HOME メディア 【TV2020】漫画もテレビも、時代のニーズを捉えることで道は開ける 小学館『Sho-Comi』 編集長 畑中雅美さん
2019.9.6

【TV2020】漫画もテレビも、時代のニーズを捉えることで道は開ける 小学館『Sho-Comi』 編集長 畑中雅美さん

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小学館『Sho-Comi』 編集長 畑中雅美さん


 

【TV2020】第二回目は、小学館『Cheese!』など少女漫画誌の編集者として『僕は妹に恋をする』などの数々のヒット作を支え、映像化にも関わってきた敏腕編集者の畑中雅美さん。現在は『Sho-Comi』の編集長として活躍する畑中さんに、編集者としてヒット作を生み出し続ける秘訣と、漫画、テレビというエンターテインメントの現在とこれからについて語っていただきました。

 

時代ごとの読者の‶夢”に応える作品をつくることがヒットの鍵

―編集者としてヒット作を生み出すために、どのようなことを意識されていますか?

作品をつくる時、面白いものをつくることは大前提なのですが、人口のボリュームゾーンを意識しながら、‶世間の人達が今、どのような感覚を持っていて、何を求めているのか”を考えるようにしています。

第二次ベビーブーム世代にあたる現在の45~48歳くらいはやはり人口が非常に多く、1学年で200万人以上います。このような団塊ジュニア世代は『週刊少年ジャンプ』の黄金期に子どもだった人達。ですから、この世代の人達は、根源的に漫画作品にみられるような話を面白いと感じる傾向があるように思います。
近年は、漫画を原作とするドラマや映画が多くつくられ、ヒットしていますよね。『るろうに剣心』や『今日から俺は!!』など、ちょっと昔の漫画作品が実写化されて人気を博したり、『タッチ』のあだち充先生が最近またブームになったり。そのような背景の一つとしても、団塊ジュニア世代の‶漫画的”なものを好む嗜好があるのではないかと思いますね。

このように、読者となる人達が時代ごとにどのような経験をして、今、どのようなことを夢として抱いているのかということは、編集者として常に意識しています。

 

―トレンドを分析する中で、時代的な変化を感じられることはありますか?

ありますね。やはり東日本大震災は大きな出来事でしたので、2011年を境に変わった部分はあると思います。また、個人的に面白い変化があったと思うのは1997年です。1997年は、イギリスでJ.K.ローリングの『ハリー・ポッターと賢者の石』が発行され、日本では『週刊少年ジャンプ』に尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の連載が開始された年ですが、興味深いことに、この年を境に好まれる物語の傾向が大きく変わったんです。

それまで漫画などで好まれていた物語は、はじめから特別な才能や立場があるわけではない主人公が自分の夢に向かって努力をし、その過程で友達ができ、闘いに勝利し、‶何者か”になっていく、というストーリーでした。ところが、『ハリー・ポッター』や『ONE PIECE』が誕生した1997年から、それが大きく変わります。
主人公が、はじめから特別な‶何者か”としての役割を与えられていて、「あなたは特別な存在です」というところから物語がスタートするんです。底辺から努力をしていく、というよりは、最初から役割や責任が与えられている中で、どうやってそれに応えていくかを描く物語ということです。

近年、流行している‶転生もの”も同様ですよね。「転生したら○○だった」といったストーリーも、要はスタートの段階から‶何者か”になっていて、その期待にどう応えるのかという物語です。なぜ、1997年頃を境にこのような変化が生じたのかは分からないのですが、とても興味深い変化だと思います。

 

―なんらか世の中のニーズが作品の人気の裏にあるんでしょうね。他にもヒットをつくる秘訣があれば教えて下さい。

ヒットする企画を探るため、私が新入社員の時からとり入れている考え方の一つに、すべての物語を「現実直視型」「現実逃避型」に分けるというものがあります。ほぼすべての物語はこの2パターンのいずれかに分類できるのですが、私の経験上、後者の「現実逃避型」の方がヒットすることが多いですね。
というのも、苦しみや悲しみも含めて現実と向き合う「現実直視型」の物語は、物事が順調に進んでいる時に好まれる傾向があります。反対に、現実の生活の中で悩みや苦しみを感じている時ほど、人はスカッとした気持ちにさせてくれる「現実逃避型」の物語を求める傾向があるんです。

私はそのような読者の願望に応えて、厳しい現実世界をそのまま描き出すのではなく、その時々の読者の気持ちの救いとなるような物語をつくることがエンターテインメントだと考えています。

読者のニーズと、作家の個性を大事にした作品づくり

―漫画においても、時代によって読者のニーズは変化しているのですか?

