『NewsPicks』のこれから 新しいメディアのリーダーが見据える、その先とは

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『NewsPicks』のこれから 新しいメディアのリーダーが見据える、その先とは

(左から) NewsPicks 佐々木 紀彦氏 (株)電通 服部 展明氏


ソーシャル経済メディア『NewsPicks』は、2013年のサービス開始以来、そのユニークなプラットフォーム、コンテンツでユーザーの支持を集めています。メディアの要であるコンテンツの領域においてCCOとして指揮を執る、佐々木さん。

佐々木さんとのお仕事をきっかけに、その先見性に刺激を受けた電通・服部さんが、NewsPicks、ひいてはメディア業界全体の未来、更に佐々木さんご自身の目標まで切り込みました。

5年後、10年後が楽しみになる、そんな対談の模様をお届けします。




佐々木 紀彦(ささき のりひこ)

NewsPicks CCO(最高コンテンツ責任者)。1979年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、(株)東洋経済新報社に入社。米スタンフォード大学への留学や『東洋経済オンライン』編集長を経て、2014年(株)ユーザベース移籍と同時に『NewsPicks』編集長に就任。現在はCCOとして手腕を奮う。

服部 展明(はっとり のぶあき)

株式会社電通第1CRプランニング局コミュニケーションプランニング1部クリエーティブ・ディレクター。1999年に電通に入社後、ストラテジック・プランナーとして、自動車・精密機器・飲料・食品・通信など様々なクライアントを担当。2012年よりCRプランニング局、14年より現職。

5年前に予見した、100年に一度のチャンス

服部

『NewsPicks』という新しいメディアで活躍される佐々木さんと、以前からじっくりとお話したいと思っていました。本日はよろしくお願いします。

佐々木

光栄です。どうぞよろしくお願いします。

服部

まずは御社のメディア『NewsPicks』が世間に支持されているのは何故だとお考えですか?

佐々木

最先端のエッジが立ったコンテンツを出したこと。インタラクティブな仕組みによって、ユーザーの方と一緒にエッジの立ったコミュニティのようなものを作れたこと。この二つがNewsPicksの特徴であり、支持していただける理由かなと思っています。

私がかつて携わっていた『東洋経済オンライン』も、30代を明確にターゲットにしたメディアを作ったことで多くの方に読まれました。経済紙というのは、基本的に50代くらいの意思決定者層向けがほとんどです。NewsPicksもまた、若い人が等身大だと感じられる紙メディアが圧倒的に少ない中で、最先端かつ20~30代の若者が欲しそうな情報をうまく提供したことが功を奏しました。

服部

"質の高い"ユーザー参加型メディアであることも、NewsPicksの大きな特徴のように感じます。

佐々木

はい。一方的に情報を出すのではなく、プロのユーザーの方たちも巻き込みながら、インタラクティブなメディアの形を作ることができました。しかも匿名ではなく実名で、プロピッカーのような形で専門家の方々にも参加していただいているので、コメントの質の高さにも定評があります。

服部

佐々木さんの著書『5年後、メディアは稼げるか』(東洋経済新報社)の出版が2013年でした。まさに「5年後」にあたる今、ほぼここに書いてある通りになっていることに、本当に驚きました。

佐々木

私が予言者というわけではありませんが(笑)。海外の事例などを調べるのが好きで、特にアメリカで起きたことが5年後、10年後の日本で起こるというのが真実に近く、その蓄積から出た予測でもあります。

服部

5年前に描かれたビジョンを実践する場を、東洋経済から(株)ユーザベースに移した理由は?

佐々木

若い人向けの経済情報を発信することは通常のメディアでも可能ですが、「ユーザーの方々を巻き込んで相互型のメディアを作る」ことは、どちらかというとプラットフォームの話になります。プラットフォーム企業になるためには、「エンジニアと一緒に作っていく」というカルチャーが必要です。

広告だけに頼るビジネスモデルは厳しくなっているので、サブスクリプションに寄せていくためにも、テクノロジーに強くないと難しいという思いが強くありました。うちは社員の1/3くらいがエンジニアなので、最適の環境でした。

服部

東洋経済のブランドを手離すのは大きな決断だったのではないでしょうか。特に日本人は「昔からある有名なものだから安心して読む」というところもありますよね。テクノロジーや仕組みがどれだけ確立されていても、メディアとしての信頼性や支持を獲得するのは、簡単なことではなかったのでは?

