【ラジオレコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO】中高生に寄り添い続ける番組を 〜広島FM『大窪シゲキの9ジラジ』竹下香織ディレクター〜

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ラジオ レコメンダー" やきそばかおる "の I love RADIO 第60回

今回は広島FMの人気番組『大窪シゲキの9ジラジ』(月曜〜木曜 20時〜22時)のディレクターを務める竹下香織さんに話を伺いました。『9ジラジ』は中高生向けの番組として2000年4月に『山口雅美の9ジラジ』としてスタート。2007年に大窪シゲキさんにバトンタッチして現在に至ります。2020年には日本民間放送連盟賞「ラジオ生ワイド番組最優秀」を受賞しました。竹下さんは番組開始2年目にアシスタントディレクターとして加わりました。

当初は音響の仕事に就きたくて専門学校に通っていましたが、非常に厳しい世界だと分かり挫折してしまいます。


▲竹下香織さん(右)と火曜日を担当しているディレクター市川さんと、ADケンケンさん


やきそば 竹下さんが『9ジラジ』に関わるようになったきっかけは何ですか?

竹下さん 実は就職を諦めて結婚しようと思っていたんですけど、専門学校の先生に広島FMのスタッフオーディションを受けることを勧められました。卒業制作でラジオ番組を作る授業があって、ラジオを作る楽しさを感じていたのでオーディションを受けました。

やきそば 当時、山口雅美さんやスタッフの皆さんから、竹下さんが選ばれた理由を聞いたことはありますか?

竹下さん 山口さんには「たけちゃんはガッツがありそうだから」と言われました(笑)。

やきそば 2000年に『山口雅美の9ジラジ』が始まる前は同じ放送枠でカウントダウン番組(『J-POP SUPER COUNTDOWN』)を放送していましたが、『山口雅美の9ジラジ』として学生向けの番組を始めた頃の様子はいかがでしたか?

竹下さん 『9ジラジ』がスタートした頃は火曜と水曜のみの番組で「男子チャート」「女子チャート」という形でチャートを紹介する番組でした。「男子」「女子」という言い方をすることで学生向けであることを明確にしていたようです。当時は「テレフォンボード」に留守番電話のようにメッセージを録音してもらって文字に起こして『9ジラジ』で紹介していました。

◯学校訪問の取材は100人分の署名から

やきそば 学校を訪れて取材をするようになったのはいつ頃からですか?

竹下さん 番組が始まって1年ほど経った頃に、ある中学生の男の子から「ウチの学校に来てほしい」と100人分の署名を集めたファクシミリが届いたんです。

やきそば 100人!

竹下さん 先生の皆さんも「素晴らしいから、ぜひ実現させましょう」と快諾してくれました。そこで生徒の皆さんに楽しんでもらえる企画を考えた結果、山口さんが思い付いたのが「9ジラジ出張校内放送」でした。

やきそば 名企画ですよね!

竹下さん 今でも「ウチの学校に来てほしい」というメールは寄せられます。ただスタートした当時はラジオが学校に?!と驚かれることも多く、なかなかハードルが高かったため、実現するのは10校のうち1校ほどでした。実現できなかった場合は学校の皆さんも番組のスタッフも泣く泣く諦めます。ただ年数を重ねるたびに、過去に「出張校内放送」でお世話になった先生が別の学校に異動されて、新たな学校で企画が実現するケースも増えていきました。


▲『9ジラジ』出張校内放送in広島県立安西高等学校with広島市立安西中学校&安西小学校。

本番前に高校の放送室の機材をチェックする様子。広島FMから機材を持ち込んで放送室の機材にインプットする。

◯2代目の不安

やきそば 2007年からは『大窪シゲキの9ジラジ』が始まりますが、大窪さんとの出会いは?

竹下さん 私がディレクターになった年に大窪がADとして加わりました。大窪はもともと喋り手になることを希望していて、勉強を兼ねてADに就きました。腰ぐらいまで髪が長くて、その髪を全部帽子のなかに入れていました。頭が大きくて怪しい人が入ってきたという印象でした(笑)。

山口さんが番組を離れることになり、山口さんの指名もあって後任は大窪に決まったのですが、正直に言うと「大窪で大丈夫?」と思いました。不器用で滑舌が悪く『9ジラジ』というタイトルすらうまく言えませんでした。ただ、誰よりも元気で一生懸命だったので、『大窪シゲキの9ジラジ』を何としても軌道に乗せたいという思いでした。


やきそば 当時の9ジラー(リスナーのこと)の皆さんの反響はいかがでしたか?

