【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】新型コロナウイルスの影響で変わりつつある映画興行のあり方

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】新型コロナウイルスの影響で変わりつつある映画興行のあり方



新型コロナウイルスの感染拡大により、アメリカの映画界に激震が走っている。

4月上旬に世界公開を予定していた「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」を皮切りに、「ワイルド・スピード9(仮題)」「クワイエット・プレイスPART II」「ムーラン」「ブラック・ウィドウ」など春に公開予定だった注目作が相次いで延期。3月15日に米疾病予防管理センター(CDC)が50人以上のイベントを中止するように勧告すると、映画館がつぎつぎと閉鎖。外出禁止令が発動された州も少なくなく、いまやアメリカ全土のほぼすべての劇場が扉を閉じてしまっている。

5月12日に開幕を予定していたカンヌ国際映画祭も延期を決定。映画やドラマの制作もすべて中断され、今回のコロナ渦によりハリウッドは200億ドル規模の損失を被るとの試算も出ている。まさに未曾有の動乱に飲み込まれている。


現時点のアメリカでは収束の見通しがまったく立たないものの、明けない夜がないように、いつか新作を見るために映画館に通うありきたりの日常が戻ってくるはずだ。だが、今回の騒動で取られた一時的な措置が恒久的なものになる可能性がある。それは、シアトリカル・ウィンドウの短縮だ。

「シアトリカル・ウィンドウ」を直訳すると「劇場期間」となる。新作映画を劇場公開してから、DVDの発売やデジタル配信を開始するまで期間のことなので、「劇場独占期間」と訳すといいかもしれない。

かつては半年ほどあったシアトリカル・ウィンドウも、いまでは約3ヶ月(正確にはデジタル販売は74日、デジタル版のレンタルやDVD・ブルーレイ発売は88日後)となっている。シアトリカル・ウィンドウが短かすぎると劇場公開を敬遠する映画ファンが増えてしまうし、長すぎると大量投下した映画宣伝の効果が薄れてしまう。期間をなるべく長く引き延ばしたい劇場側と、短縮したい配給側が綱引きを繰り返し、現時点では約3ヶ月となっている。

アメリカで観客動員が減るに従って、配給サイドは期間短縮を狙ってきたものの、全米劇場所有者協会(NATO)という結束の強い業界団体を持つ映画館側に弾かれてきた。オリジナル作品を劇場公開と同時配信する新興Netflixに対しては、加盟チェーンからNetflix作品を排除する措置を取っている。


だが、新型コロナウイルスの影響で、劇場と配給との均衡が崩れた。3月6日にピクサー最新作「2分の1の魔法」を全米公開したばかりのディズニーは、3月20日から同作をデジタル配信することを決定。ワーナーもマーゴット・ロビー主演のDC映画「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」とマイケル・B・ジョーダン主演の司法ドラマ「黒い司法 0%からの奇跡」の配信を前倒しすると発表。ソニーも全米公開をはじめたばかりのヴィン・ディーゼル主演映画「Bloodshot(原題)」の配信を開始すると発表している。

各社がいきなりシアトリカル・ウィンドウを破るようになったのは、新型コロナウイルスによる劇場閉鎖という非常事態に加えて、外出禁止令で暇を持て余している人々にエンタメを提供するという大義があるためだ。配給側のこうした動きに対して、NATOも理解を示している。


だが、ユニバーサルが取った行動は別だ。ユニバーサルは現在公開中の「透明人間」「ザ・ハント(原題)」「エマ(原題)」の3作品の配信を前倒しすると発表。この対応に関しては他のスタジオと同じで問題はないが、さらに、新作「トロールズ/ワールドツアー(原題)」を全米公開日にデジタル配信を行うと発表したのである。

同作はドリームワークス・アニメーション製作の2016年のヒット映画「トロールズ」の続編で、4月10日に全米公開に向けて宣伝を行ってきた。ユニバーサルは同作を公開延期にするのではなく、同日にデジタル配信を行う道を選んだ。続編を心待ちにしていたファンにとっては嬉しいサプライズだが、シアトリカル・ウィンドウを無視したユニバーサルの行為に、NATOの会長は「劇場はこのことを忘れないだろう」と報復措置を匂わせている。


だが、その劇場側は閉鎖に追い込まれ、アメリカ政府に緊急支援を要請している状態だ。そんななかで、人気コンテンツを抱えるスタジオ側と、これまでのように強い態度で対抗していけるとは思えない。ディズニーはDisney+という独自のストリーミングサービスを持っているし、ワーナーはHBO Max、ユニバーサルはPeacockを準備中だ。もし、「トロールズ/ワールドツアー(原題)」がデジタル配信で大きな収益を上げれば、スタジオが劇場に依存する必要がないこと明らかになる。

新型コロナウイルスが収束したとき、シアトリカル・ウィンドウが大幅に短縮したとしても不思議はなさそうだ。


<了>

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