HOME テレビ 【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~ 世界を席巻するアメリカのドラマ制作の強みとは?vol.2 ~
2018.9.26

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】~ 世界を席巻するアメリカのドラマ制作の強みとは?vol.2 ~

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小西 未来(こにし みらい)

ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。
ドキュメンタリー映画「カンパイ! 世界が恋する日本酒」の第2弾「カンパイ! 日本酒に恋した女たち」の公開を控える。


前回の記事はこちら(vol.1)

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】 第5回 vol.2

 

日本のテレビドラマ制作の課題

―小西さんが考える日本のテレビドラマ制作の課題について教えてください。

日本とアメリカでは、ドラマを作り込むその姿勢が違っているのではないかと思います。アメリカのテレビドラマ制作では、まさに分単位で視聴者を惹きつける工夫を徹底していて、ストーリーに無駄がなく、視聴者もドラマの世界に没入できるような作り方をしています。その点で、日本のテレビドラマのストーリーテリングは冗長な感じを受けますし、それに慣れた視聴者も、いわゆる「ながら視聴」と言われるように、何となく見ていることが多いように感じます。

―視聴者を物語に惹きつける技法が違うということですね。

そうですね。アメリカでは、ストーリーテリングに関するありとあらゆる技法が確立されていて、作り手はそれを踏まえつつ、いかに独自性を出すかを考えています。

こう言うと、ルールに則った無味乾燥で独創性のないドラマになると思われがちですが、それは違う。例えば、野球だってルールがあるから面白いんであって。日本のテレビドラマではそのルールがまだ十分に確立されていないので、あえてそれを破る面白みも少ないと思います。よく「野球」と「ベースボール」の違いが言われますが、テレビドラマ制作においても同じように、日本とアメリカではストーリーに対する考え方が大きく違っていますね。

でも、それは日本のクリエイターの力量が劣っているのではなく、環境のせいが大きいのではないでしょうか。というのも、日本のドラマはあくまで日本の国内のマーケットだけで勝負していて、世界的な競争にさらされていないので、どうしてもガラパゴス化しやすい。

アメリカでは、年間500本以上のドラマが制作されていて、その中で生き残るのはほんの僅かといった厳しい環境の中で競争しています。しかも、マーケットはアメリカ国内だけではなく、全世界といっても過言ではありません。実際、ヨーロッパなんかに行ってホテルでテレビをつけると、やっているのはほとんどアメリカのテレビドラマばかりです(笑)。

一方で、日本ではアメリカのテレビドラマは十分に見られているとは言えません。現在、HuluやNetflix、Amazonプライムなどのストリーミング配信では、数多くのアメリカのテレビドラマを見ることができますが、日本では他の国に比べて決して視聴者は多くありません。日本国内のテレビドラマで満足してしまっている状態です。

そうした状況で、海外にも売れるテレビドラマを作りだすのは、今のままでは難しいと言わざるをえないでしょう。

ただし、日本のドラマは設定が奇抜で面白いアイデアのものも多いので、リメイク権をアメリカに売って、アメリカ独自のストーリーテリングでドラマ制作を行うといった方式はあるかもしれませんね。実際、日本のバラエティ番組はすでに多くの番組がアメリカに売られていますしね。

 

 

ストーリーテリングのノウハウを学ぶためには

―ストーリーテリングの技法を学ぶためにはどうすればよいのでしょうか。

アメリカには専門のスクールもたくさんありますし、脚本作りのノウハウを教えてくれる書籍なんかも数多く出版されているので、学ぼうと思えば誰でも学べる環境にあります。

例えば、最近面白いと思ったのは「MasterClass」というオンラインの教育サイト。このサイトでは、各界の一流の著名人が個人レッスンをしてくれるサービスがあって、そこでは先ほど話題になったアーロン・ソーキンが脚本を教えていたり、映画監督のロン・ハワードやマーティン・スコセッシが映画作りを教えたりしています。映画やドラマといった分野だけじゃなくて、ほかにもテニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアムズや建築家のフランク・ゲーリーなど、さまざまなジャンルの著名人が、自身のノウハウやメソッドを丁寧に教えてくれるとてもユニークなサービスです。

ちなみに、私も早速年間会員になりました(笑)。

―その分野の達人が知識や経験を惜しげもなく教えてくれるんですね。

アメリカはそういった意味ですごくオープンですよね。日本だと才能の有無だけがクローズアップされがちですが、アメリカでは成功するためにはセオリーがあって、仮に自分自身に才能がなくても、そのセオリーを学ぶことができるという考えなんです。

美味しい料理を作るにはレシピを知っておかなければならないのと同様に、より良い物語にするためにはストーリーテリングに関する最低限のセオリーを学ぶ必要があるんですね。

―その点でアメリカと比べて日本は少し閉鎖的なのかもしれませんね。

確かにそうかもしれません。日本の制作現場はどちらかというと徒弟制度的な雰囲気が根強くて、各スタッフのノウハウは師匠から弟子へと伝授されるものという考えが未だに残っているように思います。ですから、より良いものを作るために、たとえ現場の下っ端のスタッフでも自由に意見が言えるような雰囲気ではないですよね。もちろん、すべての現場がそうではないと思いますが…。

日本の制作現場も、もっと自由に意見が言えて、誰のアイデアでも採用されるような環境にしていく必要があると思います。映画監督のロン・ハワードも、さきほど紹介した「MasterClass」で、「スタッフを選ぶ際には自分より才能のある人を選べ」と言っていますが、まさにその通りですよね。

 

