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2019.1.31

意志ある番組は未来を創る 人とテクノロジーの共存のために 株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田陽介さん

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現在のテレビが抱える問題点

 

―ところで、岡田さんはテレビをご覧になりますか。

昔は観ていましたが、最近はほぼ観なくなりました。ネットの配信コンテンツ等は、興味深く観ているのですが、正直テレビは面白くなくなってしまって。どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 

―過度なコンプライアンスや制作費等の事情が複合的に絡み合っている面は否めないと思います。

そうですね。だとすると、テレビのコンテンツそのものの作り方を変えていく必要がありますよね。日本って、どこか中途半端な所があるじゃないですか。映画業界ではハリウッドに勝てない、テレビにおいてもCNNやBBCのようなジャーナリズム感があるわけでもない。メディアやテレビにとって何が一番重要なのかという部分を考え直す必要があると感じます。

 

―コンテンツの在り方だけでなく、もっと大きな仕組みみたいな事に関しても?

世界がいわゆるプラットフォーマーに向かっている中で、テレビ業界はコンテンツ主体の珍しい業界です。たとえばゲーム業界だと、少し前まではコンテンツホルダーが一番有力だったのに、今は完全に収益構造がAppleやGoogleといったプラットフォーマー側にシフトしていますよね。しかしテレビは未だコンテンツのほうでパワーを持てる数少ない業界なので、もっとそこに投資しても良いのではないかと思います。
制作費削減の話については、利益が出ていないから削らざるを得ないという状況だと思うのですが、そうするとつまらない番組になるのは目に見えていて、負のスパイラルに陥っていしまうのではないでしょうか。広告等も踏まえたビジネスモデルの全体像を描き直すしか道はない気がします。

 

―御社が放送局やメディア関連の企業から相談を受けることはあるのでしょうか。

ありますね。TBSやNTTぷららは弊社の株主ですしね。テレビ局をはじめ、コンテンツホルダー系の企業でも、弊社のサービスを導入いただいています。
領域としては、制作、マーケティング、メディアミックス的な施策のプロセスなど、多岐にわたって幅広く使っていただいています。

 

―コンテンツ業界では、通信側のプラットフォームが非常に勢いがありますよね。

多くの人々がテレビの視聴率のあり方について疑念を抱くようになってきた一方で、ツイッターなどのソーシャルパワーを利用した拡散率に注目が集まっています。こうした動きを受けて当然出てくるのが、もっと後者にパワーを注いだほうが良いのではないかという議論でしょう。
人々のテレビへの感覚も変化しています。テレビにかわる面白いコンテンツがネット上でどんどん出てきて、「テレビを観たい」と思う人が減っているのです。何かと不便なワンセグを使うよりも、「YouTubeでいいよね」となってしまう。
放送の一番大きなアドバンテージは、あれほど多岐にわたって電波を流せているという点です。ネットのように、線が切れた瞬間につながらなくなることもありません。そのアドバンテージを活かすためにも、今からビジネス構造そのものを変えていく必要があると感じてますね。

 

テレビ、広告の価値の測り方

 

―「多くの人々がテレビの視聴率のあり方に疑念を抱くようになってきた」というお話をもう少し詳しくお聞かせ下さい。

テレビ番組の見られ方という視点でいうと、『サザエさん』の視聴率問題に象徴されるように、家族が揃ってテレビを観るという時間が少なくなってきているという問題があります。今後、日本は人口が減少していくわけですから、テレビが観られる総量は減っていくことでしょう。ワンセグにしても、あっても使われていない、使える場も減ってきたというのが実情です。つまり、この先視聴率が低下していくことは明らかなのです。

視聴率の調査方法についても、今はもう全部デジタル放送になっているので、視聴率メーターを置くよりもネット回線を利用したほうが良いかもしれません。たとえば、LTEルータをテレビに差し込むだけで自動的に視聴率が拾えるような仕組みがあると便利ですよね。LTE回線がダウンしたら・・・という話もあるのですが、そもそも現状がサンプリングで調査しているわけですから、100%ではなくても全数でデータを取るほうが、統計上は正しいはずなのです。

