定されていて、街づくりにも浸透していることが素晴らしい。行政はどういう風に関わっているのか?

A:「太陽の家」山下理事長の回答
大分県の役所の方も、別府市の役所の方も、大変深く理解してくださっていて、取り組みを広げることが別府市全体また県全体の障がい者にやさしい街づくりに役に立つと思ってくださっており、様々な面で助けて頂いている。まだ法律化できていないが、「こんな事してみたい」ということでも、行政の方に相談に行くと、なんとかしようと思ってくださる素晴らしい風土。

太陽の家は、「障がい者スポーツ」「自立」「地域に密着」を軸にしており、現在別府市には約8,800人の障がい者が住んでおり、全人口の約1割ほど。別府駅の周辺は、歩道と車道がフラット、段差がないようになっている。駐車される方にとっても助かる構造。次に別府と言えば温泉だが、足湯に浸かる時は、車椅子のまま足湯に浸かれるようになっている。身体障がい者というよりも高齢者の方々も一緒になって足湯に浸かることができる。これは、おそらく全国で別府市だけではないだろうか。仕事だけでなくいかにアフターファイブを楽しむかというのも重要で、別府市の多くのお店(パチンコ店、居酒屋も含む)は障がい者用トイレを設置している。障がい者の方が、パチンコ店でスロットを楽しもうとしたら、従業員の方がコインを入れてくれる。また、別府のタクシーの運転手さんは、後ろのトランクに車椅子を積む時の工夫として、ゴムバンドで引っ掛ける用意をしている方が多い。これくらい、別府は街をあげて、障がい者向けに取り組んでいる先進的なところ。

4.山下理事長も交えて参加者交流会

夜は食事をしながら、5つのテーブルごとに交流を深めました。



参加者交流会では、各企業から障がい者雇用や企業経営に際しての悩み・課題が語られました。

  • 知的障がい者と精神障がい者が多いが、あくまでもそれは行政の区分であって実際には発達障がいを抱えている知的障がい者であったり、精神障がいを抱えた視覚障がい者(身体)など、障がいが併発しています。そういう方々と共に働いていくために、どうように日々対応していくのかが大きな課題。
  • 地方と東京で障がい者雇用の在り方が違う。東京では売り手市場な一方、地方では支援学校の生徒を、障がい者の企業実習先として受け入れてくれるところがなくて本当に困っている。東京以外の視点も重要。
  • 企業としての成長も追及しなければならない中で、特例小会社の経営者は多かれ少なかれ、本社との連携で悩まされている。また障がい者の方々を管理する人間の育成もまた重要であり、悩みでもある。発達障がいの方が多い企業の大変さは本当に課題。共に悩み、解決していきたい。
  • 障がい者にとって手を動かす仕事はとても良いので、モノ作りを中心に取り組んでいきたいが、、モノ作りの場がアジアや南米など海外に流れてしまっているのが課題。これから時代の変化と共に、仕事内容はさらに変化していく。その時に、障がいを持つ方々がどのような役割を担っていくべきかを考えなければならない。
  • 今のスタッフはほとんどが知的障がいだが、素晴らしく優秀で真面目。社会人としての規律、言葉遣い、挨拶、それから仕事に向き合う真摯な姿勢を見ていると、むしろこちらが学ばせてもらうものが多い。この仕事に就いてよかったなと思う瞬間を日々噛み締めている。
  • これまでの経営を通じて思うことは、障がいのある人達の得意なところを見つけ、苦手なところも目をつむるくらいの気持ちでないと、障がい者雇用は難しいということ。できないことは人に頼んで、自分の得意なことをやってもらった方が仕事もうまくいくし、本人も楽だし周りの人もすごく楽になる。

<Day2 : 2日目の流れ>

「障がい者雇用の未来を考える」というコンセプトの元、参加者が5つのグループに分かれてワークショップを行いました。

グループごとに、ひとつの共通テーマを掲げて、語り合われました。いずれも障がい者雇用において多くの企業が直面している課題でした。

◇1班のテーマ : 管理者育成

1班の結論 : 特例子会社の経営幹部(部長・課長)を、本社からの出向者が務めるのか?それだと従業員たちのモチベーションがあがらないのではないか?

