Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.7 「アニメの聖地巡礼の歴史」

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Synapse編集部が行く!日本アニメの現状 Vol.7 「アニメの聖地巡礼の歴史」

アニメの楽しみ方の一つとして日本で定着した「聖地巡礼」。今回は「聖地巡礼」が定着するに至った過程をキーとなる作品を交えてお伝えします。

Vol.1Vol.2Vol.3Vol.4Vol.5Vol.6に続き、Synapse編集部が取材した内容を元にお伝えします。)

「〇〇の聖地」という言葉は、各分野においての"中心地"を指す言葉として使用されてきました。

高校野球における甲子園球場、高校ラグビーにおける花園ラグビー場、武道家やミュージシャンにおける日本武道館、他にも恋人の聖地、食の聖地、学問の聖地、美の聖地など、様々なジャンルから観光地のキャッチコピーに至るまで多岐にわたって使われています。

「聖地」の言葉の本来の意味は、エルサレムやメッカのような宗教の発祥地や総本山、聖人が奇跡を起こした場所など、宗教カテゴリの意味しかありませんでした。しかし時代を経て、「〇〇の聖地」といった転用がされるようになり、近年では、アニメファンが作品内の印象的なシーンの舞台となった地を訪れ、作品の思い出に浸ったり、シーンを追体験する行為を「聖地巡礼」と呼称したことで、作品の舞台地や背景に描かれた施設なども含めた場所が「聖地」と呼ばれるようになりました。

今では高校生が「趣味は聖地巡礼です」とSNSのプロフィールに書いても、宗教家なのかなと勘違いする人がいないくらいには、「聖地巡礼」や「聖地」という言葉が一般認知されています。

聖地巡礼 = 舞台探訪をする行為
聖地 = 舞台地・背景に描かれているスポットや建物など

では、この「聖地巡礼」や「聖地」という文化はどのようにして認知されるようになってきたのでしょうか。

物語や映画などの舞台探訪自体は、近年に発生したものではなく、古今東西に存在しているものでした。

江戸時代、『源氏物語』ファンの好事家が、宇治十帖の舞台となった京都の宇治各所に十帖の各題名を当てた古蹟(碑)を建て、江戸時代版の「聖地巡礼」とも言うべき『源氏物語』の舞台めぐりの名所を生み出しました。

海外では、シャーロック・ホームズが下宿していたベーカー街221B、ディズニー映画のシンデレラ城のモデルとなったノイシュヴァンシュタイン城、『ローマの休日』の真実の口があるサンタ・マリア・イン・コスメディン教会などが観光名所となっており、舞台探訪文化が存在することは明らかです。

アニメ作品における舞台探訪の先駆的現象については、1991年のOVA『究極超人あ~る』の一つの見せ場となった長野県飯田市の飯田線下山村駅-伊那上郷駅間の「Ωカーブ」を使った「下山ダッシュ(※)」を、ファンたちが光画部と同じ行程を辿って実践したことが挙げられます。

※下山村駅で一旦下車して直線距離を走って北上し、大きく西方を遠回りして来る列車に伊那上郷駅で再乗車することができるかを挑戦する遊び。

『究極超人あ~る』
ゆうきまさみの学園青春コメディマンガを原作として製作されたOVA。アンドロイドのR・田中 一郎をはじめ、個性的過ぎる面々が所属する光画部(写真部)の破天荒な部活動を描いた作品で、原作の後日譚である光画部撮影旅行を描いたオリジナルストーリー。

1992年のOVA『天地無用!魎皇鬼』では、作品の舞台である岡山県内に点在する登場人物の名前の由来となった地名の場所を訪ねたり、東京都港区麻布十番を舞台にした同年のテレビアニメ『美少女戦士セーラームーン』の舞台探訪に対して、「聖地巡礼」という呼称が使われ始めました。

『天地無用!魎皇鬼』
1992年よりOVA作品として製作された、個性的なキャラクターが登場するコメディタッチのオリジナルSFアニメシリーズ。
第1期(1992~1993年)の全6巻+特別編1巻、第2期(1994~1995年)の全6巻+番外編1巻、第3期(2002~2005年)の全6巻+特別編1巻、第4期(2016~2017年)の全4巻と断続的にシリーズは続き、OVAの他にテレビシリーズ3作品、劇場版3作品が製作されています。

