Synapse海外調査部発!激動するインドのテレビ業界〜次の人口世界一の国でテレビチャンネル増大中。今、インドで起きていること〜

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Synapse海外調査部発!激動するインドのテレビ業界〜次の人口世界一の国でテレビチャンネル増大中。今、インドで起きていること〜

近い将来人口世界一の国家となるインドでは、経済の成長に伴い中産階級が増大し、今、非常にホットなテレビマーケットとして注目されています。テレビチャンネルは増加を続け、Netfilix、Amazon勢もインドをアジア重点地域としてとらえていることも伺い知ることができます。

前回に続き、Synapseは成長性が高いインド市場に焦点をあてました。取材に当たっては、統計調査結果を参考にするとともに、インドのメディア・エンタメ界の後進を育成するWhistling Woods Instituteの副学長、チャイタンヤ チンチリカール氏に取材協力いただきました。



1. 2024年に中国を抜くインド人口

2017年の国連経済社会局(※1) 発表レポートによると「7年間でインドは中国の人口を上回る」、つまり2024年にインドが中国の人口を抜くという予測を発表しています。

2100年には中国は10億2100万人、一方インドは15億1700万人と世界一となると予測しています。


第2母語英語人口も一億超。グローバルビジネスでの強み

インドの第2母語である英語を話すインド人口(※2)はおよそ10〜20%とも言われており、少なめに積算しても1億人を超え、米国に次ぐ英語を母語とする人口を抱えています。

さらに、母語別でも、多民族・多言語国家インドは、ヒンディー語(5億)、ベンガル語(9千万)、テルグ語(8千万)、マラータ語(8千万)、タミル語(7千万)と、それぞれ相当規模のマーケットとなっています。


実は「テレビ好き」インド

家電の普及率もみてみましょう。冷蔵庫、エアコン、洗濯機などの家電普及率は3割程度にとどまる一方で、世帯の7割弱がテレビを所有(※3) する、「テレビ好き」なインド。

さらに、多民族・多言語、それぞれが独自の宗教文化を培ってきたという歴史的背景のため、ストーリーのモチーフとして使える神話や伝説も無数に存在しストーリーの原型も豊富です。

「言葉」の文化だけでなく非言語のコミュニケーションや身体表現も発達、ストーリーテリングが世代間のコミュニケーションや効果的な教育学習・文化伝承の重要なツールとして生活に息づいてきました 。

今日ではテレビがその伝統を担い、貴重なエンターテインメント・ソースとなっています。


インターネット普及率BRICs最低レベルのインド。だからこそテレビの存在感

上映中、ヒーローの活躍にロックコンサートのように沸き立つ熱狂的な映画ファンの多いインドですが、映画が特別な日の行事なら、テレビは日々の家族の団らんの必須アイテム。

インターネットはここ2~3年急速に浸透しているもののBRICs中でも最低レベル (※4)というインドでは、テレビの占める存在感は大きいものがあります。



2.インドテレビ需要をけん引する「海外マーケット」・「アニメ」・「インド南部地方」


インドのメディア・エンタメ業界事情に詳しい
Whistling Woods International Institute副学長 チンチリカール氏


「月に4~5チャンネル立ち上がることも稀ではない。多言語展開が容易でロングテールでの売上が見込めるアニメ制作にテレビ局は意欲的」

今回、インド調査にあたっては、インドのメディア・エンタメ業界に15年、TV制作会社の役員などを経て、インド映画産業の首都ムンバイで映画・メディア・コミュニケーションアカデミーであるWhistling Woods International Instituteの 副学長チンチリカール 氏にメール等で現地の状況を取材することができました。

「テレビの保有台数だけで言えば、インドは2014年ごろからアメリカに次いで世界第2位の市場。ここ数年、月に4〜5の新チャンネルが立ち上がることも稀ではない」(チンチリカール氏)

「Indian Media and Entertainment Industry Report, 2017(KPMG India-FICCI)」(※5)によるとインドのメディア・エンターテインメント業界は2016年からの5年間毎年平均13.9%(世界平均の3倍)の成長が予測されています。

チンチリカール氏は「インドのテレビ業界も引き続き2桁の成長率が見込まれている。雇用創出では業界の貢献はトップクラス。広告収益、視聴料(インドでは公共放送以外は有料のケーブルTVチャンネルが主流で、加入者の支払う視聴料が広告料と並んで主な収入源)も順調に増大している」とテレビ業界の堅調な成長を伝えています。

限られた予算の中で制作されるインドのドラマですが、これまでも欧州、中東、アジアの各国で様々なジャンルのドラマが放映されてきました。中には30カ国以上で放映されたシリーズもあります。(※6)

