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2017.11.8

大企業とベンチャーのマッチングを支援! 時代の風~異業種に学ぶ~スタートアップコミュニティ creww 伊地知 天さん

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思いもよらないアイディアは、気が付くとそこにも、ここにも。あまり関係のないジャンルにこそすばらしいヒントは転がっている。そんな、時代の風を巻き起こす方々に話を聞き、メディアの仕事にフィードバック。今回は、スタートアップと大企業のマッチングを支援するスタートアップコミュニティcreww の代表・伊地知 天さんだ。

※本記事は2016年3月に発売されたSynapseに掲載されたものです。

creww
伊地知 天

1983年生まれ。16歳で単身渡米、2005年カリフォルニアの大学在学中にウェブマーケティング会社を起業。その後、7年でFOX社をはじめとする世界中の企業をサポートし、フィリピンなどで計4社を創業。12年crewwをプロジェクトとして開始し、同年8月法人化。

10月にベンチャーキャピタルから出資を受け、13年9月には日本テレビとの資本提携により約1・2億円を増資。15年、オリックス株式会社とMistletoe株式会社から約2・7億円の資金調達。日本で初めてスタートアップと大企業を結びつけるプラットフォームを生み出した。

 


着想の原点はアメリカ。投資家とスタートアップのコミュニティ。

 

― 御社を立ち上げられた経緯を教えてください。

「いちばんのきっかけは東日本大震災でした。僕は当時、アメリカに住んでいて、アメリカやフィリピンでいくつか会社を起こしていたのですが、震災の時、いてもたってもいられずに日本に戻って、ボランティアとかしてたんです。あくまで一時帰国のつもりだったので、アメリカに家も犬も残して。

でも大打撃を受けた東北に身を置いていると、何かやらなくちゃっていう気持ちになって。自分が貢献できるならば、起業方面だろうと。いろんな国のスタートアップやベンチャーに関わるエコシステムを見てきて、日本がやれることがいっぱいあるので、そこをやろうかな、と」

 

― 例えばどういうことでしょうか?

「例えば『UBER』とか『Airbnb』みたいに、アメリカでは、これまで大企業が独占的にやっていたビジネスに、広く一般の人たちがインターネットを使って関与できる流れが出てきていました。すなわち中央集権からの民主化です。この動きがあらゆる業界で起きているので日本のベンチャー育成業界にもいずれくるだろうと考えたんです」

 

― 当時の日本のベンチャー育成業界の特徴は?

「VCがお金を用立てて、事業全般にまつわるアドバイスをして、自分たちの顧客基盤も紹介するんです。要は、ベンチャー育成に大事な柱を全部同じ人がやっている。一方、アメリカではそれぞれが分かれていて、特にアドバイザー制度がしっかり構築されています。

経験豊富なアドバイザーを"グレイヘア"というんですが、学生サークルノリのスタートアップでも背後にはちゃんと彼らがいて、ファンディングや事業提携への架け橋になっている。日本では若者だけで盛り上がって始めるケースがよく見られるんですが、そこに様々な人たちを巻き込んでムーブメントを起こすほうが成功率が高いはずなんです。必要な時にアドバイスもお金も経験も資材も提供されるような環境が絶対必要だと考えて、2012年にこの会社を始めました」

 

― グレイヘアって、老練な企業家っぽいですね。

「実際に経験も人脈も豊かなシニア層が多いですね。アメリカには『エンジェルリスト』というサイトがあるんですが、そのサイト上でスタートアップとエンジェル投資家をマッチングしているんです。ここで年間250億円ぐらいのお金が動いていて、誰がどこと結びついたかが丸見えになっている。

それには2つの利点があって"あの企業にはアイツが投資したから注目だ"っていうようなソーシャルプルーフになる点と、逆に何か悪いことをしたらコミュニティ中にすぐ知れ渡るという点。このくらい強いコミュニティのつながりがアメリカのスタートアップシーンをつくっているひとつの要素なんだと思います」

 

受発注の関係ではない大企業とのコラボ。

 

― 実際にはどうやってかたちにしていったのですか?

