HOME メディア 面白いアニメを作り、後継者を育てる。その責任が、僕たちにはある。 有限会社シルバー 代表取締役 井田和行さん、取締役 石川泰さん
2019.12.9

面白いアニメを作り、後継者を育てる。その責任が、僕たちにはある。 有限会社シルバー 代表取締役 井田和行さん、取締役 石川泰さん

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作り手が育たなかった原因

── そんな中で会社として生き残っていくために、どんな努力をされているのでしょうか?

石川 クオリティを担保しつつ、放送を落とさないことです。つまり、安心感を持ってもらうこと。そんなの、制作委員会側からするとちゃんと納期を守りクオリティを担保して当たり前なんですけどね。

ラーメンを頼んで1000円払ったら、当然ラーメンが出てくるじゃないですか。でも、それが出てこないということがあるのが今のこの業界の現状です。本当に放送を落とす番組が多いので、「ちゃんと品物が出てくる」という安心感があるだけでも今はだいぶ違うと思うんです。

 

井田 我々は経験値と技術で「値段の割にはおいしいじゃん」というものを作ってきたことで、信用が生まれたんじゃないかと思っています。ただ我々は大きな会社ではないので急なピンチを数で片付けたりというのは苦手です。こういうときはお金でどうにもならない場合も多く、逆にお金で安請け合いするような会社は後々トラブルになることが過去の経験上多い気がします。

 

石川 事前にどれくらいスタッフを集められるかも大切です。お金があればどうにかなると思われるんですけど、それだけではなく監督や社長がこれまで培ってきた現場での人脈や信頼も大事だと思います。

 

井田 加えて、若手を育成することも大切なんです。僕が業界に入った時、エースアニメーターと呼ばれる人は20代後半でした。しかし、今は40歳を越えています。当然若く優秀な方もいますが全体的に次の世代を育てきれず数が少ない印象です。それは、我々世代が面白いものを作らなかったからだろうと思います。

僕たちは子どもの頃、ガンダムを見て育ち、「アニメを仕事にしたい!」と思ってこの業界に入りました。でも今はそのくらい作りたいもの、目指したいものがないかもしれない。目標を作れなかった我々が悪いのかもしれません。だから今は人を育てなきゃ、ということで人に投資をしながら頑張っています。

 

石川 業界全体では、今自分が生き残るのに必死で「人の面倒なんて見てる余裕はないよ」という状況も否めません。将来の話より「来週の放送どうしよう?」と目先のことを優先してしまっています。我々も小さい組織なのであまり余裕のあるわけではありませんので偉そうなことは言えませんが。

 

──労働環境なども気になるところですが。

石川 エースアニメーターになると、版権イラスト(版権作品のキャラクターのイラスト)は雑誌の表紙やおもちゃのパッケージ用に1枚描けば5〜10万円もらえるんですけど、動画だと1枚描いて200〜300円という世界なので、そこから食べられるようになるまで苦労する方も多いです。

社員なら固定給なので良いのですが、業務委託というケースも多いようで単価制になると当然最初は稼げず苦労してしまい業界への間口を狭めている原因になっていると思います。アニメーターになって最初に携わるのが動画なので単価は安い。数もこなせる訳もないので当然稼げない。アニメーターが薄給と言われるのはこの部分に起因することが多いと思います。

出来高になってしまうと労働時間に比例して稼げる訳ではなくなってしまうので、例えば売れっ子の芸人さんなら1回の舞台で数万円もらえるかもしれないけど、若手が10回舞台に立ってもその半分にもならないという話に近いかもしれません。単価契約のアニメーターも多いですが、給料の高さは専門性の高さとイコールで考えられがちです。

「この人にならこのくらい払ってもお願いしたい」と思って貰えるまでにどれくらいの時間がかかるかは人によって様々です。そうは言っても生活出来なければどうしようもないので、当社は新しく入ってきた方に対しても固定で給料を払いながら育てられる環境を作ろうとしています。生活出来なければ、成長もできないですからね。

 

── 長い目でみて、そこに投資をするということですね。

井田 お金はかかりますよ。でも、育てないと、取り続けてばかりでは枯渇してしまう。アニメ業界全体が、いい人材を探しまくっているので、上手くなったら他の会社に行っちゃう子もいるでしょうけど…。とはいえ、育てることは大事です。

