すべてのお金に関する不安を可視化し、 社会問題の解決も目指す 株式会社マネーフォワード取締役執行役員 兼 マネーフォワード Fintech 研究所長 瀧 俊雄さん

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すべてのお金に関する不安を可視化し、 社会問題の解決も目指す 株式会社マネーフォワード取締役執行役員 兼 マネーフォワード Fintech 研究所長 瀧 俊雄さん

複数の銀行口座やクレジットカードと連携し、自動で管理できる家計簿アプリ『マネーフォワード ME』をはじめ、すべての人のお金に関する課題を解決するためのサービスを提供している(株)マネーフォワード。
創業時のエピソードや、ユーザーの声を反映させながら成長してきた経緯などについて、取締役執行役員であり、同社のFintech 研究所長である瀧氏に話を伺った。

野村證券、MBA留学を経て起業へ

会社設立以前のご経歴をお聞かせください。

8年ほど野村證券におりまして、そのうちの5年間は国内で調査や政策提言などを行っていました。その後MBAを取得しにスタンフォード大学へ社費留学しまして、帰国後に1年間経営企画を担当しています。シリコンバレーに行った人間なら誰しも起業したいと考えるでしょう。

私も例外ではなく、そのときに相談した相手が当社の代表取締役である辻庸介です。彼は当時、マネックス証券のマーケティング部長だったところから、私とは別の大学にMBA留学しており、互いに金融機関に身を置く人間として「金融機関はできることも多いが、一方で限られている」という認識がありました。

もともと金融機関は、人間の「何かがしたい」「何かが欲しい」という欲求に対してソリューションを提供しています。しかし、その人間の意思決定のもう少し手前の段階で訴求するにはどうしたらいいかという話をしているうちに、「世の中にインパクトを与えるためには、金融機関の外で金融データを扱うようなサービスをやらなければならない」と考えました。そしてマネーフォワードの原型となるサービスができ、起業したというのが概ねの流れです。


当初はどのようなサービスだったのでしょうか?

最初に作ったのは、自分の資産運用をシェアするSNSです。リリースまでクローズドにしておきたかったため、アンケートやヒアリングを行っていなかったのですが、その点がまずかった。

人間は自身の資産運用をシェアしてまで他人に見せたくないということを理解しておらず、ユーザーも伸びませんでした。とはいえ、これは前向きな挫折でしたね。ユーザーを見ながらアクションするという基本に改めて向き合えました。


そこから現在のマネーフォワードの形になるまでは?

当時、家計簿アプリは30程あり、イメージとして家計簿=女性、かつ主婦層が活用する偏りがありました。加えて、家計簿は日本人しかつけていないという独特なものでもあります。

一方、社会的な視野でお金の問題を国別に見ていくと、たとえば中国では偽札や口座が持てないといった問題があります。米国でも口座維持手数料が高くて口座を持てない、クレジットカードを保有できない人が人口の3~4割を占めていたりするのです。

しかし日本にはそれらがないですよね。クレジットカード利用率は低いですが誰でも簡単に作れるし、口座維持手数料を取っている銀行もほとんどありません。そのため、日本人は平均3つも口座を持っていて、その上マネーフォワード MEユーザーはさらに多くの口座を持っていたりします。

資産運用をしていない、保険に入りすぎているといった特性などはあるかもしれませんが、一番の特徴は「将来が何となく不安」という人が多いことでしょう。この漠然とした不安感への対策は、まず可視化することが大切なのです。

だから現在の自分のお金はどうなっているのか、複数口座の貯蓄額を管理して、赤字なのか黒字なのかをざっくり知ることのできるものが提供できたらいいなと考えました。




お金の可視化とマネタイズ

BtoCである『マネーフォワード ME』は850万の利用者がいる日本最大級のサービスとなっていますが、ユーザー像を教えてください。

なんとなく女性が多いのかなと我々は思っていたのですが、アプリのダウンロード時点では男女が半々で、その後運用する中でプレミアムサービスの課金をしたユーザーデータを取ってみるとほとんどが男性でした。

