HOME テレビ 【徳永 有美のメディア先読み】目に見えないもの、こぼれ落ちるものを伝える。そんな表現への挑戦~作家・マンガ家 小林エリカさん~
2020.1.30

【徳永 有美のメディア先読み】目に見えないもの、こぼれ落ちるものを伝える。そんな表現への挑戦~作家・マンガ家 小林エリカさん~

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子ども、子育てを通じて気付かされた

徳永 冒頭で小林さんの「おこさま人生相談室」がすごく好き、とお伝えしたのですが、連載を始められたきっかけを教えてください。

 

小林 子どもが生まれたタイミングで、MilK JAPONさんから「何かやりませんか」と声をかけていただいたのがきっかけです。子どもが大人の悩みに答えるというアイディアは、私自身が子どもの頃に抱えていた「なんで大人は子どもだと思って意見をちゃんと聞こうとしてくれないの?」「いつも大人は偉そうで子どもがそれに従うというのは納得いかない!」という思いがきっかけです。

大人になったら、もっとずっと賢くなって、何でもわかるようになるし、悩みだってなくなるんだろう、と思っていたのに、私自身、不惑の年を迎えてもスーパーの買い物から人生まで悩んでばかりで、「違うじゃん!」みたいな。きっとそんな大人がたくさんいるんじゃないかなと思ったのもありますね(笑)。

大人の悩みに子どもが答える形なので、最初の頃はどういう答えが返ってくるんだろうとドキドキしていました。だけど、毎回予想の斜め上をゆく素晴らしい答えが返ってくるので、いつも私自身が勉強させてもらってます。

 

徳永 子どもの意見を尊重する、という当たり前のことを「おこさま人生相談室」を読んで思い出しました。私も毎日悩んでばかりなのですが、子どもの意見の中に答えもあるのかもしれない、という新鮮な発見もありましたね。

小林さんはお子さんを育てながら作家活動を続けていらっしゃいます。大変ではないですか?

 

小林 子どもを産んで1年ぐらいは体調も具合も悪くて、何もできない時期、というのがありました。仕事も全然できなくて、家事とかはもとから苦手で、そのうえ子育てなんてどうしたらいいかわからないし、そのうえ、母乳もでない!みたいになって。私はそのとき、なんて私は無価値な存在なんだ!とすごく自分を責めてしまったんです。
で、努力が足りないから、仕事も、家事も、子育てもできないんだ、と考えて、頑張ろうとして、母乳の量を測ってはグラフを作り続ける、みたいな間違った方向性の努力を重ねる、という日々でした。今思えば、完全に産後うつみたいなやつだったんだと思うのですが。

でも、当時の自分を振り返って、私、すごく反省したんです。
そもそも、自分はこれまで価値というものを、お金を稼ぐとか、役に立つとか、そういうことでしか考えていなかったのかもしれないって。自分を無価値だと考えることは、ひるがえって、他の人のことも、そういう価値でしか見ていなかったんじゃないかって。でも、人間って、本当はただ、生きてそこにいるだけで、価値があるものなはずじゃないですか。

あと、これまで自分がいかに“努力信仰”だったかということにも気づきました。努力すればなんとかなる、っていうのは幻想ですよね。
人生って頑張ったところでどうにもならないことってあるじゃないですか。なのに、それをどこかで努力でなんとかできると信じる、というのは心底恐ろしいことだな、と思います。それは、何かができなかった人に対して、努力が足りないからだって、責めることにもつながるし。だって、いくら努力しても、赤子は泣き止まないし、人間は病気にもなるし、人間いつかは必ず死ぬんです。神の力を手にしてはいないんだから。恋愛や出産だって、努力でどうにかなるものではないですよね。

 

徳永 猛省した後にどんな時間が待っていましたか?

 

小林 何もしていなくてもただ生きているだけで価値があるし、努力したからって上手く行かないこともあるよな、という思いに至りました。

そのうちに子どもが3歳になって産後うつも抜け、価値と努力に対する気づきから『トリニティ、トリニティ、トリニティ』という作品もできました。

でも本当に、みんなどうしているんだろう?!って思います。徳永さんは、いったいどんなふうに、子どもを育てながらお仕事しているんですか?