「最初は"NPOでやったら?"って言われたんです。僕らは社会的課題の解決をテーマにして取り組むつもりでいたので、"儲かるイメージがしない"と。でも僕としては"社会のためになるようなことをすれば利益もついてくるハズ"と。それで株式会社からスタートしたんですが、初期も初期、何のマネタイズのアイディアもない時に、あるVCの人が3000万円出資してくれたんです。事業プランもウェブサイトもない段階で、理念に共感してくれて」

 

― 大企業とスタートアップのマッチングを考えたのはその頃ですか?

「そうですね。アメリカで根幹になっているエンジェル投資家が日本に少なすぎるという問題があるのですが、日本の場合は大企業を絡めたほうがこの国の実情に合っていると考えたんです。でも全然理解されませんでした。"ベンチャーがやりたいことをやるのに、なぜ大手が手を貸さなきゃならないのか"って。みんなの反対のなか根性で続けていたら、日本テレビさんがオープンイノベーションプログラムを開催してくれました。それをきっかけに株主になってくれたんです」

 

―1億2000万円の出資は大きいですよね。

「はい。"日本には必ずこういうプラットフォームが必要になるから応援したい。それに、ここから生まれてくる面白い技術や新しいサービスモデルを紹介していくことは、(日本テレビさん)自身の利益に貢献することにもなるだろうから"って。それが創業1年経った頃です。日本テレビさんに出資していただいて以降、途端に大企業への営業もやりやすくなりました(笑)」

 

― crewwを始められて、日本のスタートアップのあり方が変わったという実感はありますか?

「以前の日本では、VCがお金を出せるスタートアップと出せないスタートアップがあったんです。すごくいいことに取り組んでいてもニッチで注目されないスタートアップがあった時に、アメリカのエンジェル投資家は独断でお金を出せますが、日本のVCは審議会を経て投資家たちの総意を汲まねばならない。それで純投資でハネるだけの大きな市場がある、一定レベルを超えてくるスタートアップにお金が集中する現象が起きていました。でも、それだけだとよくない」

 

― そういう状況をもっと改善すべきだと。

「日本のベンチャーへの投資額は毎年数千億円。これってアメリカの1/10程度なんです。この額をまず増やさねば、という考え方があるんですが、ここがミスリード。いくら額を増やしたところで、投資先のスタートアップが揃っていなければ意味がない。僕らは、これまで"投資に値しない"と思われていたスタートアップが、大企業とのマッチングで経営資源を活用し、スケールするチャンスを提供したいと考えています」

 

― 具体的にはどのように大企業とマッチングをされるのですか?

「オンラインとオフラインを使った2カ月から3カ月間のプログラムです。その際に絶対にやらないのは"大企業がこういう技術を持っているスタートアップを求めています"という募集の仕方。それだとスタートアップは課題解決のためだけに存在することになり、大企業と受発注の関係になって下請けで終わることになる。

そこはすでに受託の仕事をしている会社に任せてよいと思うんです。僕らがやるのは、あくまでも大企業の経営資源の開放。千数百万人の顧客基盤とか、巨額の投資で実現した設備があるとか、何億PVある媒体とかを当社のサイト内でスタートアップ約1800社に向けてアイデアを募集するんです。"こういう経営資源を使ったら爆発的に伸びるという会社の方はエントリーしてみてください"って」

 

― スタートアップのほうが選ぶんですね。

「エントリー方法は、テキスト数百字での提案です。その時点で分厚い企画書つくってもしょうがない。それでも、かなり面白いアイディアが出てきて大企業のほうが驚くんです。社内で議論を尽くして生まれなかったような提案をされるんですから。そこからはオンラインでのチャット形式です」

 

― 明らかに受発注とは違うんですよね

「双方が持っているものを互いにテーブルに乗せて話し合う感じですね。僕らがいちばん時間をかけているのは、大企業側にスタートアップのことを理解してもらう作業。ここは対面で行っています。スタートアップは会社名こそ知られていませんが、優秀な人たちで形成されたすごい会社が多いんですよ。

誰もが知ってる企業出身の人がゴロゴロしている。自分でリスク取って会社を辞めて起業している人が、大企業の問題解決のためにわざわざ動くわけがないんですよ。ちゃんとゴールを想定していて、普通なら3年かかるところを大手の力を使えば1年でたどり着ける。

スタートアップ側はそうやって大企業の資産を利用すればいいし、大企業側もスタートアップのアイディアをどんどん活用して、新規事業を次々に起こしてくれればいいんです。両社ともにビジネスライクにやればいいと思います」

 

テレビ局×スタートアップで新しいビジネス創造を。

 

― 大企業側の意向として、こういう方向性でスタートアップと組みたいっていう希望はありますよね?