 

―視聴率とはまた異なる用途において、全数データに関するニーズもあります。

プライバシーの観点や、各メーカーにどのようなインセンティブを提供できるのか等、難しい面もあるのですが、将来的にはそうなっていくのではないかと思います。また、視聴率の価値自体が薄れてきている点も見逃せないポイントです。

たとえばスマホをいじりながらテレビをつけていて、視聴率ONの状態になっている可能性もあるわけですよね。「何をしながら見ているのか」という部分は、これまでも視聴率の一番の課題であったと思うのですが、他のコンテンツが増えてきている分、事態は深刻になっています。また、最近のHDレコーダー等の性能はとても優れていて、CMを一瞬でスキップできてしまいます。ということは、番組価値と広告価値が比例関係になっていないのです。今までは視聴率をもとに広告価値を判断してきたと思うのですが、コンテンツの話と広告の話を切り離して考える必要性が出てきていますよね。

 

―広告の価値をより“見える化”する事は求められていますね。

テレビを観たユーザーが、「実際にどういうアクションをとって商品購買に至ったのか」を、どう計測するかという所がポイントだと思います。ネット広告のテレビ版をどう作り、計測するか。現状は、テレビ広告出稿に対してのROI(投資利益率)って、測りづらいですからね。そのあたりは是非、AI等も含めて使える良い論点だと思っています。

たとえば、テレビの前に人がいるかどうかを計測カメラで測定するベンチャー企業が既に存在していますよね。また、テレビ放送のタイムラインとマーケティングのプロセスのプラン提供を行っているベンチャー企業もいると思いますが、AIにはもっと可能性があります。
たとえば、ある広告に対してテレビからの流入とテレビ以外のコンテンツからの流入の差分を知りたいと思ったときに、AIを使えば人々がテレビに接触している時間・離れている時間をたどって、わかりやすくデータを解析できます。視聴率も広告価値も、今よりずっと正確に把握することができるのではないでしょうか。

取得するデータとしては、音や画像に対する反応や流れを計測するための時間軸データなど、あらゆるデータが有効ですが、「どんなコミュニケーションが発生したか」を見ることができると特に面白いと思います。テレビ番組を何人かで観たときに生まれた会話が、何かしらの興味関心や購買意欲につながっていくと思うので、そのプロセスをたどることは非常に価値があると感じます。

 

―リビングの環境だけではなく、次の日の学校等での会話も含めて?

はい。舞台だと観客の反応をダイレクトに感じ取ることができますが、テレビ番組は視聴率しかフィードバックポイントがありませんよね。視聴者アンケート等を実施しても、把握しきれない部分が大きい。しかし、作り手からすると、番組を観た後に生まれている会話や人々の動向は、最も知りたいポイントであるはずなのです。
プライバシーの観点などから難しいという話であれば、放送電波をキャッチするという従来のテレビではなく、インターネット型テレビのような設備を作って、ネット回線上で全ての視聴データが取れるような仕組みを作ると良いと思います。

 

テレビの未来のために大切なのは“意志”

 

―先ほどのお話で、放送局やメディア関連の企業から相談を受けることはあるとの事でしたが、特にテレビやラジオなど放送まわりの課題やこれからの方向性について、岡田さんの考えをお聞かせください。

放送事業が単体でビジネスモデルを発揮するのは、現実的に難しいことも多いと思いますが、Abema等がやっている取り組みは面白いと思います。番組を観て、その画面の上でショッピングができるような仕組みを作って利益を上げているので、非常に可能性を感じます。
また、ビデオオンデマンドのようなスキームをテレビ局がどう作っていくかという点にも着目しています。今、各テレビ局独自の“○○オンデマンド”は存在していますが、システムの使いにくさは否めませんよね。そこで、全局の共同出資会社を作って、一つのプラットフォーマーに全部入れておき、そのプロセスの中で各局が個別に管理できるような仕組みを作るやり方も、一つの方向性としてアリだと思っています。

