HOME テレビ 進化を続ける韓国エンタメと人気の理由 日本との違いはどこに?~ライター 西森 路代さん~
2020.10.14

進化を続ける韓国エンタメと人気の理由 日本との違いはどこに?~ライター 西森 路代さん~

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ライター 西森 路代さん


映画『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞、Netflixで配信された『愛の不時着』や『梨泰院クラス』が日本でも爆発的人気を集め、世界的に注目されている韓国のエンターテインメント。その人気は、映画、ドラマ、音楽、そして書籍にも及びます。なぜ今、韓国のコンテンツが支持されるのか。

日本国内のコンテンツやTVの活路とは?韓国をはじめ、香港、台湾、日本のエンターテインメントに通暁する、ライターの西森さんにお話を伺いました。


30歳で上京してライターに

 

─まずはご経歴からお聞かせください。

大学を卒業してから、地元である愛媛県のテレビ局で働いていました。制作部の美術担当でしたが、第一線でバリバリ番組を作るような立ち位置ではなくて、テロップやフリップを作ったりしていました。
仕事は仕事として頑張りつつ、余暇に映画などを楽しむ生活をしていたのですが、6年目に誘われて一回転職をしたら、やろうと思っていた企画が半年で終わってしまって、その後、路頭に迷い、思い立って30歳で上京しました。

 

─ライターを志すようになったきっかけは?

映画ですね。とはいえ、大学生のときから映画研究会に入っていたようなタイプではなくて、映画を見始めたのは社会人になってからです。
1997年に香港映画に出会ってハマったことで、ひとつの場所にいなくていいのかなと思えるようになりました。地元にいる間に、シネマルナティックというミニシアターでいろんな映画を見たり、広東語を学ぶサークルに通ったり、会社で代休などをくっつけて3日休みがあったら香港に行ったりするなかで、映画に関わる仕事がしたいと漠然と思うようになったんです。ちょうどその頃って少しずつインターネットが普及してきたときで、ネットがあるから趣味の話ができる友人もできたし、上京をしても知っている人がいないというわけでもなかったので、本当に香港映画に助けられました。

上京後は派遣でテレビ局に二年務めて、その二年の間に、ちょこちょこ募集を見てライターや編集の仕事をやるようになって、その後、編集プロダクション勤務やラジオディレクターとライターを兼任した時期を経て、完全にフリーになりました。

 

─映画をはじめドラマ評なども興味深く拝読しています。

ライターを始めてから5年くらいは、特に2000年代は台湾や韓国の仕事がほとんどだったので、日本のドラマの仕事はそこまでやっていなかったです。ラジオ番組もアジアのエンターテイメントを紹介する番組だったので、その間は韓国ドラマやK-POPなどのほとんどの来日会見などに行っていて、本当に忙しくてあまりテレビも見られていなかったかもしれないです。

2010年代に入ると、ときどきテレビ誌の仕事や、若手俳優のインタビュー仕事が入るようになって、日本のテレビドラマも積極的に見るようになりました。その頃、評論家の宇野常寛さんがやっているドラマ評・テレビ評の座談会などを、面白いなと思って見ていたんです。ライターの成馬零一さんや、早稲田大学の岡室美奈子先生も参加されていて。その後、だんだんドラマのコラムなどを書くようになって、それを見て、ギャラクシー賞の委員に推薦していただき、今年で4年の任期を終えたところです。

私がテレビ局で働いていたときは、特に制作に関わっていたわけでもなかったので、昔一緒に仕事していた人たちは「なんで!?」って思っているかもしれません(笑)。

 

『愛の不時着』『梨泰院クラス』の大ヒット

 

─香港、台湾、韓国、そして日本など、アジアのエンタメに知見が深い西森さんに、今とても勢いのある韓国エンタメについてお伺いしたいと思います。

『パラサイト』がアカデミー賞を受賞して韓国映画に注目が集まったと思ったら、『愛の不時着』などの韓国ドラマも人気になったし、K-POPブームも長く続いている中で、NijiUも注目されたりと、本当に韓国のコンテンツはたくさん日本に入ってきていますね。
その中でも、おそらく韓国映画については、世界的な評価と日本国内での評価は同じだと思うんですよ。でも、韓国ドラマに関してはちょっと違うのかなと思っています。

日本において『愛の不時着』や『梨泰院クラス』がNetflixで大ヒットしましたが、韓国でこの二作は多数あるヒット作のうちの一つという位置づけで、ほかにも注目の作品がたくさんあります。日本ではこの二作がヨン様の冬ソナブーム以降の「誰もが知っている作品」になったわけですが、作品のクオリティが高いということ以外にも、コロナでステイホーム期間があり、Netflixで何を見ようかなと思っていた人の目に触れたという要素などもあると思います。

 

─コロナ禍の自粛で“ドラマを見る時間”があったことが関係ありますか?