今でこそバランスは取れていますが。そもそもマネーフォワードは私を含め男性6人で作ったサービスで、男性が作るとどうしても男性テイストになってしまうのかもしれません(笑)。

ユーザーにとって、課金はひとつのハードルになるかと思います。

実は、ユーザーにとっては無料の家計簿アプリって怖いんです。まず初めに「何で無料なの?」って思いますよね。広告も出てこないから「え、どうしたの?」「私たちのデータを売っているの?」と思われる。

「いや、データは売っていません。でも広告出たら使わないでしょ」という考えがあったので、最初から月額500円のプレミアムプランを作りました。それに対しては、「家計簿アプリを使うことで節約したいと思っているのに、どうしてお金を払うの?」という方もいました。

"節約するために課金する"というモーメントに持って行くために、解決したポイントは?

長く愛されているアプリ、例えばEvernoteは、最初は多くの人が無料で使っているけれど、何年も経つと自分の2年前の日記とかに愛着を覚えて課金し始めるんですよね。これは自己データへの愛です。ここを大切にできる人は自分を大切にできるから、お金も大切にできるはずだということで、プレミアムプランでは過去のデータを閲覧できるようにしています。

あと、「自分っていつもお金がないな、何に使っているんだ?」というときに、クレジットカードの記録って嘘つかないですよね。「ああ、これを買ったんだ」と納得できる。これはデータをもとに自分を理解しているということです。人間は1年前のことは忘れていますが、マネーフォワード MEの方が自分のことをより理解しているということに気づく瞬間があるんですね。

ダイエットをする時に記録をとることと似ているように感じます。

そうなんです。食べ過ぎたときに体重計に乗りたくなかったけど、可視化されて「あ、やっぱり増えているな、次は気を付けよう」と対策ができたり、「意外と大丈夫だった」と安心できたりします。お金もそうで、赤字の状況でも見えると「そうだよな」と思えますが、見ないから不安になるんです。

少し前に話題になりましたが、年金制度だって貰える・貰えないという問題ではなく、ちゃんと理解していないから不安になる。見る努力をするのがつらいなら、努力しなくても見られるようにしてあげること。「このサービスは自分の面倒を見てくれる」と気づいてもらえると、月々の500円を払ってもいいなと思ってもらえる。

今プレミアムユーザーが20万人を突破しましたが、この人数はクックパッドの150万人とか、ニコニコ動画の175万人に比べると遙かに少ないです。しかしこれは、"節約のために払う"ことで不安が軽減できているユーザーがこれだけいるのだということでもあります。

ユーザーを見ずに失敗した起業時から、ユーザー理解のために工夫した点は?

はじめに『マネーフォワード ME』をリリースしてからBtoB事業のサービスを経て、2015年くらいまでの間、ユーザーからのメールのお問合せは基本的に私が返していました。多いときで1日に100通くらい対応していましたね。

加えて2014年くらいからのチャットサポートも全部私がやっていたんですよ。これにはメリットがあって、ユーザーの疑問や要望をすぐに開発者に伝えられるわけです。

実際、ユーザーと話すことはとても楽しかったです。インターネット企業はユーザーに会わずともビジネスができてしまう側面があるのですが、私は画面越しにでもユーザーとコミュニケーションを取ることを大事にしました。お問い合わせに対し、「何でこの男性はこの時間に当社のサービスを使って疑問を持つことになったんだろう?不安だから?黒字で楽しい気持ちだから?」など、言葉の語尾からそのユーザーの気持ちを探ってみたり。

そもそもフィードバックって善意があるからいただけるわけで、ドライだと思われがちなインターネット企業にとっては、こういった1滴の水がすごく意味を持つんですよ。情報がないところに一つでもフィードバックがあることで、我々のサービス開発に活かされるんです。

この経験から、カスタマーサポートに携わるリーダー陣には必ずSQLを覚えさせています。それができると、エンジニアに「こういう対応をお願いします」などと行動ベースで依頼できるので、組織も円滑になる。会社としてもチームワークを維持できることが、すごく重要だと思っています。




