HOME メディア 【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】実写版「ムーラン」、PVODスルーの衝撃。映画配給のニューノーマルとなるか?
2020.9.14

【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】実写版「ムーラン」、PVODスルーの衝撃。映画配給のニューノーマルとなるか?

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小西 未来(こにし みらい)

ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」に続き、最新作「カンパイ!日本酒に恋した女たち」が現在、劇場公開中。

 


 

新型コロナウイルスの感染拡大でストップしていた「ジュラシック・ワールド/ドミニオン(原題)」や「マトリックス4(仮題)」の制作が再開した。中止が取り沙汰されていたベネチア国際映画祭やトロント国際映画祭も、規模を縮小しながらも無事開催されるなど、コロナ禍でも映画界は復活しつつある。

だが、興行に関しては、いまだに見通しは明るくない。感染者数の多さから映画館の営業が許されていない国や地域が多いうえに、営業できたとしても定員を通常の50%以下にしなければいけないなどの制約がある。「3密」や「換気が悪そう」というイメージから、劇場を敬遠する客もいるだろう(日本の映画館に関しては、業界全体が一丸となって感染防止策に努めており、興行場における空気の流れを可視化した「映画館における換気実証実験」がYouTubeで公開されている)。

 

 

そんななか、劇場に映画を提供するスタジオは選択に迫られている。

もっともリスクが低いのは、コロナが収束するまで新作映画の公開を控えることだ。アメリカでコロナの感染が悪化した今年3月末、ソニー・ピクチャーズは今年の夏に公開を予定していた「ゴーストバスターズ/アフターライフ」、「モービウス」といった大作の公開を1年延期することを決定。ユニバーサルも人気シリーズ最新作「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」を2021年まで延期するとしている。

 

 

一方、ワーナー・ブラザースはクリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」を段階的に展開する方法を選んだ。「TENET テネット」のような超大作映画の場合、海賊版の流出による損害を最小限にするため、世界同時公開を行うのがセオリーだ。だが、コロナ感染の深刻さは国や地域によって異なる。もしも、全世界の映画館がそろって上映できる状態まで待つとなると、先に営業を再開させた映画館が干上がってしまうリスクがある。ハリウッドが新作を提供しなければ、映画館は旧作に頼らざるを得ず、集客に苦労するからだ。

そこで、ワーナーは8月下旬から段階的に「TENET テネット」の世界公開を開始。
アメリカでは9月3日に封切られたが、ニューヨークやロサンゼルスなどの劇場が再開していないため、オープニング興収が2020万ドルと、ヒットメーカーのノーラン作品としては低調なオープニングとなっている。

ただし、コロナ禍で「TENET テネット」にはライバルが存在しないので、堅調に稼いでいく可能性はある。制作費2億ドルの同作が赤字を回避するためには、最低でも世界総興収5億ドルは超えなくてはいけないといわれている。「TENET テネット」の動向に、ライバルのスタジオも注目している。

 

 

第3の選択はPVOD(プレミアム・ビデオ・オン・デマンド)だ。通常の動画配信(VOD)にプレミアムという冠がついているのは、劇場公開を行っていない作品だからだ。

今年4月、ユニバーサルは劇場公開を予定していた「トロールズ ミュージック☆パワー」を、急遽PVODで提供。48時間のレンタル料を19ドル99セントと通常よりも高く設定したにも関わらず、数週間で1億ドルを超える収益をあげている。その後もユニバーサルは、ジャド・アパトー監督のコメディ「The King of Staten Island」、ケビン・ベーコン主演のホラーサスペンス「You Should Have Left」といった新作映画をPVODスルーに。

すると、ワーナーがアニメ映画「Scoob!」、オライオン・ピクチャーズもキアヌ・リーブス主演のコメディ「Bill & Ted Face the Music」で続くことになった。

 

そして、ついにディズニーがPVODに参入した。9月4日から、自社ストリーミングサービス「Disney+」で実写版「ムーラン」の配信を開始したのである。
実写版「ムーラン」といえば、もともと4月に世界公開を予定していた作品だが、数回の延期を経て、「Disney+」でのデビューに切り替えられた。なお、「Disney+」の展開がない国や地域では劇場公開されるという。

これまでに10を超える映画作品がPVODスルーとなっているが、控えめに言っても「ムーラン」は桁違いだ。お馴染みのミュージカルアニメの実写映画化には、2億ドルもの制作費が投じられている。これまでにPVODで配信された作品の大半は1000万ドルとハリウッドの基準では低予算で、唯一、ドリームワークス・アニメーションが制作した「トロールズ ミュージック☆パワー」だけは1億ドル前後の大作だ。だが、それでも「ムーラン」の半額である。

 

今回、この超大作をPVODスルーするにあたり、ディズニーは「Disney+」でのプレミア アクセスという手法を選んだ。「ムーラン」を視聴するためには、「Disney+」の会費(月額700円(税別))のほかに、2980円(税別)のプレミア アクセス料金を払う必要がある。

正直高いと思うが、劇場公開されていれば世界総興収10億ドルが期待されている作品だけに、強気に行かざるを得なかった事情があるようだ。米ハリウッド・レポーターによれば、もしPVODだけで世界総興収10億ドルに匹敵する収益をあげるためには、2900万回レンタルされる必要があるという。

米ウォルト・ディズニー社のボブ・チャペック代表取締役は、1回限りの特別措置と言いつつも、Disney+の加入者の増減やPVODの取引数などのデータを取得できる絶好の機会だとコメントしている(※)。ピクサーやマーベル、「スター・ウォーズ」など多くの人気ブランドを抱えているディズニーにとって、実写版「ムーラン」はPVOD進出のための試金石の役割を果たしているようだ。

なお、実写版「ムーラン」のプレミアム アクセスの期間は3ヶ月で、12月4日からは「Disney+」会員であれば追加料金なしで視聴できるようになるという。

 

※ https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/mulan-heads-disney-us-select-countries-at-premium-price-1298688

 

<了>

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