 

今のアニメの作り方

──現在、第2期として放送中の『ぼくたちは勉強ができない!』は2社での共同制作だと伺いました。

井田 この作品の版元のアニプレックスさんから依頼を受けたバーナムスタジオさんがお声がけくださりました。1社で全てやるよりは2社で負担を分け合った方が作業的にも軽いしリスクも下がるのではないか、とのお話もあり共同制作することになりました。当社のクオリティを評価していただき、キャラクターデザインや総作画監督などのクオリティ面はうちが担当しました。

 

石川 もともとキャラクターデザインやメインの作画監督といった中核を担う人材は当社のメンバーが多かったので。クオリティも安定して無事に1クール目を放送し、2クール目に入っています。今期手がけているアニメの中でも順調に制作している方だと思います。

 

──近年はアニメファンの“聖地巡礼”が浸透してきていますが、作品制作でそのあたりを意識することはありますか?

井田 弊社ではまだご当地モノのアニメの制作経験はありませんが周りから聞く話では発注側から話がくることが多いようです。「タイアップしたいので写真撮りに来てください」とか「町おこしで使うので」と制作前に言われます。

 

石川 ご当地ものの作品はこれまでもいくつかありましたけど、有名どころだと『ガールズ&パンツァー』は茨城県の大洗町を舞台にして盛り上がっていますし、『ラブライブ!』でも秋葉原や静岡が出たことで有名になって、地元にも観光客が増え、お土産をいっぱい買って帰ってくれるという、お互いにいい結果を得るwin-winな成功パターンもあります。

一方ですべてヒットするとは限りません。作品自体に訴求力がないと、「あの作品の中のあのシーンの場所に行ってみたい」とはならないと思うので、まず作品の魅力ありきだと思います。

 

── 御社のアニメの制作ペースはどのくらいでしょうか?

井田 今期は春から13本、秋からも13本。年間、計26本です。それに、コミックスに付くDVDが2本あります。

 

石川 ラインを組んで同時並行していますが、1クール(3ヶ月)の放送あたり、約5ヶ月ほどかかります。1期は始める時に主人公やヒロインを描いたり、デザインや色を決めたりしなければならないので、時間がかかるんです。最近は1クールしかやらないアニメが多いんですが、あれはすごく非効率なんですよ。2クールあれば、1期で作ったキャラクターデザインを生かせますからね。

 

── デジタル化になっていると伺いましたが、制作時間は短くなりましたか?

井田 そうですね。昔は絵の具を塗って、乾くのを待っていましたからね。撮影もフィルムのときは現像して撮った次の日に見ていましたが、今は撮ったその場で見てリテイクが出せます。スピードは上がっています。一方で、コストでいうと、おそらくほぼ変化がないです。

 

石川 昔のアニメに比べて、今のアニメは線の量やクオリティが違って細かくなっているんです。たとえばファンタジーもので、鎧のデザインなど細かいイラストにめいっぱい動きをつけようと思うと労力がかかってしまうんです。それが制作予算に反映しきれていないところも多く業界的に大変な要因だと思います。

ただ、すべてパソコンの画面で完結するので、場所のコストはかからないかもしれません。自宅からメールでやり取りもできますし、結婚などを経て地方で制作してくださる方もいます。地方の会社も増えました。家賃も安いし、山奥でやりたい、なんていう会社もありますね。

 

 

「好きなものを作る」という基本姿勢を大切に

 ──NetflixやYouTubeなど、インターネット配信も増えています。その辺りはいかがでしょうか?

石川 予算は相当出るというお話を聞いたことがあります。ただ、会社の看板だけで作品を見てもらえるくらい大きな制作会社に、大きな予算を投じて作っているイメージですね。会社名がブランドになっているレベルの大手が多いようです。

 

井田 当社はNetflixもYouTubeもまだやったことないですね。どちらも母体が大きかったり、海外との取引に慣れている会社が請け負う印象です。

中国で動画共有サービスなどを行っている会社とも取引があり、デジタルコミックを売るためのアニメ動画を宣伝用に作っています。

 

──日本の会社と変わらないスタイルなのでしょうか?