瀧さんが意見を吸収する立場になったことで、ES(従業員満足)やCS(顧客満足)向上につながったのですね。

ユーザーの意見を聞いて改善し、高い評価をいただいたことがあります。家計簿サービスを出してから数か月後、ユーザーに「財布機能がない」とリクエストをいただいたんです。「財布?」と驚いたんですが、確かに調べてみたら、当時出ていたいくつかのアプリで「財布」という、現金の疑似管理機能がありました。

ATMから出したお金は『マネーフォワード ME』上だと「支出」になりますが、財布は出したお金をチャージするもので、チャージした後に財布から使う。この使途不明金の管理がしたいんだと。そのときに、「ああ、世の中現金なんだな」と思いました。

それから、もともと『マネーフォワード ME』はズボラ派の方のために作っていたんですが、お昼ご飯代を入力してキッチリ管理したい真面目な人だって、同じサービスを使うわけです。逆にズボラな人も、いざ『マネーフォワード ME』を使い始めると大きな支出だけは入力したくなるなど、ユーザーの姿勢自体が変わることもあります。

また画面を開いているときは、「やばいな、お金使いすぎたな」なんて思いながらも、将来の自分に対して漠然と、より良い資産形成をしたいと思っていたりする。

ここはやはりユーザー理解あってのことなので、機能的な新しさを追求することだけが重要ではないんですね。

BtoBであるクラウド会計・請求・給与などのサービスも展開されています。

これもユーザー理解から発足したサービスですが、『マネーフォワード ME』ユーザーの中で、自分の飲食店の会計を家計簿でつけていたという話がありました。スマホですぐに記録でき、しかも自動化ができる会計ソフトやアプリがなかったというのがその理由でした。「それなら、これを申告に使えるようにすればいいのでは?」と転じて作ったのが法人向けサービスの始まりで、会計、確定申告、請求書、経費精算などのサービスがあり、今や当社の収益の6割以上がここからきています。

こういったサービスを始めた根底にあるのは、「人間は得意なことをすればいい」という思いです。ラーメン屋さんなどの個人事業主でも経理をやらなければいけない。しかし、その時間をもっと美味しいラーメンの開発に向けるとか、営業職なら経費精算をやっている時間でお客さんへの提案を考えたりIR資料を読み込むといったことをするべきです。




ユーザーが主体となる金融産業を目指すマネーフォワード Fintech研究所

2015年に設立されたマネーフォワード Fintech研究所についてお伺いします。設立の経緯を教えてください。

まず背景として、日本ではFintech(※Finance と Technology を組み合わせた概念で、金融領域におけるテクノロジーを活用したイノベーション/https://corp.moneyforward.com/news/release/corp/20150720-fintech-lab/より)という言葉が2014年前後から聞かれるようになってきていました。

とはいえ、ファイナンスとテクノロジーといっても、言葉としての定義が広いので、都合よく解釈されたり、今更テクノロジー?という見方をされたりしている面もありながら、社会的な関心は高まっていました。

当社としては、これまで公式ブログやメディアへの寄稿を中心に Fintech に関する情報発信を行っていましたし、金融庁金融研究センターでの講演をはじめ、様々な形での発信機会を頂戴していました。そうした中でさらにFintechの調査や情報発信を進め、かつ企業、金融機関、官公庁、専門家などとの取り組みを進めるべく、研究所を設立しました。

Fintechの本質は「ユーザーの課題解決をするプレイヤーにしかビジネスチャンスがない」こと。今までは上級者こそがお金や融資など、その場に付加価値を与えられるとされていた分野でしたが、ユーザーが欲しい結果を得やすいようにサービスを提供できるのがインターネットのいいところです。2014年頃からアプリの時代になってきて、それが提供できない会社が淘汰されている傾向にあります。

金融は装置産業かつ免許産業なので、供給者本位になるバイアスがあるわけです。しかしそれでは他の産業に比べて遅れをとってしまう。ですから、金融業界のイノベーションを促すために何ができるかという理論体系的なものがやりたかったんです。

瀧さんの著書『FinTech入門』(日経BP)でも問題提起されていますね。

はい、ユーザー本位主義の金融にならなければいけないということを主題にしています。金融機関はこれまで与える側として自らを律するというパターンで物事を考えてきたところがあります。それゆえに組織のDNAとしての側面も含め、そこをどうやって変えられるかということに苦慮しているのではないでしょうか。