もちろん変化していますよ。たとえば、先ほどの「現実逃避型」の物語という観点でいうと、少女漫画で描く世界は、‶女の子の夢”を詰め込んだ世界。つまり、その時代の女性の現実や悩みをふまえた上で、あえて現実とは異なるファンタジーを描いた物語ということになります。その意味で、少女漫画は女性の現実や悩みの裏写しであるともいえます。

私が担当している作品にも、現代を生きる女性の願望をよく反映しているものがあります。その作品の主人公は熱心に仕事に打ち込んでいる女性なのですが、彼女には素晴らしい彼氏がいて、どんな時でも優しく見守ってくれます。たとえ、主人公が仕事に没頭するあまり彼よりも仕事を優先してしまっても、怒ることもなく応援してくれるんです。この漫画の彼氏のように、仕事に没頭する主人公を陰ながら支えてくれる存在というのは、まさに3、40年前に男性が女性に求めていた姿そのものですよね。
かつての女性は男性に尽くすことを求められ、それを幸せと感じさせられてきましたが、現代を生きる女性は「自分も仕事を頑張りたい」と考え、そんな自分を応援してくれる男性を求めている。そのような女性の生き方や願望の変化を、漫画の世界が反映しているわけです。

 

―読者の思いが作品に投影されているんですね。

そうですね、漫画は読者の隠れた願望を映す鏡にもなります。近年の漫画作品で個人的に興味深かったのは、『週刊少年ジャンプ』に連載されていた松井優征先生の『暗殺教室』。この作品はかなり特殊な設定で、中学生達が担任の先生(実は人間ではない謎の生物)を殺すように命じられるのですが、‶先生”はすごく強くてかっこよくて、いつでも生徒よりも一枚上手。生徒達が束になってかかってもかないません。
私自身の子ども時代を振り返ってみると、小学生くらいの時、ひそかに「先生なんて大嫌い」「いなくなっちゃえばいいのに」という願望を持っていた気がします。でも、その願望は、実は「先生を尊敬したい」「先生は尊敬できる存在であってほしい」という欲求の裏返しなんですよね。『暗殺教室』は、ずばりそんな子どもの‶夢”を両方満たす作品であると感じました。さすが『ジャンプ』だな、と思いましたね(笑)。

 

―そういったニーズを知るために、日頃からリサーチなど行っていらっしゃいますか?

世の中でどのような作品が受け、どのような作品が受けなかったのかは日頃からチェックしていますね。特に注目するのは、人気の漫画が読者アンケートで順位を落とした時や、順調に視聴率を伸ばしていたドラマが急に数字を落とした時ですね。そのような回は、必ず内容をチェックします。というのも、支持を落とした回には、何か人をがっかりさせる点があったはずだからです。

‶勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし”という言葉がありますが、この世界には‶勝ち”、すなわちヒットにつながる面白い物語は無数にあり、偶然の幸運でヒットになることもありますが、‶負け”には偶然はありません。必ず要因があります。
継続的にヒットを出していくためには、‶負け”の要因を理解し、‶負け”につながる部分をきちんと潰していくことが大切だと考えています。

 

―なるほど。それをもとに考えた企画は、作家さんと共有され、作品につながっていくんですね。

そうですね。ただ、私が編集者として重視しているのは、作家さんの個性を大切にするということです。一見弱点のようにみえる個性をも逆手にとって、作家さんの魅力を活かす方法を考えるようにしています。作家さんの中には、他誌でのデビューを諦めたものの、私が担当している雑誌で方向性を変えてデビューを果たし、10万部くらいのヒットを出した方もいらっしゃいます。

過去に「絵が古い」と講評を受けていたある作家さんは、その‶古さ”を克服すべく、女子高生の描き方などを一生懸命研究していました。ですが、私自身は、その作家さんの絵のもつ‶古さ”は弱点ではなく、むしろ昭和や大正時代の雰囲気を表現できる貴重な才能だと感じたんです。
そこで、「大正時代など、戦前の日本を舞台にした作品を描きませんか」と提案してみたところ、「実は子どもの頃からそういう時代のものが好きなんです」と。やっぱり、ご本人が好きなものが作品に出ていたんですね。
それまで彼女の絵の‶古さ”は否定的に捉えられていたけれど、そもそも時代設定が現代でなければいけない理由などない。個性に合う設定にすることで、作家さんの才能を最大限に発揮することができたわけです。
このように、一見弱点と思われてしまうような作家さんの個性も、発想を変えることで魅力になることはよくあります。

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