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チャレンジの場を生むためのチャレンジ
―若手芸人がテレビに新しい風を吹かせるために必要なことは?
テレビ局が彼らを押し出していくこと。既に実力のある芸人さんはたくさんいるので、あとはテレビ局側の勇気みたいなものは大事だと思います。『霜降りバラエティ』を放送しているテレビ朝日は、最近そういった番組をどんどん作ってくれていて積極的だなという印象があります。若手がチャレンジする場がないとよく言われていますが、番組自体の、編成する立場のチャレンジがなければ難しいですから、テレビ局側にもチャレンジが求められています。深夜番組ですら数字を求められ、ゴールデンにあがることを期待されるという状況がずっと続いていると思うので。あるインタビューでテレビ朝日がチャレンジしていくと言ってくれていて、これはテレビの希望だと感じました。
─テレビの編成や演出等全般に関してはいかがですか?
ワイドショーの枠を一つでも別の番組にあけてくれたらいいのにとは、正直思います(笑)。あと、深夜帯の番組構成でしょうか。深夜はチャレンジする場を作りやすいこともありますし、深夜だと短い番組を作れる。短い番組ならネットでも見やすいですよね。短い深夜番組が、テレビに戻ってくるための入口として、どんどん活用できるといいんじゃないでしょうか。ゴールデンタイムはしょうがないとしても、深夜帯までも同じような番組ばかりという状況は好ましくないと思います。
─コンテンツについてはいかがでしょうか?
正直に言うとゴールデンは似たような番組が多いと感じます。やっぱりマニュアル化されてしまうとそうなってしまいますよね。視聴者のことを考えて、視聴者第一で作ろうとした工夫そのものは、かけがえのない財産だと思います。しかし、一つの成功事例に追随して慢性的に「こう作っていれば大丈夫」となってしまうと、逆にズレてきてしまうのではないでしょうか。もうそろそろ視聴者にアレルギー反応が出てきていると思うので。ある局の成功事例を他局が真似ると局の色も出なくなってしまいますしね。
─ゴールデンに高齢者を狙った番組が増えてきましたね。
戦略の一つでもあるので、それは全然アリだと僕は思っています。テレビ朝日はゴールデンでガチガチに高齢者を狙って成功していて、その一方でプライム帯や深夜帯では若い制作陣も積極的に使ってチャレンジしている。ゴールデンで強いからこそできることなのでしょうが、一番チャレンジしていると思うし、そのバランスが絶妙。多様性がある局のほうが魅力的だと思いますよ。
新しい指標でテレビはどう変わるか
―最近の各テレビ局の動向を見ていて、感じていることはありますか?
前述していますが、勢いを感じているのはやはりテレビ朝日です。単純に視聴率という観点からだけではなく、人材的な面や編成のダイナミックさ、柔軟さという意味でも評価できるなと。バラエティにしてもドラマにしても、30代前半の人がメインで作っていて、しっかり結果も出している。今後5~10年は強いのではないでしょうか。また、『モニタリング』や『金スマ』等、視聴率の高い番組を維持しながら、『水曜日のダウンタウン』をずっと守っているTBSにも希望を感じます。制作や編成のトップに、それを是と判断できる肝がすわった人がいることが重要なのではないかと思います。
―率直に視聴率についてはどうお考えでしょうか?
今日・明日の話ではなく、長いスパンで見ることも必要なのではないかと思います。演出家・プロデューサーの五味一男さんは、毎分の視聴率を元にして番組を作っていたという逸話で知られていますが、取材をしたら「単純な上げ下げだけでは見ていない」と仰っていました。上げ下げを見ながら、お茶の間の人がどういう気持ちでチャンネルを操作しているかを想像して分析するのだそうです。だから、視聴率が下がっているコーナーだからといって、簡単に打ち切ったりすることはなかった。ずっと使い続けていたら、結果的に後から跳ね上がったケースもあったと。数字の‟見方”が大事なのだと思います。すぐに結果に繋がらなくても、続けていれば上がるものもあれば、そうでないものもある。それをいかに見分けるか伺った際の答えは「センス」だったので、真似しようもないとは思うのですが。それを考えると、テレビ局は独自に考案して視聴率以外の指標を作るべきなのではないかとも感じます。指標が変わればコンテンツも自然と変わってくると思うので、時代にマッチした指標が必要ですよね。
─時代に合った指標とは?
たとえばラジオなら、radikoで詳細なデータが取れますよね。テレビだってデジタル化しているわけですから、詳細なデータを取ろうと思えばいくらでも取れるわけです。単純になぜそれをやらないのかという疑問はあります。
─何が原因だとお考えですか?
