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2017.11.7

時代の風~異業種に学ぶ~「ベンチャーキャピタル」 サムライインキュベート 榊原健太郎さん

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※本記事は2015年12月発売のSynapseに掲載されたものです

思いもよらないアイディアは、気がつくとそこにも、ここにも。あまり関係のないジャンルにこそすばらしいヒントはがっている。そんな、時代の風を巻き起こす方々に話を聞き、メディアの仕事にフィードバック。今回は、ベンチャーキャピタリスト。でもきわめて社会起業家的なスタンス。サムライインキュベートを切り盛りする榊原健太郎さんだ。

Samurai Incubate Inc.
榊原健太郎

1974年愛知県名古屋市生まれ。名古屋の「生田屋琴三味線店」の5代目として生まれ、関西大学で産業社会学を専攻。97年、日本光電工業株式会社入社。2000年、株式会社アクシブドットコム(現ボヤージュグループ)入社 。01年株式会社インピリック電通(現電通ワンダーマン)を経て、翌年アクシブドットコムに復帰。07年グロービス経営大学院に学び、08年サムライインキュベートを設立。11年、国内の拠点となるサムライスタートアップアイランドを天王洲に開設。14年には、イスラエル事務所を開設。現在、年の半分をイスラエルで活動する。

 

経験や立場関係なく勝負している人たちに刺激を受けた。

 

― サムライインキュベートさんの社名は、映画『ラストサムライ』にちなんでいるとか?

「あの作品で、日本の清くて美しい魂を表した7つのキーワードに触れました。もとをたどると新渡戸稲造さんの書いた『武士道』に記されてることなんですよね。誠実さを表す『義』、みんなに敬意を持つ『礼』、先陣を切って決起しようという『勇』、名誉に重きをおく『誉』、慈愛の精神を大切にする『仁』、有言実行を表す『誠』、上司や仲間に忠義を尽くす『忠』。

これらに『挑』を付け加えて”八つの魂”と呼んで会社設立前から大切にしていました。前職で営業本部長をやっていた時から、メンバーの行動原理としてこの”八つの魂”を持ち続けてほしいという思いから”サムライ営業本部”って呼んでいたほどです」

 

― 大学卒業からどういう経緯で今のお仕事に?

「新卒で入ったのは医療機器の会社で、営業をしていました。特に何も考えず入社したんですが、”自分が売りたいもの”ではなく、”すでにあるもの”を売る仕事でした。業界的にもお医者さんがとにかく威張ってる世界(笑)。でも入社3年目頃に藤田(晋)さんの『渋谷ではたらく社長のブログ』なんかを愛読してて、経験や立場関係なく勝負をしている人がどんどん世の中に出てきていることに刺激を受けたんです。しかも自分の興味のあるものや自分でつくったものを売りながら。そういう意味でIT系のベンチャーって面白そうだなと」

 

― 次はどこに転職されたんですか?

「前職のボヤージュグループに立ち上げメンバーとして入りました。今は上場して社員も300人ほどいるんですが、スタート時はマンションの一室。成長過程をつぶさに体感できたのは大きかったですね。自分が好きなことをやって変われるんだという自信になりました」

 

― 御社の立ち上げは?

「2008年です。実はボヤージュグループの卒業もポジティブな理由ではなかったんです。立ち上げ後に、サイバーエージェントに子会社化されたので、上が詰まって先が見えない印象で。約15年かかって最近MBOされましたけど、僕は我慢できずに飛び出してしまったんです。

で、とりあえず僕にできるのは営業なので、ベンチャー企業がいいものを持ってるのにマネタイズできないとか、集客ができないというところを解消するお手伝いを始めました。コンサルというか、営業本部代行というか。そんななかでベンチャーさんの希望を聞くと “一緒に働ける場所””法的サポート””資金””海外展開のサポート”みたいな話がポロポロ出てきて、それらをひとつひとつ解消しているうちに、うちの全体像ができあがってきた感じですね」

 

ベンチャー企業の”トキワ荘”。スタートアップの”出島”。

 

― 立ち上げ当初はご苦労されたのでは?

「最初のオフィスの登記は僕の住んでいた桜新町のアパートでした。前職での貯えが少しはあったので、ものすごくお金に困っていたわけではなかったんですが、最初なので倹約に努めました。申し訳なかったのは、うちの暖房が全然効かなかったところ。

すごく寒かったらしく、みんなキッチンのガスコンロで指を温めてからパソコンのキーを叩いてたそうです(笑)。僕自身は営業代行を担当していた複数のオフィスに駐在していたので、そういう実感はなかったんですけど。ただ、自分の会社をつくったのに他社に出勤していくという、非常に違和感のある状態でしたね」

 

