【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】いつまで続く? 脚本家たちが「Netflixスト」に踏み切った理由

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】いつまで続く? 脚本家たちが「Netflixスト」に踏み切った理由

5月2日、米脚本家組合(WGA)がストライキを決行した。WGAに所属している会員が一斉に執筆を取りやめたため、放送作家を失った深夜のトーク番組は軒並み再放送に切り換えられた。

「ストレンジャー・シングス 未知の世界」「アボット エレメンタリー」「コブラ会」といった人気ドラマも制作中断に追い込まれている。

映画に関してはスタジオが脚本のストックを貯めていたが、ストが長引けば影響が出るのは確実だ。


アメリカでは、映画会社、テレビ局、配信業社など350社が所属する業界団体Alliance of Motion Picture and Television Producers(AMPTP)と、各労働組合が数年ごとに労使交渉を行い、労働条件を定めている。

WGAのストは15年ぶりで、前回は2007年から2008年にかけて100日間も続き、業界全体に大きなダメージを与えている。

当時と比較して、現在の景気は決して良好とはいえない。そんななかでストライキに踏み切れば生活に支障が出るのは明らかになのに、脚本家たちは執筆をストップし、各スタジオの前でピケを張っている。

いま戦わなくては、専業脚本家が消滅し、ギグワーカーに成り下がってしまうとの焦りがあるからだ。


ハリウッドでは今回のストライキを「Netflixスト」と呼ぶ声が大きい。

Netflixが生みだし、他の動画配信サービスが追従したドラマ制作モデルにおいて、脚本家たちのギャラが大幅ダウンしているためだ。

従来のテレビドラマは10人前後の脚本家がチームを組み、共同作業でシーズン全体から各話の構成までを練っていく。これを「ライターズルーム」と呼ぶ。ネットワーク局のドラマは1シーズン22話程度で、ライターズルームは10ヵ月間稼働することになる。

だが、Netflixをはじめとする配信ドラマは1シーズンあたりのエピソード数を半数以下に抑えている。そのため、ライターズルームの稼働期間も半減。脚本に名前がクレジットされないスタッフ脚本家は、雇用期間でギャラが割り出されるため、収入が大幅に減る。

さらに、「ライターズルーム」の規模を縮小させた「ミニルーム」なるものが横行している。3、4人という少人数でありながら、負担は大きい。さらに、参加できるのはベテランだけになるので、新人が学習できる機会が失われてしまう。

こうした状況を踏まえて、WGAは、シリーズの長さによってライターズルームの構成人数を6〜12人に、雇用期間を最低10週間にするように要求している。


また、以前にも書いたが、著作権使用料(印税)の問題もある。

ネットワーク局向けにドラマの脚本を執筆し、それがケーブル局や海外で再放送され、二次使用されると、そのたびに脚本家に印税が入る仕組みになっている。

だが、動画配信の印税は、現行契約ではテレビ放送よりも低く抑えられているうえに、再生回数などのデータが公表されない。脚本家にとってブラックボックスと化しているのだ。

WGAは、最低賃金や印税率のアップとともに、視聴回数に基づいた印税計算の導入を提案している。そうすれば、人気のあるストリーミング番組の脚本家がより大きな報酬を得られるようになるためだ。だが、AMPTPはこの提案を拒否している。


さらに、ChatGPTなどの生成AIの到来が事態をややこしくしている。

危機感を募らせるWGAは脚本執筆にAIの使用禁止を求めているが、AMPTP側は「年に1回、技術の進化について話し合いの機会を持つ」とだけ回答している。

脚本執筆のコストカットを狙うAMPTPが生成AIに期待を寄せているのは明らかで、現在の労働環境にAIが加われば、脚本家たちは執筆で生計を立てられなくなる。

双方一歩も譲る状況ではないので、しばらくは膠着状態が続くものとみられる。


解消のきっかけとして期待されているのが、監督や演出家の労働組合である米監督組合(DGA)だ。DGAの現行契約は6月30日に満了を迎える。

これから交渉に入るものの、AMPTPはDGAには強気になれない事情がある。なにしろ、DGAがストライキに突入すれば、テレビドラマや映画の監督や演出家はすべてDGA会員なので、文字通りハリウッドが停止してしまう。

だからこそ、歴史上DGAがストライキに突入したのは1987年の1回だけで、しかも3時間で収束している。

DGAが契約更改交渉で動画配信に関する新たな規準を設け、それをもとにWGAとAMPTPが交渉を再開させる。そんなシナリオになるのではないかと予想している。

<了>

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