てれびのスキマの温故知新〜テレビの偉人たちに学ぶ〜「五味一男」篇

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てれびのスキマの温故知新〜テレビの偉人たちに学ぶ〜「五味一男」篇

てれびのスキマの温故知新~テレビの偉人たちに学ぶ~ 第46回



『THE SECOND~漫才トーナメント~』(フジテレビ)で準優勝し大ブレイクを果たしたお笑いコンビ、マシンガンズ(メンバー:滝沢秀一・西堀亮)。

彼らは決勝で「やるネタがない」などとボヤいていたが、SNSなどでは「MAXめんどくせぇ!」のネタがあるじゃないかという意見が散見された。

そのネタは『エンタの神様』(日本テレビ)(以下、『エンタ』)で披露していたもの。『エンタ』はまごうことなきお笑い番組でありながら、お笑いファンやお笑い芸人の一部から強い拒否反応を抱かせた特異な番組だ。

「ネタ中にテロップを入れている」「芸人を使い捨てにして一発屋にした」「ネタにスタッフが過剰に介入した」などという意見が多い。「MAXめんどくせぇ!」のネタもスタッフからの提案だったと、後に本人たちが明かしている。

『めんどくせぇ、めんどくせぇ、MAXめんどくせぇ!』は、あれはやっぱり『エンタ』の打ち合わせで作られたものなんですか?」と髭男爵・山田ルイ53世が問いただすと「話し合いだよな」と口を揃えてお茶を濁す2人。

「大人になったなぁ」と山田が笑うと滝沢が「3つのうちから選べって言われて。『あるっちゃ~ある』っていう」と明かすと、西堀が続ける。「もう1個あったの。『だとしたら奥深ぇ~』(笑)(※1)

引用元:『勇者ああああ~ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組~』20/11/7(テレビ東京)

こうして『エンタ』限定のネタが生まれていった。ネタだけにとどまらず、クライザーⅢ世(篠宮暁)や摩邪(まちゃまちゃ)など番組限定のキャラも生まれた。

一方で、陣内智則のように「僕は最初から、全然(テロップを)出してくださいよと。わかりやすくなるから。そういうハードルを低くしたいっていう作り方。(略)軽やかに、ピョンピョンピョンって陣内跳んでいったなみたいなんを作ろうと思いましたね」(※2)と積極的かつ肯定的に『エンタ』の演出に向き合った芸人も少なくなかった。

アンジャッシュ児嶋もそのひとり。この番組で飛躍的に知名度が上がったことに対する感謝を繰り返し述べている。その一方で最初はやはり抵抗があったことを筆者のインタビュー(※3)にて答えている。

児島 最初は嫌でしたね。テロップをつけられたり、ネタをこう直してくれと言われたりとか。それまで、ネタ自体を直されるなんてことなんてなかったので。別にダメだったら番組に出さなきゃいい。よかったら出してくださいというのが基本でしたから。だからけっこう、あの頃は戦ってましたね(笑)。

ーー 五味(一男)さんと直接やり合うんですか。

児島 いやいや、基本は担当ディレクターと戦うんです。だから担当のDは板挟みで可哀想なんです(笑)。シャレ半分で渡部が、「ちょっと児嶋、五味さんに言ってこいよ」って言うから、交渉に行ったことありますよ。

ーー 渡部さんは行かない(笑)。

児島 五味さん、和やかな人なので、直接会うと関係は緩まるんです。もちろん、番組と出演芸人をよりいいものにしたいからこそ考えてくれているわけで、話をすれば分かり合える。だからめちゃくちゃ感謝してますよ、五味さんに。変わった注文を受けたことはありますけど。

ーー どんなことですか?

児島 「もうちょっと下ネタを入れてくれないかな」って言われたことがあるんです。

ーー へぇー。ゴールデンタイムの番組なのに。

児島 全体を見る人の考え方なんでしょうね。番組全体の構成を見た時に、今回は下ネタがあんまねぇなって思ったんでしょう。でも露骨な下ネタだめじゃないですか。それで僕らなら、すれ違いネタでストレートではない「下ネタ展開」が期待できると。

引用元:文春オンライン「アンジャッシュ児嶋が明かす『コンビ解散を決めたあの日の夜』――2018上半期BEST5」(18/04/22)