「例えば今年1月に読売テレビさんのコラボを募集したんですが、前提として"テレビ以外の提案"というご希望がありました。大手のテレビ局さんが出てこられると、どうしてもテレビ関係の提案が集まりがちなんですが、そうならないようにアイディア募集の打ち出し方を決めていくんです。

これについては、当社にも過去40例以上の経験がありますので、どんなプレゼンテーションにすると既存領域と新規領域がそれぞれどのくらい集まるかという知見があります。読売テレビさんの場合は最初からコラボする領域について明確なビジョンをお持ちだったんですが、意外に自社の経営資源の価値を読み違えていらっしゃる企業さんが少なくないんです」

 

― と、おっしゃいますと?

「大企業が強みだと考えていることが、スタートアップにとって全然魅力がなかったり、逆に大企業がまったく意識していない経営資源がスタートアップには宝物ということもあります。最初に大企業側には、提供できる経営資源をリスト化したいただくのですが、スタートアップとのやりとりで、そうした気づきがあって、思わぬかたちで結実するんです」

 

― 具体的な事例はありますか?

「読売新聞さんは1日900万部以上の新聞を発行されています。それで経営資源というと、媒体力や顧客基盤を考えがちなんですが、違う見方もある。例えば"新聞を配達しているのは誰か?"に着目してみるわけです。全国に七千数百店の販売店があり、約2万人が新聞を配達し、集金・営業活動をしている。

それぞれの担当エリアをくまなく走ってるわけです。つまり、地元の情報に非常に詳しい。それが何に役立つかというと、例えば駐車場のシェアサービス。このモデルを考案したスタートアップも、全国を脚で回って情報収集するわけにはいきません。ただ、読売新聞さんなら全国の販売店のスタッフの方々が受け持てるというわけです。

こんなふうに、丁寧に紐解いていくと、意外な資源が発見されるものなんです。駐車場だけでなく、見守りサービスなんかにも活用できると思いますし、シェアリングエコノミーなどのスタートアップなどに関しては、読売新聞さんの2万人は最強ですよね」

 

― テレビ局ではどんなことが考えられますか?

「情報番組をつくってるテレビ局はよくロケに行くじゃないですか。"全国の温泉をくまなく回っている"とか"日本の絶景を撮影しまくっている"みたいなロケ班がいるとしたら、彼らと組んで、外国人をターゲットにしたインバウンド系のサービスを立ち上げることもできますよね。テレビ局っていうと媒体力か映像制作力みたいな資源が想起されますけど、紐解いていくといろんなことができる」

 

― ローカル局さんにも可能性はありそうですよね。

「果てしなく! 僕たちのお客さんも東京一極から全国に広がってきていますし、特にアメリカではそうなんですが、地域を活性化させようという行政の動きはこれからますます活発になると思います。オープンイノベーションは、地理的な条件はあまり関係なく、チャンスはいくらでもあると思います」

 

― 今後、どういうことに挑戦したいですか?

「スタートアップのバイアウト事例を増やしていきたいですね。スタートアップの出口って日本の場合はほとんどが株式上場なんです。でもそこまでいくのはひと握りですし、成功体験を得られる起業家の絶対数が少ないんです。片やアメリカの場合は98%がM&A。日本もその方向にシフトしていくと見ています。

KDDIさんも積極的にやってらっしゃいますけど、本当にITベンチャーの力を必要としているのは、レガシーな企業さんなんですよね。もちろんいきなり買収はないだろうから、まずは"出資をしませんか"……それも難しいなら"まず一緒にやりませんか"というきっかけづくりから」

 

― そのための今後の課題はありますか?

「協業を増やすことですね。数を増やすことで活性化し、いいコラボに関しては"このままの体制でやってると競合に持っていかれる"という危機感を煽れると面白いですね。僕らは本来"人・金・モノ・チャンス"という経営資源を民主的に仲介することを目指してきたんですが、起業して以来、この"チャンス"というマッチングの部分だけを深掘りしてきました。

結果的に無数のスタートアップに関する唯一無二のすごくユニークなデータを蓄積することができました。これを積極的に活用しつつ、"人・金・モノ"の部分を解決するサービスを次々に打ち出していきます」

 

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