【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「パラサイト 半地下の家族」が“ありえない”アカデミー賞受賞を果たした理由とは

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【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】「パラサイト 半地下の家族」が“ありえない”アカデミー賞受賞を果たした理由とは



先日、世界でもっとも有名な映画賞であるアカデミー賞において、韓国映画の「パラサイト 半地下の家族」が作品賞を含む4冠に輝いた。伝統と権威を誇るアメリカの映画賞において外国語映画が作品賞に輝くなど、前代未聞の出来事である。今回はこの歴史的快挙が実現した理由と、受賞が持つ意味について考えてみたいと思う。


92回にも及ぶアカデミー賞の歴史において、外国語映画が作品賞部門にノミネートされたのは、今回の「パラサイト 半地下の家族」や昨年の「ROMA /ローマ」をはじめ、「愛、アムール」(2013年ノミネート)、「バベル」(2007年)、「硫黄島からの手紙」(2007年)、「グリーン・デスティニー」(2001年)、「ライフ・イズ・ビューティフル」(1998年)、「イル・ポスティーノ」(1996年)など、わずか12本しかない。

理由のひとつは、これらの映画には国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)という部門が用意されているためだ。

最高賞にあたる作品賞は、その年にロサンゼルスで一定期間商業公開された映画作品が対象だ。作品さえ優れていれば、どの国で制作され、どんな言語であっても構わない。だが、外国語映画の場合、国際長編映画賞という別のカテゴリーにも出品できる。つまり、2つの部門にエントリーするチャンスがあるのだ。そのため、アカデミー会員は外国語映画を国際長編映画賞のほうに推す傾向が強い。

アニメ映画に関しても同様で、2001年に長編アニメーション部門が新設されてからは、毎年20本を超えるアニメ作品が公開されているにもかかわらず、作品賞ノミネートを獲得した作品は「カールじいさんの空飛ぶ家」と「トイ・ストーリー3」しかない。

外国語映画やアニメ映画にはそれぞれ専用部門が用意されているので、作品賞にノミネートすることに消極的なのだ。

たとえ作品賞に外国語映画が食い込むことができたとしても、国際長編映画賞とのダブルノミネートとなるため、アカデミー会員は英語映画を優先することになる。

したがって、外国語映画の受賞は“ありえない”のだ。


二つ目の“ありえない”理由は、アメリカ人が字幕映画にアレルギーを持っていることだ。

映画大国のアメリカに生まれると、大量の英語映画を見て育つことになる。外国語映画を上映するのは都市部だけだから、子供のときから字幕映画に馴染んでいる人はほとんどいない。やがて成長し、メジャー映画では飽き足らず、インディペンデント映画にも興味を持つようになった一部の映画ファンは、やがて外国映画にも食指を伸ばすことになる。だが、字幕を克服しなくてはならず、この壁を越えられない人も少なくない。

だからこそ、ハリウッドは「七人の侍」(「荒野の七人」)から香港映画「インファナル・アフェア」(「ディパーテッド」)、フランス映画「最強のふたり」(「THE UPSIDE/最強のふたり」)に至るまで、有名俳優を起用してリメイクをしているのだ。


では、なぜ「パラサイト 半地下の家族」はアカデミー賞を受賞できたのか?

社会性とエンターテインメント性を兼ね備えた優れた傑作で、しかも、優れたキャンペーン活動を展開することで、米配給のNeonは国際長編映画賞のみならず作品賞でもノミネート獲得に成功する。

が、それだけでは作品賞受賞の理由にはならない。

実はアカデミー賞最多10部門ノミネートされた「アイリッシュマン」を送り出したライバル、Netflixが関与している。米ストリーミング大手のNetflixはいまや世界190カ国以上で展開しており、ローカルコンテンツも充実している。つまり、アメリカのNetflixユーザーも、世界のコンテンツに容易にアクセスできるようになったのだ。

おかげで、いつのまにか字幕作品に対するアレルギーが解消されていったのだ。どの程度のアメリカ人が字幕を克服できたのかは、正確なデータが存在しないので不明だが、少なくともハリウッドの映画関係者のあいだではかなり割合は高そうだ。先日の米俳優組合(SAG)賞においても、「パラサイト 半地下の家族」は最高賞にあたるキャスト賞(アンサンブル・キャスト賞)を受賞しているからだ。


今年1月のゴールデングローブ賞において外国語映画賞を受賞したポン・ジュノ監督は、「いったん字幕の1インチの障壁を越えれば、もっと多くの映画を楽しむことができる」と外国語映画を薦めていたが、ハリウッドの人々はとっくに障壁を越えていたのだ。

つまり、「パラサイト 半地下の家族」のアカデミー賞受賞は偶然の産物ではない。

アカデミー会員の変化によって、外国語映画であっても、優れた作品であれば作品賞受賞だって可能であることを示してくれたのだ。

これは邦画を含む国際映画にとっては大きなチャンスが到来したのである。


<了>

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