【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】テレビがつなげる縁

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【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】テレビがつなげる縁

【 鈴木おさむ の WHAT'S ON TV ? 】第35回


先日まで今田耕司さんと下北沢・本多劇場で舞台をやっておりました。

今田さんとは7度目の舞台。毎度コメディーではなく、ちょっと重めのテーマを取り上げる「お芝居」をやっております。

今回は「てれびのおばけ」というタイトル。「テレビ」をテーマにしてみました。今だからこそやるべきなんじゃないかなと。


物語は、今田さん演じる葉月(はづき)という主人公が、長年バラエティーを作ってきた部署から、刺激的なワイドショーを作る情報班の部署に異動したという設定。本当はバラエティーが作りたかったが、仕方ない。あまり作りたくないワイドショーを作ることになる。

そんな葉月の家に、お化けが現れ始める。霜降り明星のせいや演じる瓦田(かわらだ)という男がお化けになって現れたのだ。


とてもポジティブでおもしろいことが大好きな瓦田は、実は80年代にバラエティー番組を作っていた。

30代で過労死し、葉月のところにお化けとして出てきた。

「おもしろい」番組を作りたいと思っている葉月に、瓦田は「おもしろいものを作ることをあきらめちゃダメだ」と伝える。

しかし瓦田は、昨今のテレビの変化には気づいてない。葉月から、80年代と違って今のバラエティーではコンプライアンスNGで作れないものがとても増えていると聞き、驚く。

実は瓦田は、80年代、タレントが体を張る番組を作っていた。思うように視聴率が取れずに、上司からの煽りもあり、どんどん激しいゲームをやるようになり、その結果、一人のタレントに大やけどを負わせてしまう。その瞬間、上司にはしごを外されて、瓦田が責任をすべて背負うことになり...追い詰められた瓦田は自ら命を絶つという選択をしてしまう。

瓦田は自らが死を選んだことを「仕方ない」と正当化しようとするが、葉月に言われる。「その選択はおもしろくないんです」と。瓦田自身もそこに気づいているけど気づいてないフリをしていた。

葉月はさらに言う。「その選択はおもしろくない。生きたいのに生きられない人もいて、そんな人からしたら悔しい、腹が立つ。自殺するならその命くれよって思います」と。


この「自殺するならその命くれよ」というセリフは、あるバラエティー番組を見た時に出てきた言葉なんです。「家、ついていっていいですか?」。今年の正月に放送したSPの中で放送されたもの。放送直後から話題になり、ギャラクシー賞を取りましたね。

2019年12月23日、街中で取材していたディレクターが一人の女性の家についていくことになった。その方は偶然にも伝説のバンド・オナニーマシーンのイノマーさんの奥さん(ディレクターはイノマーさんの存在を知らない)。なんとその日が告別式で、視聴者も、イノマーさんという人がどんな人だったのかを知ることになる。

この回が放送(2020年4月6日)になったあとに、テレビ東京でイノマーさんを超リスペクトしている人が、個人的にドキュメンタリーを撮影していたことがわかる。

舌癌で舌を切除したイノマーさんが、ライブを行うことになったのだが、癌が再発。しかし沢山のミュージシャンの応援と、イノマーさんの根性でライブは開催。だが...その後、亡くなった。

亡くなっていくその瞬間までカメラはとらえていた。

元々「家、ついていっていいですか?」で放送した部分と、そのドキュメンタリーを足して、今年の「家、ついていっていいですか?」のSPで放送したのだ。とんでもなく素晴らしい作品。これぞテレビ!テレビの力を見せつけてくれるものだった。激しく感動した。


その放送の中で、イノマーさんの日記が出てくる。

そこに、自殺するならその命くれ...ということが書いてあった。

それがずっと心に引っかかっていて、「てれびのおばけ」を稽古している時に、セリフに足して今田さんに言ってもらったのだ。

そのセリフが足された瞬間から、今田さんや他の出演者の気持ちの温度が変わった。

本当にあの言葉一個の力のおかげで舞台が変わっていった。


舞台の千秋楽。出口の近くに立っていると、僕の知り合いが出てきた。自分でチケットを取って見に来たらしい。ある人を連れて。それは、イノマーさんの奥さんだった。もちろん、どんな中身かを知らずに見に来ていたのだ。

そこで僕は伝えた。「イノマーさんのあの言葉を使わせていただきました」と。すると奥さんは「やっぱり」と言って、涙を流して、「ありがとうございます」と言ってくれました。そして、バッグからイノマーさんの写真を出してくれました。一緒に見ていてくれたんですね。僕は手を合わせて心から「ありがとうございます」と伝えました。


テレビを作り続けていると、時折とてつもない偶然に出会います。「縁」が重なり「円」になります。

それを強く強く感じた日。

おもしろいと思うものを作り続けた結果、奇跡って起きるんだよな。きっと。


<了>

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