トロント国際映画祭2018取材【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜映画の"いま"を追い求め、世界中を巡る取材の旅へ〜

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トロント国際映画祭2018取材【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜映画の

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】 第6回

当サイト「Synapse」の連載「小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ」でもお馴染みの小西さん。ハリウッド外国人記者協会所属の映画ライターとして、数多くの映画やテレビドラマの取材活動に、世界中を飛び回る忙しい毎日を送られています。今回は、そんな小西さんの近況をお聞きしながら、トロント国際映画祭の話題や、これから本格化する賞レース、小西さん自身が選考するゴールデングローブ賞の裏側について、ざっくばらんに語っていただきました。

賞レースの行方を占うトロント国際映画祭

―小西さんには「Synapse」の連載で、欧米の映画やテレビドラマについて最新の記事を連載していただいています。そこで今回は、小西さんが普段どのように映画やテレビドラマの取材活動をされているのかをお聞きできればと思いますので、よろしくお願いします。

こちらこそ、よろしくお願いします。

―まず、ここ最近で印象に残った取材活動はありますか?

なんと言っても9月6日〜16日にカナダのトロントで開催された「第43回トロント国際映画祭」ですね。

―不勉強で恐縮ですが、それは大きな映画祭なのですか?

日本で映画祭と言うと、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンで行われる世界三大映画祭が有名で、トロント国際映画祭はあまり知られていませんが、アカデミー賞を頂点とする今後の賞レースを占う映画祭として、近年では最も注目されている映画祭です。

「TIFF(ティフ)」の愛称で知られるトロント国際映画祭は、1976 年に始まった当初こそ地味な映画祭でしたが、現在では世界 60 カ国以上から選ばれた 300 本以上の作品が上映され、来場客数ではベルリン、カンヌに次ぐ規模に成長しています。世界初公開(ワールドプレミア)となる映画も数多く、TIFF で成功することが、その後の映画の興行を大きく左右するとまで言われる重要な映画祭なんです。

―そこまで注目されるのには、何か理由があるのですか?

TIFFがなぜ重要かと言うと、アカデミー賞の前哨戦として位置付けられるからで、TIFFの最高賞である「The Grolsch People's Choice Award(観客賞)」を獲得した作品が、その後のアカデミー賞のオスカー候補のトップランナーとなるからなんです。

TIFFが特徴的なのは、カンヌやヴェネツィアのように少数の審査員が受賞作を選ぶのではなく、映画祭に参加した一般の観客の投票によって最高賞が決まる点です。少数の審査員が選ぶ場合、審査員の嗜好によって受賞結果が大きく左右されますし、毎年、審査員が代わるので年ごとに受賞作品の傾向もバラバラになります。しかし、TIFFの場合は一般の観客が選ぶので、比較的世間一般の評価に近い結果になりやすいと言えます。

実際、カンヌやヴェネツィアの受賞作品はいわゆる作家系の作品が主流で、一般の観客には難しいものが多く、商業面で大成功するような作品はあまりありません。その点、TIFFで観客賞を獲得する作品は、芸術性と商業性のバランスが取れた作品が多いと言われています。

―近年は、どんな作品が観客賞を受賞しているのですか?

2008年の「スラムドッグ$ミリオネア」や2010年の「英国王のスピーチ」、2013年の「それでも夜は明ける」、2016年の「ラ・ラ・ランド」などです。

―なるほど、やはり後にアカデミー賞で数多くのオスカーを獲得した作品ばかりですね。

アカデミー賞はご存知の通り、映画の賞としては歴史も古く、最も有名で権威のあるものです。そのアカデミー賞は、授賞式前年の1~12月の間に公開された作品が対象となるのですが、そうなるとどうしてもその年の後半に公開した作品のほうが印象に残りやすいということがあります。ですから、アカデミー賞を狙う作品は10~12月に公開することが多いんです。

そして、そうした作品のお披露目(プレミア公開)の場として、9月に開催されるTIFFは時期的にもちょうどタイミングが合うんですね。

もちろん、賞レースを占う映画祭はTIFF以外にもさまざまあって、8~9月にコロラドで開催される「テルライド映画祭」をはじめ、年末にかけてはNY映画批評家協会賞やLA映画批評家協会賞などの全米各地の批評家が選ぶ賞がありますし、年が明けてから発表されるゴールデングローブ賞の結果も重要です。さらに、2月には撮影や脚本、俳優など映画製作の部門ごとに各分野の組合員が選ぶ賞があって、いよいよアカデミー賞の発表という流れになります。

映画祭の取材の裏側

―今年のTIFFは、取材されてみていかがでしたか?