佐々木

メディアは、ブランドをひっくり返すことが難しいビジネスの代表格だと思っています。新聞は100年、テレビは数十年、構図が変わっていません。しかし今、この構図が100年ぶりに変わり得る時代が来ています。それはアメリカを見ていれば明瞭で、新しいメディアがどんどん出てきて社会へと浸透していたので、「この時代であれば、ある程度の時間をかければ一からブランドを作れるのではないか」と感じました。10年前なら、同じことをやらなかったと思います。

今は、昔の権威が一夜にして落ちるような時代なので、既存ブランドにとってはリスクも大きいですが、新しいブランドは一気に跳ね上がるチャンスもある。実際、NewsPicksを作って5年が経ち、都会ではかなりブランドができてきたと実感しています。

ただ、跳ね上がることは簡単でも、そのあと維持するのは非常に難しいことと、一発屋が増えている時代でもあるので、気を引き締めていきたいと思っています。


"成長する"メディアとして

服部

情報の収集や編集のノウハウは東洋経済時代に培った礎があったと思いますが、NewsPicksを一から立ち上げ、運営していくのは並大抵のことではなかったのではないですか?

佐々木

今も苦戦しています。人を雇って一から組織を作っていく、さらにブランドを作っていくことは、あまりにも大変なので、誰もやりたがらなかった部分もありますし、5年でやっとここまで来ることができた感覚です。

ただ、情報の流通が激しい都心ではある程度認知されてきましたが、地方にいけばまだまだNewsPicksを知らない人が多く、全国という意味では我々はチャレンジャーです。

海外に関しては、弊社は2018年7月にアメリカのQuartz社という経済メディアの買収に成功しました。一から積み重ねるのは特に異国では大変だと思うので、ブランドを買えたことは大きかったですね。ニューヨークに行っている梅田社長は、「NewsPicksで試してきたことは世界最先端だと感じることも多い」と言っており、世界との差はそれほど大きくないのではないかと感じることもあります。

服部

5年間NewsPicksに携わられてきて、一番大変だったことは?

佐々木

いまだに苦労していますが、人集めです。エンジニアやビジネスサイドはまだ増えやすいのですが、コンテンツの作り手側が問題。能力、モチベーション、給与など、諸々の面でピッタリくる人材がなかなかいませんね。

服部

既存メディアの元新聞記者などが、リクルーティングのターゲットになるのですか?

佐々木

雑誌出身者が非常に多いです。ただ、既存メディアの方は皆もともとの給料が高くて、収入が下がるケースもあるんですよ。かつ、これまでのスキルを磨き上げて新しいものに適応しなければならないストレスもあるとなれば、我々のアピール力も不足しているのかもしれませんが、予想以上に人が集まらないというのが実情です。

今はもう給料も既存メディアに負けないくらいになってきているのですが、うちで働くと楽しい、キャリアに役立つという部分を総合的に高め、若者をどう育てるかという教育的な機能も鍛えていかないと、難しいのかなと感じています。

服部

新卒採用もしていますか?

佐々木

していますが、入ってすぐにプロとして仕事をすることを求められるので、かなり優秀じゃないと大変だろうなと思います。今は少数精鋭でやっているので、教育する余裕がないのが正直なところです。

しかし、その余裕とシステムをきちんと構築して、若い人が入って育っていく形に、次の5年では確実に持っていきたいです。

メディア業界に入って来る若者の流れが細くなる中で、ウェブメディアという選択肢自体もまだ浸透していないと思うので、そこも強化していきたいです。

服部

今の日本のメディア業界は、部数をどう維持するかとか、視聴率の低下をどう繋ぎ止めるかという、どちらかというと「守り」に追われることが多くなってきている気がします。その中で、NewsPicksは、「攻め」の展開ができていますよね。

佐々木

メディアの定義によりますね。伝統的な4マスでは厳しいと思うのですが、インターネット空間には伸びしろがありますし、かつ今はメディアがいろんな業界に染み出してきていて、アパレルなどの流通業にも、メディア的な要素が増えていっていますよね。「メディアのノウハウを使える場」は増えているのではないでしょうか。

