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2019.4.8

『NewsPicks』のこれから 新しいメディアのリーダーが見据える、その先とは

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(左から) NewsPicks 佐々木 紀彦氏  (株)電通 服部 展明氏

 

ソーシャル経済メディア『NewsPicks』は、2013年のサービス開始以来、そのユニークなプラットフォーム、コンテンツでユーザーの支持を集めています。メディアの要であるコンテンツの領域においてCCOとして指揮を執る、佐々木さん。
佐々木さんとのお仕事をきっかけに、その先見性に刺激を受けた電通・服部さんが、NewsPicks、ひいてはメディア業界全体の未来、更に佐々木さんご自身の目標まで切り込みました。
5年後、10年後が楽しみになる、そんな対談の模様をお届けします。

 


佐々木 紀彦(ささき のりひこ)

NewsPicks CCO(最高コンテンツ責任者)。1979年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、(株)東洋経済新報社に入社。米スタンフォード大学への留学や『東洋経済オンライン』編集長を経て、2014年(株)ユーザベース移籍と同時に『NewsPicks』編集長に就任。現在はCCOとして手腕を奮う。

服部 展明(はっとり のぶあき)

株式会社電通第1CRプランニング局コミュニケーションプランニング1部クリエーティブ・ディレクター。1999年に電通に入社後、ストラテジック・プランナーとして、自動車・精密機器・飲料・食品・通信など様々なクライアントを担当。2012年よりCRプランニング局、14年より現職。

 

 

5年前に予見した、100年に一度のチャンス

服部
『NewsPicks』という新しいメディアで活躍される佐々木さんと、以前からじっくりとお話したいと思っていました。本日はよろしくお願いします。

佐々木
光栄です。どうぞよろしくお願いします。

服部
まずは御社のメディア『NewsPicks』が世間に支持されているのは何故だとお考えですか?

佐々木
最先端のエッジが立ったコンテンツを出したこと。インタラクティブな仕組みによって、ユーザーの方と一緒にエッジの立ったコミュニティのようなものを作れたこと。この二つがNewsPicksの特徴であり、支持していただける理由かなと思っています。

私がかつて携わっていた『東洋経済オンライン』も、30代を明確にターゲットにしたメディアを作ったことで多くの方に読まれました。経済紙というのは、基本的に50代くらいの意思決定者層向けがほとんどです。NewsPicksもまた、若い人が等身大だと感じられる紙メディアが圧倒的に少ない中で、最先端かつ20~30代の若者が欲しそうな情報をうまく提供したことが功を奏しました。

服部
“質の高い”ユーザー参加型メディアであることも、NewsPicksの大きな特徴のように感じます。

佐々木
はい。一方的に情報を出すのではなく、プロのユーザーの方たちも巻き込みながら、インタラクティブなメディアの形を作ることができました。しかも匿名ではなく実名で、プロピッカーのような形で専門家の方々にも参加していただいているので、コメントの質の高さにも定評があります。

服部
佐々木さんの著書『5年後、メディアは稼げるか』(東洋経済新報社)の出版が2013年でした。まさに「5年後」にあたる今、ほぼここに書いてある通りになっていることに、本当に驚きました。

佐々木
私が予言者というわけではありませんが(笑)。海外の事例などを調べるのが好きで、特にアメリカで起きたことが5年後、10年後の日本で起こるというのが真実に近く、その蓄積から出た予測でもあります。

服部
5年前に描かれたビジョンを実践する場を、東洋経済から(株)ユーザベースに移した理由は?

佐々木
若い人向けの経済情報を発信することは通常のメディアでも可能ですが、「ユーザーの方々を巻き込んで相互型のメディアを作る」ことは、どちらかというとプラットフォームの話になります。プラットフォーム企業になるためには、「エンジニアと一緒に作っていく」というカルチャーが必要です。

広告だけに頼るビジネスモデルは厳しくなっているので、サブスクリプションに寄せていくためにも、テクノロジーに強くないと難しいという思いが強くありました。うちは社員の1/3くらいがエンジニアなので、最適の環境でした。

服部
東洋経済のブランドを手離すのは大きな決断だったのではないでしょうか。特に日本人は「昔からある有名なものだから安心して読む」というところもありますよね。テクノロジーや仕組みがどれだけ確立されていても、メディアとしての信頼性や支持を獲得するのは、簡単なことではなかったのでは?

