長崎文化放送(NCC)東京支社 業務部副部長 朝長孝至 氏
2018年上期。テレビスポット市場における各放送局の東京支社が軒並み苦戦を強いられる中、前年比ローカル計104.8%の数字を達成し、エリア内シェア25.7%超に輝いたNCC長崎文化放送。開局以来初となる偉業の裏には、スポットデスクとして舵を取る朝長さんの存在がありました。編成や営業の経験を経てスポットデスクに就任し、独自の分析眼で手腕をふるう朝長さんが大切にされている「中長期的ビジョン」「構造解明」といった戦略をお話いただきました。
入社前から縁が深かったNCC
―NCCに入社された経緯をお聞かせください。
きっかけは音楽でした。僕はギターを弾いていて、NCCの番組に出演していたことがあったんです。金曜日の深夜番組で、大学生のときに初めて出演させていただき、その後も時々出ていました。
長崎のどこかのテレビ局に入りたいと思って就職活動をしていたのですが、当社の面接官の方が僕を知っていてくださり、運良く、入社する事が出来ました。
―面白いですね(笑)。入社してすぐに編成に配属されたそうですが、いきなり編成というのは珍しいですよね。
実は入社前にアルバイトでCM班をやっていました。その後2005年に入社して、本社で編成を5年やらせていただきました。デジタルへの切り替えもここで経験しています。
この5年間で編成の基礎を相当叩き込まれたと感じています。また、NCCに勢いがある時期でもありましたので、テレ朝系列でいうところの『三冠』を取ることができました。
その後は転勤命令があって、東京支社で2年間ネットワーク担当になりました。ここで番組制作等の貴重な経験もしました。
さらに営業に移って5年間、電通を担当させていただきました。2014年に担当代理店の売上でエリア1位、年度1位を取りました。NCC開局初でしたし、メイン担当として、非常に誇らしく思っています。
―その後、現在のポジションに?
はい。スポットデスクに就いてから1年9ヶ月になります。スポットデスクはCM料金の見積もりや案の作成、CM放送枠の組み立て等を行いますが、編成と営業の経験が今の仕事につながっていると感じています。“営業が困るスポットデスクにだけはなりたくない”と思って、日々の業務に臨んでいます。
大胆な発想と塩梅が大切
―編成にいた頃のエピソードや、スポットデスクの仕事にどう活きているかを教えてください。
僕は考えることが好きなので、いろいろ試行錯誤をしていましたね。理数系ではないのですが数字は嫌いじゃないので、視聴率を細かく分析して編成を組んでいました。
一例を挙げると、午後帯の2時間番組の場合、終盤に向かうほど在宅率の向上とともに数字が上がってくるというのが定説なので、番組の最後にゴールデンの番組PR等をするやり方が主流です。しかし、そこよりもっと狙い目の時間帯を発見したので、そこに編成枠を設けるなどしました。あとは、深夜25時台以降と朝の視聴率の親和性に着目したり、2時間番組におけるCM放映時間の配分に極端な山を作ったり。これは本来タブーとされているのですが、視聴率が分断される要因となるミニ枠の番組を、その前枠のニュース番組とまとめたりもしましたね。こうした経験が、営業やスポットデスクの仕事に活きています。
―全てご自身で考えられたのでしょうか。
編成力の素晴らしさで名高いKBCさんをはじめとした系列局に倣ったり、それを踏まえて自分で考えたりしながらですね。空き枠もそこそこあったので(笑)、試せることも多くて面白かったですね。
―従来とは異なるやり方でも、果敢に試されていたのですね。
これは私個人の嗜好性なのですが、「こうあるべきだ」という枠にとらわれるのが好きじゃないんですよね。たとえばローカルの単発番組は通常55分で制作しますが、55分番組だとCMの枠は7分くらいです。でも、番組の尺を少し伸ばして85分にすることで、+3分くらいCM枠を追加できるんです。30秒でCM枠を売る場合、3分増えたら6口増えますので、CM1本あたりの単価が低くても売上が積みあがる。一方で、番組の尺が30分増えても制作費はそれほど変わらないので、カロリーをかけずに、売上を立てやすくなるんですよね。
―他にも、「こうあるべき」という枠を壊した方がいいとお感じのことはあるのでしょうか?