地上波で過去のテレビドラマの再放送等をよく見かけますが、そのドラマを観たい人は1view50円くらいであれば買いますよ。今、違法アップロード動画が溢れているのは、視聴する人がいるからです。しかしその視聴者だって、おそらく1view50円だったら、違法動画よりも正規のものを観るのではないでしょうか。
音楽系サブスクリプションを例にとるとわかりやすいのですが、違法ダウンロードするよりも月額1,000円払って聞き放題のほうが楽ですよね。自分で曲名を打ち込む手間もなく、最初から全て管理されているというメリットもありますし、使い続ければレコメンデーションが働いて、自分好みの音楽や映画の情報が得られるという楽しみもあります。
テレビもそちらの方向性にシフトして、過去のコンテンツ提供で得た資金を今のコンテンツに再投資する仕組みを強化していったほうが良いと思います。

 

―有料コンテンツは視聴者に受け入れられるでしょうか。

テレビはその時間にしか観ることができませんが、お金を支払うことでその時間の制約がなくなるなら、チャージする人は増えると思います。しかもそこに「20年前のテレビ番組が観られる」というような話が入ってくると、視聴者はより乗り気になるのではないでしょうか。また、広告に出た商品を購入することで、有料コンテンツを無料で視聴できるような仕組みにするのも、一つの方法としてありますよね。

 

―ビジネスモデルやテクノロジー以外の部分で思うことはありますか?

若手のクリエーターにどんどん枠を開放することをお勧めしたいです。ドラマの再放送で限りある枠を使うよりも、再放送分はオンデマンドにまわしてしまって、そこで新たに生まれた枠に若手の番組を入れ込んだほうがいい。
昔、某TV局の深夜にそういう若手枠がありましたよね。そこからいろんな番組が出てきて、TV局自体が活気づいた印象です。クリエーターの人たちが面白がっていろんな番組を作っていたから、実現できたことなのでしょう。要は、今のテレビはコンテンツの掘り起こしができていないと思うのです。現状、テレビ局が作るコンテンツがつまらなくなってしまっているだけで、世の中に面白いコンテンツはたくさんあります。新しい風をどんどん取り入れていくべきだと思います。

YouTubeで人気が出たコンテンツ等も、テレビ番組に取り入れたら良いと思います。ビデオカメラ一つで数億円の利益を出せるような映像が撮れる時代ですし、学生さんたちが作った映画等でも秀逸なものが少なくないと感じているので。あとは映像を作る人たちの人口を増やしていくことによって面白いコンテンツを増やしていくとか。個人的には、高性能な機材や一回で消えてしまうロケ費より、そちらに投資するほうが絶対に良いと感じています。

 

―面白いコンテンツに育ちそうかをどう見極める眼も大事になってきますね。

他の媒体で有名になる前に見極めてテレビに入れ込むことができる“目利き”がいると良いのではないでしょうか。そういう所に年長者の方々の嗅覚を活かしていただけるのではないでしょうか。私は「良いものか、そうでないか」を判断することは、一般の視聴者には難しいと感じています。
しかし、テレビ側の人々が何かしらの意志をもって発信するようにすると、ファッション・流行になってくるはずで、それが視聴率につながってくる流れが最も理想的だと思うのです。節操無く視聴率を追うよりも効率的だし、中長期的に見てテレビの価値も上がります。

視聴者は楽なほうに流れやすいので、テレビ側が意志を持って番組を作り、発信しないと、番組もどんどん微妙になってくる。これはわかりやすい構図だと思っています。どういう人たちが観ているのかを踏まえたコンテンツ作りが必要ですよね。

 

解のないテーマにも、メディアと共に向き合いたい

 

―岡田さんは本をたくさん読まれるそうですが、お勧めの書籍はありますか。

『サピエンス全史 –文明の構造と人類の幸福-』(上下巻/河出書房新社/2016)や、『ホモ・デウス -テクノロジーとサピエンスの未来-』(上下巻/河出書房新社/2018年)が面白かったですね。セットで読むと良いと思います。