この背景についてチンチリカール氏は「現段階では各地のインド系移住者のコミュニティーの存在が、テレビドラマ制作にとって大きな追い風になっている」と述べます。

ドラマに加え、今後インドテレビ業界が予算を傾注して輸出ビジネスにしていきたいのがアニメです。「インドのアニメ視聴率は決して高いとは言えない。しかし、多言語への吹き替えが容易な上、ローカル・海外両市場で展開が可能でロングテールの売上が見込める。テレビ放送局側は恋愛ドラマの倍額を払ってでもアニメを制作したいと意欲的だ」と語ります。

また近年の傾向として、非ヒンディー語圏の南部のテレビ保有・視聴率が高く、市場としてはインド国内最大(約45%)のヒンディー語圏より小規模でも、テレビ業界の好景気を牽引、日毎で1時間以上長い、との調査結果もあります 。(※7)



3.欧米コンテンツ業界 アジア戦略の要となるインド

インド市場のこのポテンシャルの高さは欧米コンテンツ業界のキーマンの言動からもみてとれます。


Netflix CCO「中国はまだ尚早」、インドがアジア市場の主眼であると発言

2016年にインドに進出したNetflixのCCOのテッド サランドス氏は2018年11月の米CNBCのインタビューに応え、インド市場の動画配信サービスへの需要は大きく、2018年中に1億人の新規加入者が見込まれていると語っていました 。(※8)

同氏はこのインタビューでメディア進出の敷居が高い中国への本格的な進出は「まだ尚早」であり、インド市場をアジア市場戦略の主眼と捉えているとも語っています。



4.新たなコンテンツを求める視聴者

ここまでインドのテレビ業界、エンターテインメント業界の成長性を中心に見てきました。では、視聴者はコンテンツについてどう感じているのでしょうか? インドで暮らすインド人視聴者へのインタビューのほか、現地のテレビパーソナリティ・サトパシ氏からも話を伺いました。


テレビ業界関係者「視聴率を維持し続けるための仕組みや方針が欠けている」

インドではこれまで人気ドラマになると10年近く限られた予算の中で延々と制作し続け、次第にマンネリ化していく傾向があり、「やめる潮時をつかめないまま飽きられ、衰退していく」「視聴率を維持し続けるための仕組みや方針に欠けている」といいます。(インド・バラエティ番組のテレビパーソナリティ・サトパシ氏)


日本のドラマ「おしん」は印象に残ったと語る
テレビパーソナリティのサビャサチ サトパシ氏


テレビのリモコンを握る女性たち。「女性の共感」も大事な時代に

Netflixに加入したムンバイ在住の40代女性視聴者は「従来のインドのテレビドラマは女性の描き方が古すぎて共感できない」といいます。家のテレビのリモコンを握る女性が、男性目線の男性による男性のためのストーリーに「飽き」始めているのです。(※9)

圧倒的に男性優位だったインドのテレビ業界で20年にわたり活躍してきた女性テレビプロデューサーのエトカ カプール氏は、TEDの中で「勇敢なヒーローやパワフルな権力者の周りで踊りながら歌うだけの女性の姿は若い世代のロールモデルにならず、インスピレーションを与えない」といいます。

メディアコングロマリットStar India社CEOも女性は重要なターゲットグループであり、リアリズムがあって共感できる作品を作りたいと述べています 。(※10)

ムンバイ在住の40代男性視聴者は「Netflixは、国内テレビ番組のように表現上の規制がないから良い」といいます。

テレビ・パーソナリティーのサトパシ氏曰く「最近では女性の性や、家庭内暴力、レイプや差別、カーストや民族間の問題などタブー視されてきた社会問題などに触れるテレビドラマも出始め注目されている」。

また、単純な勧善懲悪ではなく、急速な社会の変化の中で登場人物のそれぞれの光と陰、成長を描くドラマがSNSでバズることもあると言います。



5.米国式ストーリーテリングメソッドの導入

Netflixはインドで破格となる制作費をつぎ込み、ヒンディー語で様々なジャンルのドラマ番組制作をしており、今後ヒンディー語以外のインド言語での展開も視野に入れています。

ヒンディー語のオリジナルドラマの制作は必ずしもインドでしか行えないわけではありませんが、インド現地で制作すれば、ハリウッドで1エピソードを制作する予算で1シーズン分が撮影が可能とも言われ、現地での企画・制作へとシフトしています。

インドのクリエイティブはその中で米国テレビ業界が培ったストーリーテリングのノウハウを意欲的に吸収しているといいます。


Amazon 米国から番組制作関係者を招くワークショップを開催

例えばAmazonは現地での番組企画・制作に先立ってアメリカから関係者を招き、インドの番組制作の監督や脚本家のためのワークショップを開催 (※11)、ドラマの企画の段階から制作まで、米国流のテレビドラマ制作のメソッドを伝授しています。