本社との関わり度合いをもっとあげて、本社の本気度をあげて、さらには障がい者経営に関する専門知識もあげて、その上で本社と特例子会社がディスカッションする場を設けること。その際には、自社内だけでなく、他社との他流試合も大事となってくる。やはり自社だけで出来ることには限りがある。この2日間のカンファレンスのような場がもっと欲しい。

◇2班のテーマ : 企業成長

2班の結論 : 人づくり(親会社内における人づくりの意味も含む)が重要であり、さらには親会社との関係構築が非常に重要。特例子会社内では、障がい者に日々向き合う支援者の人づくり、育成、強化が必要であり、経営者側は、ダイバーシティ、SDGsの視点からも、親会社の正しい理解さえ進んでいない会社あり、まずはそこから。その後、親会社と特例子会社の進むべき方向を同じくし、推進していくためには、トップダウンとボトムアップの両方が必要だし、本社から特例子会社への出向者の選択、タレントも重要。その上で、親会社に、そしてステークホルダーに、現状やビジョンなどを発信し続けていかなければ、企業成長につながらないのではないか。

◇3班のテーマ : 精神障がい者の定着

3班の結論 : 精神障がい者がなかなか職場に定着しない。その結果として、"障がい者を支援する側の人間の負担増"が深刻になっていく。ソフト面(支援体制)とハード面(オフィス空間そのものの物理的サポート)。たとえば、ハード面ではムーブデスク(高さ調整可能なデスク)などで、その日・その人・その作業に応じた机の高さの位置などを決められるといいのではないか。ソフト面では、雇用者側がチームをつくって支援する体制づくりが重要である。

◇4班のテーマ : 精神障がい者の定着

4班の結論 : 「太陽の家」から全国にもっと情報発信をして欲しい。何故なら、この問題は一企業で解決していくのは無理だから。時間も人手もお金も足りていない。「太陽の家」のように地域に根付いて情報共有してそれを全国に広げるのが、早く・安く・効率よく同じような形態が日本中にできるのではないか。障がいのある人がどこの会社で入っても、同じようなサービスを受けて同じような評価を受けて同じような仕事をできるというのが一番良い。

◇5班のテーマ : 管理者育成

5班の結論 : 経営と現場の相互理解が重要で、理解を促進させるための何らかの仕掛けを用意する事も必要だろう。欧米の障がい者雇用も参考になるのではないか。たとえば、欧米企業では障がい者雇用に関する指導員は企業の外にいて、相談等が出来る。日本でもそういう制度が整ってくると良い。



このワークショップを通じて、複数の班から挙げられた共通の悩みや意見は以下のようにまとられます。

  • 親会社との関係が非常に重要で、親会社の理解がないと非常に厳しい企業経営になる。
  • 本社の人事部にも、障がい者担当を置くべき。
  • 精神障がい者がなかなか定着しない。
  • 特に一部のマネジャーの負荷が非常に大きくなってしまう。
  • 一つの会社で全てを解決するのは難しいので、連携の輪を広げたい。
  • ワークショップの最後には、「太陽の家」山下理事長による総評がありました。

山下理事長

「これからの障がい者雇用を考えると、特例子会社のプロパー社員が幹部社員になっていく事が大事だと思う。親会社・本社の方々には、そのための人材育成の仕組みも考えてほしい。

特例子会社はコストセンターなのか、プロフィットセンターなのかという論点がいつもあるが、優しさの中に厳しさをもって育成していかないと、いつまで経っても特例子会社はプロフィットセンターにはなれない。

さらには、本社から来られる方は、出向ではなく、転籍して欲しい。

特例子会社に身をうずめるくらいの覚悟の方に是非来て頂きたい。

この2日間、心のバリアフリーを当たり前のように実現できている、ここ別府・亀川の地で、皆さんが感じられたことを自らの会社に持ち帰えり、変えなくていいこと、変えなければいけないことを見極め、変えるべきことは是非変えていって欲しい。

今回はじめてこのような機会を設けさせて頂いて皆さんと語り合えてとても良かった。また来年も、ここ大分・別府の地で皆さまとお会いして、障がい者雇用の未来を語り合いたい。」

▲ワークショップ終了後の参加者集合写真

以上、参加者の方々の深く、確かな交流が行われた太陽の家カンファレンス2019『No Charity, but a Chance!』でした。

このレポートの続編として、今回のカンファレンスを企画・運営した、大分放送と電通の座談会を後日お届けします。

<了>

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