そう思いますね。若い人たちのなかには普段テレビを見なかったり、テレビを持っていなかったりする人もいると思うので、いざ自粛で自宅にいるときに、Netflixを選択した人は多かったはず。そういう視聴者層にマッチしたことと、さらにNetflixはオススメのコンテンツが表示されるので、人気ランキングの上位になるほど人の目に触れ、新たな視聴者を生む仕組みになっていますよね。

もう一つの要因は、芸能人も皆と同じように時間があり、自粛期間中にこの二作を見て、話題にすることが多かったんですよね。影響力のある人が見ているから、普段は見ない人も見る…みたいなことも増えたと思います。

 

─この人気はどうなっていくと思いますか?

この二作に続いて、誰もがタイトルを聞いてわかる作品は何だろうと期待しています。日本では2004年の『冬のソナタ』の大ヒットから2009年の『美男ですね』のチャン・グンソク人気の頃までは、韓国の雑誌やドラマ本がたくさん出ていたんですが、その後は徐々に減ってしまっていたのです。でも、最近また増えてきましたね。

ムック本っていうのは、人気のバロメーターみたいなところはあるので、ムックが増えるのは人気があるってことだと思います。それだけではなく、週刊誌で取り上げられることも増えました。『愛の不時着』や『梨泰院クラス』で韓国ドラマが再び大きな話題になったことを機に、ほかの作品も見てみようという韓国ドラマの視聴者層は増えたのは確かだと思います。

 

西森氏撮影写真

 

韓国エンタメの発展にある背景

 

─今はドラマや映画、K-pop、書籍など、多様なコンテンツが韓国から日本に入ってきており、冬ソナの頃よりもターゲットが限定的ではなくなっている気がします。

国内では「ドラマを見る人」「映画を見る人」「本を読む人」「音楽を聴く人」の層は異なっていますが、海外のカルチャーとして入ってくると、韓国の文化全体が好きという人も多かったと思います。しかし近年、韓国のカルチャーはあまりにもたくさん日本に入ってきたので、日本でもだんだん、「韓国ドラマを見る人」「韓国映画を見る人」「K-POPを聞く人」が分かれてきていたのではないかとも思います。ただ、「韓国文学」が入ってきたのは、比較的最近なので、これまでの「韓国ドラマを見る人」「韓国映画を見る人」「K-POPを聞く人」たちが、「韓国文学を読む人」になったということは大きいのではないかと思います。

 

─韓国のエンタメが、ここまで力を増した要因とは?

よく言われているのが、1997年のIMF危機ですね。韓国経済が大打撃を受け、国内だけでは厳しいので海外にシェアを広げようとエンタメの輸出をしようという気運が加速し、ドラマでは2003~4年に始まる韓流ブーム、音楽では2010年前後のK-popブームにつながりました。

ただ、日本はそのブームの時期やきっかけがほかの国と少し違っていたんです。例えば、2000年代の韓流ドラマブームは、中国ではそれより少し前に始まっていて、そのきっかけもヨン様の『冬のソナタ』ではなく、アン・ジェウクの『星に願いを』だったと言われていますし、K-POPがアジアでブームになったタイミングと日本でブームになったタイミングが少しずれていたりするんですよね。

映画に関しては、韓流ドラマから生まれたスターを起用して映画を盛り上げようとする動きがあったのですが、これは2000年代には、そこまで成功したわけではなかったと思います。韓国ブームに乗って日本の観客を意識して作ったりしても、国内での興行はそこまで伸びなかったりして。2000年代は、韓国国内の観客動員数でいうと1人が1年に1~2回見るくらいのペースが2010年あたりまで続いて、「人気者にあやかっているだけではなく、内容でも勝負しよう」という空気になったことが、後に映画を盛り立てることになったんだと思います。

 

─韓国映画の飛躍のきっかけは、ドラマやK-popとは違うということ?

IMF危機によってエンタメに力を入れないと、と思い始めたのが1997年以降のことなので、本当にそれが効いているのであれば、韓流ブームやK-POPブームのように2000年代に韓国映画ブームが起きているはずです。しかし映画はドラマや音楽と同じようにはいきませんでした。だから、国策として文化にお金を投入したことが単純に成功につながるということは言えないのが、エンターテイメントの面白いところであり難しいところだと思います。

韓国映画が国内で盛り返し始めたのは2010年代以降だと思います。観客動員数も倍増し、2013年には初めて年間の観客動員数が2億人に到達しました。韓国の人口が約5000万人なので、1人が1年に4回見るペースになったんです。

 

─世界から評価を受ける前に、韓国国内でも映画が産業として発展していたんですね。

そうです。『パラサイト』も海外向けに作ってヒットしたわけではなくて、これまでにもずっと社会問題をエンターテイメントに盛り込んできたポン・ジュノが、国内の格差社会の問題に目を向けて丁寧に描いた結果、アカデミー賞を受賞するほど世界からも注目を集めたといえます。

韓国映画の飛躍の背景としては、海外向けにターゲットやコンセプトを変えて映画を作るのではなく、国内にある問題に目を向けたというのが非常に大きいと思いますね。しかもアカデミー賞も、年々、多様性、差別、ジェンダーの問題などをテーマにした作品が多くなっていて、そういう世界も求めているテーマ性とリンクしていたということも大きいのではないでしょうか。

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