Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.11 「聖地巡礼ビジネスの2つの潮流」

  • 公開日:
テレビ
#アニメ #テレビ
Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.11 「聖地巡礼ビジネスの2つの潮流」

Vol.9でお伝えしたように、『鬼滅の刃』ブームなどによって、アニメの聖地巡礼文化がますます世間に浸透する中、聖地ビジネスにおける「バーチャル聖地巡礼」と「フィクション世界の現実化」の2つの潮流についてご紹介します。(Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5Vol.6Vol.7Vol.8Vol.9Vol.10に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)

バーチャル聖地巡礼

2020年11月6日に、クールジャパンの拠点とすべく埼玉県所沢市にグランドオープンした「ところざわサクラタウン」は、約4万平方メートルの敷地内に、図書館、博物館、美術館の融合をコンセプトにした「角川武蔵野ミュージアム」や、ライブコンサート、2.5次元ミュージカル、映像上映など様々な用途に対応するイベントスペース「ジャパンパビリオン」、アニメやゲーム、マンガ、映画、特撮、アイドルといったEntertainment Japanの世界観を演出する「EJアニメホテル」などの施設の他、書籍製造工場、飲食店、KADOKAWAのオフィスなどが建ち並ぶ、KADOKAWAと所沢市が共同開発した大型複合施設です。

2020年12月19日、この「ところざわサクラタウン」で、「涼宮ハルヒの探訪」と題したイベントが開催されました。

2010年に公開された劇場アニメ『涼宮ハルヒの消失』から10年後、物語の中で世界改変が起きた12月18日の翌日というタイミングで行われたこのイベントでは、出演声優の茅原実里と白石稔が事前に探訪したロケ映像を観ながら、当時のエピソードや作品への思いを語るというもので、会場での観覧の他、「Zoom」によるオンライン視聴も行われました。

『涼宮ハルヒの消失』の聖地である、西宮北口駅、甲陽園駅、長門有希のマンション、珈琲屋ドリーム、西宮市立中央図書館、夙川学院中学校・高等学校、西宮北高等学校正門前、甲南病院などを巡る映像のパートごとに、会場でのトークが差し挟まれる形式で進行。Zoom上ではチャットの書き込みも可能となっていました。

聖地に足を運ばずとも聖地巡礼ができる、これが「バーチャル聖地巡礼」です。

各人が聖地巡礼した感想や写真をネットに公開する、といったこれまでの聖地巡礼スタイルから一歩進み、ファンが一堂に会して、作品の思い出や聖地巡礼の感想などをリアルタイムで共有し合える点が新鮮です。

加えて、10年も前の作品に再びスポットライトを当てて価値を蘇らせるという意味合いでも、そしてEntertainment Japanの発信拠点を謳う「ところざわサクラタウン」で開催された点も含め、アニメや聖地巡礼の今後の可能性の拡大を感じさせるイベントでした。

また、企画側の提供する聖地巡礼イベントのスタイルとは別に、聖地側の事情に視点を向けた際にも、バーチャル聖地巡礼が適している点があります。

「涼宮ハルヒの探訪」イベントの映像内でも、10年という歳月で変わってしまった風景や失われてしまった建物などについて語られていましたが、アニメの聖地巡礼が話題になり始めた2000年代前半から現在に至る20年程の間に、解体や焼失により、すでに現実世界から姿を消してしまった聖地が少なからず出てきています。

以下は既に現実世界から姿を消してしまった聖地の例です。

  • 『涼宮ハルヒの憂鬱』でSOS団の定番の集合場所となっていた北口駅前広場 → 2009年7月解体
  • 『STEINS;GATE』でタイムマシンが落下した秋葉原ラジオ会館 → 2011年8月解体
  • 『ラブライブ!』の矢澤にこが住んでいたマンションのモデル・昌平橋ビル → 2015年10月解体
  • 『フルメタル・パニック!』の学校のモデル・神代高等学校の校舎 → 2019年8月解体
  • 『天気の子』の屋上に神社があるビル・代々木会館 → 2019年8月解体
  • 『あずまんが大王』など数多くの作品で登場した首里城 正殿 → 2019年10月焼失
  • 『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のじんたんの家のモデル → 2020年2月焼失

これらの失われてしまった聖地は、現実世界で二度と巡礼することはできません。

Google マップのタイムマシン機能(ストリートビューで過去に撮影された風景に画面を切り替えられる機能)を使うことで、失われてしまった聖地を巡礼することができることから、今後は、Googleストリートビューや、アーカイブされた過去の360度写真を使ったVRによる聖地巡礼イベントが行われるようになるかもしれません。

フィクション世界の現実化

1983年の東京ディズニーランド開園以来、東京ディズニーリゾートは、ディズニー映画の世界を現実に体験できる夢の国として長年にわたって多くのファンを魅了し続けています。その他にも、1990年に開園したサンリオピューロランドや、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内に2014年にオープンし『ハリー・ポッター』の世界を忠実に再現した「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」なども、多くのファンの心を掴み、楽しませてくれています。

このような「現実世界にアニメやゲームなどのフィクション世界を再現したアミューズメント施設」は、近年増加傾向にあり、以下のように日本各地に次々に誕生しています。

2019年3月
埼玉県飯能市に『ムーミン』の世界を再現したテーマパーク「ムーミンバレーパーク」がオープン

2020年12月
神奈川県横浜市の山下ふ頭に、高さ18mの実物大ガンダムの動く姿が見られる期間限定施設「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」がオープン

2021年2月
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに、「マリオカート」など任天堂ゲームの世界を再現した新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」がオープン予定

2021年春
兵庫県立淡路島公園アニメパーク「ニジゲンノモリ」に『ドラゴンクエスト 』の世界を再現した「ドラゴンクエスト アイランド 大魔王ゾーマとはじまりの島」がオープン予定

2022年秋
愛知県長久手市の愛・地球博記念公園内に『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』などのスタジオジブリ作品の世界を再現した「ジブリパーク」がオープン予定

かつて日本人がフィクション世界を体験できる施設と言えば、遊園地のお化け屋敷くらいしかありませんでしたが、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンが誕生し、更にここ数年あまりの間に日本各地に様々な異世界が"召喚"されてきています。全国に1万数千か所も存在するアニメの聖地も合わせると、今や日本全土が"摩訶不思議ワールド"と化しつつあるとも言えるのではないでしょうか。

世界的にもアニメやゲームなどの強力なコンテンツを有する日本が、これまでディズニーランドやユニバーサル・スタジオといった海外発祥のテーマパークの後塵を拝していた状況から脱し、自国の持つコンテンツ力を活かした国産のテーマパークや聖地巡礼文化によって、レジャー業界での躍進兆しを見せていると言っても過言ではないでしょう。

<了>

関連記事