【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】スカイダンス・メディアの快進撃

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】スカイダンス・メディアの快進撃

2022年、最大のヒット映画といえばトム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」だ。

現時点(2022年10月)で世界総興収14億8000万ドルという成績は、同じコロナ禍に公開された前年トップの「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の19億ドルと比較すれば見劣りするものの、若い観客を対象にしたアメコミ映画ではなく、また、中国市場で公開されていないことを考慮すると驚異的な数字である。

そして、いま本作を制作したスカイダンス・メディアの動向に注目が集まっている。


スカイダンス・メディア(かつてはスカイダンス・プロダクションズ)は、オラクルの共同設立者ラリー・エリソンの御曹司デヴィッド・エリソンが2006年に立ちあげた制作会社だ。

ジェームズ・フランコ主演の戦争映画「フライボーイズ」(2006年)を経て、2009年にパラマウント・ピクチャーズと共同制作契約を締結。シリーズ通算第4弾となる「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」が大ヒットしたことをきっかけに、エンタメ路線へと舵を切り、「スター・トレック」や「ターミネーター」などの人気シリーズなどを手がけていくことになる。

ちなみに、デヴィッドの妹ミーガン・エリソンも映画プロデューサーである。

彼女は制作会社アンナプルナ・ピクチャーズを立ちあげ、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ザ・マスター」やキャスリン・ビグロー監督の「ゼロ・ダーク・サーティ」、デヴィッド・O・ラッセル監督の「アメリカン・ハッスル」など作家性の高い作品を手がけている。

同じ家庭環境で育ちながら、映画の嗜好がまったく異なるのが面白い。


「トップガン マーヴェリック」の制作に関しては、「ミッション:インポッシブル」シリーズでもタッグを組むトム・クルーズと、かつパラマウント作品であることから、すんなり決まったものと想像する。だが、まさか北米興収歴代5位になるほどのヒットになるとは予想していなかっただろう。

スカイダンス・メディアの快進撃は映画だけに留まらない。2013年に立ちあげられたスカイダンス・テレビジョンは、アマゾン・プライムビデオ向けに「トム・クランシー/CIA分析官ジャック・ライアン」や「ジャック・リーチャー ~正義のアウトロー~」、Apple TV+向けに「ファウンデーション」といったヒットドラマを制作。

さらに、2017年にスカイダンス・アニメーションを立ちあげ、ピクサーやディズニーでチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めたジョン・ラセター監督を招聘している。今夏、ようやく第1弾「ラック~幸運を探す旅~」がApple TV+で配信されたばかりで、今後は「シュガー・ラッシュ」「ズートピア」のリッチ・ムーア監督や、「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」のブラッド・バード監督の新作が控えている。

ほかにもゲーム部門のスカイダンス・インタラクティブは「ウォーキング・デッド」のVRゲーム「The Walking Dead: Saints & Sinners」を制作。2021年にはスポーツコンテンツ部門のスカイダンス・スポーツが立ち上げられている。


先日、スカイダンス・メディアは、投資会社KKRから4億ドルの資金調達を取りつけたと発表した。2018年には中国企業のテンセント、2020年には韓国企業のCJ ENMなどが株式の一部を取得しており、いまでは企業価値が40億ドル以上に膨れあがっているのだ。

背景には、ストリーミング戦争が激化するなかで、優良な制作会社に投資が流れている現状がある。Netflixやアマゾン・プライムビデオ、Apple TV+はいずれもオリジナルコンテンツの拡充を急いでいるが、実際に企画開発や製作を行っているのは外部の制作会社である。そのため、各社とも制作会社と契約を結び、抱え込みをはかっている。

スカイダンス・メディアに関しても、2022年にAppleと実写映画における大型契約を結んでいる(なお、「ミッション:インポッシブル」や「トランスフォーマー」、「トップガン」など、過去に関わった作品の新作であれば、パラマウントとタッグを組むことは可能だ)。


そんななか、昨年夏にある業界を騒然とさせる事件が起きた。

女優リース・ウィザースプーンが率いる制作会社ハロー・サンシャインが、元ディズニー重役が指揮する新たなメディア企業に9億ドルで買収されたのである。

ハロー・サンシャインは、ウィザースプーンが出演する「ビッグ・リトル・ライズ」「ザ・モーニングショー」といったテレビドラマのみならず、映画、リアリティ番組など多角的に活動を展開しており、女性向けのはっきりとした方向性と確かなクオリティで、ファンを拡大している。放送局・配信業者が欲しがる人気コンテンツを生み出しつづけると見た投機筋が、買収に踏みきったわけだ。

この出来事が投資ファンドによる制作会社の買収/出資ブームの火付け役となり、「ゴジラvsコング」などのモンスターバースを展開するレジェンダリー・エンタテインメントも7億6000万ドルを調達。俳優でプロデューサーとしても活躍するブラッド・ピットも、自身の制作会社プランBの売却先を探しているといわれている。


「トップガン マーヴェリック」という大ヒットを生みだしたスカイダンス・メディアも、投資ブームに乗って新たな資金を調達した。今後、ハリウッドでますます大きな存在となりそうだ。


<了>

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