仮想通貨「イーサリアム」元開発者が語る 仮想通貨とブロックチェーンの現在と未来〜IOHK CEO チャールズ・ホスキンソン氏〜

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仮想通貨「イーサリアム」元開発者が語る 仮想通貨とブロックチェーンの現在と未来〜IOHK CEO チャールズ・ホスキンソン氏〜

仮想通貨への投資ブームは、2018年から現在にかけてはその取引レートとともに、2017年の急騰時ほど話題に上がらなくなってきました。しかし実際には、仮想通貨を支えるブロックチェーンの技術開発は着々と進み、送金など様々な分野に応用されつつあります。その仕掛け人の1人が、天才数学者と呼ばれ、ビットコイン後の最有力の仮想通貨としてイーサリアムを開発したチャールズ・ホスキンソン氏です。

現在、ブロックチェーンのオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトである"Cardano(カルダノ)"を運営する、IOHKのCEOチャールズ・ホスキンソン氏に、仮想通貨やブロックチェーンの現状や今後についてお話いただきました。

―御社の事業内容を具体的に教えてください。

IOHK(Input Output Hong Kong)は、イーサリアムプロジェクトを離れた私とジェレミー・ウッド氏が2015年に設立した企業です。学術界、政府、企業が活用できる仮想通貨とブロックチェーン技術の開発を主な事業としています。

Cardanoはカルダノ財団が開発するブロックチェーンのオープンソースソフトウェア(OSS)プロジェクトの名称でもあり、このプロジェクトにおいて分散アプリケーション (DApps) やスマートコントラクト(契約の自動化)を構築するためのプラットフォームです。コミュニティとしての側面と、ビジネスパートナーとしての側面を両立させながら、収益を上げているという意味で、あまりない存在だと思います。

世間的な認知として、Cardanoは"仮想通貨"と"ブロックチェーン向けOSS"という2つの顔を持っていることになります。Cardanoのネイティブトークンは「ADA」で、イーサリアム(ETH)、ビットコイン(BTC)などとともに人気通貨の1つになっています。

IOHKはブロックチェーンと、ブロックチェーンの1つの活用例とされる仮想通貨を、企業や人々が広く使えるツールにするために長期的視野で取り組んでいます。

特に仮想通貨は、市場の乱高下やハッキング、詐欺行為などネガティブなイメージもある分野ですが、IOHKは信頼を得るために根気強く取り組みを進めてきました。改ざん不能、非中央集権的というブロックチェーンが可能にするシステム環境が、これまで難しかったような社会インフラの構築を可能にするという理念を変わらずに持ち続けています。

―日本とのつながりは、あるのでしょうか?

日本の東京工業大学や、スコットランドのエジンバラ大学、ギリシャのアテネ大学と共同研究をしています。仮想通貨にとどまらず、ブロックチェーンによるシステム基盤を開発することで、社会インフラを含めて、従来は難しかったような仕組みの構築を支援しています。

2018年の秋にFinTechのイベントに参加するため、日本を訪れました。金融庁や日本の金融コミュニティが海外のコミュニティと交流を持つという意味で重要な機会でした。ブロックストリームのアダム・バック氏をはじめ、その筋では有名な方が多数来ていて、日本のブロックチェーン業界についていろいろな情報交換がされました。

仮想通貨やブロックチェーンへの日本の規制環境は、良い意味であたたまってきています。金融庁だけでなく、投資家、事業社と消費者保護のバランスや業界の成長を重視したイニシアチブが多く取られ、優先事項が固まってきており、最終的には取り組み全体が透明化していくと思います。

日本では、金融庁という規制当局と取引所、そして取引所とほかの取引所の間でのコミュニケーションチャネルが2017年あたりから安定し始めて、関係各所でのコミュニケーションが活発化し始めました。これは、海外を見てもあまり例がなく、ポジティブな流れだと思います。

―金融庁の話がありました。具体的には金融庁とどのような話をしているのでしょうか?