テレビ局も、放送網だけを見ると落ちているかもしれませんが、インターネットのアクセスであったり、リアルと繋げたりすれば可能性が広がる。優秀な経営者が舵を取れば、きっと増収増益を続けることも可能ですよ。

服部

たとえば、放送局をコンテンツ制作会社として考えたら、とても優秀でクリエイティブな力に溢れているのは間違いないと思います。しかし、視聴率や部数だけでメディアが評価されている限りは、なかなか新しいことへのチャレンジに集中しきれないのかもしれません。

佐々木

ゲームのルールを変えるのは大変ですし、変えたらおそらく最初は既存のビジネスが揺らぐので、短期的には損をします。「中長期的には得をする」という決断は、強いビジョナリーな経営者がいない限り無理ですよね。少しでも落ちたらバツがついてしまう世界でもあるので、難しいだろうなと感じます。


「NewsPicksアカデミア」に見るリアルの価値

服部

利用者に学びの場を提供する会員登録制の「NewsPicksアカデミア」では、月々5,000円でオンライン講義を受講したり、イベントに参加したりできますよね。アカデミアを立ち上げた経緯を教えてください。

佐々木

複数メディアを持っていたほうが、多くのことを最適な場所で利用者に伝えられると思ったことが始まりです。

オンラインは効率的でコストも安いのですが、伝えられる情報に限界があります。情報量の多い書籍や直接対話ができるイベントだったら、人間性や人格的なものも伝わってきますが、オンラインだとNewsPicksのようにコメント欄を設けていても、限られた文字での表現では、偏りすぎて伝わらないこともあります。

読者の方と付き合うなら、表面的じゃなく深くリアルに付き合いたいという、もともとの衝動があるのかもしれません。特に日本は狭く東京ほど密集した都市はないので、何でもオンラインで済ますのではなく直接会って話したほうが、いいアイデアが生まれて、経済や社会も盛り上がると思いますね。

服部

リアルに向き合えば向き合うほど手間がかかると思いますが、それに見合うものを得ることができていますか?

佐々木

ネットの会社がリアルをやらないのは、面倒くさくて利益率が下がるからです。

しかし、リアル空間で関係を構築できたお客様はエンゲージメントが深いので、多くの金額を投資してくれるとか、長く我々のサービスを愛してくれる可能性も高いのです。

短期的ではなく3年、5年、10年先を見据えると、ビジネス上のメリットも大きいと思いますし、こういうことを積極的にやっていかないと、100年後に残るような企業は作れないと考えています。

服部

今はそこに向けて踏ん張る時期でしょうか?

佐々木

まずはマニュアルを作っていったりしなければならないので、そこは修行中で、もどかしく思うことも多いですね。アンケートも実施して、たくさんのご意見を頂戴しています。いい勉強になりますよ。椅子一つでもユーザーフレンドリーを目指して、イベントの時にはクッションを置いて皆さんが疲れないようにしようとか、試行錯誤をしています。

服部

リアルでやって初めて気が付く部分でもありますし、とても大切なことですね。

佐々木

はい。今まで気付かなかったことに気付いて、リアルで培った感受性をネットに戻したら、もっとUI(User Interface)/UX(User Experience)が良くなるのではないかと思い、精進しています。

服部

「NewsPicksアカデミア」が目指すものは?

佐々木

これからの時代にアジャストしていくためには、学びと実践の往復を重ねることが大切です。しかし、"学びの場"や"変わるキッカケ"を求めている人たちのための場所って極端に少ないですよね。ですから、アカデミアが選択肢の一つになれたら嬉しいです。今後も、オンライン講義を始めたり、ゼミをより充実させたり、いろいろやっていきますよ。

「大人の寺子屋」みたいな感じで、オンラインサロンとか、趣味のコミュニティとか、そういう場が今後どんどん出てくると思います。多くの人が集まって、企業の枠を超えて学んだり社交できる交流の場を作ることも、我々にとっては大きなテーマです。


さらなる成長のために狙うべきは

服部

課金ビジネスの他に、広告も収益の柱になっていると思いますが、広告のほうで御社が感じている市況感はいかがですか?