『美少女戦士セーラームーン』
講談社と東映が、武内直子による美少女戦士が悪と戦うヒロインファンタジーマンガ『コードネームはセーラーV』(講談社「るんるん」に連載)を原案に企画・製作したメディアミックス作品の一環で、1992年に講談社「なかよし」での武内のマンガ連載開始に歩調を合わせる形で放送されたテレビアニメ。
テレビシリーズは1992~1997年にかけて5作品、劇場版は長編3作品、短編2作品が製作され、2014~2016年にかけてはWebアニメ全3期が配信されました。

2000年代に入ると、長野県の木崎湖を舞台にしたテレビアニメ『おねがい☆ティーチャー』、『おねがい☆ツインズ』を筆頭に、探訪記の写真や文章を発表したり、ファンの間で情報を共有したりすることが可能となったデジタル機器(デジカメ)とインターネットの普及というインフラ的要因を背景に、アニメファンの間で「聖地巡礼」という行為が急速に普及していきました。

『おねがい☆ティーチャー』
2002年にWOWOWにて放送されたオリジナルアニメ。長野県大町市の木崎湖を舞台に、宇宙人であることを隠して高校に赴任した美人教師と生徒である主人公が秘密の結婚生活を送るというSFラブコメディ。

『おねがい☆ツインズ』
『おねがい☆ティーチャー』の翌年に同じくWOWOWで放送された続編アニメで、前作と同じ木崎湖を舞台に、施設育ちで出生の唯一の手がかりである写真に映る家を探し出して住み始めた主人公が、そこへ同じ写真を持つ2人の少女が、双子の妹だと言って現れ、どちらが本当の妹なのかわからないまま3人で共同生活をはじめるラブストーリー。前作の2年後を舞台にしており、前作のキャラクターもメインキャラクターとして登場しています。

さらに、2007年放送の『らき☆すた』に登場した鷲宮神社(埼玉県久喜市)への初詣参拝客殺到の様子が、多くのメディアで取り上げられたことで、アニメファンの舞台探訪文化や「聖地巡礼」という言葉が、一般にも広く知れ渡りました。

2000年代後半からは、実在する地域や施設を舞台とする、いわゆる「聖地アニメ」が急速に増え、それに伴い、作品に描かれた場所を探し出す「聖地特定」という楽しみ方や、実際に舞台地に訪れて写真撮影をしてSNSに投稿する「聖地巡礼」という楽しみ方が、アニメファンの間でさらに広まっていきました。

「聖地アニメ」が増えた背景には、

  • SF・宇宙・ロボットをテーマにしたアニメの減少と、現代社会を舞台にした恋愛系や日常系アニメの増加
  • 作画クオリティの向上に伴い、特にシリアスな作品などで、よりリアルな背景作画が求められる傾向にあること
  • 作品数の急増による作業軽減対策から、オリジナルの背景美術デザインから実風景写真から背景作画を起こす傾向が増えたこと
  • 『らき☆すた』の鷺宮神社をはじめ、『ガールズ&パンツァー』の茨城県東茨城郡大洗町など、いくつかの地域で、アニメによる町おこしの成功事例があったために、地域復興への貢献が期待されるようになったこと

といったように自然発生的な傾向だとみることができます。

『らき☆すた』
美水かがみによる4コママンガを原作とするテレビアニメで、個性的でかわいい女子高生たちのまったりとした日常生活を描いた作品。
原作では作者の出身地である埼玉県幸手市周辺がモデルとなっていますが、アニメ版では埼玉県春日部市をモデルとして埼玉県内の各所が登場しています。

『ガールズ&パンツァー』
戦車を使った武道「戦車道」が華道や茶道と同じ乙女のたしなみとされている世界で、女子高生たちが戦車戦を繰り広げる美少女✕戦車をコンセプトとした2012年放送のオリジナルテレビアニメ。戦車同士の戦闘でありながら、死者も怪我人も出ない設定のスポーツの一つとして描かれており、戦車のディテールへのこだわりや数多く登場する個性的な美少女キャラがファンの支持を得て異例のヒット作となりました。

