※本記事は2017年6月発売のSynapse vol.14「プログラマティックって、 なに?」に掲載されたものです
ソフトウェアロボットの「BizRobo!(ビズロボ)」を開発し、RPA(Robotic Process Automation)のNo.1企業の社長として注目される大角氏。氏が考える今後のホワイトカラーにおける業務のあるべき姿とは?
RPAテクノロジーズ
代表取締役社長 大角 暢之
早稲田大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2000年にオープンアソシエイツを設立して独立。2013年のビズロボジャパン(現RPAテクノロジーズ)を設立。16年7月には一般社団法人日本RPA協会を設立し、代表理事に就任する。
RPAを活用することで間接部門の業務は効率化できる。
― まず「ビズロボ」について教えてください。
「ロボットと言うと例えばSoftBankのPepperのような、人間の形をしたものを想像しがちですが、うちのビズロボはソフトウェアロボットなので実体はなく、パソコンの中に存在します。主にホワイトカラーの定型作業を代行し、Webブラウザの検索やExcelへの入力、Wordでの書類作成などを代行し、自動化できます。現在では150社超の企業に、1万体以上のロボットを提供しています」
― ビズロボの発想はどこから生まれたのですか?
「僕はトヨタやパナソニックなどの工場が大好きなんです。それらの工場には機械と人間に加えて、ネジを何ミリ締めるといった職人技を代行するファクトリーオートメーション(ロボット)があって、その3層で製造過程が成り立っています。だからリードタイムの短縮と原価低減が最大化して、コスト的にも効率化できているんです。
もし機械と人間の2層だけだったら、車を1台作るのに何日もかかったでしょうし、カップ麺は100円台ではとうてい販売できなかったでしょう。ロボットがブルーカラーの仕事を代行したので、トヨタは販売台数で世界一になることができたんだと思います。ただ大企業であっても、経理などの間接部門が効率化できているところはまだまだ少ない。
複式簿記ができて以来、経理業務には何のイノベーションも起きていないし、勘定科目もずっと変わっていません。それなのに効率化できていないのは、間接部門の業務が人間とITの2層しかないからです。工場のように3層になるときっとうまく効率化できる。そこを改善するべきだと、ずっと考えていました」
― これまでなぜ、間接部門の業務は3層にできなかったのでしょうか?
「作業をまるごとシステム化できればいいのですが、業務ごとに仕様が違ったり、やり方が違ったりします。それを共通化して一気通貫のシステムに組み直すには、膨大なコストがかかります。それに仕様変更などがあった時に、プログラミングでは迅速に対応することができません。だから、たとえ現場の要望を叶えたシステムが作れたとしても業務全体の2~3割。残りの7割以上の問題が毎年、積み上がっていき、それを完結するのは人間しかいないというわけです」
― では、大角さんがビズロボを思い付いた具体的なきっかけを教えてください。
「2000年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)のメンバー4人で起業し、オープンアソシエイツを設立しました。テクノロジーを使って事業創造したかったのですが、自分たちで新規事業をやるのは正直、コストがかかり、リスクが高い。当初はコンサル業務をメインに行いながら、お客さんの新規事業の手伝いをやっていました。
変化があったのは2003年くらいの時期。当時、オンライン証券がたくさん出てきて、証券会社のバックオフィスや既存業務の見直しなどをやっていました。申込書がネットを通じて毎日100件以上届くのですが、それをFX、日経225先物、現物株などに登録するわけです。
入力するのは名前、住所、電話番号など、すべて同じ内容。この単純作業を何とか効率化できないかと考えたのが、ビズロボを作った具体的なきっかけです。まずブラウザ上で動作する、テストの自動化ツールを使ったんですよ。テストデータを入力して正常に動作したらExcelに○を入れるようなツールで、これを使えば人間のパソコン操作を代行できるんじゃないかと思いつきました。
一度テストデータを入れてそれをレコーディングすれば、マクロが次々とデータを入れていきます。試してみたら大成功で、パソコン1台で夜中も作業するので、みんなから拍手喝采でした」
― 開発は順調だったのでしょうか?
「実はそうでもなくて(笑)。当時の画像認識は画面のオブジェクトのグラフィックボードを読み取るスタイルで、解像度が低い場合には、ないものだと判断しちゃうんですよ。結果、別のボックスにチェックしてしまい、大トラブルになりました。それで止めることになったんですが、惜しいなーと思いましたね」
― その状態が好転したのはいつ頃なんですか?