佐々木

広告は満稿に近い状態が続いています。実は今度、値上げをするのですが、ウェブの記事広告は安いというイメージがある中で値上げの方向に動けるのは、広告チームが奮闘してくれたおかげだと痛感します。5年前には考えられませんでした。

ただ今後については、「欠かせない広告」になれているかどうかは自問自答すべきだと思っています。今は企業側も多くの広告を出している中で、ある程度リテラシーが高い層がいる場所としてNewsPicksにも広告を出してくださっていると思いますが、予算が半分になった時にも出し続けていただけるのか。費用対効果が見えにくいブランド系広告が大半なので、油断できないという緊張感はあります。

服部

課金と広告以外に、次の一手を考えられていたりもするのでしょうか?

佐々木

現在の収益の柱は、課金と広告が半々くらいで、この二つを伸ばすのが一番大事だと考えています。特に課金が安定すればするほど、広告にもプラスの影響をもたらすので、力を入れていきたいですね。

2018年10月末時点で有料会員が8万を超え、このまま順調にいけば10万に到達する日も近いと思うのですが、5年後には100万人を目指すと宣言しています。そこまでいけたら、世界のメディア、さらに経済メディアの中でもトップクラスになりますから。

今までとは違う成長をしなければいけない時期に差しかかっています。NewsPicksは「エッジが立ったブランドで一部の人に深く刺さる」という感じでしたが、そのエッジを残しながら、もっと世界中で多くの方に使っていただけるサービスにしていくという、一皮剥けることができるか否かの勝負が、これからの1~2年だと思っています。

服部

層を拡げる、リーチを拡げるということですね。

佐々木

都内であれば、"東海岸"の開拓が必要です。六本木や渋谷のような"西海岸"だけではなく、丸の内や霞ヶ関といった"東海岸"の人々にとっても、「読まないと世の中についていけない」と思っていただける必需品のメディアになっていかなければなりません。

あとはやはり"女性"です。今、女性読者は2割弱なのですが、男性ばかりいる場所というのはもう時代に合っていませんし、人口の半分いらっしゃる女性に読んでいただけるようにならないと。"東海岸"と"女性"。この二つが、NewsPicksの成長のための鍵になります。


"ビジネス界の芸能事務所"を目指して

服部

注目されている海外メディアの先進事例や、今後日本で起こる流れについて予測されていることはありますか?

佐々木

メディアではないのですが、『WeWork』は注目しておかなければいけないと思います。あれは言ってみればリアルSNS。リアルで会った上で、皆がアプリをダウンロードして、ユーザー同士で繋がっていけるシステムです。リアルでの接点がある上でのSNSはかなり強いので、我々のライバルだと思っています。

しかもユーザー層はスタートアップの方など、意識の高い人々が集まっています。NewsPicksの初期ユーザーもとらえていますよ。この動きに遅れたら我々は淘汰されますし、リアルを絡めたコミュニティをしっかり作っておかないと負けますね。

服部

「リアルを絡めたコミュニティ」これは、テレビや新聞社など従来のメディア全体にも、これからはそういう考え方が必要になってくるのかもしれません。

佐々木

今後はサブスクリプション(定額制)モデルを構築したメディア企業が勝ちますね。広告収入は景気にも大きく左右されて不安定ですが、サブスクリプションだと落ちることがあっても、落差が小さくて比較的安定しています。そうすると提供する側も、長期的かつ手厚い投資ができるようになります。

サブスクリプションでユーザーベースを作って、コンテンツや顧客サービスに潤沢な投資ができる。この好循環を作ることができた企業が勝つことは明白です。濃いお客様がいれば、広告主もちゃんと来てくださいますしね。

これを今、一番うまくやれているのがニューヨーク・タイムズですね。ニューヨーク・タイムズがやっていることは常にフォローして、我々にできることは真似していく。それが大事かなと思っています。

服部

他に注目しているメディア等はありますか?

