HOME テレビ 【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~劇場公開と配信の間に潜む思惑~
2019.1.10

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~劇場公開と配信の間に潜む思惑~

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小西未来 (こにし みらい)
ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」の第2弾の公開を控える。


【 小西未来 のハリウッドのいま、日本のミライ】 第7回

2018年12月14日、Netflixは「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン監督の新作「ROMA/ローマ」の世界配信をスタートさせた。キュアロン監督の子供時代を反映させた半自伝的なドラマで、1970年代のメキシコシティを舞台に、中流家庭のメイドとして働く女性の日常生活を流麗に描いた傑作だ。第75回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞している。

 

同社初のアカデミー賞受賞の可能性が高まるなか、Netflixは自らが課したルールを捨て去ることにした。

アメリカでは新作映画が封切られてから、ブルーレイやデジタル配信といったホームビデオが発売開始となるまでの期間をTheatrical window(劇場期間)と呼ぶ。その期間をなるべく延ばして劇場に多くの観客を呼び込みたい劇場主側と、宣伝効果が残っているうちにホームビデオを販売したい配給側とのあいだで常に葛藤があり、現在は90日間で落ち着いている。

しかし、新参者のNetflixはこの業界ルールを無視。2015年、キャリー・フクナガ監督の「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の劇場公開と世界配信を同日に行ったのだ。会員の月額使用料からこれらの映画が作られているのだから、会員が最初に観るべきという考えに基づいたもので、映画館の業界団体である全米劇場主協会(NATO)は、「映画興行に対する甚大なる脅威」と非難した。

実際、Netflixは映画興行では儲けを出していなかったが、真の目的はアカデミー賞対策にあるため(出品資格を得るためには、ロサンゼルスで7日以上連続で商業上映される必要がある)、これまで強気な姿勢を維持してきた。

 

しかし、2018年の下半期になっていきなり態度を軟化させた。「ROMA/ローマ」の劇場公開を、配信開始より3週間早い11月21日にスタート。また、コーエン兄弟の「バスターのバラード」と、スサンネ・ビア監督の「バード・ボックス」もそれぞれ配信開始の1週間前に劇場公開を実施している。

今回の決定には、「ROMA/ローマ」のキュアロン監督の意向が影響しているようだ。同作は巨大センサーを搭載したARRI ALEXA 65というデジタルカメラで撮影されている。全編モノクロではあるものの、デジタルだからこその美しい階調が見所で、さらにキュアロン監督自らが操るカメラワークが瞑想的だ。監督が映画館の大画面で満喫して欲しいと望むのは当然だろう。

 

では、なぜNetflixはその要求を呑んだのだろうか?
公式発表がないためその理由は想像するしかないのだが、クリエイターを囲い込むためではないかと思う。オリジナルコンテンツを生み出すためには、優れたクリエイターが欠かせない。しかし、Appleやウォルト・ディズニーがストリーミングに参戦し、コンテンツ獲得競争が過熱化したため、クリエイターにとってよりよい環境を用意する必要が出てきたのではないだろうか。映画畑のクリエイターにとってみれば、短期間でも従来通り劇場で先行公開されることが約束されるのは嬉しいはずだ。

「ROMA/ローマ」の劇場先行公開は、アカデミー賞対策としてもプラスに作用するはずだ。ハリウッドでは慣習をつぎつぎと破るNetflixを破壊者(disruptor)として警戒する人が少なくない。しかし、今回、柔軟な姿勢を見せたことで、否定的な感情を抱いていたアカデミー会員も態度を軟化させるはずだ。「ROMA/ローマ」のアカデミー賞受賞の可能性は確実にアップしている。

さらに、「ROMA/ローマ」の劇場先行公開は、アメリカの映画興行全体に影響を及ぼすかもしれない。Netflixの成功を理由に、配給会社がNATOにTheatrical windowの大幅短縮を求めるシナリオが考えられるからだ。噂によれば、AT&Tとコムキャストという米通信大手を親会社に持つワーナー・ブラザースとユニバーサルがTheatrical windowの短縮を画策しているという。20世紀フォックスを買収したウォルト・ディズニーが彼らに同調すれば、交渉を有利に進めることができそうだ。

 

※「ROMA/ローマ」はNetflixで配信中。

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