― その後、ベンチャーたちが集うオフィス「サムライハウス」を設立したんですよね。

「僕らの支援先も僕ら自身にもオフィスが必要だったので、小竹向原に一戸建てを借りたんです。それを我々のオフィス兼シェアオフィスにしました。あのトキワ荘のすぐ近所だったので、”ベンチャーたちが集うトキワ荘”というイメージでプッシュしたらNHKさんと日経新聞さんに取材していただけました(笑)。当時、ライブドアの一件もあって、IT系ベンチャーへの投資が冷え込んでいたんですが、手応えはありました」

 

― そこから自社プラットフォームを提供する路線に切り替えていかれたわけですね。

「『サムライハウス』にしてベンチャーさんに入ってもらい、コストは3分の1になりました。一方で営業代行をする企業には常駐ではなく週1回の定例ミーティングで対応。そのタイミングで5150万円のサムライファンド1号ができました」

 

― ファンドはどうやってつくったんですか?

「ECナビに投資いただいていたVCさんが出資してくださったんです。”健ちゃんはゼロを1にするのに長けてるから、ベンチャー企業のスタートアップを支援するなら、お金っていうツールもあったほうがいいよ”と。僕自身は、自分がベンチャーの応援団長のようなつもりなので、お金には若干の拒否反応があったんですが、”テコの原理だよ”と説明されたんです。会社をつくる時に一定額のお金を出すことで、新しいサービスが転がる勢いが強まる。

うまくいけばまた大きなお金を集めて、たくさん雇用を生み出せる。僕が一社ずつにつきっきりになるよりも効率よく起業家さんをご支援できて、結果、社会がハッピーになるかなと。金融経験ゼロでVCを始めることになりました(笑)」

 

―オフィスを現在の天王洲に移されたのが2011年。

「ここはSSI=サムライスタートアップアイランドといいまして、現状約社のベンチャーさんとパートナーさんに入居いただいています」

 

―天王洲を選ばれたのはなぜですか?

「他の企業さんと全然違う街でやりたい、というのがまずひとつ。それとゆくゆくは日本全体の起業のハブになりたいと思っていて、ここは羽田からのアクセスが最高なんです。”地方からも海外からもいちばん近い”場所という点から選びました。あと、寺田倉庫さんがこの街の多くの区画をお持ちで。

バブル以降、芝浦アイランドやお台場など、東京の新エリアが開発されて、かつて注目されていたこのエリアにも活性化が必要だったんですね。それで、新しい着眼点を持って一緒にまちづくりができればと僕らは思っています。それと天王洲に関しても、前の”トキワ荘”同様に”現代の出島”というイメージでやっています。

この街って、地形的にも”島”なんですよ。ここに全国、全世界から、次々とスタートアップが集まって新しい時代への扉を開ける、ということをしていきたいと思っています。それでここの名前もサムライスタートアップアイランドと(笑)」

 

―収益モデルは、コワーキングスペースの賃料や出資先が上場した際のキャピタルゲインなどですか?

「完全成功報酬制なので、投資先が将来IPOやM&Aされないとダメなんですが、そこは”いつかリターンがあればOK”というレベルで考えています。あとオフィスの賃料も安く抑えています。お金のないベンチャーからお金を巻き上げてたら共倒れですよ(笑)。

これはうち独自のモデルなんですが、”ディズニーリゾートのスポンサー方式”をとっています。TDRのアトラクションのスポンサーってフリーのチケットがもらえたりイベントに招待されたりして福利厚生に生かしてるでしょ?あの方式です。海外を巡って収益モデルをリサーチしてみたら、大企業がスタートアップを支援するのが普通なんですよね。

海外では5~6年前からそういう流れになっているのが、徐々に日本にもきているようです。大企業って会社が大きくなりすぎていて、自社では軽快に新しい動きができないし、スタートアップと接点を持つことも難しい」

 

―なるほど、こちらをスポンサードすることで、小さいけれど革新的なベンチャーと接触できると。

「新しいノウハウや道標が得られます。例えばIBMさんはスポンサードいただきつつ自ら入居いただいて、新規事業をつくろうとされています。社外で新しい方々と接点を持つチャンスでもあります。ここでは毎日のようにイベントが行われているし、ずっと継続的にハッカソンも開催しています」

 

―スポンサーは榊原さんが探してこられるんですか?

「以前はそうでしたが、今はありがたいことにみなさんようやく気づいていただいて(笑)、毎日お問い合わせをいただくような状況です。世界的に成功しているIT系の大企業って、周囲にスタートアップがいっぱいいる環境で、彼らが予想する世界をつねにヒアリングして、それにあった製品をつくる流れがある。大企業の方がうちに来られるとびっくりするのが、仕切りがないという点。そのほうがアイディアや企画が有機的に絡み合うチャンスが広がるんです」

 

イスラエル進出の背景。少額×多数で雇用と未来を創出。

 

―どういうやり方で投資されるんですか?

