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2019.3.13

小西未来の『誰でもできる!ハリウッド式ストーリーテリング術』 第2回 物語とは?

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小西未来 (こにし みらい)

ロサンゼルス在住の映画ライター&映画監督。1971年東京生まれ。
ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会所属。ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」に続き、最新作「カンパイ!日本酒に恋した女たち」は4月27日より劇場公開。


 

今回からいよいよ物語作りのトレーニングを始めよう。
だが、本題に入る前に、ひとつ質問をさせてほしい。

 

「物語」とはいったい何だろう?

 

タイトルにもあるように、この連載の目標は誰でも物語を作れるようにすることだ。
でも、肝心の物語とはいったい何なのか、みんなと明確なイメージを共有できていなければ、目標を達成しようがない。
そこで改めて質問。物語って何?

即答できる人はおそらくいないんじゃないかと思う。実体がないのに日常的に慣れ親しんでいるものほど、得てして説明が難しいものだから。
世の中に存在するあらゆる形式の物語を包括しつつ、簡潔に言い表すにはどうすればいいのだろう?
実は僕にも即答できなかったので、いくつかの辞書に当たってみた。でも、理解力に問題があるのか、胸にすとんと落ちる定義は見当たらなかった。
曖昧なままでは対策を立てようがないので、僕は以下のように定義しようと思う。

 

物語とは主人公の旅路を描くもの。

 

うん、かなり大雑把だ。文学部の先生や文芸評論家の方から一斉に批判を浴びてしまいそうだ。
でも、開き直るわけじゃないけれど、この連載において絶対的な真理なんて求めてない。
分かりやすくて、すぐに行動可能なヒントを提供するためには、枝葉をばっさり切り落とすことも必要だと考えている。「ハリウッド式」という枕詞をつけているのもそのためだ。

そもそも映画作りには数十名から数百名のクリエイターが参加する。それだけ多くの人がひとつの作品に関わるのだから、意思疎通を図るためにはある程度の単純化は避けられない。

 

たとえば、あなたが映画監督で、主人公が夢のなかで体験するドリームシークエンスの舞台のイメージを美術監督に伝えるとしよう。
「現実ではないことが一目でわかる」とか「中世的な感じ」とか「同時に未来的でもあるといいね」とか、頭のなかにある曖昧なイメージを口にしたところで、はっきりいって伝わりづらい。
でも、「『2001年宇宙の旅』の“白い部屋”みたいな感じ」と言ったらどうだろう? 映画好きなら、即座にそのイメージが脳裏に浮かぶはずだ。

有名作品を引用することに抵抗を覚える人がいるかもしれない。安直だし、既存の作品を例に挙げることで、もしかしたら創造性に制限を課してしまっているリスクもある。
だが、イメージや雰囲気という形のないものを伝えるうえで、これほど簡単なコミュニケーション術もない。実際、ハリウッドでは有名映画を共通言語として、映画作りが行われている。

 

話をもとに戻そう。
物語とは主人公の旅路を描くもの、と定義したんだったね。
具体例(※)をいくつか見てみよう。

 

「オズの魔法使」の主人公ドロシー(ジュディ・ガーランド)は、故郷のカンザスに戻るために、オズという魔法使いが住んでいるエメラルドの都を目指す。

「レインマン」の主人公チャーリー(トム・クルーズ)は、親が残した遺産を奪うために、自閉症の兄(ダスティン・ホフマン)をロサンゼルスまで連れていく。

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの主人公フロド(イライジャ・ウッド)は、世界を滅ぼす魔力を秘めた指輪を捨てるために、滅びの山に向かう。

 

いずれも、主人公の旅路が描かれていることに気付くだろう。
ここでいったん立ち止まって、考えてほしい。
あなたが好きな映画にこのルールが当てはまるだろうか?
一本だけじゃなくて、複数挙げてしっかり検証したほうがいい。

 

どうだった?

 

えっ!? 当てはまらない、だって?