残念なことに、制度を整えようと動き出すタイミングに合わせて、悪いニュースが出るようなことが何度も続きました。特に、ここ数年で言うと、仮想通貨の価格が乱高下したり、取引所がハッキングにあったりなどです。金融庁としても、そういった事件によって、建設的な発表ができずに、慎重な動きになった側面もあるようです。

それでも、業界の発展や規制が整ってきており、今後のビジネスや消費者保護に関しても、慎重な姿勢ではありながらも、すごく期待しているという意見をもらいました。

前述のFinTechのイベントで来日していたシンガポールの規制当局の方が、「シンガポールでは今、企業家、業界のリーダーの方々と規制当局の方々が、みんなWhatsApp(メッセンジャーアプリ)でつながっていて、コミュニケーションできるんだ」と自慢すると、日本の規制当局の方が「日本ではそういうのは必要ない。みんなよくご飯に行くから」と言って笑いが起きました。

アメリカではSEC(証券取引委員会)の当局の方々と食事に行く企業家というのはまずいないと思うので、そういう意味ではポジティブな状況にあると思います。

―仮想通貨市場は、2017年の高騰から、2018年は下落しました。今後どのように推移すると考えますか?

2017年、2018年、2019年のいずれを通じても、仮想通貨市場は業界全体で、技術面、規制面、安全面いずれにおいても大きく躍進していることは間違いありません。

この業界の動きを例えるなら、Amazonの過去の動きになぞらえることができるでしょう。

ドットコムバブルのピークのとき、Amazonの企業価値は、非常に高く見積もられていました。しかしその後、株式市場の受けたダメージとともに、Amazonの暗い時代が始まったのです。そこから11年くらいかかったと思いますが、現在では世界的にも類を見ない大企業で、そのオーナーは今、世界で一番裕福な人間の1人です。業界の中で価値が広く認められたとしても、世界で最も影響力を持つようなインフラになるまでには、まだ時間がかかるでしょう。

─Amazonの例をお話しいただきましたが、変革が起こった際にプレーヤーはどう反応できるかが肝ですね。

多くのビッグプレーヤーは、資金や時間などに余裕があるため、多岐にわたる戦略や"プランB"を持っています。

例えば、世界的な禁煙の流れに対する大手タバコ産業の対応は、多くの企業にとって、不確実性に対抗する戦略として参考になります。世界的に喫煙者人口は減少傾向にあり、規制も厳しくなってきています。これを察知した段階から、大手タバコメーカーの多くは、禁煙グッズへの投資に注力しています。喫煙者が禁煙を試みたとしても、喫煙を続けたとしても、その企業が儲かるような仕組みを作っているのです。

どんなにネガティブなことであったとしても、時代の流れの中で注目されている出来事に対して、それが自身の産業にどういった影響を及ぼすのかといったことに、CEOは常に、予測し、行動しなくてはいけません。

アメリカのタバコメーカーは、マリファナ産業にも投資しています。今後マリファナのようなものへの法規制が変わった際に、収益を伸ばせるように準備しているのです。マーケット手法、ディストリビューション手法に関しては、タバコのノウハウが生かせます。大手企業というのは、優秀な人材を多く抱えており、先見の明をもって備えているのです。既にカナダやスイスなど、大きな国家レベルでも合法化される動きがありますし、アメリカ国内でも数々の州が合法化しています。畑で育てて、それをさまざまな段階を踏んだ上で、最終的には喫煙するという流れとしては、タバコと大差のない製品です。そういったものに、変化、法整備、時代の流れに合わせる準備を大手企業がしているのです。

アメリカのエクソンモービルは、そのCEOが米国務長官になる(レックス・ティラーソン氏)など、当然のように非常に影響力がある石油会社です。この石油会社が今、水力発電、太陽光発電、原子力発電など代替的な発電方法の特許を数多く取得済みであることも、同じように当たり前なわけです。

こうした大企業が、今後の時代の変化に対応して、ビジネスモデルを変える準備をしないはずがありません。

仮想通貨業界も同じで、成長、衰退、こういったものにある程度順応できる形を企業も取ってくると考えます。

仮想通貨も魔法のように現れたわけではなく、2008年に起きたリーマンショックというネガティブな事象の副産物として生まれてきたものです。そのとき感じられていた問題や、今現在多くの方々がフラストレーションを抱いている問題の答え、もしくはプランBとして発生したものが仮想通貨なのです。

