〜技術革新によりスポーツとテレビの関係が変わった〜TheGreatMessage「テレビマンの最高の仕事は、テレビではなく、会場で観てもらうこと。」杉山 茂さん

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〜技術革新によりスポーツとテレビの関係が変わった〜TheGreatMessage「テレビマンの最高の仕事は、テレビではなく、会場で観てもらうこと。」杉山 茂さん

※本記事は2014年12月発売のSynapseに掲載されたものです。

株式会社エキスプレススポーツ エグゼクティブプロデューサー
杉山 茂 すぎやま・しげる

1936年生まれ。59年にNHK入局。
東京オリンピックでホッケー中継のディレクターを担当したほか、オリンピックスタッフとしての経験は12 回。88 年夏から92 年6 月までスポーツ報道センター長を務めた後、スポーツ放送番組の企画制作を行うプロダクションにて辣腕をふるう。

技術革新で変わったスポーツとテレビの関係。

今、オリンピック・パラリンピックの映像は、競技ごとに、その競技中継を得意としている国の局やチームが実際の制作を担当することになっています。その映像がOBS(オリンピック放送機構)を通じて、各国の放送権を持つ放送事業者に配信されます。

でも、僕が1964年の東京オリンピックに携わった時には、当然こんな組織も仕組みもなく、日本開催ということもあるので、国際映像はすべてNHKがつくったんです。 当時、僕は入社5年目のディレクターでした。担当した競技はホッケー。もちろん事前にルールは勉強するけれど、正直、中継の準備などはありませんでした。

というのも、中継カメラがたった3台だったから。3台という数はスポーツ中継の最小単位で、1台がフィールドの引きを撮り、もう1台が選手の寄りを撮る。残りの1台は、ボールの行方を見守るために、一方のゴール後の縦位置に置く。あとは中継にあたる時間帯における太陽の位置を把握する。

デイ・ゲームですので、スタンドの逆光にならない位置を確認すれば、自ずとカメラの配置は決まる。だから、仕事の大きさに対する気負いはあったけれど、ことさらに準備にプレッシャーを感じることはなかったですね。加えて、60年代のメディアにおけるテレビの位置付けは決して高くなかった。

東京の前のローマオリンピックでは、まずラジオ中継が1番。翌日に新聞が活字で知らせる。テレビにはそんな速報性はなく、現地で撮影したビデオテープが現地空港から羽田行きの貨物便に載せられるんです。これが届かなきゃそもそも映像がない。それでも、ひとたび電波に乗れば、迫力、臨場感が桁違いです。

その後、カメラの小型化、軽量化、無線化が進み、カメラの台数が増えることになりました。例えば、ロンドンオリンピックのホッケーは13台でしたし、ブラジルW杯決勝のリオでは30台のカメラが置かれた。テレビ技術の進歩といってしまえば味も素っ気もないけど、そこが大きな変化なんです。

中継の演出の仕方もバリエーションが増えることになり、テレビによるスポーツの伝え方は70年代以降、厚みが加わり続けます。スポーツの競技場はある種、神聖視されていた。陸上100mのファイナリストがスタートラインに立つ顔を1人ずつ寄って撮ることはなかったし、ボクシングでも、カメラはリングのエプロンには上がれなかった。

カメラ台数が多くなれば、「ドレッシングルームに入れたい」とか「フィールドに向かう通路での姿も押さえなきゃ」となる。競技前後の表情に生で迫れ、生で伝えられるのはテレビならではでしょう。スポーツ団体側もテレビの特性を理解するようにもなった。

スポーツ本来の面白さと会場の興奮を伝えること。

東京オリンピック・パラリンピックに向けて、「テレビスポーツ」に望むことがふたつあります。ひとつめは、「スポーツ本来の面白さをもっと引き出そう」ということ。今の日本のテレビは、それが全然できていない。その最大の原因は「世界のなかにおける日本」という視点が非常に小さいことです。スポーツ本来の競い合っていく面白さに注目するのではなく、日本が勝てばいいと思っている。全米オープンの決勝戦、錦織圭の対戦相手を知っていた人はどれくらいいるでしょう?

吉田沙保里の15大会連続世界一だって、「誰に勝ったのか」分かりますか? それを分かるように伝えると、スポーツ中継は一層面白くなるんです。ライバルの図式がなく、「がんばれニッポン」が軸になりすぎているところが、今の日本のスポーツ報道の大きな問題点です。オリンピックに限らず国際大会ならば、せっかく世界から色々な強豪が集まるわけです。

その選手がどれだけ強いのかをきちんと伝えて、そこに日本選手がどう挑むのか。ライバルがきちんと立っていれば、仮に日本選手が敗退しても、感情移入して見ることができて、成立するんですよ。スポーツには積み重ねの魅力があります。東京オリンピック・パラリンピックまでの5年間にぜひそうなってほしいですね。

ふたつめは、「次はテレビの前で見てないで、会場に行って観てみたい」と思われるくらいスポーツの面白さを伝えてほしい。それこそが、スポーツに関わるテレビマンの最高の仕事であり、持つべき姿勢だと思う。会場に人が行くと視聴率が下がると言う人がいますが、逆です。会場に足を運んでみたいと思わせるほどの盛り上がりを見せれば、視聴率も上がる。

だから会場が満員になることと視聴率は相反しません。安心して会場へ誘ってほしい。 映像同時進行のメディアはテレビしかありません。活字メディアにどんなに美文家がいたとしても、何も言わずに映し出されているものがやっぱり強いわけで、そういうテレビの機能とスポーツの出会いは「20世紀最高の出会い」だと思う。

東京オリンピック・パラリンピックでは、テレビによって100万人、いや1000万人をスポーツ好きにさせてほしい。「日本人がいくつメダルを獲るか」をテレビが煽るのではなく、「世界のすごいヤツが来る」ということをスポーツ界、テレビ界が一丸となって発信すればとても豊かな大会になりますよ。

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