小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』 第4回 マーベル作品に学ぶ、敵対者の作り方

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小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』 第4回 マーベル作品に学ぶ、敵対者の作り方

物語とは主人公の旅路を描くものだ。

となると、映画を観るという行為は、主人公が運転する車の後部座席に乗りこんで、一緒にドライブ旅行を楽しむようなもの、と言えるかもしれない。

自動車と運転手さえあればどこにでもドライブに行けるように、主人公と目的地さえあればどんな物語でも作ることができる。だが、必ずしも面白いストーリーに仕上がるとは限らない。


想像してみて欲しい。目的地までのルートが、どこまでも平坦な一本道だったらどうだろう。ハンドルを握る主人公にどれだけの魅力が備わっていようとも、観客はいずれは退屈して、居眠りしてしまうだろう。物語において、物事がスムーズに進んではいけないのだ。

かくして、作り手は急カーブを作ったり、タイヤをパンクさせたり、行き止まりを設けて、変化をつけることになる。だが、これらのトラブルが理不尽に発生し続ければ、やがて観客はうんざりしてしまうだろう。

一本道では退屈だし、無意味に複雑化してもだめだ。観客の興味を惹きつけ続け、感動をもたらす物語を生み出すコツは、巨大な壁を設けることだ。旅の途中で主人公は乗り越えることも、回り道もできない壁にぶちあたる。

しかし、諦めることはできない。なぜなら、なんとしてでも目的地に辿りつかなくてはいけない理由があるからだ。かくして、主人公は思い悩み、もがき苦しむことになる。これによって、先の読めない展開が生まれるばかりか、苦悩する主人公の姿に心を動かされることになるのだ。


物語において主人公(protagonist)の前に立ちはだかるのは、たいていの場合、敵対者(antagonist)だ。海外映画においてはヴィラン(villain)と呼ばれることが多い。主人公の目標達成を妨害する人物のことで、彼/彼女がいてこそ、面白い物語に不可欠な葛藤が加わることになる。

ダース・ベイダー(「スター・ウォーズ」)、ヴォルデモート卿(「ハリー・ポッター」)、ハンニバル・レクター(「羊たちの沈黙」)、ハンス・グルーバー(「ダイ・ハード」)、ビフ(「バック・トゥ・ザ・フューチャー」)、ジョン・ドー(「セブン」)、ミランダ編集長(「プラダを着た悪魔」)、アポロ・クリード(「ロッキー」)、ラチェッド婦長(「カッコーの巣の上で」)など、名作には必ず名悪役が存在する。

逆に言うと、凡庸な作品は敵対者に魅力がない場合が大半だ。



どうすれば魅力的な敵対者を生み出すことができるのか?

マーベル・スタジオほど、この問いに真摯に向き合ってきた人たちはいない。スーパーヒーローを主人公にした映画を量産する彼らにとって、強力で魅力的なヴィランは不可欠である。

過去10年間で22本あまりの物語を発表してきたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の敵対者をみると、以下のような共通点が見つかる。


1)主人公に勝る

敵対者は腕力や権力、資金力、知識、経験などで主人公に勝っている。

「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」のアレクサンダー・ピアース(ロバート・レッドフォード)はS.H.I.E.L.D.の理事という圧倒的権力を利用して、巨大組織を動かすことができる。

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」のエゴ(カート・ラッセル)に至っては、宇宙の誕生から生き続けてきた天界人という設定で、超常的な力を持っている。

ただし、闇雲にヴィランを強くすればいいというわけではないようだ。たとえば、「スパイダーマン:ホームカミング」のバルチャー(マイケル・キートン)の正体は、武器の密売を行うビジネスマンであり、他のヴィランと比較して、特段強いというわけではない。しかし、高校生のピーター・パーカー(トム・ホランド)からすれば社会人というだけで圧倒的だし、思いを寄せる同級生の父親でもある。

敵対者が主人公より強いからこそ、観客は主人公の身を案じることができるのだ。


2)共感できる

スーパーヒーロー映画において、ヴィランは悪事を行うと決まっている。だが、大半のマーベル作品では、ヴィランに凶行を行わせるだけでなく、その動機をきちんと説明している。

「アイアンマン2」のウィップラッシュ(ミッキー・ローク)をはじめ、「マイティ・ソー」や「アベンジャーズ」のロキ(トム・ヒドルストン)、「アイアンマン3」のアルドリッチ・キリアン(ガイ・ピアース)、「アントマン」のイエロージャケット(コリー・ストール)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の黒幕ヘルムート・ジモ(ダニエル・ブリュール)などは、劇中で主人公を逆恨みするに至った経緯が描かれている。

全生命の半数を抹殺するという最凶の目的を持つサノス(「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」)ですら、その恐ろしい考えを持つに至った経緯が説明されている。

生い立ちや動機をしっかり説明することで、平面的になりがちなヴィランに血と肉を与えているのだ。


3)主人公と表裏一体である

MCUにおいて、主人公と敵対者は同じ業界にいたり、同種の特殊能力を持っていることが多い。

「アイアンマン」のアイアンモンガー(ジェフ・ブリッジス)をはじめ、「インクレディブル・ハルク」のアボミネーション(ティム・ロス)、「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」のレッド・スカル(ヒューゴ・ウィーヴィング)、「ドクター・ストレンジ」のカエシリウス(マッツ・ミケルセン)、「マイティ・ソー バトルロイヤル」のヘラ(ケイト・ブランシェット)などがそうだ。

主人公と敵対者は共通点が多く、映し鏡のような関係になっているからこそ、2人の思想や人間性の違いが際立つのだ。


さて、MCUの歴代ヴィランのなかで、もっとも魅力的なのは「ブラックパンサー」のキルモンガー(マイケル・B・ジョーダン)だと思っている。父を国王に持つお坊ちゃんの主人公ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)に対し、アメリカの貧困層で育ち、黒人が置かれている苦境を目の当たりにした彼は、ワカンダの優れた技術を黒人解放のために使おうと訴える。

傭兵として圧倒的な力を持ち(1)、共感できる生い立ちと動機を持ち(2)、主人公と同じ王族に生まれながら、異なる政治思想を持っている(3)。

3つすべての要素を兼ね備えているからこそ、キルモンガーは強烈な印象を残す。そして、この強敵と対峙することで、ティ・チャラは新国王として大きく成長するのだ。


主人公を輝かせるためには、強くて魅力的な敵対者が欠かせない。マーベル作品はスーパーヒーロー映画という特殊なジャンルだが、通常のハリウッド映画にも主人公を阻む者が必ず存在する。

目的を持った主人公だけでなく、その行く手を阻む敵対者がいて、はじめて面白い物語が成立するのだ。


<了>

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