「10年ほど前にマッシュアップやWeb2.0という言葉が出てきた時に、ページやコンテンツをノンプログラミングで設定できる技術が出てきました。その時に当社のクライアントの1社が、シリコンバレーの技術会社のジャパンエントリーを支援したんですが、そのデモを見た時にコレだって思いましたね。
そのデモはGoogleのサイトを自社サイトにあっという間に変えるというもので、タイトルやボタンを自社のものに自動で差し替えました。座標ではなく、ソースコードで見ているし、この検索ワードに文字を入れて検索することもできます。すぐにこの技術を使わせて欲しいと言って、サービスを開始したのが2007年。まだRPAという言葉がない時代からかれこれ10年間もやっています」
何をもってロボットと定義するのか?ビズロボがロボットである理由。
― RPAは単に業務の自動化とは違うんですよね?
「ビズロボのことを、ロボットではなくマクロではないか、ただのソフトウェアじゃないかと言う人もいます。ここで定義しておきたいのが、何をもってロボットなのかということです。僕は人間の作業を代行できるかどうか、そして代行できたとすると能力が圧倒的かどうか、そして業務の変化にスピーディーに対応できるかどうかだと考えます。
つまりビズロボは人間とは比較できないほど高いパフォーマンスを発揮し、しかもミスはゼロ。リードタイム、品質、コストの3つを兼ね備えた存在、それがロボットだと定義します」
― 今、RPAが注目されるのはなぜでしょう?
「RPAは、まず欧米で広がりました。元々はコストを下げるためにインドなど人件費が安い国のサービスを活用していたものの、次第に人件費が高騰してきたことが背景にあります。それにRPAという言葉自体は新しいものの、ロボット技術についてはこれまでにも使われていました。
今までシステム化から取り残されてきた業務にも、ロボットを使ってみようという企業が増えたんですね。日本では、2016年の5月くらいにブームがきました。そこで当社も、RPAの日本No.1企業として、日本RPA協会を立ち上げたり、『RPA革命の衝撃』という書籍を執筆したりして、RPAの啓蒙活動を始めました」
― 働き方改革が叫ばれた時期とも呼応します。
「はい。経済産業省の方が生産労働時間削減の直接的な解決方法になると、度々、話を聞きに来られました。それに日本は少子化が加速したおりから、労働人口の減少が問題になっています。RPAブームが来て、しばらくは2日に1件くらいの問合せだったのが、今では1日に新規が10件以上です。
急成長で対応が追いつかないので、今は営業を止め、ユーザー企業の方にセミナーでメリットや注意点を語ってもらい、お客様にはそれに参加してもらっています。その後に個別相談の枠を設定。それでも間に合わないので、今後はパートナー企業にお任せすることも視野に入れています」
― 御社のサービスの強みは何ですか?
「日本でRPAの成功事例も失敗事例も含めて、実績が圧倒的にNo.1だと思います。なにせ10年やってきているし、1万ロボットくらいが稼働していますから。普段の作業をビズロボブラウザを開いて行うことで、マクロ機能がその行程を全て記録し、ロボットアプリが出来上がります。
だから仕様変更や突発的な業務にも対応可能。ビズロボはエントリーモデルで、操作がしやすいのも特徴です。また導入企業の業務に合わせて、プログラムし直したデジタルレイバー(仮想知的労働者)も派遣しています。業界ごとにどんな定型作業が代行できるのか異なるので、それぞれに対応したデジタルレイバーがとても重要。
ECサイトの受発注業務を行うECロボや、膨大な紙処理業務を代行するスキャンロボなども生まれ、デジタルレイバーの種類が広がっています。人間なら年間500~600万円くらいの給与が必要になりますが、ロボットの場合は数十万円で50倍以上の働きをしてくれます。結果的に、圧倒的なパフォーマンスを発揮するところがメリットだと思います。新たなデジタルレイバーを企画される企業とはジョイントして、新しいビジネスを創出できる関係を結んでいます」
― 具体的な導入事例を教えてください。
「ある転職支援会社では、約700人の会員のアンケート分析を毎月行っているのですが、守秘義務があるので、1人の女性社員が2日間かけてやっていました。それがビズロボを使うことで、アウトプットまで10分でできるようになりました。
またある食品会社では、食材の検品の集計事務に2日かかっていたのが、わずか8秒に。市場として特に顕在化しているのは間違いなく金融機関の事務センターで、日本生命には請求書データのシステム入力作業を担当する一社員として、入社式を経て配属されたRPAがいるほどです」
― 日生ロボ美ちゃんのことですね?