竹下さん 山口さんが番組を離れることにショックを受けていた人は多かったです。ただ、大窪は9ジラーに愛されるキャラクターで、スタッフのひとりとしてちょくちょく番組に出ていましたし、9ジラーと連絡をとる時は大窪が電話をかけていたので、9ジラーにとってはおなじみの存在でした。だからワクワクしていた人も多かったです。

やきそば 大窪さんにバトンタッチして、アドバイスしたことは何ですか?

竹下さん いろいろありますが、例えば、9ジラーは大窪にアドバイスを求めているのだから、誰にでも言えるようなアドバイスをしたり、みんなに同じアドバイスをするのもダメといったことを言いました。初めは番組がうまくいかず、ふたりで話し合いをして価値観のすり合わせをしていきました。『9ジラジ』はどのような番組であるべきか、といったことも話し合いました。

やきそば そんななかで大窪さんの意識が変わってきたと思ったことは?

竹下さん 大窪がいろいろな職業の人と交流を持つようになって、さまざまな生き方や考え方をインプットするようになってきたことですね。

◯ひとりひとりに誠実に

やきそば 『9ジラジ』を放送していくにあたり、心がけていることは何ですか?

竹下さん 9ジラーのひとりひとりに対して誠実でいることです。子ども扱いをするのではなく、ひとりの人間として接しています。

やきそば それは大事ですね。

竹下さん あとは、9ジラーが番組に出演する際はなるべく後悔が生まれないように、良い形で出演できることを考えています。例えば夜8時台の丸々1時間、大窪シゲキと生放送をする「高校生DJ」の場合、高校生のありのままを大切にしつつ、不特定多数の人が聴いていることもしっかり意識してもらいます。

言いたいことをそのまま話したことで傷つく人がいると後悔することになるので、楽しい放送になるように一緒に考えます。時に「明日ラジオに出たい!」というオーダーもあるんですが、中身が整っていないまま出てしまうともったいないので、敢えて出演日をズラして内容をしっかりと作り上げることもあります。

せっかくなら、しっかりしゃべることができた!という成功体験にしてほしいので、9ジラーと話し合って納得いく形に整えます!


▲『9ジラジ』高校生DJのスタジオ内の様子

◯メッセージは全員で共有

やきそば 番組に届いたメッセージはどうしていますか?

竹下さん 大窪はもちろん、スタッフ全員が読みます。そうすることで、例えばある9ジラーが月曜日に落ちこんだ内容のメッセージを送ってきていて、翌日に音沙汰がなくて心配していたところ、水曜日に気持ちが復活したという動きを把握することができます。元気になってくれると本当に嬉しいです。

少ない人数で作っていますが、嬉しさも悔しさも共有しながら『9ジラジ』を作っていけるのはメリットだと思います。

◯悩みへの向き合い方

やきそば 重い悩みにはどのように向き合っていますか?

竹下さん 「生きるのがつらい」という相談も寄せられます。真摯に向き合って、メッセージを紹介する際には言葉と音楽をきちんと添えるようにしています。慎重になる必要があるので、相手に投げかける言葉は大窪と一緒に考えます。

このことを重ねてきたことは大窪や私たちスタッフにとって大きな経験になっています。ただし覚悟が必要なので、放送が終わってからも「あの言葉で良かったのだろうか」と悶々と悩んだり、「その後、メールがこなかったらどうしよう」と不安になったりします。新聞を読む時も悲しい出来事が起きていないか心配になります。

大窪はいつしかエンディングで「バイバイ」「さようなら」と言わずに、「また明日!」と呼びかけるようになりました。大窪もスタッフも10代の番組を担当させてもらえる楽しさを感じると同時に、責任感も育んでいます。

◯10代への尊敬

やきそば 長い間、中高生と接してきて、変わってきたと思う点は?

竹下さん たくさんあります。私の感覚ではあるんですが、まずは塾に通っている人が多く、帰宅時間が遅いこと。昔は部活や塾が終わって夜7時過ぎには帰っている人が多かったから、『9ジラジ』に出たいという9ジラーとは番組開始前に打ち合わせができたんですけど、今は帰宅時間が10時以降とか、なかには11時半まで勉強して帰宅する9ジラーもいます。1週間のうち、ほとんど毎日塾に行っている9ジラーも多いです。

私が心配すると「大丈夫」と返してくるから、「たまには息抜きにラジオで遊んでいってね」といった具合に声をかけます。10代は日々、勉強、部活、恋愛、人間関係といろいろなことを頑張っているので、私は今の10代の皆さんを心から尊敬しています。

◯友達との会話の仕方が分からない

やきそば 最近の悩みの特徴はありますか?