上記の要因のうち、制作側の事情を掘り下げてみると、近年、いわゆる「クオリティバブル」とまで言われる程にアニメの作画レベルが上がっており、人物描写で髪の表現やら瞳の光彩、まつ毛、影、衣服の皴などに至るまで、情報密度の高い作画が求められるようになってきているため、当然ながら背景にも人物に負けない情報密度が必要となりますが、完全オリジナルの背景美術を、装飾やら光影など適度な情報密度をもってデザインしていくとなると、途方もない時間とコストがかかります。

しかし現実には、タイトル数の増加によって1タイトルあたりの制作費や制作時間が減り続けているため、実写画像を背景モデルにすることは、デザインにかかる時間とコストを削減し、同時に作画密度の問題をも解決できる一挙両得な制作手段であるわけなのです。

ロケハンについても、かつては分厚い風景写真集や自社で収集した背景資料などから参照していたものが、今ではネットで「廃工場」、「雰囲気のある喫茶店」などと検索すれば、イメージに合うものを容易に探し当てることができるので、そうした環境も実写画像を背景モデルにする傾向を後押ししているものと考えられます。

さらに言えば、昨今の「聖地」ブームもあって、こうした手段が、視聴者側からも制作の手間省きという消極的なイメージではなく、舞台美術に実際の背景を積極的に取り入れていると解釈されるので(実際にそういう作品もありますので)、制作側の抵抗も少ないところがあります。

また、版権元や製作委員会などが、プロモーションや地方自治体とのタイアップの面を考慮して、制作会社に特定の地域を舞台にするように指示するケースも見受けられるようになりました。

別の視点でみれば、ジブリ作品や、『宇宙ショーへようこそ』のように、時間をかけてデザイン・作画されたオリジナルの背景美術というものが、昨今の実写起こしの背景美術が多い中にあっては、逆に作品のアピールポイントの一つに成り得るようになったとも言えます。

『宇宙ショーへようこそ』
2010年公開の舛成孝二監督初の劇場版オリジナルアニメ。夏合宿中の5人の小学生が、傷ついた宇宙人を助けたお礼に月旅行に連れて行ってもらう冒険物語。アニメの背景美術を専門とする制作会社の草薙が手掛けたオリジナルの背景画が話題となり、背景美術画集も発売されました。

ここまでは、あくまでアニメファンの中で起こっている現象がメインでしたが、2016年公開の映画『君の名は。』では、既存のアニメファンのみならず、普段アニメを見ることのない一般の方々も多く劇場に足を運んで映画を観たことや、作品内に多くの現実の場所が登場したことで、一般の方々にも「聖地巡礼」というファン行動が浸透し、そのことが「2016ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に「聖地巡礼」が選ばれることに繋がりました。

『君の名は。』
新海誠監督による劇場版オリジナルアニメ。東京に暮らす男子高校生と飛騨に暮らす女子高生が、互いの身体と心が入れ替わってしまうラブファンタジー。
日本における歴代興行収入ランキングは『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』、『アナと雪の女王』に次ぐ第4位、世界での興行収入は『千と千尋の神隠し』を越えて日本映画の歴代1位に輝く大ヒット作となりました。

2010年代になると、『君の名は。』、『天気の子』、『風立ちぬ』、『借りぐらしのアリエッティ』、『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』、『名探偵コナン ゼロの執行人』、『STAND BY ME ドラえもん』など、アニメ映画のヒットが続出しました。アニメ映画はアニメファンや子供のみが観るものという概念は過去のものとなり、一般の方々でもアニメ映画を観に行くことに抵抗感が薄れてきたと言えます。

こうした流れから、「聖地巡礼」及び「聖地」というファン行動が定着しつつある中、作品の中で登場する現実の場所や建物も増加の一途を辿る一方で、作品内における「聖地」の価値が相対的に下がってしまう現象も起こっています。

かつては作中に現実の場所が出てくることは極めて珍しく、わずか1コマのみのちょっとした場面転換カットであっても、アニメファンの中では話題となり、それこそ「聖地」の名に相応しくありがたい存在でしたが、昨今では、ほぼすべてのカットに現実の背景が描かれていたり、放送中の作品の半数以上が実在の場所が出てくる作品であったりという「聖地」が過剰に増え過ぎた状態では、余程の人気作品であったり、効果的な使われ方をしていないと話題に上ることもなく、ひとつひとつの「聖地」の価値は以前に比べると下がってしまいました。