売上を求めてテレショップ枠を多く設けすぎることも、先々を考えるとあまり良くないと思っています。長崎は毎月第一月曜日から2週間だけ視聴率調査を行う、いわゆる『24週調査地区』ですから、週によって編成が変わることも珍しくありません。しかし、視聴者目線に立つと、このやり方は本当は好ましくないんですよね。
視聴者目線でそうですし、局としても、自身の体質を筋肉質なものにしていくことが、長い目で見たらきっと必要だと思うのです。
ただ、ここは急にテコ入れをすると弊害も出てくるので、塩梅を考えながら中長期的な見方をして、少しずつ変えていくべき部分だと認識しています。
―混乱を招く事が、朝長さんの本意ではないですからね。
そうですね。徐々にそういう方向に持っていければいいかなという感じで思っています。局は枠を余らせすぎても良くないけれども、詰め込みすぎると融通が利かなくなります。そこで極端にならずに、いい塩梅で編成を組んでいくのが理想的ですね。
スポットデスクに就いてからも、目先のことだけを考えて闇雲に安くするのではなく、5年後、10年後のことを考えてやっていくようにしています。
目標は高く、嗅覚を研ぎ澄ませて
―冒頭でもお話のありました、東京支社での営業時代に担当代理店で売上1位を獲得した背景をお聞かせください。
2014年はテレ朝系が好調でしたし、僕よりもっと優秀な営業マンもたくさんいたので、運が良かったというのがベースにあります。
―そのような恵まれた環境下にありつつも、さらに朝長さんなりの戦略もあったのでしょうか。
戦略の根底には、上司から学んだ営業マインドがありました。「前年比100%に到達したいなら、最初から120%を目標にしなければならない」と叩き込まれてきたのです。100%ギリギリのラインを目指していたら、せいぜい80~90%程度に仕上がり、数字は追いかけなかったでしょう。
でも、前年比120%を目標にしていたら、1%でも可能性がある見積案件を追いかけていきますよね。「2ヶ月前に前年比80%くらいに到達していればいい」なんて思う人もいます。しかしこれだと、最初から諦めているのと同じで、戦略というより精神論かもしれませんが、これはとても大切なことだと思います。
―そのマインドを礎にして、具体的にはどのようなことを実践されていましたか。
僕たちの規模で担当する売上の数字というと3千万~4千万円くらいですが、その構造を解明することから始めました。たとえば、単純に季節ごとに跳ね上がる数字を把握することもその一つです。12月だったら携帯キャリアが活況になってくるとか、2~3月だと教育系や不動産が動き出すとか、そういう事前の見立てがあるかどうかで随分違います。逆に、1月と8月は、谷の時期というか、どこも活況ではない時期にあたるのですが、この時期はちょっとサービスを上乗せしようかなというタイミングですよね。
このように、前年の実績等を参考にしながら季節ごとの構造や大きな数字を把握することで、体が勝手に動いていきます。なので、大きな構造はそらで言えるくらい頭に叩き込みました。
その上で、流行等に左右される直近の数字も追いかけていくイメージです。流行りの企業が来たら競合の出稿も期待できますしね。アンテナを張って情報を取り、その先は想像をめぐらせて1年間の構造を組み立てます。これは、スポットデスクとして今の営業マンたちにも常々伝えていることです。
―「構造」を把握すること、そして先の展開を事前に想像しておくことが重要なのですね。
営業は嗅覚を研ぎ澄ませることが大切です。季節モノではなくても、なぜか根付いている傾向のようなものもありますし。
CMを出しているクライアントの数は大体330で、これくらいなら人間はけっこう把握できます。新陳代謝率を計算すると25~28%、つまり入れ替わるのは1年ごとに3割程度なんですよ。さらに、330のうち約45%はナショナルクライアントなので、ここの動向は絶対に把握しておくべきです。
大きな出稿チャンスを逃さないため、また小さな出稿に労力をかけすぎないためにも、全体を把握した上での力のかけどころのサジ加減が鍵になってきます。
諦めずに考え続けることで難しい構造も見えてくる
―編成・営業時代のお話を伺って、朝長さんはマクロ的に物事を捉えて、戦略を組み立てたりすることに非常に秀でていると感じました。もともと、そういったことがお好きな性分だったのですか。
僕は瞬間的に考えることがあまり得意ではないのです。ただ、ずっと考え続けることだけは少しだけ得意かもしれないと思っています。
NCC入社のきっかけとなった音楽にしても、考えてみるともう20年以上が経ちます。長く取り組むのが僕のスタンスなのかもしれないですね。
―音楽における「構造」なども探求されたのでしょうか。
音楽理論は探求しました。僕はギターから弾き始めたのですが、「音楽理論を習得するには、ピアノをやらないと話にならないな」と思って、大学生のときにピアノを習ったんですよ、ちゃんと先生について(笑)。
音楽理論は、おそらくピアノじゃないと理解しづらいと思うんですよね。というのは、ピアノの白鍵と黒鍵の並びこそが音楽理論なんです。
ピアノはドレミファソラシドが白鍵でシンプルに並んでいて、白鍵だけを順番に弾いていくと、自然ときれいな音が鳴りますよね。あれはなぜかというと、全音・全音・半音・全音・全音・全音・半音という順番に弾いているからに他なりません。それが少しずれて黒鍵が混ざってくると、ちょっと暗い音楽に聞こえたりします。この全音と半音の組み立て方が音楽理論そのものなんですよね。