株式会社LayerX 代表取締役CEO 福島良典さん
近年、注目を集めているブロックチェーン技術。今日本でそのトップを走っている企業の一つが、株式会社LayerXです。今回は、代表取締役CEOの福島良典さんにお話をお伺いしました。福島さんは2019年8月に自ら代表を務めた株式会社Gunosy(グノシー)を退任し、ブロックチェーン・テクノロジー関連事業を展開するLayerX をMBO(マネジメント・バイ・アウト)しました。これまで手がけた領域とは異なるブロックチェーンになぜ取り組むことになったのでしょうか。
Gunosyを離れ、ブロックチェーンの世界へ
── 福島さんがLayerXでブロックチェーン事業を手がけるまでのご経歴を教えてください。
大学生の時に、同級生と「グノシー」サービスを作ってそのまま学生起業をしました。おかげさまで2015年4月に東証マザーズ上場、2017年には東証一部に上場と、順調に成長しました。
僕自身は2019年の夏にGunosyを退任して、今はLayerXのCEOとしてブロックチェーン・テクノロジー関連事業を手がけています。
── ブロックチェーンに興味を持ったきっかけは?
もともと、テクノロジーが社会に対してどのようにインパクトを与えていくのかというところに興味があり、あらゆる技術を調査していました。その中でも、ブロックチェーンは将来的に多くの企業がインフラとして使っていくという確信がありました。
── ブロックチェーンと聞くと、一般的にビットコインのような仮想通貨のイメージが強いのですが、他の業界でも使える技術なのですか?
ブロックチェーンはもともとビットコインを実装するための技術として生まれましたが、実はさまざまな領域に応用ができます。最大の特徴は、データそのものに「信頼性」を与えるという点です。複数のトランザクションの集積である「ブロック」をつなげ、複数の検証者のコンセンサスによって、データの真正性や取引の順序が管理されるのです。
金融領域でいうと、株式の売買や配当といったやりとりが発生した際に、数字や権利のアップデートがプログラマブルに実現できます。その性質から金融との相性がいい技術なのですが、不動産や著作権などの権利を扱う領域でも有効に活用できます。
──これまで手がけた事業とは全く異なる分野に飛び込むのは、ハードルが高いように思えます。
LayerXは現在、金融領域の大手企業と協業する形でブロックチェーン技術の実装を行なっています。当然ながら金融の世界で仕事をするためには、守るべきルールもあり、法体系と言った部分も含めた知識が必須です。一方でブロックチェーン自体は新しい技術なので、扱いが難しい。要は、経験と技術の両方が兼ね備わって初めて協業事業の展開が可能になります。
一方で、金融業界の大手企業と協業するには、相当の信頼性と技術力が必要です。そういった要件から、経営経験があり、技術者でもある僕自身がやる意味があるだろうと思っています。
──LayerXの役員は福島さんを含め、上場などの豊かな経営経験を持っている方が揃っていらっしゃいますが、そういった背景があったからなんですね。
役員だけでなく、他メンバーもCTOクラスの高い技術力を持っています。R&Dエンジニアも世界的研究成果をあげており、グローバルでも少しずつLayerXの知名度が高まってきました。ブロックチェーンは金融業界等の “重い産業”に革新を起こす技術なので、日本でもトップクラスのメンバーを集めないと成り立たないと思っています。なので、採用は決して妥協せず、日々仲間を探しています。
ブロックチェーンの活用でリソースの有効利用が可能に
──あらためて、株式会社LayerXの事業内容を教えてください。
当社は、主に金融関連のビジネスを展開する企業に対してブロックチェーンの技術を提供しながら、パートナーとして一緒に事業を展開しています。金融業界においては、システムの裏側でブロックチェーン技術を使って効率化していこうという流れがあります。
最近では、三菱UFJフィナンシャル・グループさんとの取り組みで、証券決済や資金決済をブロックチェーン技術を用いて可能にし、安全に価値の移転・交換を実現できる仕組み作りを進めています。その領域は、今は複数業界をまたがる確認や、認識が違った際のデータの修正のやりとりなど人の手がすごくかかっているところなんですよね。そのため、テクノロジーでの改革が求められています。
他にも、今はまだ公表できない案件もあるのですが、いくつか並行して進行中です。
──大手銀行との取り組みもされているとのことですが、銀行も「ブロックチェーン技術を取り入れていくべきだ」という認識になっているのでしょうか?
完全にそういう認識に変わっています。銀行もブロックチェーンをとても勉強されていて、「ここはブロックチェーンを試していい領域だ」「やるべきだ」といった意思決定をされています。
僕らとしても、新しい技術を導入することで、もっと本質的な業務に人をあてられるんじゃないかなと考えています。例えば契約書の二重チェックに人員や時間を割くくらいなら、融資先に出向いて経営支援をした方が生産的ですよね。
──金融の世界だと、オペレーションをデジタル化することによって、コストがどの程度削減できるものなのでしょうか?
あるレポートによると、送金サービスにかかるコストだけでも1/10に削減できると言われています。例えば送金は、正しい送金なのか担保するために、実は裏側で確認コストをすごくかけているのです。大手の銀行だとその管理費だけでかなりかかっているので、それを少しでも改善できたら、インパクトが出ますよね。
──一方で、ブロックチェーンは利用者にとってどのようなメリットをもたらすと思いますか?
エンドユーザーにとってのメリットは、手数料の負担が軽くなることと、送金にかかる時間が短縮されることです。例えば、海外送金する際、現状はめちゃくちゃ手間も手数料もかかるんですよ。しかし、今後海外への送金がプログラム化されて、ボタン一つで正しい送金ができるようになれば、短時間で送金が可能になり、手数料も下がりますよね。
投資信託における信託手数料も、正確に証券を保管するために年間何%かは引かれていますが、今後金融システムがアップデートされることで、利用者に転嫁されていたマージンが下げていけるのではと思います。
──企業も利用者もwin-winの技術といえますね。
僕らは”非本質業務”とか”非競争領域”という言葉をよく使うんですけど、人間がやらなくていい非本質業務はどんどん自動化するべきだと思っています。
例えば経理業務も、銀行口座や請求書データが正しい状態でシステムに入っていて、月末に自動的にお金を支払えるように設定されていれば、わざわざ振込作業をする必要はなくなります。その分空いた時間で、コスト分析や経営に関わる本質的な業務をするべきです。