ストーリーテリングの基本とは

―ストーリーテリングの基本はあるのですか。

そうですね。一番の基本は、主人公に目的や成りたいものがあり、それを阻むものがあって葛藤が生まれるというのが王道のパターンだと思います。

埋もれた財宝を見つける。恋人を作る。事件を解決する…。何らかの目的を持って行動する主人公と、それを拒む障害物があって、ドラマは生まれます。目的と障害さえあれば一応物語は成立するのですが、ほかにも重要なポイントはたくさんあります。

例えば「トイ・ストーリー」や「インクレディブル・ファミリー」などで有名なピクサーのジョン・ラセターは、「観客が主人公に共感できるようにすること」が大切だと言っています。じゃあ、どうすれば主人公に共感できるかというと、最初に主人公が成りたいもの、望むものがあるけど、その目的はなかなか達成することができないという王道のパターンを設定するとき、主人公がなかなか目的を達することができないのは、主人公自身に足りないもの、欠点があるからという設定にします。そして、そのことに主人公自身が気付いて、自身の欠点を克服し、成長する姿を見せる…。観客は主人公が映画を通じて変わっていくその姿にこそ共感し、感動するのだと言っています。実際にピクサーの映画は、ほとんどこうした構成になっています。

―なるほど、しっかりとしたストーリーテリングのセオリーがあるわけですね。

そうです。そして、ピクサーにも先ほど紹介したような「ライターズルーム」があって、こうしたストーリーテリングのセオリーに基づいて、どのような物語にするのかを逐一話し合っているのです。その点では、映画製作もテレビドラマの制作とまったく同じですね。

ただ、ピクサーの場合は「ライターズルーム」で監督や脚本家が話し合うだけでなく、さらに「ブレイントラスト」というピクサーのトップの人材が集まるチームがあって、製作途中の映画を定期的にチェックする機能を設けています。

また、アメリカのドラマや映画は、公開前に観客に見てもらって意見や評価を確かめるスニークプレビュー(覆面試写会)をすることが多く、その結果を受けて最終的にストーリーを変更する場合も少なくありません。このように、ひとつの作品が完成するまでにはさまざまなハードルがあります。

もちろん、これをやりすぎると当たり障りのない凡庸な作品になる場合もあります。また、スニークプレビューの結果、監督の望まない修正を余儀なくされるケースもあって、たまに問題になっていますよね。映画でよくある「ディレクターズカット版」というのは、そうした修正前の監督が考える理想のバージョンのことです。

でも、往々にしてディレクターズカット版は、一般の公開版と比べて冗長で、面白くないことが多いのも事実(笑)。監督としては不満でしょうが、やはりできるだけ多く厳しい目を経て完成したものの方が、観客にとっては魅力的だということではないかと思いますね。

 

エンターテインメントを極める

―今回のお話をお聞きして、アメリカではテレビドラマや映画はあくまでエンターテインメントという考えが徹底しているなと感じました。

もちろん、ドラマ制作に携わる人は脚本家にしろ、監督にしろ、あくまで表現者ですから、自身の作家性をできるだけ表現したいと考えているはずです。しかし、個性を表現する際にもルールや制約は大事で、自由すぎるとかえって自己満足に陥りがちです。ルールや制約があるからこそ、クリエイティブになれるという側面も大きいと思います。

―日本では最近、製作委員会方式と呼ばれる製作体制が増えていますが…。

「共同作業やチームワークを重視すること」と「委員会方式の作品製作」とは似ているようで大きく違います。

日本でもアメリカでも、いわゆる委員会方式によって製作されたテレビドラマや映画は、リスクを避けて安全なものにする傾向にあるので、凡庸なものになりがちですよね。

アメリカのドラマ制作が委員会方式と異なるのは、ショーランナーの「こんな作品を創りたい」という想いが強くあることです。制作過程ではいろんな人の意見を取り入れるけど、最終的に「これでいく」と判断するのはショーランナーなので、どれだけ多くの人の意見を反映させても、その人のカラーや作家性が必ず出るんです。その意味で、エンターテインメントとしても、作家の個性を反映した作品としても優れたものが生まれやすいのです。

その証拠に、これまで映画はテレビドラマに比べて作家性が強いとされてきましたが、最近では映画で成功している人はテレビドラマ出身の人が増えてきています。それはなぜかというと、映画でもテレビドラマと同じように「ライターズルーム」を設けて、複数の脚本家がチームを組んでストーリーを作ることが主流になってきているからです。

アーロン・ソーキンやJ.J.エイブラムス、ジョス・ウェドンのようなテレビドラマ出身の人は、強い作家性を持ちながらも、共同作業に慣れているので、映画界でも重宝されているのです。

―今回の小西さんのお話で、アメリカのテレビドラマ制作の強みがよく分かりました。ところで、小西さんが最近見た日本の作品でこれは良かったと思ったものはありますか。

新海 誠監督のアニメ映画「君の名は。」は面白かったです(笑)。人格の入れ替わりというありふれたパターンに、異なる時間軸というSF要素を入れたアイデアはスゴイ。アメリカでのリメイク権をJ.J.エイブラムスが買ったようなので今から楽しみですね。

―小西さんには今後も「Synapse」でご連載していただくので、今回の話ではまだ十分にお聞きできなかったストーリーテリングの具体的な技法について紹介していただければと思います!

分かりました。ストーリーテリングの技法はジャンルによってもいろいろとあるので確かに面白いと思います。いろいろとネタを仕込んでおきますよ(笑)。

―よろしくお願いします(笑)。本日は有難うございました。

こちらこそ有難うございました。

(了)

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