おそらくCM単価との兼ね合い等があるのでしょう。しかし逆に、詳細なデータを取ればピンポイントでCMを入れられるようになると思うので、積極的に求めていくべきなのではないかと思います。メーカーさん等の協力を得る形にはなると思いますが、できれば各局が足並みを揃えて取り組むことが必要なのではないかと。局同士の協力体制は現状も皆無ではないと思うのですが、トピックスに上がるほどの前例はありません。CS放送開始時にしても各局バラバラでしたから。局同士の狭い戦いをしているのは、もう時代遅れなのではないかと僕は思っています。
─現在、ビデオリサーチが出している視聴率についてお聞かせください。
視聴率が低いと番組が終わっちゃうから嫌だなとは思います(笑)。また、面白い番組の視聴率が思った以上に低いということはあっても、ちゃんと視聴率をとっている番組はやっぱり作り込まれているという印象があります。ただ、ビジネスにより活かせる指標を、視聴率以外のところでテレビ局が独自に作ればいいのではないかと感じています。広告主の方に納得してもらえる、かつ番組の質を反映するような指標ができるといいですよね。
タイムシフト視聴率の導入はいいと思います。CM単価への反映だけでなく、番組の作り方にも変化を及ぼすかもしれません。そもそもテレビ局が大事にしているゴールデン帯をリアルタイムで見れる層って少ないんですよ。リアルタイム視聴率へのこだわりがなくなれば、番組だって奇策を講じる必要がなくなって、番組も見やすくなると思います。いよいよリアルタイム以外の指標が導入されたので、5年、10年後が楽しみですね。
視聴者目線でテレビを愛し続ける
─TVerのような、複数の局がプラットフォームになっているサービスは海外では珍しいのだそうですが、戸部田さんはどう考えていますか?
本当にいいサービスなので、NHKも含めて全ての局がすぐにでも参加したほうがいいし、もっと充実させるべきだと思います。あとTVerを‟テレビ”で見ることができないのはどうして?と思いますね。YouTubeはテレビで見られるのに…。テレビから逃してどうするんだ!と思います。おそらく、それをOKとしたらリアルタイムで見られなくなることを警戒しているのだと思いますが、見てもらうことが先だし、時代遅れだなと感じます。というのも、ネットを扱えない世代の人たちがいなくなるのは時間の問題なんですよ。これからの時代に早く合わせないと。
─テレビの未来に突破口はあると思いますか?
今はネットの勢いがすごいのでネガティブなことばかり言われていますが、ラジオが死なないように、テレビも今後ずっと在るインフラだと思うので、悲観的になることはないと思います。面白い番組はたくさんありますし、作り手の人たちもたくさんいるし。テレビ以外のフィールドから作り手の人もどんどん出てきて、そういう人たちが切磋琢磨していけるのですから。ハード面で便利になれば変わってくると思いますよ。劇的に変わるというよりは、自然な流れとして変化してくると思います。
─今オススメのTV番組や、芸人さん・タレントさんを教えてください。
TBSの『水曜日のダウンタウン』を筆頭に、最近ですとテレビ朝日で今田さんと指原さんがやっている『いまだにファンです!』も好きです。テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』も面白いし、同じくテレビ東京の『チャップリン』やフジテレビの『ネタパレ』は、ネタ番組が減っている昨今、‟見てもらうための工夫”を凝らしてがんばっているなという印象です。ドラマならNHKの夜ドラ枠がイチオシ。面白いですよ!
演者さんだと、ヒップホップ出身のCreepy Nutsはミュージシャンですがバラエティもいけると思うし、日向坂46もオードリーとやっている番組がいい。かわいさだけではない面白さがあります。あとはやっぱり、「お笑い第7世代」の人たちでしょう。
─最後になりますが、お仕事をされる上で最も大事にされていることは何でしょうか?
絶対に譲れないのは「視聴者目線でありたい」ということ。僕はそこが肝だと思っているので、評論家みたいにはなりたくないというか…。そのために、単純に好きなことをモチベーションにすること、変に粗探しをしないことを心がけています。テレビを悲観的に見て、コンプライアンスがどうだと批評するよりも、今も面白いものが作られているということを、‟テレビ好き”の目線でただ語ることが大事。その波がどんどん広がっていけばいいなと思います。今はネットの口コミ等があるので、それができますからね!僕は書き手として、好きなものを好き、こういうものが好きだと、自分の心のままに書いていくつもりです。
─本日はありがとうございました。
<了>
戸部田 誠(とべた まこと)
別名義「てれびのスキマ」として活躍する〝テレビっ子ライター“。1978年生まれ、福岡県出身。一般企業に勤めながら、趣味でテレビ関連の記事を発信するブログを執筆していたところ、水道橋博士の目に止まり、副業としてライター業を始める。以後、ライター業の拡大とともに副業から専業へ。現在は『週刊文春』『週間SPA!』『水道橋博士のメルマ旬報』などで連載中。著書に『タモリ学(2014年/イーストプレス)』『1989年のテレビっ子(2016年/双葉者)』『人生でムダなことばかり、みんなテレビに教わった(2018年/文春文庫)』『全部やれ。』『売れるには理由がある』等がある。