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2019.8.13

小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』第7回物語の始め方

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小西未来 (こにし みらい)

ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」に続き、最新作「カンパイ!日本酒に恋した女たち」が現在、劇場公開中。


 

私事だけれど、ぼくには二人の息子がいる。ピクサーやマーベルのような子供たちでも楽しめる種類の映画の試写には連れていくし、自宅でも映画やテレビドラマを一緒に観ている。ただ、8歳の長男と5歳の次男では年齢差があるから、二人の意見が対立することも少なくない。

先日、自宅で「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」を観ていたときのことだ。10分も経過しないうちに、次男が「たいくつー」と言ってジタバタしだした。確かにシリーズ第6弾となる本作は、冒頭にアクションがない。
ベルファストにいるイーサン・ハント(トム・クルーズ)のもとにIMFからの指令がきて、3つのプルトニウムを回収する任務を告げられるが、前作とストーリーが繋がっているうえに、「シンジケート」、「神の使徒」、「ジョン・ラーク」というキーワードが出てきて、さすがに5歳児には難易度が高い。

作品の選択を誤ったと思い、別の作品に変えようと席を立ったときのことだ。映画を見続けたい長男が「もうちょっとの我慢!」と弟を諭したのだ。そして、こう言い放った。
「映画って最初はたいてい退屈なの。我慢したらすぐに面白くなる」

実際、プルトニウムの確保に失敗したことをきっかけに、イーサンは大きなトラブルに巻き込まれていくことになる。いったんイーサンがパリ行きの飛行機に乗り込んでからというもの、子供たちは最後まで物語にのめり込んでいた。

そんな二人と映画を楽しみながら、ぼくは長男が物語の構造を感覚的に理解していたことに感心していた。「最初は退屈だけど、すぐに面白くなる」というのは、「ミッション:インポッシブル」シリーズに限らず、ほぼすべてのハリウッド映画に言える特徴だからだ。

 

前回紹介したStory Spine(物語の骨格)を振り返ってみよう。

Story Spine

1 Once upon a time…「昔々あるところに…」
2 Every day…「毎日…」
3 Until one day…「ある日のこと…」
4 Because of that…「その結果…」
5 Because of that…「その結果…」
6 Because of that…「その結果…」
7 Until finally…「最終的に……」
8 And ever since then…「それからというもの……」

 

これはピクサーのスタッフによる物語の基本構造である。8段階あるなかの、最初の2つに注目してほしい。

1(「昔々あるところに…」)は舞台の紹介で、2(「毎日…」)は主人公の日常を描いている。つまり、1と2は説明にすぎず、3になってようやく物語が動きだすことになる。
3において、主人公の日常を揺るがす「事件」が発生する。この事件を、ハリウッドではInciting Incident(駆り立てる出来事)やDisturbance(騒動)、Catalyst(きっかけ)などと呼んでいる。

 

有名映画の「事件」を上げると、以下のようになる。

R2-D2が録画したレイア姫のメッセージ映像をルークが目撃する。(「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」)

ナカトミ・プラザがテロリストに占拠される。(「ダイ・ハード」)

FBIの実習生がハンニバル・レクターと出会う。(「羊たちの沈黙」)

下半身不随の若者がアバターで目を覚ます。(「アバター」)

これらはだいたい映画の10~20分くらいで発生している。そこまでは状況を説明しているだけだから、集中力に乏しい幼児が退屈だと思うのも無理はない。

だからといって、1と2を疎かにして良いというわけではない。物語は主人公の心の旅路を描くものだから、始まりをしっかり描かなければ、その後の展開で描かれる変化が生きない。フリがないとオチが機能しないのと同じだ。

 

 

実は、Story Spineの補足版と言うべきものを、ピクサーは提供している。「リトル・ミス・サンシャイン」の脚本家マイケル・アーントが物語の始まりの重要性を解説した「Beginnings: Setting a Story in Motion」という動画がそれだ。「トイ・ストーリー3」の執筆に躓いた彼が、「トイ・ストーリー」、「ファインディング・ニモ」、「Mr.インクレディブル」の3作を見直し、ピクサー作品の物語の始まりの共通点をまとめたものだ。

この3作品は、舞台と主人公の説明だけでなく、主人公の情熱をしっかり描かれていると、アーントは指摘する。「トイ・ストーリー」においてウッディはアンディと遊ぶことを愛しているし、「ファインディング・ニモ」のマーリンは家族と過ごすこと、「Mr.インクレディブル」のボブはヒーローとして活躍することを愛している。
いずれも主人公の日常を描くだけでなく、何に熱中しているのかを描いているのだ。いずれのキャラクターも幸せな毎日を過ごしている。

さらに、主人公の欠点も紹介していると、アーントは言う。ウッディはアンディの一番のお気に入りであることを鼻にかけすぎているし、マーリンはちゃんとした親になれるか不安を抱いている。自信家のボブは共同作業が苦手である。いずれも何かに情熱を持ちすぎているがゆえの、欠点を抱えているのだ。

これらを説明したうえで、主人公の人生を変える「事件」が起きる。「トイ・ストーリー」ではバズライトイヤーというライバルが登場し、ウッディがナンバーワンではなくなってしまう。「ファインディング・ニモ」ではニモ以外の卵がバラクーダに食べられてしまう。「Mr.インクレディブル」ではスーパーヒーロー禁止法が施行される。

つまり、主人公たちは愛していたものを「事件」によって失ってしまうのだ。新たな現実をつきつけられた彼らは困惑し、不健全な行動に出る。ウッディはバズを突き落とすし、マーリンはニモに対して過保護になりすぎる。ボブは警察無線を傍受して密かにヒーロー活動を行う。こうした行動がきっかけとなって、物語が転がっていくことになるのだ。

 

物語作りで、主人公にしたいキャラクターはいるけれど、肝心のストーリーが思い浮かばないという人がいるかもしれない。そんな場合、「主人公をどうやったら絶望に追い込むことができるか?」と考えてみてはどうだろうか?冒頭で主人公の幸せな日常を描き、頃合いを見計らって「事件」を起こす。そこで、主人公が好きなものを奪ってしまうのだ。
所詮、あなたが作った架空のキャラクターだから遠慮はいらない。ありったけの苦難を与え、どん底に突き落とそう。その後、主人公が元の生活に戻ろうと這い上がるプロセスが、物語となっていくはずだから。

 

<了>

 

 

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