HOME テレビ テレビ界に新しい風を吹き込んだ LINEトークルーム内のワンシチュエーションドラマ『とある金曜日、LINEの中で』~電通 中尾 孝年さん、橘 佑香里さん~
2019.11.15

テレビ界に新しい風を吹き込んだ LINEトークルーム内のワンシチュエーションドラマ『とある金曜日、LINEの中で』~電通 中尾 孝年さん、橘 佑香里さん~

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実は凄い!撮影に秘められた物語

―スマホ画面内の時間が実際に放送されている時間とピッタリだったり、既読がつくタイミングが絶妙だったり、細かいところまでこだわっている印象がありましたが、撮影時はどんな苦労がありましたか?

 実は撮影時には、4人のスタッフが4台のPCとLINEを立ち上げ、実際に会話を送りあっているんです。そのPC画面をひたすら録画していくという手法で作ったんです。

中尾 それぞれの役が音声入力をしているという想定なのですが、実制作も音声入力にするとミスが多くなりかねません。ですから事前にエクセルに文章を入力し、監督が映像尺で指示して、スタッフがそれをLINEの画面にコピーしています。指示と言うか、もはや指揮でした。監督が指揮者、入力するスタッフは演奏者、みたいな。

 打ち間違えたら1からやり直しです。実際の時間を表示させているので1回ミスすると時間がずれるため、スマホの国の設定を変えて時間を合わせるようにするんです。既読にも時間が付いてしまいますし。

―アナログであることに驚きました!ちなみに国の設定というのは?

中尾 まず大前提として、23時30分スタートのドラマだからLINE内も23時30分の表示で、前述した撮影の方法を取っているので制作も23時30分スタート…とはいきません。ですから、事前に世界の時間を調べ、23時30分の国に設定を合わせて撮影に入るんです。

 どうしてもミスが出ますから、その時点でまた国を探していくんです。「次30分後に再スタートですね」とか。

中尾 「45分後にモルディブが合うね」、みたいな。

 練習を含めると、撮影にはかなり時間を費やしています。撮影だけで2~3日かかりました。とはいえ、世界時計を発見できなかったら、毎週金曜日23時30分に集まって撮影しないといけませんでしたから、それだと放送に間に合わなかったかもしれません(笑)。声優のMAを終えて、「どうしてもここは直したい」という所をさらに1日撮り直しました。

中尾 もう1日夜の国を求めて世界旅行に出る的な(笑)。

―演出面でも、スマホの充電が5%→4%と減っていく部分や、既読も1付いて2、ちょっと間を置いて3といったようなディテールへのこだわりも感じました。

中尾 LINEの画面の中という制限がされている場所ほど、視聴者はディテールに気づきやすいですし、面白がってくれます。ドラマの中でも「充電5%」とツッコミが入っていますが、その前からTwitterで「充電が少ない」というツイートをしてくれている人もいたりもして。視聴者にとっても没入感があって、まるでグループのメンバとして一緒にLINEをやっている1人のような錯覚を覚えるのでしょうね。実際そうしたいと思っていたので、時間がリアルタイムで進んでいく感じもすごく重要だったんです。

 

 

LINEというプラットフォームへのこだわり

―そのような撮影時の大変さを考えると、LINEに似た架空の仕組みを使うなどのアイデアもあったのではと思うのですが。

中尾 繰り返しになってしまいますが、視聴者の没入感を大切にしたかったので、どうしてもLINEのプラットフォームでやりたいというのがありました。

今のコミュニケーション文化の移り変わりの中で、若い人の会話は対面の会話ではなくSNS、LINEを使った会話になっている。彼らにとっての本当の会話は、この画面の中にあるような独特な短いテンポ感のある言い回し。話し言葉でも書き言葉でもない、自分は「吹き出し言葉」と名付けていますが、得も言われぬルール感でのやり取りが今の時代におけるコミュニケーションのリアルな姿かなと思っています。

―以前、中尾さんが手掛けたアドフュージョンドラマ『名探偵コジン~突然コマーシャルドラマ~』でもLINEを使っていますね。

中尾 はい、いち早く一緒にやってくれて、今回はその時の人脈もありました。LINEさんのご担当が同じ方だったので、「すいません、また変わったこと思いついちゃいまして」と連絡したら、「待ってましたよ」と言われたりして(笑)。世の中に影響力のあるコミュニケーションアプリのプラットフォームを使わせていただけるだけで嬉しいですし、使わせていただけたからこそ今回の企画が成立しました。

―オンエア後の反響はいかがでしたか?