「たくさんの会社に少額ずつ投資します。そうすれば、小さな会社がいっぱい集まったコミュニティができるんです。コワーキングスペースをつくって、みんなに集ってもらえて起業家の仲間が増える。そこで切磋琢磨もすれば協力もできる。そのなかから出てきた成功者が、コミュニティのなかから見込みのある仲間をフックアップもできる … …でもそういう少額で、たくさんの企業に投資する人が少ないんですよ」

 

―なぜですか?

「まず単純にマネジメントが大変だから。僕、地方とか飛び回って”このやり方で成功できますよ”ってお話ししてるんですけど、誰もやらない(笑)例えば地銀さんで 億円ほどのファンドをつくるケースがよくありますが、投資先は今うまくいってるところばかり。1社1億円×10社投資、以上。みたいな(笑)

10社なら月10回ミーティングすればいい、以上。みたいな(笑)10億円もあれば、500万円を200社に投資できます。そしたら一気にコミュニティができるじゃないですか。そうしたコミュニティパワーを信じていない」

 

―2014年にはイスラエルに進出されましたね。そもそもなぜイスラエルなんですか?

「というかむしろ逆に、そもそもなぜイスラエルじゃないのか?という感じですよ(笑)。日本のみなさんがイスラエルのことを知らないのが不思議なんですよね。技術や科学者の数がとてつもなく多く、ノーベル賞、フィールズ賞の受賞者がいっぱいいて、世界の主要なIT系のサービスの多くがここから生まれています。

新設される企業の数が多いし、VCの投資額は2014年には約4000億円。海外に拠点というと、すぐにシリコンバレーを目指しちゃいますけど、世界各地をリサーチした結果、世界進出するにはイスラエルしかなかったんですよね。サムライファンド5号は、1000万ドル近くになる予定ですが、日本とイスラエルに半分ずつ投資することになると思います」

 

 

―今どれくらいの頻度で行き来されてます?

「奇数月が日本で、偶数月がイスラエルですね。日本ってあらゆる点で包括的によくしましょうっていう考え方ですが、イスラエルは現実的。国としてここを強くしようという思想を明確に持っていて注力するんです。C++っていうプログラム言語が義務教育に入っていたり、兵役があるんですが、兵役に P yth o nベースの勉強ができるシステムができていたり。

で、アラブってああいう情勢ですから、いつ死んでもおかしくない。イスラエルの人は1日を一生と捉えていて、悔いのないように生きるんですね。だから仕事は6時ぐらいに終える。残業せずにきちんと終わらせるんです。そのための能力も高い。休日には一切仕事をしない。そういうメリハリを日本もつけたほうがいいかもしれないですよね」

 

―今後のビジョンを教えてください。

「僕みたいなインキュベーターをどれだけつくれるか、ということを考えています。今、地方には13社に投資していますが、将来は日本各地でインキュベーターが出てくると嬉しいですね。GoogleとかF a c eb o okを脅かすようなスタートアップをつくって、会社の目標としてはトータル100万人の雇用を生み出すような会社を生み出すのがゴール。それで、平和で穏やかな社会になったらいいなと思いますね。

僕らの投資家さんは健ちゃんが世の中をいい方向に変えてくれたらそれでいいからっておっしゃってくれてる方が多いんです。もちろん、そういう方々にしっかりリターンを出してお返ししながらも、『オレの会社はサムライインキュベートに投資しているんだよね』という話を肴に、おいしい酒が飲んでもらえるような存在になれればいいなと思っています」

 

 

サムライスタートアップアイランド
榊原さんがツイッターで寺田倉庫とつながり、2011年にオープン。現在約50社が入居し、年間200回のペースでイベントを開催。ニューヨークの「WeWork」同様、エリアの価値を上げるコミュニティを目指している。
http://www.samurai-startupisland.asia/

 

メンバーシップ
SSIにはこれらの企業が支援。その見返りとして入居企業との接点を持てる。ハッカソンやアイディアソンを一緒に行うだけでなく、入居企業が大きくなったときに連携できるよう、青田刈り的なメリットもあるのだという。

 

サムライハウス イン イスラエル
テルアビブに2014年5月に開設。イスラエルにはイノベーティブな土壌があるという。「いい意味で放任。本音と建前の使い分けがなく、すべてがダイレクト。年々ハラスメントが増えて言いたいことも言えない日本とは真逆ですね(笑)」。
http://samurai-house-israel.asia/

 

注目のサービス
「まず『エアークローゼット』。月額課金制の洋服のレンタルです。有名アパレルブランドが最近始めましたが、こっちが先。それと『シナプス』。堀江貴文さんや竹中平蔵さんなどが主宰する会員制オンラインサロンのプラットフォームです」
https://www.air-closet.com
http://synapse.am/

 

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