もうひとつはGAFA(ガファ)。Google、Apple、Facebook、Amazonは全世界にユーザー基盤を持ち、膨大なユーザーのデータを保有しているという共通点があり、それらが銀行に参入してGAFA銀行を設立しかねないのではという仮説が話題になったことがありました。その影響力は計り知れず、世の中を支配するのではないかと危惧されています。

実現するのかどうかは疑問ですが、仮想の敵として想像したときに、金融機関は今まで通りというわけにはいかないでしょう。ユーザーを見ていない銀行はその時点で敗北する可能性があります。

また、中国のBAT(バイドウ・アリババ・テンセント)は、それぞれ彼らが出資している銀行が存在するんですよね。だから中国では既に現実化している脅威で、中国は銀行よりもアリペイのほうが重要な存在になってきているのではないでしょうか。

日本ではどうでしょうか?

日本は基本的に銀行の新規参入は多くない国ですし、銀行は収益性が大きな課題なので、まず銀行の未来像を考える必要があります。

マネーフォワード自身も銀行に近い領域でビジネスをしていますが、我々自身も明確な答えを持ち合わせていません。これからも引き続き、金融に対する研究をしっかりと行いたいと思っています。

研究所の規模は?

設立時から、基本的に私がメインで働いています。とはいえやはりリサーチなどをする必要があり、時期によってさまざまな研究員が所属して研究しています。




日本の消費者が抱える金融の問題解決に

研究の蓄積や成果はどのように発信しているのでしょうか?

現在の研究所が自身で研究成果を出すフェーズではないと思っていて、基本的にプロダクトで問う、政策で問うという形にしています。

研究成果が学会に評価され、実際に制度として運用されるまでの期間は7年程かかってしまうんです。それでは遅すぎるので、例えば2週間の研究で分かったことを直接当局の担当者やジャーナリストに伝えることで取り上げてもらう。「マネーフォワードFintech研究所ブログ」でも発信していて、当ブログで発信したワードを政策の種としていただいているようです。

また、金融機関APIの活用や金融テクノロジーの制度を緩和していくスピード感などのテーマについて行政機関から逐次意見聴取の機会をいただくことも成果かなと思います。

最近の研究の一例を教えてください。

最近ホットなのは、認知症研究の第一人者である京都府立医科大学大学院医学研究科の成本教授をアドバイザーに迎え、認知症の人とその家族を取り巻く生活支援に向けて、自社サービスを活用した取り組みに着手しています。

日本では認知症の方が2015 年に525 万人、25 年には高齢者全体の2 割である730万人となる見込みともいわれています。認知症になると計画的にお金を使う、銀行でお金を引き出す・振り込むといった金銭管理が難しくなります。

認知症や超高齢化といった社会課題は日本がフロントランナーであり、かつ日本では国内資産の6割半を55歳以上が持っていますから、だんだん日本の資産は凍結され始めているともいえます。高齢者、障がい者を支える制度も日本は脆弱で、家族の負担は多大であり、かつヘルパーや後見人の担い手も飽和している。それなのにAIを投入することに対しての意見も分かれていて、八方ふさがりの状況です。

マネーフォワードがその解決の糸口となるかもしれませんね。

財産管理などについていえば、家族や医療関係者など、社会の中で緩くデータを共有しながらサポートする仕組みを作る、テクノロジーで管理するといったことが考えられます。

国の人口の3割がお金を動かせない層になった場合、必要とされる銀行は何だろうと考えますね。それは介護訪問的な銀行かもしれませんし、認知症にならないと開けない特定の口座かもしれません。そのくらい極端なケースも考えたりしています。

その課題解決に向けてソリューションを模索していきますし、今後も世界でこの問題は加速度的に生まれていくでしょうから、日本からその発信ができたらいいですね。

本日はありがとうございました。

<了>

株式会社マネーフォワード取締役執行役員 兼 マネーフォワード Fintech 研究所長 瀧 俊雄(たき としお)

2004年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。

スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」への参加や、金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバーとしても活躍。

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