また、「聖地巡礼」というファン行動は、ファンが自発的に行うことが主体となっており、経済効果などの成功事例として取り上げられている『らき☆すた』の埼玉県久喜市、『ガールズ&パンツァー』の茨城県大洗市、『ラブライブ!サンシャイン!!』の静岡県沼津市においても、まずは作品自体の魅力ありきで、そこに需要を見出した地元の方々の歓迎の努力などによって成し得ているものです。はじめから「聖地巡礼」を目的にして制作したアニメや、公的機関などが後押しをしたことで後天的に成功した事例はないと言えるでしょう。

何よりもまず作品の人気が前提であって、人気のない作品では、いくら「聖地」のことをアピールしても効果は低く、観光客誘致には結びつきません。

『ラブライブ!サンシャイン!!』
KADOKAWA、ランティス、サンライズの3社によるメディアミックスプロジェクトである『ラブライブ!』シリーズの第2作となる2016年放送のテレビアニメ。静岡県沼津市内浦にある統廃合の危機に瀕した母校を救うためにスクールアイドル「Aqours」を結成した9人の女子高生たちの奮闘を描いた作品で、前作同様、メンバーを演じた声優たち自身が同名のユニットとしてアイドル活動を行い、作品と同じライブを現実世界で披露することが話題となりました。

「聖地」ブームに着目した地方自治体などが、B級グルメやゆるキャラに続く地方創生の手段の一つとして仕掛けようとしたケースでは、作品自体の魅力が伴わずに地域振興の意図のみが悪目立ちして「あざとい」などと揶揄されることもありましたが、2018年放送の『ゾンビランドサガ』では、企画段階から佐賀県の協力のもと、佐賀を舞台にしていることを全面に押し出した作品としては異例のヒットとなりました。

これは、あくまで作品が魅力的であったからに他ならず、佐賀に観光客を誘致することを目的にした作品づくりではなく、作品をより魅力的にするための手段として佐賀の魅力を活用したことにこそヒットの要因がありました。

これまでの傾向としては、ヒットした作品に偶然舞台設定があって、副次的に「聖地巡礼」が起こるという流れが多かったのですが、この作品では、地方色を全面に押し出した作品でありながら「聖地アニメ」としてもヒットした稀有な成功例となり、今後も第二の『ゾンビランドサガ』を狙った作品が現れるかもしれません。

『ゾンビランドサガ』
MAPPA、エイベックス・ピクチャーズ、Cygamesの3社が手掛けたオリジナルテレビアニメ。
Cygames社長・渡邊耕一氏の出身地ということもあって、佐賀県を舞台にしたアニメを作ろうと佐賀県庁に企画を持ち込み、全編ロケを実施して製作された作品。ゾンビ✕アイドルという特異でミスマッチなコンセプトに、佐賀愛あふれる演出が話題となりました。

海外で日本アニメを見て育ったアニメファンにとって、作中に出てくる舞台が現実世界に存在する日本という地は、まさに夢の国です。

近年世間を騒がせた、人気ゲームキャラクターのコスチュームとカートで東京都内の公道を走り回る訪日外国人観光客向けのサービスは、彼らとってみれば、アニメやマンガ、ゲームというフィクション世界に入り込んでいるのと同じで、まさにスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』で描かれた、ガンダムやメカゴジラが出てくるVR世界を実体験しているようなものですから、あれほどまでに支持されるのも頷けるというものです。

そう考えると、この「聖地」には、観光業界にとってのダイヤモンド鉱山とも言うべき価値が埋まっていそうな気がしてきます。磨き上げることで、素晴らしい輝きを見せてくれることを期待したいところです。

海外では、マンガやコミックが「MANGA(マンガ)」に、アニメーションが「ANIME(アニメ)」として、日本スタイルのマンガ・アニメの呼称として使われるようになったのと同様に、アニメの舞台探訪文化も、いずれは「SEICHI(聖地)」という呼称で海外に認知されるようになるかも知れません。

<了>

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