 

徳永 私の場合ですが、全て抱えるのはやはり苦しいだけなので、子育てや家事を自分がすべてやることは諦めました。

私は月曜日から木曜日は子どもといる時間が本当に限られているので、子どもに対して「申し訳ないな、ごめんね」という気持ちを抱えているのですが、ある時から「無理なものは無理」と降参して(笑)、自分も腹をくくり、子どもたちにも腹をくくってもらいました。

それでも毎日の中で寂しい想いや様々な出来事の濃淡があって、切ないこともたくさんあります。でもしようがないんです!ママもパパも両方大変なら他の誰かを巻き込んでいくしかなくて。申し訳ない気持ちもありますが、子どもなりに両親の仕事に対しての思いもあるようなので、そこを尊重して「いつか分かってくれるといいな」という希望を持ちながら頑張っているところです。

 

小林 徳永さんみたいな女性もいるということがとても大事ですよね。「母たるものは」という確固たるものがあると息苦しいですから。

仕事ができて、家事も育児もこなして、家も綺麗、みたいな理想像が私の中には無意識のうちに刷り込まれていて、そうならなきゃと焦っていました。だけどよく考えたら、私が育った家は、両親が本好きでだれひとり掃除をしないゴミ屋敷だったんですけど、思い返せばそういう家でも結構楽しかったな、と思って。掃除もしないし家事もしない、と決めたらすごく楽になりました。

多様な生き方を一人ひとりがしてゆくことで、いろんなかたちの「母」や「家族」ができたらいいと思います。

 

徳永 小林さんは、感じて、考えて、表現する、という創作の世界にいらっしゃいますが、お仕事と生活のバランスはどのようにされていますか?

 

小林 子どもがいないときにはダラダラ昼夜問わず仕事をしていたのですが、今は仕事をするのは子どもを保育園に預かってもらっている9時~18時の間と決めています。その時間はアトリエや喫茶店で、創作活動です。まあ、いつも時間が足りない!終わらない!ってなってますが(笑)。

その後は、強制的に子どもに教えてもらう時間になりますね。子どもから学ぶことってすごく多いんです。「おこさま人生相談室」でもそうなのですが、子どもの声を聞くと、今まで自分が忙しくて子どもの声に耳を傾けていなかったことに気づきます。それは子育てしている人だけじゃなくて社会全体に言えると思います。

 

 

時間や場所を越え、自分の作品を手にとってもらいたい

徳永 最後にお聞きしたいのですが、小林さんはご自身の作品が受け手にどう伝わっているのかという点についてはどうお考えですか?

 

小林 作品がどこでどういう風に読まれているのか分からないのでいつもドキドキしていますが、自分とはかけ離れた遠い場所や時間のなかでも読んでもらえていたら嬉しいですね。でもやっぱり直接、本や作品を手にとっていただいた、という話も聞くと勇気が出ます。

以前は、読者というものを勝手にイメージして、こうしたら読みやすいんじゃないか、こうしたら喜んでもらえるのではないか、とあれこれ考えていたこともありました。マンガや小説は歴史が長い分、定型があって、そこに沿って作品を作るべきというプレッシャーがあったのかもしれません。だけど一人ひとり好きなものは違うし、私の人生を生きているのは私だし、「本当にこれって小説なの?」と批判されたとしても構わないので、私自身が一番好きなように、やりたいように表現しよう、と思うようになりました。

それこそ報道番組にも型があると思うのですが、徳永さんはどのように向き合っているのですか?

 

徳永 精神的には超えたつもりなのですが、定型に逃げることが多々あることも事実です。だけどなるべくそこに逃げないよう、常にぶち破る力を持っていたいと意識しています。気を緩めたり、集中力が欠けるとすぐに流れてしまいそうになるんです。

そして、その先に「どう伝えるか」があるのですが、今私がいる場所は10数秒で勝負、いわゆる表現だったり伝えなくてはいけない場面があるので、そうすると本当の部分が伝わっていないのではないかという不安を抱くことも多々あります。

特に、自分が心の底から強く思っていることを伝えようとすると、逆に分かりにくくなってしまうことが今抱えている課題です。押しつけや自己満足に陥ることもしたくない。だけど、この仕事をしている限り、たくさんの人にひとくくりにはできないたくさんの思いを伝えるということは諦めてはいけないと思っています。

 

小林 私はアンネ・フランクに憧れて作家になったので、ジャーナリズムに携わって前線で活動している徳永さんはすごく輝いて見えます。徳永さんに私の作品を読んでいただいて、今日こうしてお話ができて光栄でした。

 

徳永 こちらこそ、尊敬している小林さんからお話が聞けて心が洗われました。世界は違いますが、目に見えないものへの想像力や、ひとくくりにできずにそこからこぼれ落ちるものこそ大切に、それらをどう伝えるのか、いつだって諦めないで進んでいきたいなと改めて思いました。

今日はありがとうございました!

<了>

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