東京でも、フィリピンやインドネシアの方々が自国に送金したいときに非常に難しかったり、高額な手数料がかかってしまったりといったストレスがあります。そういったフラストレーションの産物が、仮想通貨と言えます。

既存の金融システムに強く依存せざるをえないような実状がある中で、それを覆す形で、同じサービスをより透明性が高く、低コストで取引できるなら、多くの人が魅力を感じるのも当然でしょう。

─その仮想通貨ですが、今後証券取引所などが、公に仮想通貨を扱っていくのではないかといった可能性が示唆されています。もしそれが実現する方向に向かうとした場合、どんな課題があるでしょうか?

ニューヨーク証券取引所などが、今後業界に参入してこないのか、そういった準備をしないかというと、まったくそうではなくて、必ずなんらかのタイミングでそういった行動に出ると思います。方法としては、これまでもよくあったように、大手企業が新産業に参入するには、一般的なM&Aもありますし、それぞれの企業が自身でそういった研究チームのようなものを設置して、2年くらいのうちに競争力を発揮するといった流れも考えられます。

仮想通貨業界にも、実際に数十億ドル規模の企業が出てきています。いろんなところでのユーザーエクスペリエンス自体の向上に多く関係している企業、Google、Apple、Facebookやサムスン電子といった企業も、今後のペイメントや我々の業界がもたらしている可能性に加担し始めています。

既存の金融業界のビッグプレーヤーの方々が一番恐れているのが、こういった企業だと思います。もし、1日の間に一般の人々が、どういったことをして時間を過ごしているのかというパイチャートを作った場合に、このような企業を1つのカテゴリーにしてしまえば、多くの人々がそういった製品やサービスを触ることに多くの時間を使っていることが分かるでしょう。

こういったユーザーエクスペリエンスを劇的に向上して、ユーザーを常に魅了し続けている企業が、みなそれぞれブロックチェーンの研究部門を設置しています。ブロックチェーンをどのようにしてビジネスにつなげていくのか研究していることには、驚かないですし、当然起こっていることです。

どんなネガティブなことであったとしても、時代の流れ、時代のなかで、注目されている出来事や、傾向に対して、それが自身の産業にどういった影響を及ぼすのかといったことは、CEOとして常に、正解か不正解かはわからないですけど、予測を立てて行動を取るという必要があります。

─日本市場についてどのように見ていますか?

間違いなく、軽視できない市場だと思っています。まず市場規模自体が、世界3位の国であり、さらに今、ファイナンシャルイノベーションというのが世界中で起こってきており、日本でもどのようにして雇用を生み出すのか、どのようにして今の金融や経済のアップデートが行われていくのかに注目が集まっている中で、金融のサブカテゴリーになると思うのですが、ブロックチェーン市場、仮想通貨市場というのが注目されているのは間違いないことです。

歴史的に見ても、自動車産業で一時代を築いたアメリカの大手企業がいくつもあって、それが完全に市場を牛耳っていた時代があったのにもかかわらず、後から出てきた日本企業が完全に出し抜いてしまいました。自動車産業では日本企業を無視できなくなってしまった時代もありましたが、その後、インターネットという時代に乗じて、アメリカの勢いがまたすごく強まって、今GoogleやAmazonのような大手企業が存在するわけです。

今これから、ファイナンシャルイノベーションに注目が集まっている時代として、日本が迅速に動けば、これからの時代のGoogleやAmazonのような存在にあたる企業が日本に本拠地を置くような未来も想像できます。香港にも有力な企業はありますし、どこが次のシリコンバレーになるか分かりません。

つい最近までは、圧倒的に優位だったシリコンバレー勢も、ブロックチェーン業界においては、まったくその気配はみられません。どこが優位なのか誰にもわからない状況なのです。

―貴重なお話をありがとうございました。

<了>

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