中尾 SNSの反響はネガティブに出がちですし、挑戦的なことをやるとそれが更に顕著になりがちです。だから正直どうなるかなという不安もありました。しかし、放送中や放送後にSNSを確認したところ、約9割は「面白い」「また観たい」「斬新だ」と言ってくれていました。時間が同時進行やリアルなSNSの会話のテンポなど、こだわった部分も伝わっていたり、「充電5%だし」みたいなツイートもあって、面白がってくれたんだなと。

あと、やっぱり声優さんを起用させていただいたのが大正解だったと思います。ツイートでものすごい応援してくれましたので。

 「よくこんなことをするな笑」といったコメントもありましたし、「ここ実写かー!」と反応してくれていたり、そういったコメントを見るたびに嬉しさと安堵がこみあげてきました。
SMEさんも「面白い企画でご一緒できてよかった」とおっしゃってくださったり、声優さんたちも「またやりたいです」と興味を持ってくれたり…。また、私個人としても声優さんたちから学んだことが多く、とてもいい経験になりました。

 

 

 

ハイブリッドな人がこれからの時代を回していく

―同作をシリーズ化したいなど、展望はありますか?

中尾 もちろんです!映像でもない朗読でもない、SNSでの会話だけでわーっと進んでいくテンポ感が、30分の尺に丁度適したコンテンツだと感じました。まだいくつかアイデアはありますし、さらに面白くなりそうな手ごたえもあります。

―お二方とも今後、どんなことをしていきたいか、一言ずつお聞かせ下さい。

中尾 今よりも忙しくなってしまうことを承知で、それでもテレビのレギュラーものをやっていきたいですね。一時期、映画のディレクターがCMを作るというムーブメントがありましたが、そんな流れで今度は広告クリエイターが地上波のレギュラー番組をやることで、従来とは異なる着眼点やテンポ感、作り方ができると思います。

同じ曜日、同じ時間に定期発信できるというのはものすごい威力があるので是非やりたいです。ジャンルはドラマでもバラエティーでもなんでもいいですし、自分は真っ白なキャンバスなので、どんな制約でも喜んでやります!という感じですね。

 電通の中で、ずっと好きだったドラマや映画を作ることのできる部署に行けたので、個人的にはやりたいことができていることに感謝していますし、実力以上の機会を与えて頂いていると思っています。電通でもWOWOWでも色々な方に教わったことを、今度は恩返しというか「あいつをあそこに行かせてよかった」と思ってもらえるよう、これからも色々な企画を立ち上げていきたいです。

中尾 橘さんには業界とか人材の橋渡しをしていって欲しいと個人的には思いますね。広告にドラマの方が来るのも新しいものになるし、その逆も当然あって、ドラマ的な視点やノウハウが広告業界に与える影響も多大にあると思います。同じ映像でメシ食っているのに、ジャンルが違うだけでびっくりするぐらいやり方や考え方が違うので。

橘さんのように広告とドラマの両方ができるだとか、そういったハイブリッドな人がこれからの時代を回していくキーパーソンになると思うんです。それで新しい科学反応が起きて魅力的なものを発信できるようになり、ハイブリッドなものが次のスタンダードになっていく。デジタルの催眠術が解けてマスがグイグイ来ると思っているので、その流れを加速させていきたいですね。

 

 

ー本日はありがとうございました。

<了>


中尾  孝年(なかお たかとし)

株式会社電通 CDC クリエーティブ・ディレクター。

1997年に電通入社。主な仕事は江崎グリコ(アイスの実「江口愛実」、ポッキー「デビルニノ」)、塩野義製薬(「もしもブラマヨの吉田がもっと早く皮フ科へ行っていたら…」)など。佐治敬三賞、ACC賞、カンヌ、スパイクスなど国内外で受賞多数。

 

橘 佑香里(たちばな ゆかり)

株式会社電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター D&Pルーム。

高校を卒業後、「ハリウッド映画を撮りたい」という思いでアメリカへ留学。映画学部で映画製作を学び、卒業後、帰国。2011年電通に入社し、メディア部門を経て、現在はコンテンツビジネス・デザイン・センターに在籍。2016~2018年WOWOWに出向し、『本日は、お日柄もよく』『沈黙法廷』『イアリー 見えない顔』などの番組でプロデューサーを担当。

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