佐々木
メディアは、ブランドをひっくり返すことが難しいビジネスの代表格だと思っています。新聞は100年、テレビは数十年、構図が変わっていません。しかし今、この構図が100年ぶりに変わり得る時代が来ています。それはアメリカを見ていれば明瞭で、新しいメディアがどんどん出てきて社会へと浸透していたので、「この時代であれば、ある程度の時間をかければ一からブランドを作れるのではないか」と感じました。10年前なら、同じことをやらなかったと思います。

今は、昔の権威が一夜にして落ちるような時代なので、既存ブランドにとってはリスクも大きいですが、新しいブランドは一気に跳ね上がるチャンスもある。実際、NewsPicksを作って5年が経ち、都会ではかなりブランドができてきたと実感しています。
ただ、跳ね上がることは簡単でも、そのあと維持するのは非常に難しいことと、一発屋が増えている時代でもあるので、気を引き締めていきたいと思っています。

 

“成長する”メディアとして

服部
情報の収集や編集のノウハウは東洋経済時代に培った礎があったと思いますが、NewsPicksを一から立ち上げ、運営していくのは並大抵のことではなかったのではないですか?

佐々木
今も苦戦しています。人を雇って一から組織を作っていく、さらにブランドを作っていくことは、あまりにも大変なので、誰もやりたがらなかった部分もありますし、5年でやっとここまで来ることができた感覚です。
ただ、情報の流通が激しい都心ではある程度認知されてきましたが、地方にいけばまだまだNewsPicksを知らない人が多く、全国という意味では我々はチャレンジャーです。

海外に関しては、弊社は2018年7月にアメリカのQuartz社という経済メディアの買収に成功しました。一から積み重ねるのは特に異国では大変だと思うので、ブランドを買えたことは大きかったですね。ニューヨークに行っている梅田社長は、「NewsPicksで試してきたことは世界最先端だと感じることも多い」と言っており、世界との差はそれほど大きくないのではないかと感じることもあります。

服部
5年間NewsPicksに携わられてきて、一番大変だったことは?

佐々木
いまだに苦労していますが、人集めです。エンジニアやビジネスサイドはまだ増えやすいのですが、コンテンツの作り手側が問題。能力、モチベーション、給与など、諸々の面でピッタリくる人材がなかなかいませんね。

服部
既存メディアの元新聞記者などが、リクルーティングのターゲットになるのですか?

佐々木
雑誌出身者が非常に多いです。ただ、既存メディアの方は皆もともとの給料が高くて、収入が下がるケースもあるんですよ。かつ、これまでのスキルを磨き上げて新しいものに適応しなければならないストレスもあるとなれば、我々のアピール力も不足しているのかもしれませんが、予想以上に人が集まらないというのが実情です。

今はもう給料も既存メディアに負けないくらいになってきているのですが、うちで働くと楽しい、キャリアに役立つという部分を総合的に高め、若者をどう育てるかという教育的な機能も鍛えていかないと、難しいのかなと感じています。

服部
新卒採用もしていますか?

佐々木
していますが、入ってすぐにプロとして仕事をすることを求められるので、かなり優秀じゃないと大変だろうなと思います。今は少数精鋭でやっているので、教育する余裕がないのが正直なところです。

しかし、その余裕とシステムをきちんと構築して、若い人が入って育っていく形に、次の5年では確実に持っていきたいです。
メディア業界に入って来る若者の流れが細くなる中で、ウェブメディアという選択肢自体もまだ浸透していないと思うので、そこも強化していきたいです。

服部
今の日本のメディア業界は、部数をどう維持するかとか、視聴率の低下をどう繋ぎ止めるかという、どちらかというと「守り」に追われることが多くなってきている気がします。その中で、NewsPicksは、「攻め」の展開ができていますよね。