毎日忙しくしているので、もうあまり覚えていないけど...(笑)。
7~8日間滞在しましたが、とにかく毎日取材ラッシュでした。

―映画祭の雰囲気はいかがでしたか?

TIFFは開催地がアメリカに近いので、各映画に出演している俳優たちや監督などが集まりやすいのが特徴です。ですから、トロントと言うとなんだか地味に感じますが、映画祭自体はいわゆるセレブがたくさん来て、とても華やかでしたよ。

それと、カンヌやヴェネツィアなどの避暑地で開催される映画祭とは違って、TIFFは街中で行われるので、街が映画祭一色になります。熱心な一般の映画ファンがチケットを手に入れるためにそこら中で並んでいたり、活気があふれています。

―今年のTIFFでは、コレといった作品に出会えましたか?

毎年これはという作品が見つかっていたのですが、今年は残念ながらありませんでしたね。

ただ、私が帰った後に上映されたピーター・ファレリー監督の「Green Book(原題)」という、割と地味な映画が今年の観客賞を受賞したのですが、記者の間でも評判がいいようで、今後の賞レースの主役になりそうですね。

―映画祭ではどれぐらいの数の作品を観るのですか?

実は作品自体は前もって映画祭の前に観ているんです。映画会社も私たちが忙しいのはよく知っているので、事前に記者向けの試写会を開いてくれます。

今年で言うとディミアン・チャゼル監督の「ファースト・マン」のように事前に試写で観ることができなかった映画に関しては、できるだけ映画祭で観るようにしていますが、映画祭の期間中は作品を観るというよりも、ひたすら取材の毎日です。

映画祭期間中は私が所属しているハリウッド外国人記者協会が主催する記者会見が朝から晩まで開催されていて、作品ごとに監督やキャストなどの取材に明け暮れる感じです。

―取材後はすぐに記事にするのですか?

映画祭で賞を狙う作品は、日本ではアメリカよりも遅れて公開される作品が多いので、記事にするのはだいぶ先ですね。ちなみに取材した中で、既に日本公開が決まっているのはレディー・ガガ主演の「アリー/スター誕生」で、12月に公開予定ですね。

―えっ!それでは レディー・ガガにも取材されたのですか?

ええ(笑)。思ったよりもすごく謙虚な人で、「まさか映画で主演するなんて夢にも思わなかった」と涙ながらに話していましたよ。彼女はアカデミー賞でも主演女優賞にノミネートされるんじゃないかと思います。

―レディー・ガガに会えるなんてうらやましいですね(笑)。ちなみに、TIFFの後で印象に残っている取材はありますか?

TIFFでの取材後、10月にロンドンに行って、「ワンダーウーマン2(仮題)」のセット取材をしたのが印象に残っていますが、本当に毎日のように取材と移動の繰り返しで、数カ月前のことが遠い昔の出来事のように感じます(笑)。


ハリウッド外国人記者協会の仕事とは

―お聞きしていますと、取材で世界中を飛び回っている感じですね。

そうですね。ちなみに最近個人的に最も印象に残ったのは、取材のための移動で乗った飛行機が2週間のうちに立て続けに2回も緊急着陸したこと。本当に怖い思いをしました。映画と全然関係ない話ですけど(笑)。

―それだけ移動で飛行機に乗る機会が多いということですよね。ちなみに移動にかかる費用などはどうされているのですか?

映画会社とハリウッド外国人記者協会が折半します。協会が各所属記者の活動費を出してくれているカタチですね。

―なるほど。そもそもハリウッド外国人記者協会とはどんな団体なのですか?

私が所属しているハリウッド外国人記者協会(The Hollywood Foreign Press Association)は、通称「HFPA」と言うのですが、その名の通りハリウッドで活動する外国人記者(外国メディアのために働いている記者であればアメリカ人でも所属できる)が集まった団体で、1940年代に誕生しました。

現在、一般的にはアカデミー賞の前哨戦となる「ゴールデングローブ賞」の選考を行う団体として認知されていて、映画会社や監督、俳優からも一目置かれるジャーナリスト集団となっています。私も入会して初めてわかりましたが、HFPAは他の一般の記者よりもかなり厚遇されていて、記者会見の時間も他の記者よりも長く設けてもらえますし、監督やキャストとの距離も近く、とても取材しやすい環境を作ってくれています。

―現在、日本人は何人いらっしゃるのですか?

