小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第10回 可愛い子は奈落の底に突き落とそう!?

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小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第10回 可愛い子は奈落の底に突き落とそう!?

何事も始まりがあれば終わりがある。東から昇った太陽はいずれ西の空に沈むし、出会いがあればいつか別れがくる。誕生したものはすべからく死を迎える。

物語も同様だ。魅力的な主人公を登場させ、旅路を描き始めたら、いつかは結末に導かなくてはいけない。それは一緒についてきてくれた読者や観客への義務でもある。終わりのない旅はないのだ。

物語構成における結末(Resolution)を描く部分を、第3幕と呼ぶ。

衝突(Confrontation)を描く第2幕を通じて、主人公はさまざまな問題に直面していくと説明した。実は、新たな問題を思いつく限り、物語はいくらでも続けていくことができる。実際、海外ドラマのなかでも、弁護士や刑事、医師などのプロフェッショナルが活躍するいわゆるProcedural Drama(直訳すると"手続きドラマ")は、毎回異なる問題に対処するさまが描かれていく。こうしたドラマは10シーズンを超えることも珍しくなく、番組が終了するのはネタの枯渇よりも、視聴率ダウンやキャストの降板が原因なのだ。

だが、映画にはそんな余裕はない。限りある上映時間のなかで、効果的に観客を結末まで導かなくてはいけない。

そのためには、第2幕において闇雲にトラブルを引き起こすのではなく、難易度を徐々に高めていくのが効果的だ。ひとつ山を乗り越えると、さらに大きな山が待ち構えているという展開だ。主人公が追い込まれれば追い込まれるほど、観客は不安になって応援してくれるし、攻略するごとに良い気分になる。そうやっていくつかの山を乗り越えていくと、最後にもっとも標高の高い山が待ち構えている。これが文字通りのクライマックス(頂点)で、ここへの挑戦が最終章となる第3幕でじっくり描かれることになる。

だが、第2幕から第3幕に移行するためには、最大級の問題を用意すればいいというだけではない。

以前、第2幕のスタートは、主人公が非日常の世界に飛び込んだときだと説明した。日常と非日常との間には扉が存在し、そこを通り抜けたときに物語は第2幕に切り替わる。いったん非日常の世界に移行すると、後戻りは出来ない。『マトリックス』において赤い錠剤を飲んだネオ(キアヌ・リーブス)が、元の生活に戻れなくなったように。

第2幕から第3幕に移行するときも、主人公は後戻りできない扉を通り抜ける必要がある。葛藤を続けていた日々を離れ、最終決戦のために背水の陣の覚悟を固める必要があるのだ。

そのためには、主人公はいちど奈落の底に突き落とされる必要がある。



ハリウッド映画を見慣れている人ならば、物語の後半で主人公の心が必ず折られることに気づくだろう。事態がうまくいき始めた矢先、突然、谷底に落とされる。さきほど挙げた『マトリックス』であれば、裏切り者のサイファー(ジョー・パントリアーノ)が仲間を惨殺し、リーダーのモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)が拉致される。『アバター』では、人間側の攻撃によってナヴィの神木が倒され、主人公もアバターから切り離されてしまう。

これはアクション映画だけではない。ラブストーリーなら、うまくいっていたはずの彼氏や彼女の浮気現場を目撃するのがここだ。風変わりな例をあげると、「男女の友情は成立するか?」というテーマを扱ったロマンティックコメディ『恋人たちの予感』では、ハリー(ビリー・クリスタル)とサリー(メグ・ライアン)がうっかり男女の一線を越えてしまったところが、ここだった。心地のよい友情関係が終わってしまったことを悟った瞬間だった。

物語の中盤以降で主人公を敢えて谷底へ突き落とすのは、その後にやってくる最大級の山とのギャップを大きくするだけでなく、彼/彼女のさらなる成長を促すためだ。

もし『スター・ウォーズ』の後半で、オビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス)が死亡していなかったらどうなっていたか想像して欲しい。おそらく、オビ=ワンは攻撃チームの隊長として出撃して、主人公ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)は基地で指をくわえて戦況を見守っていただろう。

だが、頼りになる恩師オビ=ワンがいなくなったおかげで、ルークに攻撃のチャンスが巡ってきたばかりか、自分で物事を考えるようになった。そのおかげで、ジェダイとしての覚醒を果たすのだ。

作り手にとって主人公は大切な存在だが、物語を作るうえで遠慮はいらない。できるだけ辛く苦しい目に遭わせたほうが、主人公は大きく成長してくれるし、その後の展開が盛り上がるものなのだ。

絶望を体験した主人公は、やがて一縷の希望を見いだす。そして、すべての力を掻き集めて、最後の問題に挑戦する覚悟を固める。後戻りできない一歩を踏み出したとき、そこは最終章の第3幕となる。

次回は、どうしたら心に残る物語を生み出すことができるのか考えてみます。

<了>

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