HOME 新規事業 アニメコンテンツとツーリズム、両者の発展の鍵を握るものは?~アニメ聖地巡礼が生む幸せな出会い~ 近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 准教授 岡本 健さん
2019.11.12

アニメコンテンツとツーリズム、両者の発展の鍵を握るものは?~アニメ聖地巡礼が生む幸せな出会い~ 近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 准教授 岡本 健さん

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“成功する聖地”の必要条件とは

―盛り上がっている“聖地”に共通している要件は何だと思いますか?

いくつかあるとは思いますが、要となるのは「作品そのものへの理解」ではないでしょうか。ファンの人が作品を好きなのは当然だと思いますが、企画運営の中心になっていく地域の方が、「何をすればファンが喜んでくれるか」ということをあまりにも理解していないと、ずれた取り組みをしてしまうんですよね。

たとえばお土産物の開発にしても、「らき☆すた饅頭」みたいなものが出ていればファンが満足するのかというと、それは違います。作品のなかで触れられていることにより近いことをやったほうが、ファンは納得してそのお土産を買うんです。ファンの人にはものすごく強い思い入れがあるので、「わかってくれている感」みたいなものが大事。成功しているところは、ある程度ちゃんと作品への理解が共有されているように感じます。別に地域の方がそのアニメのファンになる必要はないと思います。ただ、ターゲットとなるファンの人が「何を大切にしているのか」については、理解していたほうがいいでしょう。アニメ聖地に限らず、商売の基本ではないでしょうか。

 

─ほかにも重要な要素はありますか?

成功例を見ていると、地域サイド、あるいはファンサイドに、異なるアクターをつなぐ人がいますね。たとえば『輪廻のラグランジェ』というアニメの舞台になっている千葉県鴨川市。中心になっているのは、神社の方です。その方は、過去に東京でIT企業を数社立ち上げた経験を持っています。親御さんが「違う仕事を経験させてから継がせる」という方針だったそうで、若いときに東京に出て起業などを経験している。

だからこそ、コンテンツ産業や東京の“理屈”みたいなものを理解していて、アニメ産業の人たちとの付き合い方をわかっているんです。加えて、宮司なので地域のネットワークにもアクセスが可能。この両者が乖離してしまうと、やはり互いの利益がぶつかるようなところがあって、地域の人から「よくわからないけど、とにかくうちの商店街に人が来てくれないと困る」といった主張が出てきたりします。

“つなぐ人”は、商工会や自治体の職員であったり、地元住民かつファンの方だったりもして、立場はさまざまです。役割が分担されているケースもあって、コンテンツのことを深く理解している人と、地域のことをうまく采配できる人が、しっかり連携して進めていることもあります。いずれの形であっても、“翻訳”のような役割を担う人の有無が明暗を分けると思います。

 

成功への課題と秘訣

─盛り上がりは喜ばしいことですが、逆に課題感などはありますか?

オーバーツーリズムへのマネジメントです。少し前に『スラムダンク』の聖地である鎌倉で入場制限が敷かれたことが話題になりましたが、そういった状態をどう解決していくのか。京都なんかはアニメ等のコンテンツに関係なく、常時オーバーツーリズム状態で問題になっているのですが、そこに関してもマネジメントが求められていると思います。

あるいは、アニメの価値観と地域の価値観のずれから起こる問題もありますよね。旅客のマナーの問題はもちろんですが、通常の観光地とは異なり、観光資源の情報を地域住民が知らない場合があるので、ここもうまく調整する必要が出てきます。

 

─コンテンツ面に感じる課題感はありますか。

「仕掛けたらうまくいかない」という説がありますが、私はこれを疑っています。だって、アニメーションそのものが作為の塊じゃないですか。たとえば『ガールズ&パンツァー』というアニメも、茨城県大洗町を舞台に設定して完全に仕掛けていますが、非常にうまくいっています。

『ラブライブ!サンシャイン!!』も、静岡県沼津市という実在の地域を舞台にして成功しています。佐賀県を舞台にした『ゾンビランドサガ』なんて、タイトルに「サガ」と入っていますからね。でも、自治体側も一生懸命に取り組んでいて、非常に盛り上がっています。仕掛けてもファンから支持され、うまくいっています。

では、明暗を分ける分水嶺はどこなのか。それは、作品そのものを皆で楽しめるかどうかだと思います。『ゾンビランドサガ』では、佐賀県の知事が作品に登場するキャラのコスプレをして出てきて、作品を理解しているようなセリフを言ってくれたりするので、ファンの人はすごく嬉しいですよ。「わかってくれているんだな」と感じます。結局のところは、顧客(ファン)に合わせたサービスやホスピタリティを徹底してやることが大事。そこがずれてしまうと、安易に乗っかって金儲けをしようとしていると思われかねないし、ファンの人は「仕掛けられている」と感じてしまいます。

『ゾンビランドサガ』では、作品のなかにも佐賀県民しか知らないようなことがたくさん出てきます。それを見て、県外の人は「佐賀県についてすごく詳しい人が作っているな」と感じるし、佐賀県民は「こんなことも取り上げてくれるんだな」と誇りに思うわけです。しっかり作り込んで、ファンの人が気持ちよくお金を出せるようなベースを築けるといいですね。ですから、「仕掛けてはいけない」はむしろ逆で、やるのであれば本気で、徹底的にやるのが重要です。

 

─アニメ聖地巡礼をさらに盛り上げていくためには何が必要でしょうか?