 

なかなか鋭いですね(笑)。
あなたがどの映画を思い浮かべたのかは分からないけれど、主人公がどこかに出かけていくタイプの物語は、実は少数派なのだ。
でも、僕は「物語とは主人公の旅路を描くもの」という定義を変更するつもりはない。
通常、旅とは慣れ親しんだ場所から別の場所に一時的に移動することを指す。
でも、僕が言う「旅」とは精神的な変化で、地理的な移動は無関係なんだ。「旅」という言葉がややこしければ、「心の変化」と言い換えてもいい。

大切なのは、物語の主人公がある目標に向かって行動を起こすことだ。目標とは目的地ではなく、夢や希望、願いといった類のものだ。ある目標を掲げた主人公が、その過程で体験する心の変化が綴られていく。
それこそが、物語だ。

 

改めて、上に挙げた3作品の説明文を読んでほしい。

 

「オズの魔法使」の主人公ドロシー(ジュディ・ガーランド)は、故郷のカンザスに戻るために、オズという魔法使いが住んでいるエメラルドの都を目指す。

「レインマン」の主人公チャーリー(トム・クルーズ)は、親が残した遺産を奪うために、自閉症の兄(ダスティン・ホフマン)をロサンゼルスまで連れていく。

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの主人公フロド(イライジャ・ウッド)は、世界を滅ぼす魔力を秘めた指輪を捨てるために、滅びの山に向かう。

 

いずれの主人公もある目標を果たすために行動をしていることがわかるだろう。
この3作品の主人公は目標実現のために地理的な移動を必要としていたが――というか、あえて混乱させるためにロードムービーを挙げたのだが――、大半の物語はそうではない。
たとえば、ホラー映画やサスペンス映画における主人公の目標は、たいていは「生き延びること」だ。異なるのは、危機の種類や主人公が置かれた状況くらいだ。

 

では、映画史に残る名作のひとつに数えられる「ゴッドファーザー」はどうだろう?
「ゴッドファーザー」といえば登場人物が多く、印象的な事件が多数起きる叙事詩だから、一文でまとめるのは容易ではなさそうだ。だが、この映画をまとめ上げることができれば、他の大半にも当てはまると納得してもらえそうだ。

「ゴッドファーザー」といえば、マーロン・ブランド演じるドン・コルレオーネの印象が強いが、実はその主人公は三男のマイケル(アル・パチーノ)だ。その証拠に、「ゴッドファーザー」3部作はマイケルを軸に展開していく。
マイケルは、コルレオーネ家で異色の存在だ。大卒で、第二次世界大戦の英雄であり、物語の冒頭ではマフィア業にいっさい関与していない。マイケル自身は夢を語っていないが、恐喝と裏金と暴力で勢力を維持するコルレオーネ家の裏ビジネスへの参加は希望していない。優れた頭脳を持つ彼は、おそらく政治家として公明正大に活躍していくことを望んでいる。
だが、父ドン・コルレオーネが凶弾に倒れたことをきっかけに、マフィア業に参画し、誰よりも上手に立ち回っていくことになる。

 

「ゴッドファーザー」のストーリーを簡単にまとめると、こうなる。

堅気の世界で生きることを希望していた三男が、マフィアの世界に取り込まれていく。

ありきたりの幸せを求めていたマイケルが、陰謀と策略が渦巻くマフィアの世界にズブズブと入っていくからこそ、「ゴッドファーザー」はもの悲しいのである。

 

 

さて、そろそろエクササイズをしよう。

物語は主人公の(心の)旅路を描くものだ。これから旅をデザインするにあたり、あなたは主人公の目的地を作らなくてはいけない。
主人公の目標はなんだろう? 憧れの人とのデート? それとも火星移住?
どんな目標だって構わない。言ってみれば、あなたは旅行のコーディネーターだ。視聴者や観客、読者をどこに連れていきたいのか、じっくり考えてみよう。

 

この問いに正解はない。
ただ、できれば、あなた自身がわくわくする目的地を目指したほうがいい。
あなたが詳しかったり、こだわりを抱いている目標ならば、あなたの知識や思い入れが反映されて、独創的な作品になる可能性がアップするからだ。

 

次回は、主人公の作り方についてお話しします。

 

※先ほど「2001年宇宙の旅」を例に出したように、この連載では往年の名作を率先して挙げることにする。
理由は二つ。まず、時代の試練を乗り越えた名作映画は、物語作りを志す人は誰もが見ているべきだ。未見の映画があったらいまからでも遅くないので、見ておこう。きっとなにか発見があるはず。
もうひとつの理由は、新作映画を例に挙げると、執筆時はタイムリーでも、記事の鮮度が落ちやすくなってしまうからだ。

 

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