佐々木
メディアの定義によりますね。伝統的な4マスでは厳しいと思うのですが、インターネット空間には伸びしろがありますし、かつ今はメディアがいろんな業界に染み出してきていて、アパレルなどの流通業にも、メディア的な要素が増えていっていますよね。「メディアのノウハウを使える場」は増えているのではないでしょうか。

テレビ局も、放送網だけを見ると落ちているかもしれませんが、インターネットのアクセスであったり、リアルと繋げたりすれば可能性が広がる。優秀な経営者が舵を取れば、きっと増収増益を続けることも可能ですよ。

服部
たとえば、放送局をコンテンツ制作会社として考えたら、とても優秀でクリエイティブな力に溢れているのは間違いないと思います。しかし、視聴率や部数だけでメディアが評価されている限りは、なかなか新しいことへのチャレンジに集中しきれないのかもしれません。

佐々木
ゲームのルールを変えるのは大変ですし、変えたらおそらく最初は既存のビジネスが揺らぐので、短期的には損をします。「中長期的には得をする」という決断は、強いビジョナリーな経営者がいない限り無理ですよね。少しでも落ちたらバツがついてしまう世界でもあるので、難しいだろうなと感じます。

 

「NewsPicksアカデミア」に見るリアルの価値

服部
利用者に学びの場を提供する会員登録制の「NewsPicksアカデミア」では、月々5,000円でオンライン講義を受講したり、イベントに参加したりできますよね。アカデミアを立ち上げた経緯を教えてください。

佐々木
複数メディアを持っていたほうが、多くのことを最適な場所で利用者に伝えられると思ったことが始まりです。
オンラインは効率的でコストも安いのですが、伝えられる情報に限界があります。情報量の多い書籍や直接対話ができるイベントだったら、人間性や人格的なものも伝わってきますが、オンラインだとNewsPicksのようにコメント欄を設けていても、限られた文字での表現では、偏りすぎて伝わらないこともあります。

読者の方と付き合うなら、表面的じゃなく深くリアルに付き合いたいという、もともとの衝動があるのかもしれません。特に日本は狭く東京ほど密集した都市はないので、何でもオンラインで済ますのではなく直接会って話したほうが、いいアイデアが生まれて、経済や社会も盛り上がると思いますね。

服部
リアルに向き合えば向き合うほど手間がかかると思いますが、それに見合うものを得ることができていますか?

佐々木
ネットの会社がリアルをやらないのは、面倒くさくて利益率が下がるからです。
しかし、リアル空間で関係を構築できたお客様はエンゲージメントが深いので、多くの金額を投資してくれるとか、長く我々のサービスを愛してくれる可能性も高いのです。
短期的ではなく3年、5年、10年先を見据えると、ビジネス上のメリットも大きいと思いますし、こういうことを積極的にやっていかないと、100年後に残るような企業は作れないと考えています。

服部
今はそこに向けて踏ん張る時期でしょうか?

佐々木
まずはマニュアルを作っていったりしなければならないので、そこは修行中で、もどかしく思うことも多いですね。アンケートも実施して、たくさんのご意見を頂戴しています。いい勉強になりますよ。椅子一つでもユーザーフレンドリーを目指して、イベントの時にはクッションを置いて皆さんが疲れないようにしようとか、試行錯誤をしています。

服部
リアルでやって初めて気が付く部分でもありますし、とても大切なことですね。

佐々木
はい。今まで気付かなかったことに気付いて、リアルで培った感受性をネットに戻したら、もっとUI(User Interface)/UX(User Experience)が良くなるのではないかと思い、精進しています。

服部
「NewsPicksアカデミア」が目指すものは?

佐々木
これからの時代にアジャストしていくためには、学びと実践の往復を重ねることが大切です。しかし、“学びの場”や“変わるキッカケ”を求めている人たちのための場所って極端に少ないですよね。ですから、アカデミアが選択肢の一つになれたら嬉しいです。今後も、オンライン講義を始めたり、ゼミをより充実させたり、いろいろやっていきますよ。

「大人の寺子屋」みたいな感じで、オンラインサロンとか、趣味のコミュニティとか、そういう場が今後どんどん出てくると思います。多くの人が集まって、企業の枠を超えて学んだり社交できる交流の場を作ることも、我々にとっては大きなテーマです。

 

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