「xenoBrain」が可能にしたこと
─御社の主力サービス「xenoBrain(ゼノブレイン)」の概要を教えてください。
企業の決算情報やニュースなど経済情報を解析することで、先々の動向の予測を立て、その情報をクライアントにお渡しするSaaS型AIサービスモデルです。世界初の経済予測という点が最大の特長ですね。これまで同様のモデルは他になかったわけですが、着眼自体はおそらく以前からあったと思います。因果関係を積み上げて将来を予測していくというのは、多くの人が思いつきそうなことですから。
ただ、それをやるために何が必要かを考えたときに、自然言語処理という障壁は大きいでしょうし、しかも経済という分野ではやりきったところがなかった、ということではないかと。
経済以外の分野で、ネットワーク・データベースであらゆる物事の因果関係をつなげて、将来の予測を立てることに挑戦しようとした企業もあったという噂を聞いたことがありますが、残念ながら成功には至らなかったそうです。その他には、社会情勢などのニュースと株価のインパクトを、我々とは違うやり方で予測している会社が海外に2つくらいある程度ですね。
─やはり非常に難しい領域なのですね。
技術だけの問題ではないんですよ。たとえば辞書作成もそうですが、プロの知見やデータのチェックなど、さまざまな要素から成り立っているので、高度な技術さえあればできるという代物ではありません。良いエンジニアが集結すれば“それっぽいもの”を作ることは可能だと思うのですが、それを“役に立つもの”にすることとは大きな違いがあります。そこを埋める根性があるかどうかだと思います。根気の世界ですね。
─「xenoBrain」の仕組みを詳しく教えてください。
自分の会社の業種などを設定すると、画面の左側にその業種に関する情報、たとえば海運企業だった場合、最近騒がれている米中貿易摩擦などの内容が出てきます。
さらに、その米中貿易摩擦が海運企業にどういうルートでどういう影響を与え得るのかも表示されます。ここで面白いのが、『カザフスタン』というキーワードが挙がってくることです。中国との輸送が少なくなることによって、位置の近いカザフスタンが浮かび上がってくるというのがわかったりします。また、輸送量の多い品目もピックアップされますから、どこに影響が出やすいかを知ることができます。主要品目については人の知見でもフォローできますが、抜け漏れの確認や、プラスアルファの着眼に役立つと思います。
業種を絞らずに見ることもできますよ。たとえば燃料電池車の生産が上がったら、こういう領域に影響があり、日本にどういう形で影響するとか。
─裏側で走っているロジックは何ですか?
過去10年間の膨大なニュースと、各企業の開示資料が情報源です。この品目はどういう理由で伸びるのか、元々企業にはどんな業績ドライバーがあるのか、今どういう影響があるのかということを解析したデータベースを裏側で持っていて、そこに引っかかるようなニュースが出れば、反映されるようになっています。
今はグローバルメディアや業界専門誌、海外誌など、100程の媒体を揃えてシステムを構築しています。海外の媒体は中国や韓国だけでなく、ベトナムや中南米などのメディアも揃えており、有料で買うクオリティペーパーといわれるようなメディアから解析しています。良質なメディアを選定することによって、釣り記事などを防ぎ解析結果の精度が下がらないようにしています。
クライアントごとに重視したいメディアが違いますから、ユーザー側の操作で選択できるようになっています。
経済予測をより有用なものにするためのネクストステップ
─予測で得られた会社の増益減益は、そのタイミングも予測できるのでしょうか?
時間軸については示しきれておらず、今日明日の短期の予測もあれば、1年先など長期のものもありますね。今はロジックで因果関係を表現している段階で、予測の時期や確度についての機能は今後リリースする予定です。
─予測した結果が実際に起きているのか、検証はされていますか?
