(左から)フジテレビ 黒木 彰一氏 電通 北風 祐子氏
テレビ放送が始まって約70年。その裏には多くの人たちのアイデアや挑戦、それらの化学反応があり、テレビはここまで発展してきました。
Synapseでは、そのテレビの発展を今後も継続的に生み出し続けるために、テレビのプロデューサーやディレクター、広告のクリエイターやプランナー、そしてビジネスプロデューサーなど多種多様な方々が語り合う企画を立ち上げることにいたしました。それぞれの視点とアイデアがぶつかりあい、「テレビの世界でこれから仕掛けられそうな新しいコト」をいっしょに考える新企画【テレビのミライを創る】、スタートです!
第一回目は、フジテレビの敏腕プロデューサーとして名高い黒木さんと、電通でチーフ・ソリューション・ディレクターを務める北風さん。異なるようで近しいフィールドで活躍するお2人の対談では、同世代ならではの鋭い視点や葛藤も浮き彫りに!テレビや広告のミライは、“狭間の世代”にかかっているのかも…。お2人の日々の奮闘の様子や熱い想いが溢れる対談をお送りします。
“年齢の壁”をどう捉えるか
黒木
僕が1969年生まれで、北風さんが1970年2月生まれだから、同学年ですよね。北風さんは小学生の頃からタモリさんを尊敬されているとか?! 僕も『笑っていいとも!』を担当していたので、何かご縁を感じます。子どもの年齢も近いんですよね。うちは娘が24歳で息子が22歳なんです。本日はよろしくお願いいたします。
北風
そう!同じ学年、うれしいです(笑)。タモリさんファン歴は40年になります。子どもは娘が20歳で息子が16歳なので、確かに似ていますね。こちらこそよろしくお願いいたします。
たくさん伺いたいことがあるのですが、最初に「年齢の区切り」に対する黒木さんのお考えを聞かせてください。テレビも広告も「生活者と向き合う」という点では共通していて、年齢で区切ってターゲティングをするケースが多いのですが、最近私はそこに懐疑的になっていて。
たとえば、インフォマーシャルは50代以上の方々が主なターゲットになっていますが、30代の方でもインフォマを見て物を買うことはありますよね。なので、20代や30代、もっと若い10代向けのインフォマみたいなものが、世の中にあってもいいんじゃないかと思っているんです。人が物を欲しくなるときのスイッチって、若い方も年配の方も、あまり変わらない気がします。それと同じように、人がおもしろいと思うことや笑えることにも、もしかしたら年齢の壁はないのかも…と思っているのですが、黒木さんいかが思われますか?
黒木
北風さんのおっしゃるとおり、見ておもしろいと思ったり、惹かれたり、興味を持ったりする事柄は、年齢差がなくなってきている感じがします。例えば番組の構成会議でも、「3層(50歳以上)には、この情報が好まれる」なんていう話を、若いディレクターたちほど、あまりしなくなってきている気もします。でも、一方でまだまだ根強く「年齢層のイメージ」もあります。
北風
自宅で家族4人でテレビを観ていても、同じところ、同じエピソードでみんなお腹を抱えて笑ったりしますからね。結局、おもしろいと感じることやワクワクすることは、根っこはみんな一緒だと思うので、人を年齢で区切るのはやめたほうがいいんじゃないかなって。F1層(20~34歳女性)とF2層(35~49歳女性)の区分も、35歳になった途端に変わるという考え方はちょっとおかしい。人は歳の区切りで生きているわけではないのに、42歳の誕生日を過ぎてから「42歳のあなたへ」というネット広告がたくさん来るようになったときも、すごく違和感がありました。
黒木さんの手がけてこられた番組って、あまり視聴者の年齢を問わないものが多いですよね?
黒木
長いスパンで同じ番組に携われてきたのは本当にラッキーだったと思います。「番組が視聴者の皆さんと一緒に成長してゆくことができる」という感覚で制作することができたんですよね。「みなさんの人生の中に番組が存在できる」というか。そうなってくるとターゲットとか年齢層とかはあまり関係なくなってきて、2世代3世代に渡って番組を見てもらえたり、自分の “日常の中の大事なもの”として認識してもらえたりする。『SMAP×SMAP』や『笑っていいとも!』を作っていて、そう見てもらえることを願っていましたし、また、信じていたのもそういう部分でした。
n=1の価値
北風
黒木さんはテレビの世界でおもしろい方やおもしろいことをたくさん見てきたと思うのですが、あたりまえのように“そこにタモリさんがいる”という人生を歩んでこられたなかで、今はどんなことを「おもしろい」と感じていますか?