「ええ、擬人化して名前を付けてもらって、社員たちから親しまれています。このような現象は日本ならでは。ロボットは自分の業務をやってくれる存在なので、社員にとってもウェルカムなんですよ。そのほか、トップセールスマンが普段、チェックしているクチコミサイトやブログを洗い出し、盛り上がっている話題をまとめてレポーティングをさせている企業もあります。
そのレポートを定期的に全国の営業所に配ることで、営業力を底上げできたそうです。そのほかサイバーパトロールとしてECサイトの出品物に違法なものがないかチェックしたり、人材派遣会社が活用するケースも多いですね。ロボットが時間のかかる定型業務をやってくれることで、人間は創造性の高い業務に集中できるので、各社員の付加価値が上がります。
それに伴って会社の付加価値も自然と上がっていくので、拒絶している場合ではありません。ロボットは24時間365日休まずに働いてくれるので、コストがかかったとしても確実に利益を生んでくれます」
ミスをしない、働き続ける、辞めないRPA。その強みを生かして新たな働き方が生まれる。
日本の労働者問題を解決するRPA。今後の課題に向けて今やるべきこととは?
― では一方で、RPAの課題は何でしょうか?
「ブームになって、一番の問題はエンジニアが足りないことです。日本RPA協会ではRPAの啓蒙と共に、スクール事業や資格制度を作るなど、エンジニア育成面での活動も行っています。本当はSEの人に活躍してもらいたいのですが、RPAのスキルはSEのキャリアパスにはならないんですよ。そんなことから圧倒的な人材不足ですね。ただ逆にいうと、プログラミングしなくていいので、2日間の講習を受ければ、誰でもできるようになります。
センスは必要なものの、難易度は低いので、弊社ではかつてIT系企業に勤めていた専業主婦の人たちに、バイトでロボットを作ってもらっています。あとは若者ですね。学生が面白がってくれて、ロボットを作ってくれています。地方でも注目されていて、先日は広島での120名の研修依頼がありました。本当にRPAを導入すべきは、首都圏の大企業ではなく、中小企業や地方の会社。今後、大阪、広島、福岡、熊本、沖縄の基盤を固めて、エンジニアを養成したいと思っています」
― 今後、RPAはどのような形で進化していくと思われますか?
「業務の効率化は図れるものの、今は教えた通りに動かしているので、RPAのレベルはクラス1。次は知能の代行のクラス2に進化していくと思います。これまでの手足に、新たに脳がプラスされるイメージです。具体的な事例では、IoTのセンサーとビズロボを組み合わせて、監視カメラの画像認識をさせています。
あらかじめ顔写真を登録しておくことで、認知症の人が外に出てしまったら、携帯のアプリを使って報告します。夜間の監視は特に大変だったので、ケアマネージャーの方には喜んでもらっていますね。ちなみにクラス3は自律型。Amazon Alexa (アレクサ)やGoogle Homeのように、音声の呼びかけに応え、これまでの傾向を踏まえて提案してくれるレベルになります。ただ日本の場合は言語の問題もあり、クラス3が普及することは当分ないでしょうね」
― 最後に、大角さんのポリシーを教えてください。
「僕が大学生だった時はちょうどバブルの時期で、サラリーマンがものすごくお金を持っていました。そんな周囲を見ていると、学生なんかやっている場合じゃないという雰囲気でしたね。とにかく一旗揚げたいと常に思っていました。そして卒業後は、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に就職。ここでの新人研修がチャレンジングで本当に素晴らしかったんですよ。コンピュータを触ったこともないのに、最初の研修がC言語でのプログラミング。
3週間の営業時間内で成し遂げられない場合は次に進めないと言われて、それにクリアするとシカゴの本社に全世界の新入社員が集められて、SIの研修を1ヶ月間。こんな感じで作業・労働ではなく、ミッションの進行ありきで時間と頭と体を使うことを徹底的にすり込まれました。
結果、本来なら6~7年で身に付ける仕事を、1年でやっていたように思います。ここで5年間働いたことが、その後の自分の血となり、肉となりました。〝とにかくやり遂げる〟という意識は、起業してからも徹底していますし、新入社員にも伝えています」
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- (了)