佐々木

『コレスポンデント』というオランダのメディアです。サブスクリプションモデルで伸びていることに加え、ユーザーとの関り方が斬新。自分たちの取材の過程などを全て公開して、読者の方々にも編集部に入ってもらっているような感じで、ディスカッションしながら記事を作っているんです。

これはかなり高度な技で、コメントで参加していただく形の上を行っています。ここまで組み込んでいけるメディアが日本にも出てきたら、注目に値しますね。

ビジネスに関しては、記者よりも編集者よりも、明らかに現場にいる人のほうが詳しいんですよ。広告業界をカバーしている記者より、電通で働いている方のほうが、明らかに広告業界に詳しいじゃないですか。詳しい人を巻き込んでコンテンツを作ったほうが、絶対にいいものになる。ただ、多くの記者はいろんな人を巻き込んでコンテンツを作るのはあまりうまくないですね。

服部

今までのスキル設計とは違い、専門性を持った上での巻き込み力が必要ですね。

佐々木

そう、両方とも必要なんです。学校の先生に求められている変化に似ていますね。今はネット上に知識は溢れているので、先生が知識を独占して上から下に与えれば良かった時代は終わりました。

先生には、ファシリテーターとなって皆が出すアイデアや意見をまとめる司会者のような役割が求められています。記者にも部分的に同じようなことが言えます。司会者としてまとめるためには、皆に一目置かれなければならないので、専門性も必要。記者に求められることが多くなっている時代ですよね。

服部

最初に巻き込まれたプロピッカーの方々によるフィードバックや反響をもとに、NewsPicksがこれから目指していくものは何ですか?

佐々木

ピッカーの方で有名になる人も出てきましたので、課題としてはもっとピッカーの方々をうまくプロデュースしていける機能が我々に求められています。ただ単に「コメントしてください」だけだと、飽きられてしまうと思います。

記事も書いていただくとか、我々から売り出し方を提案させていただいて、他のメディアにも躍進していってもらえるような、「ビジネス界のタレント事務所」のようになっていくべきだと、私は思います。

服部 自分のメディアで有名になったら出て行って欲しくないと思うのが普通のメディアの考え方だと思うのですが、どんどん売り出していこうと? 佐々木

それでいいと思います。NewsPicksに上がるコメントも著作権フリーにして、誰でも引用していいような形にできるといい。最終消費じゃなくても、全てはここから生まれる、「ビジネス界のタレント事務所」です。タレントを独占することはせずに、「ここにいると何かが育つし、楽しい 」という感覚を大切にしていくのが、一番理想的なのかなと思います。


メディア&広告界に大戦略を

服部

本業がこれだけお忙しい中、著書を出版されていたりもして、バイタリティに溢れていますよね。

佐々木

本には人を変える力があることを実感していますので、せっかく執筆を仕事にしているのだから、定期的に書くことはある種の義務だと思っています。

私は「日本を良い国にしたい」という思いが強く、昔は政治家を目指していました。今は政治ではなく、文字やメディアの力によって、日本社会を少しでも面白く、良いものにしていきたいと思っていますね。また、書くことは自分へのトレーニングでもあります。本を書くと自問自答にもなりますし、本当に鍛えられるんですよ。

服部

専門である経済のことだけではなく、リーダーシップや生き方など広範囲のことをテーマにわかりやすくまとめられているので驚きました。

佐々木

自分の専門以外のことを語るとリスクもあるのですが、逆に専門家だけにある分野を委ねてしまうと、大局観のある意見や、外からだからこそ見える意見がなくなってしまいますよね。

日本の国家や、いろんな分野のリーダーたちも、重箱の隅をつつくような議論より、もっと大きな大戦略や思想的な議論をすべきだと思います。そうしないと、いつまでたっても上の世代を超えられないのではないでしょうか。

服部

そういう意味では、NewsPicksはメディアの中で今までとは全く違う戦い方を実践してみせているという自負がありますか?

佐々木

まだまだですね。おこがましいのですが、私がやりたいと思っているのは福沢諭吉モデルなんです。彼は、時事新報という当時最大のメディアを作り、『学問ノスゝメ』という大ベストセラーを生み出し、かつ慶応義塾を作って人を育て、交詢社という社交場を作り、そこに政官財のリーダーを集めて社交させました。そこから生命保険会社であるとか、今に繋がる様々な事業が生まれたんですよね。

これらを現代版として再現して、新しい時代の日本経済の礎を築くというのが、当面の私のライフビジョンです。

服部

NewsPicksがそれをやると聞くと、何か新しいものが生まれそうで、とても魅力的でワクワクします。

佐々木

電通には、古き良きものを支えながら新しいものも押さえて融合させる役割を担ってもらえるとありがたいです。電通は両方できると思います。お互いが高めあえたらいいなと常々思っていますので、ぜひ今後もよろしくお願いします。

<了>


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