具体的には、インド国内の連続ドラマシリーズ制作は、前述の通り低予算の中で制作されてきました。しかしNetflixやAmazonのように当初から各国語展開を念頭に大規模な制作体制でのドラマ作りを行うとなると、全体や部分、ストーリー構成や人物像の整合性、高視聴率維持のための仕組みが必要になります。

1エピソードごとのストーリーと長期で展開するストーリーを複合的に構成しつつ、共感できて魅力的な人物を描き、長期間にわたって高視聴率を維持し続けるために、米国テレビ業界が大規模・長期のシリーズものの制作にあたって培ったノウハウ、一般に「テレビシリーズバイブル(ストーリーバイブル)」と称されるストーリーや人物像の整合性の確保・管理の方法などを学ぶことにより、従来より規模の大きいプロジェクトを複数の脚本家、複数のディレクターがチーム体制で制作していくことも可能になります。

インドにとって新たなテーマや表現方法を形にするために、こういったノウハウを学ぶ機会とグローバル規模の予算で世界に通用する機会が与えられ、ベテランのみならず新人にも様々なチャンスが与えられるようになり、インドのクリエイティブに大きな機会を創出しつつあります。


米国メソッドでの作品が高評価を得る「聖なるゲーム」

具体的な作品で注目を浴びているのは2018年から配信中のNetflixオリジナルのヒンディー語連続サスペンスドラマ「聖なるゲーム」。世界のインド系視聴者に下支えされつつ、IMDb(インターネット・ムービー・データベース)で一時は9.0を超える高評価を獲得しています。


6.まとめ

今回、人口、民族、言語など独自の特性をもってこれから大きく成長しようとするインドを、さまざまな情報を元にその動向をまとめてみました。インドについては、まさに成長の真っただ中におり、欧米コンテンツがアジアの主戦場として狙いを定めていることも頷ける内容でした。

インドのストーリーテリングの伝統と蓄積された資産、意欲的な若手の存在と欧米のテレビシリーズ制作のテクニックの融合によってインドテレビドラマ黄金時代も現実味を帯びてきています。

Synapseでは、引き続き海外市場における動向をウォッチしていきます。


<了>



(※1)国連経済社会局 WORLD POPULATION PROSPECTS: THE 2017 REVISION SUMMARY AND KEY FINDINGS

(以下引用)

The new projections include some notable findings at the country level. For example, in roughly seven years, the population of India is expected to surpass that of China. Currently, the population of China is approximately 1.41 billion compared with 1.34 billion in India. In 2024, both countries are expected to have roughly 1.44 billion people. Thereafter, India's population is projected to continue growing for several decades to around 1.5 billion in 2030 and approaching 1.66 billion in 2050, while the population of China is expected to remain stable until the 2030s, after which it may begin a slow decline.

(※2)「インドの第2母語である英語を話すインド人口はおよそ10%〜20%」:どのレベルで「話す」とカウントするのかなど、調査・積算方法が確立していないが、複数のサイトが10~20%との推測値を示している。

一例:BBC NEWS https://www.bbc.com/news/magazine-20500312

(※3) https://www.livemint.com/Industry/V7wX0BAvKiko83S4atfV0I/ConsumerdurablesmarketgrowingrapidlyData.html

NHK BS1 国際報道2018「拡大するインド家電市場攻防の鍵は?」 https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/04/0403.html

(※4) 国際電気通信連合報告(2018) https://www.itu.int/en/ITU-D/Statistics/Pages/stat/default.aspx
(※5) KPMG India-FICCI「Indian Media and Entertainment Industry Report, 2017」https://assets.kpmg/content/dam/kpmg/in/pdf/2017/04/FICCI-Frames-2017.pdf
(※6) Exporting Drama https://www.thehindubusinessline.com/news/exporting-drama-desi-maa-bahu-soaps-go-global/article8447531.ece

Star India gives Turkey its first ever Indian Drama Series https://timesofindia.indiatimes.com/tv/trade-news/hindi/Star-India-gives-Turkey-its-first-ever-Indian-Drama-Series/articleshow/51244196.cms

(※7) Re-imagining India's M&E Sector, FiCCI-EY(Ernst & Young) https://www.nna.jp/news/show/1807020
(※8) 米CNBC(TV)動画 https://www.cnbc.com/2018/11/08/netflix-to-expand-audience-across-asia-focus-on-india-not-china.html
(※9) The Holliwood Reporter https://www.hollywoodreporter.com/news/star-india-ceo-uday-shankar-707841



 (※10) TED Indiaでのスピーチ https://www.ted.com/talks/ekta_kapoor_how_tv_changed_the_conversation_in_indian_homes?language=en
(※11) The Star Online https://www.thestar.com.my/tech/tech-news/2018/03/08/big-budget-tv-meets-bollywood-as-amazon-and-netflix-do-battle-in-india/#YBSVF2GruQmGC3Zg.99

 

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