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2020.1.20

小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第12回(最終回)人は誰もがストーリーテラー

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小西未来 (こにし みらい)

ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」に続き、最新作「カンパイ!日本酒に恋した女たち」が現在、劇場公開中。


 

今回でこの連載はいちおうの最終回。
理由はいくつかあるけど、ストーリーテリング術の基礎を一通りやってきたので、そろそろ実践の機会を提供しようと思ったからだ。
そう、今度はあなたが物語を書く番だ。

 

いきなりそんなことを言われても、と戸惑う人がいるかもしれない。アイデアはどこから得ればいい? そもそも自分に物語を生み出せるとは思えない、と途方に暮れる人もいるかもしれない。

そんな人は物語を作る行為に対して、構えすぎてしまっていると思う。実は、ほとんどの人は日常生活で物語を作っているのだから。

たとえば、月曜日に会社や学校で親しい人に会ったら、週末に何をしたか話し合うだろう。あるいは、感動した映画や音楽や本、あるいは、おいしいごはんに出会ったとき、誰かに伝えるはずだ。ブログやSNSでもいいし、口頭でもいい。こうしたとき、あなたは物語を伝えていることになる。

 

これはあなたが考える物語とは違うかもしれない。だが、実際に起きたことをありのまま説明しているわけでもないはずだ。退屈な部分をカットしたり、盛り上がるように時系列を変えたりしたりして、自分なりの工夫を加えている。

かつてアルフレッド・ヒッチコック監督は、「映画とは、退屈な部分がカットされた人生である」と言った。これは、そのまま物語に置き換えることができると思う。つまり、あなたが他人に何かを伝えるとき、知らず知らずのうちに物語を伝えているわけだ。上手にできる人とできない人の差はあるけれど、誰もがストーリーテラーであることには変わりない。

 

 

でも、とあなたは反論するかもしれない。自らの体験を語るのと、想像に基づいた話を紡ぐのではまるで違う、と。

だが、これに関しても、あなたは経験しているはずだ。たとえば、あなたは嘘をついたことはないだろうか? 人生において、自分の立場やプライドを守るため、あるいは、他人を傷つけないようするため、嘘をつく必要に迫られることがある。人によって頻度は異なるだろうが、ささやかな嘘をつかずに日常生活を営むことが出来る人のほうがむしろ稀ではないだろうか。

嘘をつくからには、相手に信じてもらう必要がある。だから、ほどよく真実を散りばめながら、ありえそうな話を作り上げていく。これは立派な創作だ。

普段の生活で頻繁に嘘をつくのは褒められたことではないが、物語作りでは不可欠だ。実在しないキャラクターを頭の中に生み出し、実在しない世界で、実在しない体験をさせるのだから。世の中に存在するあらゆるフィクションは、嘘で塗り固められた代物だ。日常で嘘ばかりついていれば友達や仕事を失うかもしれないが、作品として発表すれば金儲けができたり、表彰されることもある。

アメリカのミステリー作家ローレンス・ブロックの「ベストセラー作家入門」という指南書の原題は「Telling Lies for Fun & Profit (楽しんで金儲けするために嘘をつくこと)」となっているほどだ。だから、物語作りを難しいことだと構える必要はない。誰だって嘘はつけるはずだから。

 

では、何を書けばいいだろうか?

欧米で作家志望の人によく提供されるアドバイスに「Write what you know」というものがある。自分が知っていることを書け、というものだ。知らないことを書いても深みやリアリティに欠けるし、自分だけが知っていることを書けば他人にとって新鮮な内容になる、というのが、この助言の根拠だと思う。

個人的には、このアドバイスは文字通りに受け取ってはいけないと思っている。

第一に、平凡な生活を営んでいる人には、絶望しか与えないからだ。ぼく自身、映画監督になりたいとぼんやり考えていた学生時代に、深く思い悩んだ。変わった境遇にあるわけでもなく、社会経験すらない自分に、面白い物語が書けるだろうか、と。

一方、変わった境遇にある人であっても、自らの経験を切り売りしていたら、いつかはネタが枯渇してしまう。鮮烈なデビューを飾った人が、その後スランプに陥ったり、マンネリに陥るのはそのためだ。

 

ひとつの解決策は、「自分が知っていること」を職業や生活といった外面的なものではなく、悩みや不安、憧れといった内面的なものに切り替えることだ。
たとえば、ピクサー作品の多くは、独創的な物語世界を舞台にしながらも、主人公には監督が抱える悩みや不安が投影されている。

以前も触れたことがあると思うけれど、『ファインディング・ニモ』は、子供に対して過保護になりすぎてしまっていると自覚したアンドリュー・スタントン監督が、自らの経験を魚のマーリンに反映させている。一連の冒険を経て、息子のニモと適度な距離で接することができるようになる、という物語になっている。

『モンスターズ・インク』にしても同様で、女の子の誕生に戸惑うピート・ドクター監督の心境が、ブーという少女に出会ったサリーに反映されている。
その後、ドクター監督の女の子大きくなり、やがて反抗期を迎える。当惑したドクター監督は娘の頭のなかを理解したいと思うようになり、これが『インサイド・ヘッド』のインスピレーションとなった。

さらにはリー・アンクリッチ監督の『トイ・ストーリー3』は子供の独立、『リメンバー・ミー』では親族との別れと、監督が年を重ねるにしたがって描かれるテーマが高齢化している。

監督が抱える悩みは家庭だけじゃない。たとえば『Mr.インクレディブル』や『レミーのおいしいレストラン』を手がけたブラッド・バード監督は、その才能が早くから認められながらも、なかなか活躍の機会が与えられなかった遅咲きのクリエイターだ。彼が手がける作品の主人公たちがありあまる才能を持ちながら発揮させてもらえないという設定になっているのは、偶然ではないだろう。

ピクサー映画といえば、圧倒的な映像美と斬新な物語世界で知られるが、これらの映画が観客の共感を呼ぶのは監督のパーソナルな側面が大いに反映されているからだ。このアプローチは参考にしていいと思う。
空想で生みだした物語世界に、自分が抱える悩みを投影する。そして、いったんアイデアが固まったら、これまでに紹介したストーリー構成にあてはめて、詳細を詰めていく。すると、どんどん物語が膨らんでいくはずだ。

あいにく完成した物語が、映画になったり、小説として世の中に出回るようになるかまでは分からない。でも、あなたはこれまでに得たことのない達成感を得るだろうし、自分が抱えている悩みを客観的に捉えることができるはずだ。そして、運が良ければ、あなたの作品が他人に深い感動をもたらすことなる。

今回の連載が、物語を作りたいと思っているあなたの背中を押すきっかけになれば、望外の幸せです。

 

<了>

★次回からは【小西 未来のハリウッドのいま、日本のミライ】をお届けします!

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