『ホモ・デウス』は「テクノロジーとサピエンスの未来」という副題がついているのですが、どちらかというと一神教的な見方をしています。どういうことかというと、日本のような“恥のカルチャー”ではなく、欧米的な“罪のカルチャー”が土台にあるのです。その上で、宗教的な話なども交えつつ、テクノロジーが人間にどのような罪を与え、今後発展していくのかという内容が展開されています。

 

―リベラルアーツに通じる部分がありますね。

そうなんですよね、本当に矛盾点ばかりなんですよ。答えがないので、いろいろな人の話を解釈しながら、自分自身の意志決定を追い続けるしかないのです。
この2つの作品では、テクノロジーが発達する世界における人の存在意義を問いかけています。私はテクノロジーに携わる者としてそこはやはり考えなければならないと思っているので、こうした内容をテレビ番組でやってくれると嬉しいです。

人はわかりやすさを好みますが、そこに照準を合わせた番組ばかりでは、何かしらの意志を持って生活をしている人はテレビを観なくなってしまいます。商売でも同じことで、「こちらのほうが儲かる」と安易な売り方を選択する前に、「社会への影響はどうなのか」という話が先行するべきだと思うのです。
コンプライアンスのようなものを重視するがゆえに、わかりやすさを求めてしまい、コンテンツの質を落としてしまっているという側面もありますよね。そうすると、自分で考えることをやめて、わかりやすいことしか信じない人々が増えていきます。
ここに警鐘を鳴らしていくことができれば、視聴率では表せない社会価値が生まれて、メディアの未来も明るいのではないかと私は思っています。

 

―それこそが、より良い未来のためにメディアができることかもしれませんね。

まさにそうだと思いますよ。ここから10年後、20年後の方々にとっては、最初の教育の場面はおそらくメディアのはずなので、あらゆる事柄に対して人々が最初に抱くイメージは、メディアにかかっているとも言えます。
ここはとても重要で、実際に「ドラえもんを観ているか、観ていないか」でAIやロボットに対する意識が全く違ってくるという現象があります。ドラえもんや鉄腕アトムを観ている日本人は、「ロボット=友達」というイメージをごく自然に身につけています。一方で、アメリカなど海外の人々は、ターミネーターやアイ,ロボットを連想して、「ロボット=敵」というイメージを抱くのです。

このイメージの違いは、ロボットの普及という点において、圧倒的に日本は有利であることを示しています。たとえばロボットに介護を担わせるときに、日本では「ドラえもんに介護してもらえるならいいよね」と好意的に受け止められても、海外ではターミネーターに介護されることを思い浮かべて抵抗を示す人々も多くなります。テクノロジーの分野では、下地も含めて日本にはいい所がたくさんある。そして、それはメディアの力で作り上げられたものでもあるんですよ。

 

―メディアとしては具体的にどのようなことに取り組むと良いのでしょうか。

ドラえもんや鉄腕アトムが日本のテクノロジー界に良い影響を与えているように、良いコンテンツをしっかりと並べて、日本人がより世界にチャレンジできるベースとなる知識を、テレビから得られるような状況を作っていただきたいです。
たとえば数学ですと“微分・積分”のように、動きのない黒板だと説明しづらい分野がありますよね。動きのあるテレビであれば、わかりやすく解説できることは明らかです。こういった部分も含めて、日本が世界でリードするための素地となる番組づくりを、これから啓蒙していっていただけると幸いです。

 

―テクノロジーの未来や、メディアの在り方についても深く考えさせられる、貴重なお話を聞かせていただきました。
ありがとうございました。

 

 


株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田 陽介(おかだ ようすけ)
1988年愛知県名古屋市出身。10歳からプログラミングをスタート。高校でCGを専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。その後、ITベンチャー企業を経て、シリコンバレーに滞在中、人工知能(特にディープラーニング)の革命的進化を目の当たりにする。帰国後の2012年9月、日本で初めてディープラーニングを専門的に取り扱うベンチャー企業である株式会社ABEJAを起業。2017年には、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指し、他理事とともに設立し、日本ディープラーニング協会理事を務める。AI・データ契約ガイドライン検討会 委員 2017年12月-2018年3月、Logitech分科会委員 2018年2月〜継続中(2018年8月末時点)

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