「テレビとネットの境目はなくなる大事なのはテレビの根本に立ち返ること」欧米のスマートテレビをいち早く紹介!元ケータイWOWOW代表の志村一隆さん

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「テレビとネットの境目はなくなる大事なのはテレビの根本に立ち返ること」欧米のスマートテレビをいち早く紹介!元ケータイWOWOW代表の志村一隆さん

志村一隆さん

1991年、WOWOW入社。2001年、ケータイWOWOW代表取締役。07年、情報通信総合研究所主任研究員。14年、Yahoo!のエバンジェリスト、メディアコメンテーター。15年からフリーとして活動。NPO法人日本独立作家同盟理事。著書に『ネットテレビの衝撃20XX年のコンテンツビジネス』、『明日のメディア 3年後のテレビ、SNS、広告、クラウドの地平線』などで欧米のスマートテレビやメディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。

今注目しているサービスは、MeerkatとPeriscope。


ソフトパワーとIT技術で世界基準を創出した米国。

志村一隆さんは国内外のメディア事情、コンテンツ産業に精通している研究者だ。海外の事例を引き合いに出しながら、日本のメディアの現状や将来像について講演や執筆を行っている。そのキャリアのスタートは開設当初のWOWOWである。

「当時はハリウッド映画がメインでした。映画好きの人は加入してくれましたが、予想ほど収益は伸びませんでした。今以上にテレビにお金を払う文化がなかった時代だったんです」と振り返る。

30歳の時に、MBA取得のために米国へ留学し、現地の放送文化を実感する。帰国後は、世界初のテレビ番組のモバイルコミュニティサービス、ケータイWOWOWを立ち上げて社長に就任。その後はNTTグループのシンクタンク、情報通信総合研究所に籍を置き、海外のメディアやコンテンツ業界の調査研究に従事する。米国留学とその経験が、メディア研究者として活躍する原点となった。

「情報総合通信研究所に在籍していた2007年からの7年間は、通信とテレビの関係が劇的に変化した時期と重なり、とても刺激的でした」と語る。

当時は、Youtubeが9カ国語に対応し始め、Huluも米国でサービスを開始。まさに、ネットで動画を見る習慣が芽生え始めようとしていた時期だ。

「Youtube登場以前は、米のCBSやNBCなどが自社のホームページで独自に動画を流していました。Youtube登場後は、彼らもコンテンツを無料投稿するのですが、当時はネットワーク環境が脆弱で快適な視聴は望めない。結果、コンテンツを無料で提供してCMを売るビジネスは上手くいきませんでした」

潮目が変わったのは2009年。CBSやNBCが、コンテンツそのものを有料化して利益を得るビジネスに移行し始めたことがきっかけだった。

「米国でも通信速度などのネット環境が整い、ネットが放送波と同じくインフラとなりました。このタイミングで、HuluやNetflixも存在感を増し始めました。ハード面で潮目が変わったのは、2010年に発売されたiPadです。コンテンツホルダーはiPadをスクリーンと認識して、アプリで動画視聴ができる有料サービスをリリースし始めました。場所と時間を選ばずに、安価で好きな番組が見られる。米国で動画配信サービスは、ケーブルテレビから客を奪い取ることに成功したんです」

良質なコンテンツを生み出すソフトパワーと、世界をリードするIT技術。両方を備えた米国のトレンドが、世界での通信とメディアの融合の基準となっていった。

「数年前、イギリスではネットとテレビの広告費が逆転したことから、日本もいずれそうなるかも、という論調もあります。しかし、イギリスはそもそも放送市場が小さかったので必然的に起きた。日本とのアナロジーはあまりないでしょう。ですから日本が参考にすべきは米国だと思っています」



Netflixなど動画配信サービスの未来。

では、日本でもNetflixなど動画配信サービスが一気に浸透していくのだろうか。

「Netflixが米国と同様に日本で成功することには懐疑的です。そもそも、日本ではコンテンツにお金を払う文化がまだ根付いていない。そこがケーブルがもともと発展していた米国との大きな違いです。日本で成功するには、既存の有料放送からユーザーを奪い取る必要があります。しかし、有料放送もタブレットやスマホでも視聴できる仕組みをすでに整えている。Netflixが米国で台頭した時は、タブレットやスマホへの格安配信を狙ったので、今の日本とは状況が異なります。また、コンテンツに関してもマーケティングを担っているのがいわゆるハリウッド好きな洋画人脈。日本の洋画市場はこの10年で半減しているのに、その発想だけでマーケティングをするのは難しいと思います。」

では、もし日本で動画配信サービスが成功し、定着したら、テレビ局はどういった存在になっていくのか。志村さんは、米国の国民的スポーツ行事であるスーパーボウル中継とプライムタイムに注力する番組編成を例にとって話す。

「いずれドラマやバラエティなどは、ネットが主流になると考えています。そのとき、テレビに求められる役割は、スポーツ中継や報道といったライブ感が必要な番組の提供でしょう。あとはコンテンツを集約し、プライムタイムには予算をかけて、他の時間は再放送などにしてしまう方法もあります」とはいえ、それはあくまで可能性のひとつで、実際には「劇的な変化が訪れるわけではない」とも感じている。

「日本は戦後の資金難の時代、テレビ局がプラットフォームとなりお金を集め、そのお金でコンテンツを制作するという制度をつくった。米国は、コンテンツをつくるハリウッドが力を持つことで制度を改正して、プラットフォームとコンテンツ制作を分けた。日本でもそういった変化がない限り、テレビ局が力を持ち続ける可能性が高いと思います。変化があるとすれば、デジタルサイネージやバーチャルリアリティの普及などで、コンテンツを視聴するスクリーンが増えることくらいでしょう」

しかし、長い目で見ると、必ず通信と放送の境目はなくなっていくだろう。その時のために、テレビ局ではどのようなイノベーションを目指すべきなのか。それは「テレビの根本に立ち返ること」だと話す。

「テレビ局はネットを取り込むことがイノベーションだと思っていました。しかし、今ネットにはテレビもどきのサービスが乱立している。しかも、NetflixやYoutubeはテレビ局よりも早く4Kに対応した。そんな状況でネットを取り込んでも、もはやイノベーションにはなりえない。だったら、先ほど話したライブへの特化に加えて、高精細を突き詰めるとか、コンテンツ制作能力を極限まで高めるとか、テレビが持つ本来の力を磨くしかないでしょう。質の高いコンテンツをつくれば、動画配信サービスに売ることも可能ですしね。そういった意味で、現在最も厳しい状況にあるのはローカル局だと思います。ローカル局はキー局ほど独自コンテンツをつくっていない。それに、系列局という縛りもある。生き残っていくには、系列ではなくエリア、例えば東北地方の放送局で固まるというくらいの大胆さがあってもいい。また、ニュースを地元に伝えるという役割に特化して、新聞と放送、ネットで組んで最適化するのもひとつの方法です」

そして「今は、テレビ業界における端境期」と語る志村さん。だからこそ、些細な動きからも目を離さずに、業界の動向をウォッチし、提言を続ける。

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