黒木
「あたりまえのようにタモリさんがいる人生」(笑)! その言葉が非常におもしろいです。まさにそれこそずっと『いいとも!』を見てきてもらったみなさまの人生!かも。すみません、脱線しました(笑)。
さっきの年齢の話でいうと、ターゲットを年齢層に置くのではなくて、より具体的で個人的な誰かに見せたい、と思うことが大事なんじゃないかと思い始めています。何を作るときでもまず「だいじなひと目線」というか。
ピチカート・ファイヴの小西康陽さんにお願いして『慎吾ママのおはロック』を作ってもらったとき、家に帰ったら子どもたちが踊りくるっていたのがすごくうれしくて。いまでも忘れられません(笑)。「ある年代をターゲットにして作る」というよりも、「家族に見せたい」、「両親に見せたい」、「彼氏に見せたい」とか、誰かに見せたい感覚が、実は一番大事なのかなと思ってます。
北風
私も「自分が欲しいかどうか」、「子どもにあげて喜ぶかどうか」という視点から考え始めるので、よくわかります。マーケティングの世界では、よく「n=1でモノを語るな」といわれます。nというのは母集団から抜き取った標本の数を表す数字で、世論調査だとn=3000くらいが必要とされています。「n=1でモノを語るな」とは、要は「たった一人の意見でモノを語ってはいけない」という意味なんですが、私はその“1”で十分だと思っているんですよね。3000人の平均値よりも、一人の生々しい声から得られる示唆のほうが多いです。
黒木
広告や商品開発など、生活に密着したお仕事をされている北風さんの視点から見て、“生活者をひきつける”ためのコツみたいなものはあるのですか?
北風
番組と同じ動画ジャンルの広告を例にとると、私の息子の世代は「デジタルネイティブ」と呼ばれていて、スマホと共に生まれて育ってきた人たちです。そうすると、広告は最初の5秒の間に印象に残る何かが起きないとダメなんです。息子に「15秒とか見続けるのはちょっと無理」と言われたことがあって(苦笑)。5秒くらいのところで飽きるんですって。確かに、彼の好きなCMでは、全部、頭の5秒以内に何か事件が起きているんです。おもしろいと感じること自体に世代の壁はないけど、もし若者に買ってほしいなら、早く見せる、山を何個か作るなど、若者ならではのアジャストは必要だと思います。
全員が盛り上がって生まれるモノ
北風
逆に黒木さんご自身はどういう番組にひかれますか?
黒木
番組の出演者の皆さんはもちろん、スタッフやマネージャーさんまで含めて盛り上がっている番組は、魅力的で強いです。「流行ってて活気のあるお店」のイメージです。逆に、キャストやスタッフとのストーリーが持てない番組は、視聴者とのストーリーも持ちづらくて。
北風さんがやっていらしたプロジェクトも、たくさんスタッフの方がいる、ある種の“集団芸”ですよね。テレビも同じで結構人数が多いです。どんな企画だったら面白いのかはそのチームのメンバーの反応でわかるので、そこは大事に考えています。もちろんスターが1人で引っ張っていく番組も素晴らしいですが、ディレクターが何人かいて、みんなでやっている感じになると、うまく回っていきますね。
このことはいわゆる「内輪ノリになること」とはちょっと違うことで。「内輪ノリ」というのはひとつの手法でしかないんです。いまはあまり好まれなくなっている手法ですが。もちろん、僕自身は80年代に『オレたちひょうきん族』でスタッフが画面に出ちゃうようなノリが当時は強烈にカッコ良かったし、もしかしたら僕自身もフジテレビもそういう時代を忘れられないのかもしれないです。それはそれとして。「チームのノリの出し方」は時代によって当然かわりますし、今は今の手法があります。若手の制作者たちはこれから自分たちがどうやってゆくのか当然、考えています。実はこれは楽しみにしているところでもあります。
北風
でも、「中で盛り上がっていないのに外をどうやって盛り上げるの?」というのは絶対にあると思います。クリエイティブでも同じなんです。どのプロジェクトでもスターは1人くらい必要ですが、コピーを考えてくれるスターが必要なときもあれば、全体の仕組みを考えてくれるスターが必要な場合もあって、ケースバイケースです。いつも特定のスターを置くのではなく、その時々に必要なスターを見つけてきて、一緒にやって欲しいとお願いするのが私の仕事の醍醐味ですね。
黒木
なるほど、よくわかります。
北風
いまどきの広告プランニングというと、「全領域ができるスーパースターになれ」と求められがちですが、それは無理です。自分に欠けているものをよく理解して、それがわかっているからこそ、自分にできないところを誰かにお願いして気持ちよくやってもらえるよう、私も自分自身の領域を全力でがんばっています。そうやってチームができていくと、みんなで「いくぞ!」となるのがすごく楽しくて、それがおもしろくてずっとこの仕事を続けている感じですね。なので、スターはいるけどスタッフやメンバーが全員で盛り上がって、家族のような雰囲気で一体となったときに初めてモノを創れるところが、黒木さんの番組作りと似ているなと思いました。
だから、チームの中でうまくいっていない人やおもしろくなさそうにしている人がいないように気をつけています。ケンカしてもいいから、黙っているよりは、みんな言いたいことを言え!と伝えていますね。そのほうが、企画がどんどん良くなっていくんですよ。
“狭間の世代”の葛藤
黒木
“民放連 五輪特別プロジェクトチーム”という僕も含めて民放5局のバラエティの制作者を中心に集まって、電通の澤本さんもご一緒しながら民放連でオリンピックを盛り上げるために『一緒にやろう2020』というプロジェクトを展開しています。ここでも実は「チームのノリ」が非常に大事で、出来ないことも含めて面白く話し合う「ノリ」がないと、チームの外の方々、もっと大勢の方々とも絶対に繋がれない。この場に参加しているみんながその辺すごく自覚的で、民放の文化祭委員をやっているような感じで盛り上がっています。このプロジェクトチーム発案の「思わず捨てたくなるゴミ箱選手権」も開催中ですので、是非ともご注目してもらいたいです!