井田 中国の会社は支払いがゆっくりだったので、受注するのは基礎体力のある会社でないと難しいでしょうね。中には番組を全部作って納品したら、その質を見てテレビ局が金額を決めるケースもあるそうです。売れるかどうかもわからないものにお金を払えない、ということで…。最近は日本の制作の仕方もわかってもらえてきたようで、こちらの事情に合わせてくれる場合もあるようですが。

 

石川 彼らは決断が早い分、撤収も早いですね。やろうと決めたらお金は出すけど、ダメだと思ったらすぐやめる。損切りが早いので、ビジネス的には見習えるところもあります。何にせよ、海外との取引はどれだけ上流で受けられるかが大事ですね。

 

井田 これは海外の仕事に限りませんが、代理店などが間に入ると、リテイクの話のニュアンスが変わって伝わってきてしまうことがあるんです。スポンサーは「言った通りに戻ってこない」と言い、こっちは「言われた通りに直した」となる。直接話をしてみたら「聞いていたことが違う」ということも結構あります。

アニメは製作委員会方式も多いのですが、製作委員会を作ってしまうと、例えば音楽で出資しているレコード会社や、おもちゃ会社などの意見が入ってきて、一社の言うことが通りづらかったりします。そういったことを嫌がって、特にソーシャルゲーム会社は「ウチのゲームをアニメ化するんだから、ウチの言うことだけ聞いてほしい」と、一社だけでお金を出すところも増えてきました。

 

 ──中国やインドのアニメも台頭しています。作品のクオリティとして脅威だなと感じることはありますか?

井田 中国のクオリティは上がってきたと思います。分母も大きいですからね。優秀なクリエイターが100人に1人だとしても、それが1万人ほどいるので。技術力も上がっていますから、立場がだいぶ変わりつつあると思います。たまに「買収したいから日本のいいアニメ会社を探してる」というお話もありますよ。制作会社をまるっと買っちゃうんです。吸収された会社もいっぱいありますよ。社長は変わらないけど、出資元にさらに上の会社があるとか。

 

──業界的にそのあたりの影響はありますか?

井田 作り手側に制限がかかりますよね。タブー視されるテーマもあるし、恋愛ものも「みんながモテモテで幸せなものを作ってほしい」と言われることもあるので。

 

石川 それによって、所属アニメーターが離れていくケースもあります。好きなものが作れなくなった、という理由で。「給料が多い」は、必ずしも引き止める理由にならないケースもあります。勿論待遇がいいに越したことはありませんが自分が好きなものを作れるところで働きたい。上手い人は上手い人達の中で共にやりたいと考える人も多いので高額報酬だけで引っ張るというのは人によっては難しい傾向があるようです。

また、腕のいい方は他でも稼げますから金銭を含めそれ以外の環境を作っていくことが大切だと思います。

 

── 今後の展望をお聞かせください。

井田 世代交代ですね。若者を育てて、早く面倒をみてもらいたい(笑)。

 

石川 寮まで用意して若者を育てている会社もありますよね。

一昔前から、中国や韓国の学生が日本のアニメ業界に憧れて入ってくれることも増えてきています。日本の専門学校で基礎技術を身につけたり、アニメやゲームで日本語を覚えてくるんですよ。日本語って難しいのに、それを習得してくる時点で相当頭がいい。向学心の強い人が多いですね。技術を身に着けて国に帰って向こうで作品を作りたいという志を持った人も多く尊敬出来る若者も多い印象です。

 

──本日はありがとうございました。

<了>


【プロフィール】

有限会社シルバー 代表取締役 井田 和行(いだ かずゆき)

有限会社シルバー 代表取締役。アニメーション制作会社にて制作進行、デスクの仕事を経て、ゲーム会社勤務時代の同僚と共に会社設立。5年程前からアニメーション制作元請けへの進出を果たし、ゲームのほか数多くのテレビアニメ制作に携わる。2019年の代表作『ぼくたちは勉強ができない!』が、TOKYO MXほかで放送中。

有限会社シルバー 取締役 石川 泰(いしかわ やすし)

有限会社シルバー 取締役。ゲーム会社を経て、そこでの出会いからシルバーの立ち上げに携わる。現在は同社だけでなく、ゲームとグッズの制作を行うAnotherAngleを運営。

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