海外の需要に応えることです。もちろん日本国内でもまだまだパイがあると思いますが、日本のアニメの海外進出は著しいので、「行けるなら行ってみたい」と思っている海外の方は多いでしょう。

たとえば、よく日本のアニメでモチーフになっている“高校文化”。高校の部活や高校生の恋愛って、外国の方からすると新鮮に映るようです。高校に制服や部活がない国も多いですし、特に中国などは勉強漬けで恋愛も禁止されていたりするので、日本のアニメには中・高生の夢が詰まっていて、そうした“青春”の雰囲気を味わってみたいと思う外国の方は多いはずなんですよ。

でも、アニメの聖地は一般的な観光地ではなく、わかりにくい。また、先ほどのオーバーツーリズムや観光客のマナー問題などもあります。それらをうまくマネジメントしつつ、多言語展開を含めて情報をうまく伝達できれば、注目されていなかった場所にたくさんの人が来てくれる可能性があると思います。

 

データの意義と観光産業の未来

─今後の研究や、研究以外の分野でも、先々の展望をお聞かせください。

データベースを作っていくという目標があります。自分自身の研究の発展のためにもぜひともやっていきたいと思います。今日いろいろお話をしていることも事例ベースになってしまっていて、全体的にどういう傾向があるといったことについては、なかなかデータを元に証明できていませんので、そこを強化していきたいです。利用者動向のようなところも、データで出せるようにしたいです。

私は旅行者行動について独自にアンケート調査などを実施してデータを得ていますが、限界があります。現状では、アニメ聖地巡礼、コンテンツツーリズムがどれくらいの市場規模なのかとか、旅行者はどれくらいいるのかという、誰もが気になるであろう点について、確かなことが言えないもどかしさがあります。データベースやウェブサイトなどを構築して、そのアクセス数などで具体的な数値が得られることは非常に重要です。

 

─データの整備は観光業界やコンテンツ業界にとって重要なことですか?

すごく大事ですよね。コンテンツのデータと土地のデータが結びついているデータベースがないので、作っていきたいです。聖地巡礼の場合、景色って変わってしまうんですよ。アニメに描かれたときから、現場の景色が、街がどんどん変わっていく。

映画『天気の子』で印象的に描かれていた神社を見上げる風景も、もう変わってしまいました。その都度ちゃんと残していく、データにして活用できる形にしていくのは、そうした地域の景観を保存するという意味でも、とても大切なことだと思います。

 

─作り手にとってデータの整備は意義のあることでしょうか?

非常に意義のあることだと思いますよ。今後出てくる作り手たちが、データベースがあることによって過去の作品を見ることができ、より面白いものを生み出せる可能性が広がります。過去に作られたものを参考にすることができますし、逆に、これまでにないものを作るにしても、過去の作品が見られた方がいいですよね。良質なコンテンツを生み出すクリエイターは、すべてをゼロから生み出しているわけではなく、しっかりリサーチしますから。そういう意味で、アニメコンテンツのデータベースを整備するプロジェクトというのはすごく夢があることだと思うし、将来のビジネスチャンスにもつながっていくと考えています。

 

─データやテクノロジー関連で期待したいことは?

「VRを使った観光」です。今でも普通になってきていますが、今後はもっと広がるのではないかと思います。ゲームやeスポーツのプレイのように、体は動いてないけれど違う場所にいるような体験ができるという、新しい観光の形。従来の観光と何が違って何が同じなのか、そして、その連続性について、研究し始めています。

旅行代理店等にVR観光のお話をすると、「人に動いてもらわないと商売にならない」という話になってしまうのですが、私は逆に“動く動機”を作るという意味で非常に有効だと思っています。VRで体験した後に「ここに行ってみたい」と思う人がいるはずですから。

「VRで満足してしまって実際に行かなくなるのではないか」という考えもわかりますが、インターネットが普及したときにも、同じことが懸念されていました。インターネットで情報が得られるので、観光に行かなくなるのではないかと。でも、インターネットは観光の敵にはならなかった。アニメ聖地巡礼やインスタ映えなどの新たな可能性も生みました。

今VRもかつてのインターネットと同じように警戒されていますが、観光に行って見てきたことを反芻するためにVRが使われたり、その逆もあり得ます。様々な事情で実際には観光に行けない人々に旅行の楽しみを提供できる面もあります。人間の移動感覚や観光、コンテンツについて総合的に考えていきたいというのが、私の今後の目標です。

 

─本日はありがとうございました。

<了>


岡本 健 (おかもと たけし)

近畿大学 総合社会学部 総合社会学科 准教授。1983生まれ、奈良県奈良市出身。
2007年に北海道大学文学部を卒業(専攻:認知心理学)後、同大学大学院に進む。大学院では国際広報メディア・観光学院 観光創造で観光研究を行い、2009年に修士課程修了、2012年に博士後期課程修了。京都文教大学(2012年4月~)や奈良県立大学(2015年4月~)にて教鞭をとり、2019年4月より近畿大学総合社会学部へ。専門は観光学、観光社会学、コンテンツツーリズム学、ゾンビ学。
以下の著書で観光学術学会より学会賞を受賞。
〇平成31年度著作賞『アニメ聖地巡礼の観光社会学-コンテンツツーリズムのメディア・コミュニケーション分析-』(2018年9月/法律文化社)
〇平成27年度著作奨励賞『n次創作観光』(2013年2月/北海道冒険芸術出版)
〇平成27年度企画賞『神社巡礼ーアニメ・漫画で人気の「聖地」をめぐる』(2014年5月/エクスナレッジ)

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