体感として予測が実現した例は結構あるので、検証や実績の提示にも取り組み始めているところです。
たとえば、良いニュース70本に対して悪いニュースが30本の企業は業績が上がる傾向があって、企業ごとにポイントを算出することで、善し悪しが見えたりします。
現時点ではニュースの本数のみをカウントしていますが、今後は一つひとつのニュースの内容に応じた重み付けや、時間軸なども加味して、予測の正確性を上げていこうと思っています。財務を予測できる企業としてやっていきたいですね。
─今見えている課題や改善点はありますか?
やはり前述のように、一つひとつのニュースの重み付けをするなど、より有用な分析をユーザーに届けることが最大の課題です。「業績を予測していく」「その理由をしっかり説明する」というところが我々の価値だと考えているので、増益傾向や今後の動向が分かるようにしたいのはもちろん、その内容なども今年中に出せるようにしたいですね。良い傾向が出ているにもかかわらず対策が打てていないときに、投じられる一手を提案するようなものを開発中です。
帝国データバンクと組んで、未上場企業も上場企業と同じように業績予測をしたり、海外上場企業も対象に広げることを予定しています。未上場企業のお客様は非常に多いので、ニーズに応えていけたらと思っています。未上場企業の解析対象は40万社あり、それまでの上場企業約3,800社分の解析と比べて100倍の企業が解析対象になりますし、未上場企業の将来予測サービスは今までにないため画期的なものになると思います。
また、企業ではなく素材価格や需要の動向を予測する「トピック分析」という機能を2019年9月にリリースしました。ニュースを分析したい人、企業を分析したい人、トピックを分析したい人、そしてそれらの将来が見たい人が集まってくるサービスを目指しています。
さらなる進化と信頼の青写真
─現在どのようなクライアントがいるのか教えてください。
現在は50社程、金融機関と事業法人が半々くらいですね。今後強化していきたいと思っているのが事業法人で、彼らの経営サポートのツールとして機能を充実させていきたいです。
また、単に今後の予測を出すだけではなく、「こういう事象が起きるから、この領域が儲かるのではないか」というアタックリストを作ろうとしています。財務が上がって予算が増えやすい領域、今でいうと広告やリサーチ、人材などの領域の方と話をし始めていますね。
─現在のサービスでクライアントからどういった要望がありますか?
「ひと目でわかる結果画面を作ってほしい」というリクエストや、やはりニュースの重み付けが曖昧なのでそこをわかるようにしてほしいというものですね。細かいところだと、「検索を直感的にしてほしい」などの要望もあります。
ユーザーに強く言われているところを最優先で対応しているところです。
─ちなみに、御社を「xenoBrain」で予測すると、どうなるんですか?
我々はちょっと情報の開示が足りないので出ないですね(笑)。一定以上の開示を行なっている、ある程度大きい企業でないと分析は難しいです。
─最後に、中長期的な野望や夢をお聞かせください。
このSaaSサービスをもっともっと進化させていくことですね。今はニュースのみですが例えば渋谷を歩く人の人数や地球の温度変化など、いろんなデータを集めて、その変化から我々の因果関係ロジックをたどって、「こういったことがあり得る」という予測をいち早くキャッチし、世の中に提供したいです。目指すのは、世界中の様々な変化を、ニュースになる前のデータを含めて取っていくことで、我々のところにすべてのデータが集まり、あらゆる予測ができるという状態。一番最初に、かつ一番正確に出せるような領域を、まずは目標としたいですね。
その目標が実現できれば、みなさんにその予測情報を提供するだけでなく、予測情報の説得力を持たせるためにも、自社で投資や融資などへの参入も考えております。
─本日はありがとうございました。
<了>
(株)xenodata lab.代表取締役社長 関 洋二郎 (せき ようじろう)
慶応義塾大学商学部在学中に公認会計士試験に合格。あらた監査法人(現 PwCあらた有限責任監査法人)でITを使った財務監査に関わり、(株)ユーザベースに転職し、SPEEDAの事業開発責任者を務めた。2016年2月に (株) xenodata lab.を設立。2018年11月には「世界初の経済予測」を可能とした「xenoBrain」のβ版をリリース。2019年6月にはダウ・ジョーンズと提携強化し、正式版のリリースに至った。