私以外に2人います。HFPAの取材は年間200~300本程あり、基本的に全員が参加しているので、お互いしょっちゅう顔を合わせていますよ。

ちなみに、現在は映画よりもテレビドラマの取材がすごく増えています。アメリカではいまは年間500本以上のテレビドラマが作られていて、ほっといても視聴率が取れる人気作以外の作品の場合、ゴールデングローブ賞を取ることで箔をつけたいという制作者側の思惑もあるため、HFPAにおけるテレビドラマ取材の数はどんどん増えています。

―先ほどお話しいただいたトロント国際映画祭以外に、HFPA所属の記者として、毎年決まって参加される映画祭やイベントはありますか?

そうですね、まず挙げられるのが7月に開催される「サンディエゴ・コミコン」です。コミコンの正式名称はコミック・コンベンションと言い、漫画や映画、ドラマ、ゲームなどのエンターテインメントの熱心なファンが集うイベントです。サンディエゴで行われるコミコンは、その中でも世界最初で最大のものです。

コミコンが映画のプロモーションの場として注目を集めるようになったのは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズからで、それ以来、「X-MEN」シリーズや「アベンジャーズ」シリーズなどのアメコミ原作の映画、「スター・ウォーズ」や「スター・トレック」といったSFやファンタジーなどのジャンル映画のプロモーションの場として、大きなポジションを占めるようになりました。

―なるほど。映画祭とは違った客層が集まるイベントなんですね。

ほかにも、1月に行われるインディペンデント作品を対象とする「サンダンス映画祭」にも毎年参加していますし、少し毛色は違いますが、4月に開催される「シネマコン」にも必ず参加します。

毎年ラスベガスで開催される「シネマコン」は、全米劇場所有者協会(NATO)が主催するコンベンションで、ここでは各映画会社によるラインアップ発表会が開かれています。このプレゼンテーションによって劇場公開館数が決まるので、映画会社にとって非常に重要な場所です。
まあ、これは映画祭とは違って、映画をビジネスとして扱う人々の集まりです。会場もラスベガスなので、なんとなくお金の匂いが強いイベントです(笑)。


ゴールデングローブ賞の選考と発表

―1年を通じてさまざまな映画祭やイベントに参加されている小西さんですが、やはり最大のイベントは「ゴールデングローブ賞」でしょうか。

そうですね。やはり個人的にも、HFPAとしても、最大の山場は「ゴールデングローブ賞」ということになりますね。HFPAの会員の投票によって選ばれますので。

いまの時期になると、12月初頭に締め切られるノミネート候補を絞り込む作業に入ります。これがなかなか大変で、分厚い選考リストを眺めては、あれこれと考える日々が続きます。ゴールデングローブ賞は映画部門とテレビ部門(ドラマ)の2つあって、各賞の数も多いのでノミネート作品を選ぶだけでもひと苦労なんです。

その後、12月の10日前後にノミネート作品が正式に決まると、いよいよ賞の発表会に向けての準備に入ります。

―発表会の準備までHFPAのメンバーがするのですか?

そうです。当日のテレビ放映に関する技術的なことなどは別ですが、チケットの印刷の手配から当日のプレゼンターの人選、受賞者の誘導、当日のお土産用のギフトバッグ選びまで、全部自分たちで運営しています。まさに手作り感満載で、まるで派手な学園祭みたいですよ(笑)。

―それは大変ですね。

ゴールデングローブ賞の発表会は、アカデミー賞のようなシアター形式ではなく、結婚披露宴のように丸テーブルを囲んでカジュアルな雰囲気でやるのですが、誰をどこに座らせるかなどの配置を考えるだけでも大変です。誰と誰は元カレ、元カノなのでNGだとか、あの2人はマネージャーが同じだから仲がいいだろうとか、そんなことまで気を回さないといけないんですよ(笑)。

―もうそろそろ準備に入る頃ですか?

そうですね、本格的な準備はクリスマスが終わってからですが、メンバーもだんだんと本番に向けてソワソワし始める頃ですね。

運営には希望者を募って20~30人のメンバーが関わっていますが、毎年本番が終わるとみんな緊張が解けてホッとしているようです。

―2019年のゴールデングローブ賞の発表が楽しみになりました!貴重なお話、ありがとうございました。


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