『KIZU‐傷‐』の映像化 「Sharp Objects」が放送開始!【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜 映画スターがこぞってテレビドラマに進出するようになった理由 〜

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『KIZU‐傷‐』の映像化 「Sharp Objects」が放送開始!【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】〜 映画スターがこぞってテレビドラマに進出するようになった理由 〜

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】 第4回

米有料チャンネルのHBOが、新ドラマ「Sharp Objects」の放送を開始した。『ゴーン・ガール』のギリアン・フリンのデビュー小説『KIZU‐傷‐』の映像化で、殺人事件を取材するために故郷に戻ってきた新聞記者が、自らの過去と向き合いながら犯人を捜していくサスペンス。原作同様、ストーリー展開が遅いという指摘はあるものの、「ダラス・バイヤーズクラブ」や「わたしに会うまでの1600キロ」のジャン=マルク・ヴァレ監督をはじめとする映画界のトップが手がけた同ドラマに対する評価は高く、とくにヒロインを演じたエイミー・アダムスの演技が絶賛されている。アダムスといえば、「魔法にかけられて」でブレイクし、その後は、「ザ・ファイター」「ザ・マスター」「マン・オブ・スティール」「メッセージ」と幅広い映画で活躍。アカデミー賞ノミネート常連の実力派だけに、当然の結果と言えよう。

そして、現在アメリカでは「プーと大人になった僕」が劇場公開されている。同作は「くまのプーさん」を題材にディズニーが実写化した作品で、大人になったクリストファー・ロビンをユアン・マクレガーが演じている。CGで生み出されたキャラクターとの共演が絶賛されている彼だが、実は昨年、人気ドラマ「FARGO/ファーゴ」に出演。その演技力が高く評価され、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞している。

このように、いまでは映画俳優がテレビドラマに挑戦するのは珍しくなくなったが、かつては明確な境界線が存在した。いつでもお茶の間で会えるテレビ俳優よりも、映画館に行かなければお目にかかれない映画俳優の方が格上だったのだ。人気テレビ俳優が映画スターに格上げになったり(※1)、あるいは、映画俳優がテレビ俳優に格下げになること(※2)はあっても、現在のように映画俳優が自身のステータスを傷つけることなく、2つの異なる媒体を行き来することは不可能だった。

それがいまでは「ビッグ・リトル・ライズ 〜セレブママたちの憂鬱~」に、ニコール・キッドマン、リース・ウィザースプーン、シェイリーン・ウッドリーとハリウッドの主演女優が3人も揃って出演しているし、SFドラマ「ウエストワールド」は、アンソニー・ホプキンスやエド・ハリスから、タンディ・ニュートン、ジェフリー・ライト、エヴァン・レイチェル・ウッドまで映画界の演技派を揃えている。

ここまで状況が変化した最大の要因は、ハリウッド映画が画一化していく一方で、テレビドラマが多様化していることだ。かつて映画スタジオは異なる価格帯でさまざまなタイプの作品を生産していたが、いまでは制作本数を減らし、超大作のフランチャイズ映画にリソースを集中させるようになった。その結果、VFX満載のアトラクション映画ばかりになってしまい、新たな刺激や挑戦を求める映画俳優たちは不遇の時期を過ごしている。

一方、アメリカのテレビドラマは物語の可能性をどんどん押し広げている。かつてはネットワーク局だけだったオリジナルドラマに、ケーブル局やストリーミングサービスが参入。その結果、いまでは年500本以上ものドラマが生産されている。それぞれ生き残りを懸けているから、独創的で、野心的な作品がつぎつぎ出てきている。映画界で魅力的な企画に巡りあうことができない俳優が、テレビドラマに流れていくのは当然の成り行きなのだ。

さらに、テレビドラマ出演に伴う拘束期間が短くなった、という事情もある。ネットワーク局のドラマで主役を務めることになれば、年22話のエピソードが生産されるから、9ヶ月は拘束されてしまう。しかも、アメリカのドラマは人気がある限り継続する連載漫画形式なので、契約時にはシーズン5までの出演を約束しなくてはいけない。つまり、テレビドラマへの出演を決めると、映画に出演することがほぼ不可能になってしまうのだ。

しかし、ケーブル局やストリーミングサービスドラマの場合、シーズンあたりのエピソード数は10前後だから、映画出演を並行して続けることができる。映画俳優が出演している最近のドラマを見ると、エピソード数が少ないばかりか、1シーズンで物語が完結するミニシリーズか、シーズンごとにキャストが変更となるアンソロジーシリーズ(※3)であることに気づくだろう。つまり、彼らはテレビ界に移行するというよりも、すこし長めの映画に出ている感覚でドラマをこなしているのだ。

(了)

(※1)
ブルース・ウィリスやジョージ・クルーニー、ウィル・スミスは、人気テレビドラマでの当たり役を経て映画スターになった。

(※2)
1980年代から1990年代にかけてハリウッド映画で主役を張っていたキーファー・サザーランドやアレック・ボールドウィン、ジェームズ・スペイダーはテレビ俳優に転身。

(※3)
「FARGO/ファーゴ」は、ビリー・ボブ・ソーントン&マーティン・フリーマン(シーズン1)、キルスティン・ダンスト(シーズン2)、ユアン・マクレガー(シーズン3)とシーズンごとにキャストを変更。「TRUE DETECTIVE」もマシュー・マコノヒー&ウディ・ハレルソン(シーズン1)、コリン・ファレル、ヴィンス・ヴォーン、レイチェル・マクアダムス(シーズン2)とシーズンごとにキャストを替えている。

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