竹下さん 勉強が苦手とか、友達と喧嘩したといった普遍的な悩みはありますが、最近は「恋」がどんなものなのか分からない人が多いのを感じます。昔はラジオで恋の話をすると盛り上がったのですが、最近は反応が薄めで、10代のリスナーから、部活と塾が忙しくて恋をする時間がない!なんて言葉もよく聞きます。

やきそば なるほど!

竹下さん ほかにも数年前に急に増えたのが、友達とどんな話をすればいいのか分からないという悩み。それもクラス替えのタイミングで増えるのではなく、夏や秋に増えました。妙に感じて実際に10代にリサーチしてみると、友達に「昨日何してた?」と聞こうにも、SNSを見ると何をしていたのかが書いてあります。

本人に聞く前にSNSで知ってしまうことが多いから、話のきっかけが分からず、話の膨らませ方も分からないと言うのです。それをSNSの弊害と言うつもりはありませんが、このまま大人になるとコミュニケーションがとれなくなるのではないかと勝手に心配しましたね。

やきそば 確かにそうですね。

竹下さん そこで、知らない大人としゃべることは何かしらの力になるのでは?!と思い、『9ジラジ』が"お節介"なこともやっていこうと決めました。

例えば学校の挨拶運動に大窪やアシスタントDJも参加させていただいてコミュニケーションをとったり、昼の休憩時間に校内を自由に歩きながら生徒の皆さんにお話を聞く「ウォークボックス」という企画を立ち上げました。こんな企画を許可してくださる学校関係者の皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

わりと人気企画だったのですが、残念ながらコロナ禍になってしまったのでずっとお休みしています。


やきそば コロナ禍でいろいろなことができなくなっているのはとてももどかしいですね。

竹下さん 私は10代の一日は大人の一日とは全く別物だと思っています。学校行事がなくなったり、友達とも距離を置いて接しないといけない状態が続いています。

夏の甲子園で優勝した仙台育英学園高等学校の須江航監督が「"青春って、すごく密"なので。でもそういうことは全部『だめだ、だめだ』と言われて、活動していてもどこかでストップがかかって、どこかでいつも止まってしまうような苦しい中で本当に諦めないでやってくれた」と仰っていました。この言葉に強く共感し号泣しました。

「青春は密であれ!」そんな日常が早く戻ってほしいと思っています。


やきそば 学校にリクエストボックスを置くアイデアもすごく良いですね。

竹下さん 私もとても好きな企画です。「高校生DJ」の企画も大人気で出演希望のエントリーもたくさんいただいています。『9ジラジ』はありがたいことに10代という貴重な時代に参加させてもらうことができる番組です。リクエストボックスも「高校生DJ」も、大人になっても心に残るものを『9ジラジ』から提供したくて企画しました。

◯未来を創るには新しいことを

広島FMといえば、2年前にRCCの横山雄二アナウンサーが大窪さんのことを『平成ラヂオバラエティ ごぜん様さま』でいじるようになってから、横山さんと大窪さんを発端として、大窪さんが『ごぜん様さま』の横山さんのピンチヒッターを務めたり、横山さんと河村綾奈アナウンサーが『9ジラジ』に出演したり、はたまた大窪さんがRCCラジオの開局70周年記念の番組に出演したりと、お互いの交流が生まれています。 2022年12月6日(火)には広島FMで特別番組『広島特産ラジオヨコヤマシゲキアワー』を放送。横山さんと大窪さんが2時間半にわたり賑やかに届けました。実は大窪さんが自ら企画した番組で、竹下さんはディレクターを務めました。


やきそば 『ヨコヤマシゲキアワー』は気合が入っていて面白かったです。

竹下さん 気合を感じてくださってありがとうございます! 正直めっちゃ緊張しました!(笑)

よくラジオの未来について聞かれることがあるんですが、ラジオの未来を創るにあたり、RCCさんと手を取り合うことで見えてくることがあると思っていたので、『ヨコヤマシゲキアワー』でのコラボは希望以外のなにものでもありませんでした。

未来を創るには今までにやっていないことをするのが大事だと思うのと同時に、今までラジオが大切にしてきた音楽や共感、出会い、ぬくもりなどを絶対になくさないようにすることで、ラジオが新しい時代に突入できるのではないかと思いました。

◯踏ん張るのは苦にならない

やきそば 10代を応援するラジオ番組は各地で放送されています。新たに立ち上がった番組がある一方、泣く泣く終わっていった番組もあります。竹下さんがおよそ18年間『9ジラジ』に携わってこられたモチベーションはどういったところにあるのでしょう?