ただ一方で、若手世代の作り手や広告プランナーは、作り手になっちゃうとジレンマが働いてしまうのではないかという心配もありますよね。というのも、ウェブを中心にデータだとかマーケティング要素だとか、昔より断然精度もあがっていて「いかに効率よくスピーディに」ということが格段に重要になってきている。そんな中で自分が実際に作り手になったときに「何がおもしろいのかな」とか「決まった正解があるはず」と悩んだりしてしまいがちなのでは、と思っています。
そしてまた上の年代の人たちの「効率なんて知らねーよ」的な仕事の仕方に萎縮したりすることがあるかもしれないなと……。これは僕のことですけど(笑)。
この、下の世代をモチベートする方法について、同学年の北風さんには是非ともお聞きしたいです!
北風
背中を見せるしかないと思います。みんないなくなっても最後まで私はやり抜くつもりだから「あなたもついて来なさい」くらいの気持ちで。インターフェイスは優しく丁寧に柔らかく接していますけど、心のなかはある意味では容赦ないというか。お客さんじゃないんだから、つまらないとか言っている場合じゃなくて、自分でおもしろおかしくさせなきゃダメでしょう?って。そういう意味では、私は一人でおもしろがって死んでいって、もう化石になる覚悟です(笑)。
黒木
すごい。
北風
だから、20代の子たちも大歓迎。気が引けちゃうなら、得意な部分だけでもやってみて欲しいですね。ゴールに向けて全能で歩く必要はないという主義なので、パーツで何かを出してくれればそれだけで十分すばらしい。私は自分自身もパーツだと思っていて、みんなのパーツが噛み合ったときに化学反応が起こるのを何回も経験しています。それを若い世代の人たちにも味わって欲しいから、「パーツでいいからとにかくおいで!」という言い方をしています。
黒木
非常に共感します。糸井重里さんもひょうきん族も80年代のスター達は最初の先生だったし、デジタルネイティブの20代は部下だし、ぼくらはちょうど“挟間の世代”なんですよね。僕らは「勝手にやれ」「見て盗め」と言われてやってきましたけど、下の世代は突き放すだけじゃダメですし。
北風
そうですね。だから私は、若い世代が私の知らないことをたくさん知っているということに対して、素直に尊敬しています。それらを0から勉強してやるくらいだったら、尊敬できる彼ら世代に入ってもらったほうが100倍早いので、「一緒にやろうよ!」という感じです。
黒木
しんどいけど、逆におもしろいですよね。みんながみんな同じ考え方ではないし、どこかで断層は必ずあるんですけど、若い人たちはちゃんとしているし遠慮がちだけど、一方で承認欲求も高かったりして。じつは“狭間の世代”のぼくらを、うまく使ってもらっている感じもしますよね。
北風
自分のなかでは“ゆきずりの上司”という言葉を当てはめています。言ってしまえば、人生そのものがゆきずりというか、ほんの一瞬一緒にいられるだけで、当然仕事の中で出会う人たちも、もしかしたら家族ですらゆきずりなのかもしれない。だったら相手に遠慮しないで、自分の思うように絡んでいきたいなって。寂しい思いをすることもあると思うし、それじゃダメだって言われるかもしれないけど、それを怖がらずに絡んでいくと、破片でも噛み合うところがあるんですよね。それが何よりおもしろいなと思うから、あきらめたり、遠慮したりするのはもったいないと感じていますし、若い人たちにもそう考えて仕事に邁進して欲しいです。