ここに出てくるように、番組を手がけたのは五味一男である。

映画少年であり、テレビっ子であり、漫画も演劇も好きだった五味一男は、大学進学を機に上京すると、自主映画をつくりはじめた。

日本アート・シアター・ギルド(ATG)の作品群にあこがれ、『虚飾の神話』、『暗闇の剥製』といったタイトルの前衛的な作品を作り続けた。

だから「まさか大衆寄りのテレビの世界に将来行くなんて思ってなかった」(※4)という。

大学を卒業する年、映画会社が新人を募集していなかったため、唯一社員を募集していた東映のCM部門に応募し合格。映画監督を夢見るがそれが叶うことはなかった。

30歳の頃、日本テレビの中途採用の募集を見かけると、現状を打破したかった五味は一大決心をし、転職。ドラマを撮れるかもしれないという目論見もあった。

しかし、最初の配属先はやはりキャリアを活かしたCM部門だった。やがてバラエティ部門に異動になった五味は、上司からの「ダメだったら、札幌に飛ばすぞ」(※4)という冗談半分の"脅し"を真に受け、大きなプレッシャーを感じていた。

番組制作をするようになり、毎分視聴率表を見て、自分が全身全霊を賭けて作っていたCMについて「人生全否定感」を抱くほどショックを受けたことがあった。と同時に、その数字の"正直さ"を実感した。

その後、五味は賛否両論のある番組を作り続けた。その最たるものが『エンタの神様』だった。五味は「否」の意見など気にしなかった。なぜなら、それ以上に遥かに信用できる数字がそこにあるからだ。

「僕は『サイレント・マジョリティ』と『エキセントリック・マイノリティ』って言葉をよく使うんですけど、いわゆるネットなり投書なりで批判や賞賛を書く一部のファンと、普通にテレビを観ている一般の人との温度差ってものすごくあるんですね。

サイレント・マジョリティっていうのは、スーパーが入っていようがいまいがあんまり関係なく、『面白ければ別にどっちでもいいじゃん』っていう人が大半を占めているんです。

その一方で、 賛否の『否』の部分を言う人たちは、ものすごく数は少ないんだけれども暴れまくるから目立ってしまう。サイレント・マジョリティは、単純に『面白かったら見る、面白くなければ見ない』という、非常にシンプルでしかも辛辣な方々です。

マイノリティの人のほうがまだ優しいっていうか、批判しながらも見てくれるっていう優しさはあるんですよね」(※5)。

引用元:『splash!! Volume03』(双葉社)

五味にとって批判は織り込み済み。むしろ、意見を言わない人たちがどのようなことを考えているか推し測ることが必要なのだ。

そして、その代弁者となって「こういうふうにしたほうが、わかりやすくなるんじゃないか?」という気持ちにならないと大衆の支持は得られないと五味は言うのだ。

出演する芸人は、「自分の中に住んでいる1000万人の人々がどう思うか」を基準に、主観ではなく極力客観的に選出した。

その客観性を養うためにどうすればいいのかを問われると、五味は「データ」だとキッパリと言い放った。

「いろんな人の意見を集めるとするじゃないですか。そうすると見栄とか虚栄心が邪魔をしてバイアスがかかるんですね。

でも、テレビのザッピングっていうのは本音なんですよ。 建前はこうなんだけど本音はこうなんだっていう、本音の固まりのデータがテレビ局にはあるんです。それを見ると、視聴者の見方っていうのがわかってくるんです。

『こんな、乱暴に変えちゃうんだ』とか、『こういうところに食いついてるんだ』っていう。自分の主観っていうものはあてにならないってことですね。

常に、想像を超えるような見方になってるということを謙虚に常に研究していないと取り残されてしまうというか、『昔はよかったなぁ老人』になってしまうというか。

常に自己否定してかないといけないということで、つらい作業ですよね」(※5)

引用元:『splash!! Volume03』(双葉社)

そうやって自己否定を繰り返しながら、大衆と向き合い、事実として高視聴率と新たなキャラや流行語を生み出していっていたのだ。

(参考文献)

(※1)『勇者ああああ~ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組~』20/11/7(テレビ東京)

(※2)『お笑い実力刃』21/9/8(テレビ朝日)

(※3)文春オンライン「アンジャッシュ児嶋が明かす『コンビ解散を決めたあの日の夜』――2018上半期BEST5」(18/04/22)

(※4)戸部田誠・著『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)

(※5)『splash!! Volume03』(双葉社)

<了>

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