竹下さん 昔、あるラジオ局の方から「学生向けの番組は未来があるから素晴らしいのですが、改編の影響を受けやすいから踏ん張ってください」と言われたことがあります。確かにその通りで「踏ん張ってください」という言葉は私の心を支えています。

ただ私にとって、『9ジラジ』を続けるために踏ん張るのは苦ではありません。踏ん張れば改編は乗り越えられると思っています。それに10代の皆さんと『9ジラジ』を作っている時間は本当に楽しいです。10代に向けた番組を作るには覚悟が必要で、「もしも『9ジラジ』が終わったら、どう生きていけばいいか分からない」と言ってくれる9ジラーもいるなかで、「終わることになりました。改編に負けました」なんて言えないと思っています。

なのでこうして『9ジラジ』が23年目を走れているのは9ジラーと学校関係者の皆様、そして一番近くで一緒に踏ん張ってくれる『9ジラジ』チームと広島FMの皆さんのおかげなんです。


やきそば 熱い思いと共に放送している『9ジラジ』には、同じく熱い思いを持ったミュージシャンが多数出演しますよね。

竹下さん Perfume、長渕剛さん、高橋優さん、SUPER BEAVERほか、ミュージシャンの皆さんがさまざまな経験を通じて得たことを9ジラーに届けてくれるのが本当に嬉しいです。皆さん、本気で10代を応援してくださいます。いろいろな方の愛情に支えられて『9ジラジ』は続いています。

やきそば 熱い思いは届きますよね。

竹下さん 大窪も『9ジラジ』で「偉くならなくてもいいから、愛される人になってほしい」とよく言っています。私はさらに「愛する人でもあってほしい」とも思っています。そういう人間になってくれたら、まわりもハッピーな気持ちになれますよね。

私はおよそ18年間(途中で3年間、番組から離れた期間がある)『9ジラジ』を担当させていただいていて、今後も続けていく"勝手な使命"を感じています。『9ジラジ』が私の人生の全てなので生きる場所を与えてもらったと思っています。私は『9ジラジ』が本当に大好きです。

大窪シゲキさんのインタビューはこちら(『やきそばかおるのI love RADIO』第51回)からお読みいただけます。


後半は学生向けの番組や、学生が出演する番組のなかから新しい番組4本をピックアップ。

文化放送では2022年秋〜2023年春のナイターオフ枠に『おいでよ!青春る(アオハル)』(火曜・水曜 19時〜21時)を放送中。高校生が大人にさまざまなことを教える形式。"アオハルナビゲーター"はTHIS IS パン(火曜)、世間知らズ(水曜)。いずれのコンビも話の引き出し方がうまいです。

石川のMROラジオでは『石橋弘崇のハイスクールNow!!』(日曜 17時15分〜17時30分)を放送中。地元で活躍する高校生に石橋アナウンサーがじっくりと話を聞きます。大人が聴いて感心することが多い番組です。高校生が聴きたい曲もオンエア。

鳥取のBSSラジオでは『AKB48 徳永羚海・松原佑基のいまどきハイスクール!』(日曜 21時45分〜22時)がスタート。現役高校生の徳永羚海(AKB48)とBSSの若手、松原佑基アナウンサーが地元の高校生と一緒に作ります。女優デビューを果たしてノリにのっている徳永さんの近況報告を聞く松原アナ。なんとも嬉しそうです。頑張る高校生とのやりとりも微笑ましいです。

エフエム山口では中高生に向けた音楽番組『FMY Homeroom Radio』(土曜 19時〜19時55分)がスタート。パーソナリティーは「オレンジ☆みるふぃ~ゆ」として活動していた人気パーソナリティーの兼頭のぞみとライブハウス「LIVE rise SHUNAN」「RISING HALL」を作った兵頭尚吾。兵頭さんは常にミュージシャンの原石を探しています。リポーターは今田花笑。

高知のRKCラジオでは高知県内で音楽活動をしている高校生ミュージシャンの楽曲を紹介する5分番組『ハイスクール♪バップス』(火曜 17時25分〜17時30分 ※「バップス」は「良い曲」という意味)と、高知県内の高校の放送部に所属する学生が、自身のイチオシ曲をリスナーに紹介する5分番組『放送部のおと』(月曜〜金曜 13時25分〜13時30分)を放送。さらに高知県立大学に通う学生たちが主役を務める『なないろクレヨンUoK!』(土曜 19時〜19時30分)がスタートしました。

大分のOBSラジオでは九州を中心に活躍する「ギャル大臣」が小田崇之アナウンサーと大分の学生と作る『土イチ de much-on!』(土曜 13時〜15時)がスタート。ギャル大臣はアウトソーシング会社CEO兼、アパレルブランド『Not For Sale』元ディレクター。ITベンチャー企業の営業担当だった一面も持っているそうで、さまざまな業界のハブ的な存在のギャル大臣と小田アナと学生の化学変化に期待。

<了>

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